SNS激怒「常識分からんのか」…相次ぐ「ホテルの備品持ち帰り」被害に弁護士「窃盗です」 どんな罰則がある?
多くの人が旅行を楽しんだ今年のゴールデンウイークですが、その最中に話題となったのが「ホテルの備品の持ち帰り」問題です。ホテルの客室にあるボディーソープやシャンプー、タオル、枕、食器といった備品を宿泊客に持ち帰られる被害に頭を悩ませるホテルは少なくないようで、中にはテレビやドライヤー、空気清浄機といった電化製品の持ち帰り被害を受けたホテルもあるようです。
こうした非常識な行為について、SNSでも怒りの声が続出しており、「これはひどい」「信じられない」「常識が分からんのか」「海外観光客が増えたのも関係するよね」といった声のほか、「窃盗じゃん」「普通に犯罪だからね」など、犯罪であることを改めて指摘する声も多く聞かれます。
ホテルの備品を持ち帰る「窃盗」行為は、どのような罪に問われるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
外国人観光客でも罪に問うことは可能だが…
Q.ホテルの客室などに置かれている備品を持ち帰る行為は、「窃盗」に該当しますか。
佐藤さん「はい。ホテル側が持ち帰りを許していない備品を持ち帰る行為は、『窃盗罪』に当たる可能性があります。
ホテルの備品にはいろいろなものがあり、例えば、歯ブラシやカミソリなど衛生上使い回せないものや、1回切りの使用が想定されている個包装のシャンプーやボディーソープなどは、ホテル側も持ち帰りを認めていると考えられます。従って、こうした備品を持ち帰ったとしても、通常、窃盗罪には当たりません。
一方、容量の大きいシャンプーやボディーソープ、食器、電化製品など、ホテル側が持ち帰りを認めていないものの場合、無断で持ち帰れば窃盗罪に問われる可能性があります。ただし、持ち帰りが認められるかどうか微妙なものについて、ホテルが持ち帰りを許していると誤解して持ち帰ってしまった場合は、窃盗罪の故意がなく、罪に問われることはありません」
Q.窃盗罪の罰則や、持ち帰り被害を受けたホテル側が取ることのできる法的手段について教えてください。
佐藤さん「窃盗罪の法定刑は『10年以下の懲役または50万円以下の罰金』です(刑法235条)。
持ち帰りを認めていない備品を持ち帰られてしまった場合、ホテル側としては、備品の所有権に基づき返還を求めたり、新しく備品を購入せざるを得なくなった場合の費用などを損害賠償請求したりすることが考えられます。また、警察に被害届を出し、刑事責任を追及する方法もあります。
備品の無断持ち帰りによるトラブルを少しでも減らすため、ホテル側としては、持ち帰られたら困るものに『持ち帰り禁止』と明示する、宿泊約款にルールを書いておくなど、工夫するとよいでしょう」
Q.ホテルの客室から持ち帰った備品の“種類”は、罪の軽重に関わるのでしょうか。
佐藤さん「はい。持ち帰ったものが何であるかによって、罪の軽重に影響を与えます。例えば、持ち帰りが明らかに認められていない価値の高い電化製品を持ち帰った場合と、備え付けのボールペン1本を持ち帰った場合とでは、経済的な被害の大きさも悪質性も異なるため、起訴されるか否か、起訴されたとして量刑がどうなるかに影響を及ぼします」
Q.中には、海外からの外国人観光客による持ち帰り行為も見受けられるようです。外国人観光客の場合でも、日本の窃盗罪に問うことはできるのでしょうか。
佐藤さん「刑法は『この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する』と定めており、外国人観光客であっても窃盗罪に問うことはできます。
ただし、外国人観光客の場合、文化が異なること、言葉の壁があることなどから、持ち帰りが禁じられていると知らずに持ち帰ってしまうこともあると思われます。また、帰国してしまうと、取り締まりも煩雑になるため、実際に罪に問うのは悪質性の高い一部のケースに限られるように思います」
Q.ホテルの備品持ち帰りに関して、過去の事例・判例はあるのでしょうか。
佐藤さん「旅館の宿泊客が、旅館の提供した丹前、浴衣、帯、下駄を着用したまま旅館から立ち去る行為について、『窃盗罪に当たる』とした判例があります(最高裁1956年1月19日決定)。
ホテルが用意してくれている備品の多くは、ホテル側がサービスで提供してくれているものであり、『客のもの』ではありません。備品の持ち帰りが窃盗罪になるかどうかは、ホテル側の意思によります。利用者としては、持ち帰ってよいかどうか、ホテルに確認することが大切です」