Z世代がジャズスタンダードを大合唱、新たな歌姫レイヴェイの一大現象を「音楽の殿堂」で目撃
サマーソニック初出演を控える中国系アイスランド人のシンガー・ソングライター、レイヴェイ(Laufey)の勢いが止まらない。第66回グラミー賞で初ノミネートにして初受賞を果たした最新アルバムの拡張版『Bewitched: The Goddess Edition』(日本盤は7月3日リリース予定)も話題を集め、全米ツアーではハリウッド・ボウル(17000人キャパ)などの会場を含む全公演がソールドアウト。1999年生まれの歌姫は、なぜここまで世代を超えて愛されるのか? 現地時間5月16日に開催された、英ロンドンのロイヤル・アルバート・ホール公演の現地レポートをお届けする。
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10代の女の子たちがジャズ・スタンダードを大声で歌う。これは本当に2024年の光景なのだろうか。アイスランド出身、弱冠25才の新進気鋭のシンガー・ソングライター、レイヴェイのショーでの一幕だ。ピアノ、チェロ、ギターとマルチに演奏をこなす彼女は、ヴァイオリニストである母の影響で幼少期からクラシック、父がよく流していたというエラ・フィッツジェラルドとビリー・ホリデイからジャズに慣れ親しみ、2021年にEP『Typical of Me』でデビューすると、収録曲である「Like The Movies」がTiktokで爆発的なヒット。ビリー・アイリッシュやBTSのVといったZ世代のポップ・アイコンからの評判も獲得しつつ、そして遂には昨年リリースのアルバム『Bewitched』で、今年2月に行われた第66回グラミー賞で最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバム賞を受賞した。駆け足でスターダムを登って行く彼女は、現在開催中の「The Goddess Tour」のロンドン公演で「英国音楽の殿堂」とも名高いロイヤル・アルバート・ホールに臨む。
Photo by Rory Barnes
Lauver(レイヴェイ自身が名付けたLoverとLaufeyを掛け合わせたファンの総称)が集ったレイヴェイ初のロイヤル・アルバート・ホール公演はソールドアウトを記録。当日はレイヴェイ主催の読書コミュニティ「Laufey Book Club」がコラボした近隣の本屋や、本の交換ポストなども、髪をリボンで括った(彼女が以前投稿したTiktokにならってLauverたちの共通になった)女の子たちで賑わっていた。
先に注目しておきたいことは、彼女の音楽性が過去と今を繋げる架け橋のような存在になっているということだ。グラミー受賞時のインタビューで「ジャズにポップさ取り入れることによって、より幅広いリスナーに届け、『ジャズを評価できるようなリスナーを作り出す』というあなたの役割についてどう思いますか?」という質問に対して、「私はジャズを歌い、ジャズを愛することで育ったのですが、今まではその中で少し孤独を感じていました。だからこそ(若い世代に)ジャズのコミュニティを作ることを目標にしてきました。私の音楽を通して、ジャズを愛してくれる新たなリスナーが増やせたことは、私の音楽活動における最大の贈り物だったと思います」と答えているように、彼女の音楽はどれもが40、50年代のグレート・アメリカン・ソングブックのようなきらめきに満ちている。
Photo by Rory Barnes
そんな音楽を今か今かと待ちわびている会場は、定刻を少し過ぎて客電が落ちると、ゆっくりとピアノの音色に包まれた。8人編成のアンサンブルをバックに、ショーは「While You Were Sleeping」でスタート。純白のレースに包まれたドレスで、ステージに舞い上がったレイヴェイの一挙手一投足に大きな歓声が上がる。「ここはずっと夢に見ていた場所だから、明日死んでしまってもいいぐらい本当に幸せ」と喜びを噛みしめるレイヴェイは「Valentaine」「Second Best」と続け様に披露。彼女の歌声に早々と魅了され、会場中のオーディエンスがささやくように歌うと、まるで時が止まったかのように甘いムードが漂った。
誰もがレイヴェイの「魔法」に夢中
曲が終わるたびに聞こえる「I Love You」という歓声。今やInstagramで300万人、Tiktokで500万人のフォロワーを抱える彼女が、Z世代からの絶大な支持を得ている理由はひとえにその親しみやすさであろう。これらのSNSにはレイヴェイにTikTokを勧めた双子のユニアとの仲睦まじげな投稿や自身の普段の姿など、歌姫ではなく自分の友達にすら錯覚してしまうような距離感の投稿が並ぶ。ステージを縦横無尽に歩き回りながら歌う姿はとてもキュートで、しかしその低く暖かみのある歌声は往年のスターを想起させ、目が離せないぐらいの存在感を放っていた。
この日のハイライトとも言える「Goddess」は、まさにそんな持ち味が存分に発揮された圧巻のパフォーマンス。ピアノと向き合い「私はステージ上の女神、孤独なときは誰もが1人の人間」と独白のように歌い上げながら、スポットライトを一手に集めるレイヴェイ。先ほどまで歌姫として注目を集めていたはずなのに、いつの間にか音楽とただ直向きな1人の女性そのままの姿に釘づけになっていた。留まることなくどこまでも伸びていく歌声は大きなカタルシスをもたらし、曲中に関わらず大きな歓声が上がる。
Photo by Rory Barnes
Photo by Rory Barnes
レイヴェイに音楽活動のきっかけをもたらした母も、アイスランド交響楽団のヴァイオリニストとして、以前この「音楽の殿堂」に立ったことがあるそうだ。そんな母と同じステージに立てたことや、ロンドンという街、人々へしきりに感謝を告げつつ「この愛を伝えるには」と、本編ラストに披露されたのはとびきりポップな「From The Start」だ。ボサノヴァ調のリズムに弾むレイヴェイが、客席にマイクを向けると響くのはお決まりの「Blah Blah Blah!」の大合唱。双子の妹であるユニアが登場する嬉しいサプライズも起こり、Lauverたちの盛り上がりは最高潮を迎えた。「キューピッドに心を打ち抜かれる」なんてラブソングを歌っているが、ふざけ合って踊る彼女たちがとてもチャーミングで、まさにキューピッドのようだと見惚れてしまう。「私の靴を盗んだの!?」なんてユニアに冗談をいれるレイヴェイを笑いながら、ユニアがヴァイオリンの旋律を響かせ、2人はステージを降りていった。
鳴り止まないアンコールの声に押され、ステージに帰ってきたレイヴェイ。「自分の夢が不可能だとは思ったことはなかったし、それが今は叶った。そしてそれはあなたにもきっと起こること」という前置きで披露された「Letter To My 13 Year Old Self」は、彼女が泣きながら作詞したという過去の自分へのバラードだ。「いつかステージに立っているあなたへ、少女たちからの歓声が上がる」と彼女が歌うと、オーディエンスが一斉に彼女の名前を叫ぶ。まだまだあどけない彼女が、今日このステージに立っていることを誰も不思議に思わなかっただろう。誰もがレイヴェイに夢中で、ただただ彼女の音楽に魔法をかけられてしまう。
Photo by Rory Barnes
「私はジャズを心から愛していて沢山の影響を受けたの。だからどのアルバムにも収録しているんだけど、やっぱり最後はそんなジャズ・スタンダードで」と、記念すべきショーのラストを彩ったのは、80年前にリリースされた「It Could Happen To You」。1940年代のジャズ・スタンダードが、2024年のオーディエンスの体を揺らす。時代を越えるラブソングが最後まで会場を満たしていたのは煌びやかでうっとりとした雰囲気、誰もがそんな幸福感に包まれながら、ゆっくりと魔法がとけていくようにショーは大団円で幕を下ろした。
記事冒頭に戻るが、何度、今日この瞬間を2024年なのかと疑ったことだろうか。しかしそれは決して古めかしいと感じることではない。過去を今に昇華して、その響きが現代の若者たちを魅了している。それは文字通り彼女の才能としか言いようがない。「自分の歌声はどのポップ・シンガーにも共鳴できなかった」とインタビューで語ってた彼女は、往年の女性ジャズ・シンガーたちと巡りあい、ジャズを新しい世代へ押し広げてきた。ぜひこの夏、サマーソニックで彼女を目撃して欲しい。彼女が時代のポップ・アイコンへと駆け上がっていく物語はきっとまだまだ始まったばかり。
レイヴェイ
『Bewitched: The Goddess Edition』
日本盤CD:2024年7月3日(水)リリース予定
『Bewitched: The Goddess Edition』
輸入盤CD/アナログ盤/デジタル配信
発売中
配信・購入:https://LaufeyJP.lnk.to/BewitchedTheGoddessEdition
SUMMER SONIC 2024
2024年8⽉17⽇(⼟)18⽇(⽇)
東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ
⼤阪会場:万博記念公園
※レイヴェイは東京1日目、大阪2日目に出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/
10代の女の子たちがジャズ・スタンダードを大声で歌う。これは本当に2024年の光景なのだろうか。アイスランド出身、弱冠25才の新進気鋭のシンガー・ソングライター、レイヴェイのショーでの一幕だ。ピアノ、チェロ、ギターとマルチに演奏をこなす彼女は、ヴァイオリニストである母の影響で幼少期からクラシック、父がよく流していたというエラ・フィッツジェラルドとビリー・ホリデイからジャズに慣れ親しみ、2021年にEP『Typical of Me』でデビューすると、収録曲である「Like The Movies」がTiktokで爆発的なヒット。ビリー・アイリッシュやBTSのVといったZ世代のポップ・アイコンからの評判も獲得しつつ、そして遂には昨年リリースのアルバム『Bewitched』で、今年2月に行われた第66回グラミー賞で最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバム賞を受賞した。駆け足でスターダムを登って行く彼女は、現在開催中の「The Goddess Tour」のロンドン公演で「英国音楽の殿堂」とも名高いロイヤル・アルバート・ホールに臨む。
Photo by Rory Barnes
Lauver(レイヴェイ自身が名付けたLoverとLaufeyを掛け合わせたファンの総称)が集ったレイヴェイ初のロイヤル・アルバート・ホール公演はソールドアウトを記録。当日はレイヴェイ主催の読書コミュニティ「Laufey Book Club」がコラボした近隣の本屋や、本の交換ポストなども、髪をリボンで括った(彼女が以前投稿したTiktokにならってLauverたちの共通になった)女の子たちで賑わっていた。
先に注目しておきたいことは、彼女の音楽性が過去と今を繋げる架け橋のような存在になっているということだ。グラミー受賞時のインタビューで「ジャズにポップさ取り入れることによって、より幅広いリスナーに届け、『ジャズを評価できるようなリスナーを作り出す』というあなたの役割についてどう思いますか?」という質問に対して、「私はジャズを歌い、ジャズを愛することで育ったのですが、今まではその中で少し孤独を感じていました。だからこそ(若い世代に)ジャズのコミュニティを作ることを目標にしてきました。私の音楽を通して、ジャズを愛してくれる新たなリスナーが増やせたことは、私の音楽活動における最大の贈り物だったと思います」と答えているように、彼女の音楽はどれもが40、50年代のグレート・アメリカン・ソングブックのようなきらめきに満ちている。
Photo by Rory Barnes
そんな音楽を今か今かと待ちわびている会場は、定刻を少し過ぎて客電が落ちると、ゆっくりとピアノの音色に包まれた。8人編成のアンサンブルをバックに、ショーは「While You Were Sleeping」でスタート。純白のレースに包まれたドレスで、ステージに舞い上がったレイヴェイの一挙手一投足に大きな歓声が上がる。「ここはずっと夢に見ていた場所だから、明日死んでしまってもいいぐらい本当に幸せ」と喜びを噛みしめるレイヴェイは「Valentaine」「Second Best」と続け様に披露。彼女の歌声に早々と魅了され、会場中のオーディエンスがささやくように歌うと、まるで時が止まったかのように甘いムードが漂った。
誰もがレイヴェイの「魔法」に夢中
曲が終わるたびに聞こえる「I Love You」という歓声。今やInstagramで300万人、Tiktokで500万人のフォロワーを抱える彼女が、Z世代からの絶大な支持を得ている理由はひとえにその親しみやすさであろう。これらのSNSにはレイヴェイにTikTokを勧めた双子のユニアとの仲睦まじげな投稿や自身の普段の姿など、歌姫ではなく自分の友達にすら錯覚してしまうような距離感の投稿が並ぶ。ステージを縦横無尽に歩き回りながら歌う姿はとてもキュートで、しかしその低く暖かみのある歌声は往年のスターを想起させ、目が離せないぐらいの存在感を放っていた。
この日のハイライトとも言える「Goddess」は、まさにそんな持ち味が存分に発揮された圧巻のパフォーマンス。ピアノと向き合い「私はステージ上の女神、孤独なときは誰もが1人の人間」と独白のように歌い上げながら、スポットライトを一手に集めるレイヴェイ。先ほどまで歌姫として注目を集めていたはずなのに、いつの間にか音楽とただ直向きな1人の女性そのままの姿に釘づけになっていた。留まることなくどこまでも伸びていく歌声は大きなカタルシスをもたらし、曲中に関わらず大きな歓声が上がる。
Photo by Rory Barnes
Photo by Rory Barnes
レイヴェイに音楽活動のきっかけをもたらした母も、アイスランド交響楽団のヴァイオリニストとして、以前この「音楽の殿堂」に立ったことがあるそうだ。そんな母と同じステージに立てたことや、ロンドンという街、人々へしきりに感謝を告げつつ「この愛を伝えるには」と、本編ラストに披露されたのはとびきりポップな「From The Start」だ。ボサノヴァ調のリズムに弾むレイヴェイが、客席にマイクを向けると響くのはお決まりの「Blah Blah Blah!」の大合唱。双子の妹であるユニアが登場する嬉しいサプライズも起こり、Lauverたちの盛り上がりは最高潮を迎えた。「キューピッドに心を打ち抜かれる」なんてラブソングを歌っているが、ふざけ合って踊る彼女たちがとてもチャーミングで、まさにキューピッドのようだと見惚れてしまう。「私の靴を盗んだの!?」なんてユニアに冗談をいれるレイヴェイを笑いながら、ユニアがヴァイオリンの旋律を響かせ、2人はステージを降りていった。
鳴り止まないアンコールの声に押され、ステージに帰ってきたレイヴェイ。「自分の夢が不可能だとは思ったことはなかったし、それが今は叶った。そしてそれはあなたにもきっと起こること」という前置きで披露された「Letter To My 13 Year Old Self」は、彼女が泣きながら作詞したという過去の自分へのバラードだ。「いつかステージに立っているあなたへ、少女たちからの歓声が上がる」と彼女が歌うと、オーディエンスが一斉に彼女の名前を叫ぶ。まだまだあどけない彼女が、今日このステージに立っていることを誰も不思議に思わなかっただろう。誰もがレイヴェイに夢中で、ただただ彼女の音楽に魔法をかけられてしまう。
Photo by Rory Barnes
「私はジャズを心から愛していて沢山の影響を受けたの。だからどのアルバムにも収録しているんだけど、やっぱり最後はそんなジャズ・スタンダードで」と、記念すべきショーのラストを彩ったのは、80年前にリリースされた「It Could Happen To You」。1940年代のジャズ・スタンダードが、2024年のオーディエンスの体を揺らす。時代を越えるラブソングが最後まで会場を満たしていたのは煌びやかでうっとりとした雰囲気、誰もがそんな幸福感に包まれながら、ゆっくりと魔法がとけていくようにショーは大団円で幕を下ろした。
記事冒頭に戻るが、何度、今日この瞬間を2024年なのかと疑ったことだろうか。しかしそれは決して古めかしいと感じることではない。過去を今に昇華して、その響きが現代の若者たちを魅了している。それは文字通り彼女の才能としか言いようがない。「自分の歌声はどのポップ・シンガーにも共鳴できなかった」とインタビューで語ってた彼女は、往年の女性ジャズ・シンガーたちと巡りあい、ジャズを新しい世代へ押し広げてきた。ぜひこの夏、サマーソニックで彼女を目撃して欲しい。彼女が時代のポップ・アイコンへと駆け上がっていく物語はきっとまだまだ始まったばかり。
レイヴェイ
『Bewitched: The Goddess Edition』
日本盤CD:2024年7月3日(水)リリース予定
『Bewitched: The Goddess Edition』
輸入盤CD/アナログ盤/デジタル配信
発売中
配信・購入:https://LaufeyJP.lnk.to/BewitchedTheGoddessEdition
SUMMER SONIC 2024
2024年8⽉17⽇(⼟)18⽇(⽇)
東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ
⼤阪会場:万博記念公園
※レイヴェイは東京1日目、大阪2日目に出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/