U-23日本代表のOA起用是非を検証【写真:2024 Asian Football Confederation (AFC)】

写真拡大

反発力に繋がる五輪の経験、苦い良薬は早期に味わっておいたほうが良いという見方も

 3年前の東京五輪と言えば、3位決定戦で敗れた後の久保建英の人目も憚らぬ号泣に尽きるだろう。

 森保一監督は「金メダル」を目標に大会に臨んだが、日本はメダルにも届かなかった。しかし彼らがどれだけ本気でメダルを目指したかは、久保のラストシーンに集約されていた。

 今さらながら五輪での男子サッカーは異質な種目だ。極論すればFIFA(国際サッカー連盟)は出場の是非さえも個人やクラブの意思や判断に丸投げしており、世界選手権と比べても別格の注目を集める多くの他競技とは一線を画している。

 ただしそんな中途半端なトーナメントでも、おそらく日本代表選手たちが地元開催の五輪で大きな失意を味わったことは決して無駄ではなかった。東京五輪代表22名のうち過半数の13人が翌年のワールドカップ(W杯)にも出場し、スペイン、ドイツを押さえてのラウンド16進出に貢献。またそれ以上に、久保を筆頭に三笘薫、遠藤航、冨安建洋、板倉滉などが、欧州の舞台で著しいステップアップを遂げた。

 東京大会だけではない。2008年北京大会で日本はグループリーグで3連敗を喫したが、この惨敗を契機にメンバーの多くが「世界で戦うために」欧州での挑戦に乗り出し、香川真司、本田圭佑、長友佑都、内田篤人、岡崎慎司らがトップレベルのクラブで君臨し日本サッカーを盛り上げた。逆に名主将とし日本代表を牽引してきた長谷部誠などは、土壇場で五輪代表から漏れる痛恨の想いを味わった。

 3人のオーバーエイジ(OA)枠を除き参加資格が23歳以下に絞られる五輪は、育成世代のトーナメントとは言い難い。ただしこの年代で世界に跳ね返された苦い経験は、後年の反発力につながるケースが目立ち、必ずしも五輪本番での結果と後の成果は一致していない。むしろ伸びしろの大きそうな選手ほど、こういう舞台で早期に苦い良薬を味わっておいたほうが良いという見方もできる。

高井幸大や松木玖生をはじめ、俵積田晃太もチャンスを与えたいタレント

 五輪への出場権を獲得すると、メディアは最強を追求するためのOA探りで喧しい。確かにセンターバックを筆頭に、いくつかのポジションではOA起用が底上げにつながる可能性はある。しかし反面、その分23歳以下の選手が弾き出されるわけで、未来の伸びしろが損なわれるリスクもある。北京五輪は結果的にOAを使えなかったわけだが、だからこそ世界の壁に直面した多くの選手たちが発奮した。

 もちろん現場は本気で勝ちに行くべきだ。だがそのために五輪以上にハイレベルな日常が約束されている選手を招集するのは得策ではない。そもそも欧州で中心的に活躍できている選手たちの招集は、シント=トロイデンのように親日的なクラブを除けば難航するはずだ。また先のアジアカップのように、コンディションが万全ではない三笘や冨安のような選手まで加えて結果を掴みに行くべきでもない。

 むしろ優先的に五輪という刺激を与えておきたいのは、高井幸大(19歳/川崎フロンターレ/DF)、松木玖生(21歳/FC東京/MF)らアンダーエイジでも活躍できている選手たちで、本来なら所属のFC東京に候補選手が多くて難しいが、俵積田晃太(20歳/FW)などもチャンスを与えておきたいタレントだ。

 くれぐれも五輪はゴールではなく、W杯への踏み台だ。五輪への招集が、所属クラブでのレギュラー争いに逆風になるようでは本末転倒になる。いずれにしても男子サッカーが五輪全体を俯瞰して大きなインパクトを残せるとしたら、最低でも史上初の決勝進出が必要になる。

 今回五輪最終予選を兼ねたU-23アジアカップで、日本は計6試合を戦い抜いた。そこに新しく加わるOAや欧州組が、一定時間をかけて研磨された現状の組織力以上のものをもたらすのは簡単ではない。未来への布石としても、五輪はそれが新鮮な刺激となる選手を軸に戦うべきだと思う。(加部 究 / Kiwamu Kabe)