音楽プロデューサー、DJ、トラックメーカーとして様々な分野で活躍するtofubeatsさんの新作EP『NOBODY』がデジタルリリース。Vinly(レコード)が7月17日にリリースとなります。

アルバム『REFLECTION』(2022) から約2 年ぶりとなる本作。HOUSE MUSIC をコンセプトに全曲のボーカルをAI歌声合成ソフトで制作しており、 無機質な中にも熱量をまとったダンスミュージックはこれからの季節をさらに彩ってくれそう。tofubeatsさんご本人に、制作のこだわりから今ハマっているお菓子までお話を伺いました!

――『NOBODY』とても素敵なEPで楽しく聴かせていただいています。AI 歌声合成ソフトでの制作ということですが、すごく歌声が自然ですね。

音声合成ソフト自体は表ではあまり使っていなかったんですけど、仮歌入れたりとかそういうのでは元々使っていて。今回使用したのは「Synthesizer」というソフトで、ここ数年リリースされたものです。「VOICEPEAK」という読み上げソフトがあって、それももうリアルな人っぽい発音なのですが、「Synthesizer」は同じ開発者の方が作っているということで試してみたら、これはすごいとなって全曲制作しました。

――本当にAIなのか?というくらい自然ですよね。

人の声のつながりを、ディープランニングで学習させることで、どんな言葉を組み合わせてもリアルな発音に聴こえる様に調整しているそうです。「初音ミク」とかだったら調教と言われる、人っぽく聴こえる様に作り手が一生懸命頑張るのですが、これは音符を置いていくだけでも本当に人っぽく歌ってくれて、面白いです。詳しい技術はがどうかというのはちゃんと分かっていないのですが、本当作った人がすごいんですよ。

――このタイミングで「Synthesizer」を使った曲を出そうと思ったきっかけはありますか?

VOICEPEAKの技術がすごいなと思っていたので、いちミュージシャンとして「こんなのもあるのか」という感じでチェックしたんですけど、『I CAN FEEL IT』という曲が元々あって、誰かに歌わせたいけど、誰にお願いしたいか決まらないなという時期が結構長くて。ちょうどその時にSynthesizerがリリースされたので、入れ込んでみたらすごく良くて。これもっとしっかり使ってみたいな、面白そうだなと思い作っていきました。ボーカリストは誰だろうとピンときていなかったところに、ソフトがスッと現れた感じですね。

――アーティストの方が歌うのと、ソフトが歌うのと作っている時から感覚は全然違いましたか?

出てくるものは、本当に人間が歌っているみたいなので、ボーカロイド独特の楽しさがあるといったことは無いのですが、作り手の気持ちは全然違いましたね。「この方が歌うから、こういうことを言わせよう」とか、そういう感情がまず生まれない。何文字詰め込んでも大丈夫だし、同じ事を繰り返し言わせることも物理的に可能になります。自分はやらなかったんですけど、例えば100人で一緒に歌うとかも簡単に出来ることが強みですよね。

――リリックに使われている言葉も、フラットにまっさらに受け取れる様な気持ちで受け取れる気がしました。

そうなんですよね。逆に、例えばこの曲を何かで聴いて気になって「歌っている人は誰なんだろう」と調べたら、誰でも無いという切なさみたいなものもあって。そこもすごく面白いなと思っています。

――tofubeatsさんは10代の頃からDTMを触っていると思いますが、日々の進化をどの様に感じていますか?

自分が音楽を作れるようになっただけでもパソコンってすごいなって高校生の時とかから思っていましたけど、今はより何もしなくて良くなっているというか。いくつかのことを選択するだけで、曲が生成されたり、文字を打つだけでも曲できますから。興味を持った方が実際に作れてしまう、興味が環境に左右されない良い部分があるなと思いますね。

――収録曲について1曲ずつお聞きします。リード曲『I CAN FEEL IT』は先ほどおっしゃっていた、以前より完成していた楽曲なんですね。

アルバム『REFLECTION』に入れるデモ群の中には入っていて、ちょっと熱血な歌詞でもあるんで、 誰に歌わせたらいいのかが難しかったんです。そして単純にクオリティ的にもアルバムに入れるまでには到達していないか、と思い、1回“お蔵入りフォルダ”に入れています。僕は完全にお蔵入りにするということがあまり好きじゃなくて、どこかで常にこう、リベンジの機会をいつも伺ってるんですよ。それがSynthesizerとの出会いによって急に仕上がって。

――日の目を浴びるのを待っている楽曲たちが常にあるのですね。

たくさんあります。面白い楽器買ったりとか、マシンを入れ替えたりとかすると、急にこううまくいったりすることもあるので、機会を狙って寝かせているって感じです。

――『EVERYONE CAN BE A DJ』はすごく遊び心のある楽曲ですね。

このEP自体がAIを使って制作していて、ボーカルも打ち込んだだけで作ることが出来るので「DJもそういう感じで、どんどん誰でも出来るようになっているんだよ」という気持ちを込めた曲です。

――楽しい楽曲ですし、私もやってみたい!って思いました。

DJのやり方自体は1時間ぐらいで、本当に誰にでも出来るんですよ。ただ、そこから曲を選んだりとか、何をどういう順番でかけるかを考えるのはベテランほど上手くなっていくと思います。その“ちょっと選ぶ”という行為が好きなんですよね。ただつなげるだけではつまらないから“ちょっと工夫する”と。DJもAIもその価値観というか考え方が似ているのかなと思いますね。道を選ぶだけで思わぬものが出力されるみたいな感じ。

――「道を選ぶだけで思わぬものが出力される」すごく面白い言葉ですね。確かに自分でも思わぬものが生まれていくということを、DJにもAIにも感じます。『Why Don’t You Come With Me?』はとても綺麗な楽曲ですね。

『EVERYONE CAN BE A DJ』も『Why Don’t You Come With Me?』もそうなんですけど、ナイトクラブに人を誘うような曲にしたいというテーマがあります。Synthesizerというソフトを使うこととは別にクラブで自分がDJでかける様な曲ということも1つテーマではあったので、全曲テンポもほとんど一緒ですし、DJで使いやすいEPになっていると思います。

――『YOU-N-ME』と『Remained Wall』もクラブで聴いたらすごく気持ち良さそうですね。

『Remained Wall』は唯一のインスト曲で、『YOU-N-ME』は繰り替えされるフレーズがそれぞれまた別の意味に聴こえる様な、受け取り手によって色々な表情を見せてくれる曲にしたいなと思いました。

――『NOBODY』はEP自体のタイトルにもなっていますね

歌詞の中で「君のことずっと待ってたよ」って言ってるんですが、行ってみたら誰もいないというか。先ほど話した「誰も歌っていない」ということを直球で曲にしました。『NOBODY』は最後に出来た曲で、それまでこのEPのタイトルをどうしようかなと考えていたのですが、これが出来てスッと決まりました。僕はEPやアルバムのタイトルと同じ楽曲が収録されていて欲しいのでそれもちょうど良くて。

――同じEPの中にリミックスが入っているのはtofuさんとしてのこだわりですか?

自分はそういった収録形式にすることが多いですね。音楽ってスピードを変えたりと、少し編集するだけのことって軽んじられがちというか、2次的なものだと思われることが多いんですけど、自分的にはそれだけでもテイストが変わってまた別の曲みたいに感じられるんですよね。DJもそうで、言ってしまえば人の曲をかけているだけなのだけど、つなぎを変えたりスピードを変えることで、DJのその人らしさを表現することが出来る。僕はクラブミュージックの入口になるアーティストだと思っているので、そういうアレンジの面白さみたいなことを入れ込みたいなと思って今回もそうしています。スピードが変わっているだけでも、また違う楽曲の楽しみ方することが出来る。レコードプレーヤーを持っている人や、tiktokに投稿している方なんかは感じているかもしれませんが、もっと面白さを感じてもらえればなと思っています。

――本当に感じ方、ノリ方が全然変わってくるので面白いですよね。今回のEPに収録されている曲はすでにイベントなどで披露されているのですよね?

1年以上前からこっそりライブに投入していて、かけながら直していっている感じです。僕は基本やっぱDJなんで、リリース前にもバンバンかけて、雰囲気とか直していくことが多いですね。

――芸人さんがステージでネタをブラッシュアップしていくみたいな感じなのですな。

似ていますよね。反応みて、どんどん時間とかも調整していって、みたいな。

――tofubeatsさんの作品はアートワークを楽しみにしている方も多いですよね。

山根慶丈さんという方にずっとお願いしているのですが、出来上がったものに対して意味を聞かないという謎の決まりがあるんです(笑)。大体2個ぐらいラフを出してくれて、アートディレクターさんと「こちらでお願いします」とオーダーする感じで。
「人を一人だけ描いてください」といった指定をすることはありますが、こんな感じなんでとか毎回一切しないんですよ。なので僕自身も楽しみにしていて、今回も警察か!と驚きましたが、可愛いですし、でもなんでたくさんいるんだろう?とか考え始めるとちょっと怖いし、良いですよね。

――昨年、映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』のOSTを手掛けられていましたが、大好きな作品で。tofuさんの音楽も素晴らしかったです。

すごく面白いですよね。可愛いのだけれどディストピアで、深く考えると「こういうことか」という気付きもある。今回の『NOBODY』の様なリリースではコンセプトから何から何まで自分が決めるんですけど、映画のOSTとなると全然違う考え方なので、仕事としてとても面白いですね。初めて映画の劇伴をやらせてもらったのが『寝ても覚めても』という作品なのですが、それまで映画音楽というものにいかに自分が注目していなかったかといことを痛感しました。ミュージシャンのくせに全く映画の音楽には注目していなかったんだなって。そこからは注意深く聞いたりするようになって、この作品のおかげで映画の見かたが変わりました。
OSTの仕事は反省と勉強みたいな感じで、作品ごとに全く違うから過去の経験とか一切通用しないというか。その作品に対してこう自分がどれだけ接近出来るかが勝負なので面白いですね。

――そういったご経験がまた自分の作品に返ってきて、という感じなのでしょうか。

ありますね。それが自分的にこの仕事の醍醐味の1つだなって思っていて。自分の作品のリリースと、依頼を受けた仕事がいい感じに対照関係になることが多くて。『FANTASY CLUB』という暗めのアルバムを作っていた時は、NHKのアニメ「クラシカロイド」という作品でめっちゃ明るい曲を作って。そうやって対照的なものを並行して走っている方がすごく調子が良いんですよね。
真面目な音楽制作と、「うんこミュージアム」の楽曲制作という面白い仕事、どちらもやっていたほうが気分が良いし、どちらも本気で出来るんです。真面目なものがあるから思い切りふざけられるし、ふざけていても「俺にはあっちもあるんだ」とまた頑張れる。うんこミュージアムの楽曲はまだ使っていただいていて、ワーナーから出ている曲の中で、ほんと1番ふざけてると思います(笑)。

――私の話で恐縮なのですが「ヒプノシスマイク」のファンなので、tofubeatsさんに楽曲を作っていただいてありがたいって思っています(笑)。

そうなんですね!ヒプマイ好きな人って自分の周りにあまりいなくて、話を聞けることが無いので嬉しいです。もうほんま爆笑しながら作っていましたよ。違法マイク?!って(笑)。でも設定を考えている方はみんなすごくちゃんとした方で、それが面白かったです。最初は「池袋ウエストゲートパーク」っぽい感じだったと思うんですけど、今や大阪も名古屋も増えて。アニメがベースでも無いですし、楽曲先行という発想が面白いですよね。ゴリゴリのHIPHOPアーティストさんが多いと思うので、自分にお声がかかって意外でしたけれど、すごく楽しい仕事でした。

――今日、いちファンとして直接御礼を言えて嬉しいです(笑)。tofuさんが今ハマっているコンテンツは何かありますか?

自分でハマっているものって今あまり無いのですが、奥さんが韓国ドラマが大好きなので、毎日大量の韓国ドラマを浴びています。なので、日本のドラマで車が出てくると「交通事故にならないよね…」っていつも不安になっちゃうんですよね。韓国のドラマってラブコメでもがっつり交通事故が起こるので…(笑)。

――分かります(笑)激しいですよね。tofuさんはグルメでいらっしゃると思うのですが、最近おすすめのものはありますか?

お菓子と、デパートの催事がめっちゃ好きなので週一ペースで行っていますね。定番ですけれど、ホレンディッシェ・カカオシュトゥーべのバームクーヘンと、友達が神戸牛のお店で働いていて、年に4回ぐらい東京での催事に出展する神戸牛コロッケが大好きです。あとはメゾンカイザーが意外と兵庫になかったので、東京に住み始めたらデリスブランという甘いパンが大好きでよく食べています。

――ぜひいつかグルメ主体でもお話を伺わせてください!今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!

◆tofubeats「NOBODY」収録曲
I CAN FEEL IT(Single Mix)
EVERYONE CAN BE A DJ
Why Don’t You Come With Me?
YOU-N-ME
Remained Wall
I CAN FEEL IT
NOBODY
NOBODY(Slow Mix)

https://tofubeats.lnk.to/NOBODY [リンク]