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技術開発する場所として日本を選択せず、海外を選択する技術者が増えていますが、移住先としてマレーシアを選択する技術者もいます。そのうちのひとり、フリーエンジニアの飯塚友裕さんにお話を聞きました。※本記事は、OWL Investmentsのマネージング・ディレクターの小峰孝史弁護士が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。

ビジネス内容は「エンジニアが開発に使う技術」の開発

小峰:これまでは、どのようにお仕事をされてきたのでしょうか?

飯塚さん:2002年に早稲田大学理工学部を卒業して以来、フリーランス、あるいは自分の会社でエンジニアとして活動してきました。

小峰:どのような開発をされていたのですか?

飯塚さん:データベースエンジンを開発したり、開発言語を開発したりしました。データベースエンジンとは、データベース管理システム(DBMS)が、データベースからデータを作成・読み取り・更新・削除するために使用する基盤となるソフトウェア部品のことです。この業界でいちばん有名な会社は、米国のOracle(オラクル)です。

小峰:なるほど。

飯塚さん:開発言語というのは、プログラミングをするための言語で、JavaやRubyなどが知られていますね。多くの技術者は開発言語を使って開発していきますが、私は開発言語を開発しています。開発言語から、VM(バーチャルマシン)、IDE(統合開発環境)やデバッガーまで1人で作る人は、世界で100人もいないと思います。

マレーシアで、ブロックチェーン時代の「Oracle」を目指す

小峰:マレーシアに移住されていますが、マレーシアではどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?

飯塚さん:これまでのデータベースエンジンは、すべてのデータが中央のサーバーに保存される中央集権的だったわけですが、ブロックチェーン時代になり、非中央集権的なデータベースエンジンも、技術的に可能になりました。そのため、ブロックチェーンを活かした、非中央集権的なデータベースエンジンを作りたいと思っています。

小峰:具体的には何を作るのですか?

飯塚さん:コインを開発し、コインを利用してこのサービスを使える仕組みを作ります。特定の個人・会社が発行体になるのではなく、ネットワークが発行する非中央集権的な仕組みで進めていきます。しかし一方で、企業がサービスを利用する場合、完全に非中央集権的なサービスは利用しにくいことが多いため、少し中央集権的の度合いを高めたサービスも作り、主に企業向けのサービスを提供します。

小峰:2種類の仕組みを開発していくのですね。

飯塚さん:この両者により、非中央集権を貫いたコインとデータベースエンジン、少し中央集権的なデータベースエンジン、この2本立てのサービスを提供していきます。

「日本では、コインの発行は無理」と判断した理由

小峰:マレーシアでこのサービスを展開されるとのことですが、なぜ日本でのサービス展開を考えなかったのでしょうか。やはり、暗号資産(仮想通貨)に関する規制が影響していますか?

飯塚さん:日本の場合、非中央集権のコインは認めず、すべて政府の監視下に置かれた中央集権のコインのみにしていきたいという圧力が強いのです。それは、規制面を見ているとよくわかります。明示的な規制だけではなく、暗黙の業界内での村社会的ルール(同調圧力)などもあり、あたかも非中央集権のコインはマネーロンダリングのツールであるかのような論調も結構あります。

小峰:非中央集権のコインは、日本の取引所で取り扱ってもらえないということでしょうか?

飯塚さん:はい。国内取引所で取引所が扱っていいコインの「ホワイトリスト」を、政府当局が管理しているというのもおかしいと思います。日本国内では、プライバシー保護の機能があるコインはホワイトリストに入れてもらえず、取引所から規制によってデリストされてしまいました。ZEC、DASHなどがそうです。

小峰:なるほど。

飯塚さん:ですが、通貨に対するプライバシーは世界的にも需要が高く、世界の暗号通貨ファンには、言論弾圧など、政府から身を守るために必要な権利だと考える人が非常に多いです。

小峰:税金についてはいかがでしょうか?

飯塚さん:日本では、オルトコイン同士の交換も課税されたり、少額の決済も課税されます。これでは、日本国内で非中央集権の暗号通貨は普及しません。マレーシアやシンガポールでは、コインの売り買いに課税がされないので、町中にふつうにあるATMからお金と同様に暗号通貨デビットカードで現金を引き出したり決済したりできます。さらに、取引所から自分のウォレットへの出金手数料の高さも異常です。

クアラルンプール市内にある暗号資産を取り扱うATM。撮影:飯塚氏

日本のような規制がないマレーシアで、コインの発行を目指す

小峰:マレーシアであれば、コインの発行も可能でしょうか?

飯塚さん:マレーシアには、暗号資産に関する日本のような規制はないので、コインの発行も可能です。私自身が日本居住者を外れ、マレーシア居住者になってから、発行する予定です。さらに、マレーシア国内で特定の相手に対して相対でコインを売ると、マレーシアの国内法が適用されて禁止されてしまう恐れもあるので、マレーシア国内で特定の相手に対して相対でコインを売ることはしません。マレーシア国外の人に対して取引所を通じて売ります。

小峰:マレーシアの税金面はどうですか?

飯塚さん:マレーシアには暗号資産のキャピタルゲイン・インカムゲインについての課税がないので、ブロックチェーン企業にはとても向いています。

小峰:アンチマネーロンダリング規制との関係ではどうでしょうか?

飯塚さん:犯罪収益の洗浄防止というアンチマネーロンダリング規制の趣旨はわかりますが、適用範囲が当初の趣旨を超え、米国が自国の都合よいように拡大解釈している気がします。マレーシアは、イスラム教国でイスラム金融のハブを目指していますし、米国ベッタリではありません。そうした点で、アンチマネーロンダリング規制による過度な規制を受ける恐れは低いと思っています。

クアラルンプール市内には、パレスチナ国旗が掲げられている店も多く、米国と一線を画していることを感じることも多い。撮影:小峰

同調圧力が低く、技術開発に向いているマレーシア

小峰:マレーシアは暮らす場所としてはどうでしょうか?

飯塚さん:1年中温かくて気候がよく、シンガポールのように狭苦しい国とは違い、全体的に広々としています。コンドミニアムのセキュリティもいいと思います。こうした点で、非常に住みやすいのだろうと思っています。

小峰:マレーシアのカルチャーはどうでしょうか?

飯塚さん:多文化国家だからでしょうか、日本と比べて同調圧力が高くないと思います。「他人は他人」という感じです。

小峰:同調圧力の低さはビジネスにも好影響ですか?

飯塚さん:そうですね。日本で開発をしていると、権威に評価されようとするなど、周囲のムードに気を使うことが多いです。でも、いいプロダクトを作れば結果が付いてくるのです。そういう点で、同調圧力の低いマレーシアのほうが、プロダクトの開発に向いていると思います。

小峰:マレーシア発の世界的なプロダクトを期待しています。

マレーシアは他民族国家で中華系も多い(マラッカ市内にて)。撮影:小峰

小峰 孝史
小峰 Investments
マネージング・ディレクター・弁護士