「ゴ・エ・ミヨ2024」受賞者の皆さん(写真:ゴ・エ・ミヨ ジャポン提供)

フランスの食ジャーナリスト、アンリ・ゴ(Gault)とクリスチャン・ミヨ(Millau)が手がけたパリのレストランガイドを始まりとする「ゴ・エ・ミヨ」。

1972年創刊、2017年に日本に上陸した同書の8冊目となる2024年版が、3月19日に発売された。

書籍の統一されたイメージカラーから、別名「黄色いグルメガイド」とも呼ばれている同書。全国から532軒のレストランが掲載されており、現時点では、47都道府県すべての飲食店を対象に毎年出版される唯一のレストランガイドブックとなる。

日本で調査・評価する主なレストランガイドとその特徴をまとめてみた。


「ゴ・エ・ミヨ」が便利なのは「次に行きたい店」を日本全国から探すときだろう。全国から532軒なので、各県から少なくとも数軒は掲載されている。軒数があまりに多すぎても少なすぎても探しづらいものだ。

「ゴ・エ・ミヨ」では最高5つから1つまでのトック数でレストランを評価しており、さらに細かく20点満点の採点も行っている。トックとは、フランス語で「帽子」(白く長いコック帽)のことを指す。


ゴ・エ・ミヨのトックの点数表(画像:ゴ・エ・ミヨ ジャポン提供)

「ゴ・エ・ミヨ」の評価の特徴は、対象を「予約から見送りまで」としている点だ。料理だけでなく、ワインなどドリンクの充実度、サービスや店内のしつらえなどから20点満点(0.5点きざみ)で評価される。

覆面調査であることで調査担当者が特別扱いされず評価できる客観性、また、統一された基準での評価が担保される公平性も特徴だ。

日本で最高評価を受けた店は3軒の日本料理店

「ゴ・エ・ミヨ 2024」で、特に高評価を受けた店は以下の通り。

19点/20点
赤坂 松川(東京都・日本料理)
日本料理かんだ(東京都・日本料理)
日本料理 龍吟(東京都・日本料理)

18.5点/20点
エスキス(東京都・フランス料理)
カンテサンス(東京都・フランス料理)
ジョエル・ロブション(東京都・フランス料理)
ロオジエ(東京都・フランス料理)
飯田(京都府・日本料理)

日本版ではこれまで19点が最高得点となっており、20点がつけられたことはない。

ちなみにフランス版でも、1972年に創刊されてから初めて20点満点がつけられたのは、約30年後の2004年のことだ。これはアンリ・ゴとクリスチャン・ミヨが「完全など不可能である」という主張を持っていたからといわれる。

ガイド本が「人」に焦点を当て、顕彰する意味

「ゴ・エ・ミヨ」は点数の評価とは別に、「今年のシェフ賞」など料理人や生産者のための賞を設定している。それは「新しい才能の発見」が「ゴ・エ・ミヨ」のキーワードだからだ。

1970年代初頭には「ヌーヴェル・キュイジーヌ(新しい料理という意味)」という言葉を提起し、「ヌーヴェル・キュイジーヌ」は、料理の特徴を表す語として一般的に定着した。

のちにフランス料理界の大御所となるジョエル・ロブションを1980年代に最初に注目したのは「ゴ・エ・ミヨ」だったし、アラン・シャペルやミシェル・トロワグロなどのグランシェフも、飛躍のきっかけは「ゴ・エ・ミヨ」の賞だった。

日本でも「今年のシェフ賞」「明日のグランシェフ賞」「期待の若手シェフ賞」をはじめ、「ベストソムリエ賞」や「ベストパティシエ賞」、レストランを支える生産者や料理人が対象の「テロワール賞」などを設定している。

刊行の前日、3月18日には都内でその授賞式が行われ、全国各地から約600名の料理人や生産者などの飲食関係者が集まった。


「今年のシェフ賞」は、東京「ジョエル・ロブション」総料理長の関谷健一朗さん。

関谷さんは、2023年にフランス版人間国宝ともいわれるフランス国家最優秀職人章(M.O.F.)受章という快挙を成し遂げたばかりだ。

「今年のシェフ賞」は「ゴ・エ・ミヨ」で最も重要な賞で、「持てる才能を縦横に発揮して、最も斬新で完成度の高いインパクトのある料理を提供している料理人」へ贈られる。


「今年のシェフ賞」を受賞した関谷健一朗さん(写真:筆者撮影)

「『ゴ・エ・ミヨ』のフランス版を修業時代にずっと見ていて、そこに載っている有名シェフは当時は雲の上のような憧れの存在でしたし、『今年のシェフドラネ(今年のシェフ賞)は誰だろう』と、料理業界みんなが注目していました。

その賞を私がいただける日が来るとは思ってもみませんでした。この賞にふさわしい仕事を、常にやっていきたいと思います。

料理人という素晴らしい職業につきたいと思う人を少しでも増やしたい。一つのことを習得するのは時間がかかりますが、諦めずに続けていけば必ず報われることを伝えていきたいし、私にできることがあれば喜んでサポートしたい」(関谷さん)

能登で被災のシェフや女性シェフの受賞

受賞者のひとり、「明日のグランシェフ賞」の石川県七尾市「一本杉 川嶋」の川嶋亨さんは、1月の能登地震で被災した店舗を再建するため奔走中だ。

「一本杉 川嶋」の店舗は昭和初期に建てられた国登録有形文化財の民家で、店のある一本杉通りは川嶋さんの故郷でもある。


「明日のグランシェフ賞」を受賞した川嶋亨さん(写真:筆者撮影)

「震災があって、楽しみにしていたこの授賞式に出席するか、ぎりぎりまで悩みましたが、自分が前を向いて一歩踏み出すことで能登の経済が上向く雰囲気になってほしくて出席を決めました。

自分が一本杉通り復興の旗振り役にならないといけないと思っているし、賞をいただいて、一本杉通りで復活するという強い覚悟を持っている自分の姿を見せることでみんなを元気づけたい。

若い人も年配の人も生産者も料理人も、地域ぐるみ、『チーム能登』で復活するという思いでやっていきたいと思っています」(川嶋さん)

三重県志摩市の志摩観光ホテル「ラ・メール」の樋口宏江さんには、「トランスミッション賞」が贈られた。

「トランスミッション賞」は、培ってきた知識と技術を、時に国を超え、世代を超えてトランスミッションする(=伝える)ことに多大な貢献が認められた料理人に贈られる。

樋口さんは、開業70年を超えるリゾートホテル「志摩観光ホテル」の総料理長でもあり、2016年には「G7 伊勢志摩サミット」のワーキング・ディナーを担当した。


「トランスミッション賞」を受賞した樋口宏江さん(写真:筆者撮影)

「先々代(第5代総料理長・高橋忠之氏)の時から、アワビや伊勢海老をはじめとする伊勢志摩の素晴らしい食材を使ったフランス料理を『海の幸フランス料理』として発信してきました。その料理哲学をあとの世代にもつなげることが私の役目だと思います。

女性の料理人はまだ多くないのですが、出産・育児に限らず、不意な出来事で一時的に職場を離れなければならないのは女性だけとは限りません。そういう意味でも、女性をはじめ誰もが働きやすい制度作りに取り組むことも必要だと思っています」(樋口さん)

生産者たちも壇上に上がった授賞式

レストランの存在が、土地に人を呼び込む、いわゆるフードツーリズムの重要な要素として改めて注目されている。

生産者と料理人の距離が近くなることで、土地の個性ある生産者、また食器やカトラリーを扱う職人などとともに地域を発展させるという考えが共有されていくだろう。

ゴ・エ・ミヨは「新しい才能の発見」と並んで「その土地ごとの食文化“テロワール”」を重視している。料理の個性には、その地ならではの食材が大きく寄与するという考えからだ。


東北地方の掲載店のシェフたち。前列左から2人目が「テロワール賞」を受賞した山形「出羽屋」佐藤治樹さん(写真:佐藤悠美さん提供)

授賞式のあとのパーティの席上では、各地域の料理人や生産者たちが思い思いに壇上に上がり、大勢で記念写真を撮る光景が見られた。

なかでも東北6県は、東北地方掲載店だけの受賞パーティを今回の授賞式とは別に、郡山市で開催するという。

「横のつながり」が全国のレベルを上げる

レストランは1軒1軒がばらばらにあるのではない。農作物や魚介類を通しておのずから地域内でのつながりが生まれる。

今回掲載の532軒はいずれも、それらの中核になりうる店だ。その横のつながりが全国の飲食店のコミュニケーションを促進し、日本全国の食のレベルを上げていくはずだ。


「ゴ・エ・ミヨ2024」(写真:筆者撮影)

(星野 うずら : レストランジャーナリスト)