本連載「45歳からのキャリア強化ゼミ」では、80歳まで働くことが当たり前になる人生100年時代において、キャリア後半戦をさらに充実させるための実践的なハウツーをお届けします。



初回に引き続き、連載2回目である今回のテーマも「45歳からの転職」です。従来は珍しかったミドルシニアの転職はすっかり定着し、いまや年間転職者数の約半数を40代以上が占めています。

だからといって「45を過ぎても転職は簡単だ」と考えるのは危険です。私の知人の某大手求人メディア運営者は「45歳以上の転職の場合、1つの求人にだいたい30人のライバルがいると考えるべき」と発言しています。

厳しい競争を勝ち抜き、希望する条件で転職を実現する上で肝となるのは、何と言っても強みのアピールです。若手の転職と異なり、「経験豊富な完成されたビジネスパーソン像」が求められるミドルシニアの転職では、強みがシビアに評価されます。しかし、転職市場で評価される強みを正しく自己認知するのは意外に難しく、自分がアピールする強みと企業が求める強みがズレているケースは多々あります。

今回は、転職でアピールすべき強みを再認識する上でポイントとなる「コンテンツ」という概念について詳しくお話します。直近で転職をお考えではない方でも、これまでのビジネス経験の棚卸しに有効ですので、ぜひ取り組んでみてください。

○50歳を過ぎて「協調性が強みです」と言われましても...

協調性、チャレンジ精神、粘り強さ、実行力... こうしたヒューマンスキルは、あなたのビジネスパーソンとしての強みであることは疑いようもなく、それを否定するつもりは毛頭ありません。しかし、残念ながら20代・30代ならともかく、ミドルシニアの転職で「私の強みは協調性です」とアピールしても、一定の評価こそされても内定の決め手にまでなることはないでしょう。採用担当者の心の声をストレートに代弁するならば「で、あなたは何ができるの?」です。いま一歩踏み込んだ、ビジネスに直結する強みが求められています。

そもそも、企業はなぜ人材を採用するのでしょうか。それは、何らかの課題を解決したいからにほかなりません。企業の課題は多岐にわたりますが、すべての課題はつまるところ「売上を増やしたい」「コストを減らしたい」」。この2つに集約されます。

端的に言えば、転職活動における強みとは「自分を雇う費用(年収に加えて、社会保険料や福利厚生費なども含みます)以上の売上を間接的にでも増やせる、あるいはコストを減らせる武器のこと」と考えると捉えやすくなるかと思います。

そのような武器になるのが、これからお話する「コンテンツ」です。

○転職活動では、自分が持っているコンテンツをアピールせよ

ズバリ転職におけるコンテンツとは「過去のビジネス経験で培った、再現性のある何らかの知識体系・ノウハウ」のことを指します。もっと平たく言えば、転職先の企業が、あなたにお給料を払ってでも教えてもらいたい何かのこと。コンテンツはたいてい「◯◯する方法」という語尾で表現できます。

たとえば以下のようなものは、転職市場で実際にとても評価が高いコンテンツです。

売れる営業組織を作る方法

自社製品をZ世代に低予算で訴求する方法

バックオフィス業務をDXする方法

私は、転職で評価される強みの棚卸しとは、自分が有するコンテンツを明確にすることと同義だと考えています。企業がミドルシニア人材に期待することとして「即戦力であること」「豊富な経験」といった要素が挙がることは皆さんもご存じかと思います。これは、本質的にはいずれも「我が社にとって有益なコンテンツを持ち込んでくれる人材がほしい」と言っているのです。もっと言えば、企業にとって採用活動とは、自分たちのビジネスにおいて有益なコンテンツ(を持っている人材)をお金で買う行為と捉えることができます。

逆に先ほどの「協調性」も、たとえば「経理ができます」「人事を10年やっていました」も、「◯◯する方法」と言い換えられる知識体系やノウハウではないため、コンテンツではありません。人事を10年やっていたこと自体は確かに強みの原石ですが、採用担当者の琴線に触れるアピールをするには、いま一歩踏み込んでコンテンツにまで落としこむ必要があるのです。

「自分にはアピールできるようなコンテンツなんてない!」とおっしゃる方もいると思いますが、それは誤解です。当社が運営する45歳からのマンツーマン転職スクール「ライフシフトラボ転職コース」では、3ヶ月間の転職支援プログラムの半分弱の時間を掛けてコンテンツの明確化に時間を使うのですが「何もコンテンツが見つからなかった」という受講生は過去にひとりもいらっしゃいませんでした。20〜30年の社会人経験があるのですから、何もないほうが逆に不思議ですよね。

そうは言っても、いきなり自分で「これだ!」と思えるコンテンツを棚卸しするのは難しいかもしれません。そんなときは、このお題に取り組んでみてください。

「もしもあなたが、1時間のビジネスセミナー講師として登壇するなら、そのセミナーのタイトルは?」

大きなビジネスカンファレンス会場のメインステージで開催されるようなセミナーをイメージしてください。不特定多数の企業担当者が、自社で使えるノウハウを求めて聴講しに来ます。あなたは、1時間のセミナー枠の講師として招かれました。ビジネスに関することなら何を話してもOK。さあ、あなたは何の担当者を対象に、どんなセミナーを行いますか。そのタイトルは何でしょうか。「◯◯する方法」「◯◯するには?」「◯◯するポイント」などで終わる魅力的なタイトルを考えることができたら、それはあなたのコンテンツのタイトルと同義です。

職種別にいくつか挙げるならば、こんな感じでしょうか。

新規事業担当:大企業で新規事業を立ち上げる際の市場分析の極意

法人営業:トップ商談を成功に導く雑談の方法

社内人事:離職率が半減! 現場発の働き方改革プロジェクトの進め方

庶務:役員の「ありがとう」を引き出す、プラス5分の先回り仕事術

しっくり来るタイトルを考えることができたら、表現を工夫して職務経歴書の自己PR欄にも書くことが重要です。単に「10年以上の法人営業経験があります」としか書いていない多くのライバルに比べて、大きく差をつけることが可能です。

余力のある方は、そのセミナーのスライド資料を実際に作ってみるのがオススメです。スライド資料を作る過程の中で、自分の培った知見が体系的に整理されるので、面接で具体的な質問に及んだ際の回答の解像度がぐんと上がります。「私はこれこれこういう知見を有しており、御社でも導入できます」と具体的に提示できる人とそうでない人。どちらのほうが魅力的に映るかは言うまでもありません。

都築辰弥 つづきたつや 株式会社ライフシフトラボ 代表取締役 1993年生まれ。開成高校、東京大学工学部システム創成学科卒。学生時代は、国際学生NPOアイセックで活動した後、バックパッカーとして世界を一周。新卒でソニーに入社し、スマートフォンXperiaの商品企画担当として2019年フラグシップモデル「Xperia 1」などをプロデュース。その後、2019年8月に株式会社ブルーブレイズ(現ライフシフトラボ)を創業。45歳からの実践型キャリアスクール「ライフシフトラボ」を展開。 この著者の記事一覧はこちら