「手応えのない時」をどう乗り越えるかが新規事業の成否を決める(写真:metamorworks/PIXTA)

2つのユニコーン(創業10年未満、評価額10億ドル以上の未上場企業)を生み出し、グーグルに11.5億ドル、インテルに10億ドルでイグジットしたユリ・レヴィーン氏。希代の起業家が提唱するスタートアップの基本的な考え方は「問題に恋する」ことだと言います。そんなレヴィーン氏がこれまでの経験や思考の軌跡をもとに、新規事業における困難を乗り越えるための道程について解説します。

※本稿はレヴィーン氏の新著『Love the Problem 問題に恋をしよう ユニコーン起業家の思考法』から一部抜粋・再構成しています。

スタートアップは「失敗の旅」である

一度も失敗したことがない人は、新しいことに挑戦したことがない人だ。

──アルバート・アインシュタイン

ベン・ホロウィッツは、世界で最も成功したベンチャーキャピタリストの1人であり、シリコンバレーのベンチャーキャピタル会社、アンドリーセン・ホロウィッツでパートナーを務める人物だ。

ベンチャーキャピタリストになる前は、ソフトウェア開発のスタートアップ、オプスウェアでCEOを務めていた。

彼は以前、こんな質問を受けたことがある。「スタートアップのCEOをしていて、夜はよく眠れますか?」

「ええ、眠れますよ」と彼は答えた。「赤ちゃんのように眠っています。2時間おきに目を覚まして、泣き叫ぶのです」

ホロウィッツは、すべてのスタートアップに共通するジェットコースターの旅を自身も経験してきた。何度も上り下りを繰り返す旅だが、単なる上り下りなら、世界中のどの企業でも経験する。

スタートアップは、その頻度がきわめて高い。多いときには、1日に数回起こる。エクストリームスポーツが好きでない人には、スタートアップは向いていない。

なぜなら、スタートアップの立ち上げは本質的に失敗の旅だからだ。

起業家はこれまでに誰もしたことのないことをしようとしている。自分が何をしているか、完全にわかっているつもりでも、実際にはわかっていない。


(出所:『Love the Problem 問題に恋をしよう』)

※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

「失敗」を恐れることは、すでに「失敗」である

ここでは、スタートアップの基礎をなす「前提となる仮説」について見ていこう。

•スタートアップとは、旅である(旅の中にさらにいくつもの旅がある)。
•ジェットコースターのような波乱万丈の旅である。
•各フェーズで試行錯誤を繰り返す、失敗の旅である。
•長期にわたって何の手応えもない期間が訪れる。それは旅の途中で越えなければならない砂漠である。

スタートアップの立ち上げは失敗の旅である。そこからすぐに導き出せる結論が2つある。

1.失敗を恐れていたら、すでに失敗していることになる。

なぜなら、挑戦することに失敗しているからだ。アルバート・アインシュタインは、「一度も失敗したことがない人は、新しいことに挑戦したことがない人だ」と言った。別の言い方をするなら、新しいことに挑戦すれば、失敗する。

2.成功する確率を高めるには、早く失敗する。

スタートアップの立ち上げが失敗の旅だとすると、うまくいく道のりを見つける可能性を高めるには、単純により多くのことに挑戦するのがベストだ。

そして、より多くのことに挑戦するには、早く挑戦して、早く失敗するのがベストだ。そうすれば、次のことに挑戦するのに十分な時間とランウェイ[会社の資金がなくなるまでの時間]を確保できる。

例えば、プロダクトのある機能がうまくいくと確信したとしよう。

その機能を開発し、新バージョンをリリースしたが……うまくいかない。あるいは、期待どおりの結果が得られない。

そのときには、今の機能を最適化するのではなく、次の機能をすぐに考えて、挑戦し、重点的に力を注ぐ。

「失敗」の道のりを進むために必要なDNA

すると、企業には特別なDNA(企業文化や価値観)が生まれる。

そのDNAを持つ企業では、すべての前提とする仮説が単なる仮説であり、挑戦に値するものであり、早ければ早いほどよいと考えられる。

うまくいけば、それで完了だ。うまくいかなければ、次の仮説に挑戦する。

このとおりに道を進み、今度こそはうまくいくと常に信じて新たな挑戦に乗り出したとしても、失敗の旅はとても長い旅になる。

旅の途中、最も長く続くのは、何もかもがうまくいかない時期だ。

創業当初はわくわくすることがたくさん起こる。

新しいものを作り上げた。最初のバージョンに初めてのユーザーがつく。メディアに取り上げられることもある。自分は正しい方向へ向かっているのだと確信する。

だがそのあと、自分が作ったものが、どうしてもうまくいかないと気づくときがやってくる。別の方法も試してみるが、それでもうまくいかない。

最も苦しいのは「手応え」のない状態

果てしない砂漠を歩いて横断すると想像してみよう。

辺り一面、砂に囲まれている。一日中歩き続けても、まわりには砂しかない。寝ても覚めても、砂しかない。くる日もくる日もそれが続く。

前に進んでいるようには思えないが、確実に前進はしている。小さな一歩を積み重ねていけば、最後には砂漠を抜け出すことができる(それまでに死んでいなければ)。

「手応えのない砂漠」は、旅のなかで最も長い部分だ。ここでは、あらゆることを試してみるが、何もうまくいかない。

プロダクトを作っても、うまくいかない。プロダクトを作ってうまくいっても、ユーザーが来ない。プロダクトを作ってうまくいき、ユーザーがきても……定着しない。

失敗するスタートアップのほとんどが、この砂漠での旅のあいだに脱落する。


(出所:『Love the Problem 問題に恋をしよう』)

本物の砂漠でも、スタートアップにたとえた場合でも、砂漠を歩いて横断するときには、避けたほうがよいことが2つある。

1.方向を変えない。変えてしまうと、同じ場所をぐるぐる回る恐れがある(砂漠で道に迷ったかもしれないときは、「ピボット(事業の方向転換や路線変更)」をするタイミングではない)。

2.燃料を切らさない。燃料(スタートアップの場合には資金)は、砂漠の真ん中では非常に高価だ。

「早く失敗する」起業家ほど成功の機会が増える

失敗の旅はいつでも、PMF(プロダクトマーケットフィット)を達成する(基本的には、ユーザーに対する価値を生み出す)ことからはじまる。


PMFを達成したら、ビジネスモデルの構築でも、海外展開でも、スケールの仕方を学ぶにしても、次の旅程のチケットを購入することになる(それはそれで、また別の失敗の旅となる)。

PMFが見つかれば、成功への道を進んでいる。見つからなければ、死んでしまう。

旅の各行程で、最も重要になるのは、どれだけ早くリカバーできるかであり、早くリカバーするには、早く失敗しなければならない。

次のアイデアやコンセプト、テーマへの挑戦に向けて、どれだけ早く持ち直すことができるか。

この「早く失敗する」手法を取り入れる起業家は、単純に成功の機会が増える。

(ユリ・レヴィーン : 起業家)
(樋田 まほ : 翻訳者)