「偏差値40未満→難関校」も!中受の変化の実態
「こんなに変わっているの!」と驚くこと必至の、最近の中学受験事情についてお伝えします(写真:ocsa/PIXTA)
YouTubeチャンネル登録者数約10万人の受験指導専門家である西村創(はじめ)さん。「中学受験を考えたら、まずやっておきたいこと、知っておきたいことがあります」と語ります。
第2回は、「こんなに変わっているの!」と驚くこと必至の最近の中学受験事情について、お伝えします。(※本稿は『中学受験のはじめ方』を抜粋、再構成したものです)
中学受験の環境は、私たち親世代がまだ子どもだった頃と比べて、ずいぶん様変わりしています。
学校偏差値の変化
昔と今の違いとして、学校偏差値の変化が挙げられます。かつては入るのが大変ではなかった学校が、今では難関校になっているケースが多くあります。
たとえば、次の学校をご存じでしょうか?
• 渋谷女子
• 鷗友学園女子
• 順心女子
• 戸板女子
• 洗足学園
この5校、30年前はどの学校も四谷大塚偏差値40未満でした。では、現在の四谷大塚偏差値はどうでしょうか?
• 渋谷女子(現:渋谷教育学園渋谷)偏差値:男子66、女子69
• 鷗友学園女子 偏差値:61
• 順心女子(現:広尾学園)偏差値:男子59、女子61
同「医進・サイエンス」コース 偏差値:男子64、女子66
• 戸板女子(現:三田国際学園)偏差値:男子54、女子55
同「メディカルサイエンステクノロジー」コース 偏差値:男子60、女子62
• 洗足学園 偏差値:65
いずれも、現在は簡単には入れない人気校です。
逆に、この30年で大きく偏差値を下げた学校も少なくありません。このように、私たち親世代が受験した時代と今とでは、学校の偏差値が大きく変わっている事例が多いのです。
私が塾講師デビューをした約30年前は、中学受験をするなら、小4の2月、つまり新小5からの入塾が一般的でした。でも今は小3の2月、つまり新小4からの入塾が一般的です。さらに、小学1年生から生徒を受け入れる塾が大半です。
これは、ある大手塾一社が小2から生徒を募集すると、それまで小3から募集していた塾が「成績優秀層を他塾に取られる前に、うちも小2から募集しないと!」と考えて小2からの募集を始める。すると、また別の塾が「それならうちは小1から募集して、成績優秀層を集めよう」と考えて小1からの募集を始め、ほかの塾も小1からの募集を始める……という流れになって、どの塾も低学年から生徒募集をするようになったわけです。
少子化という背景もあります。子どもの数が減っているので、塾生数、売り上げを確保するには、対象年齢を下げて補うしかないという事情もあるのです。その結果、「SAPIXに入るなら小1から入らないと満席で入れないらしいよ」という噂が広がるまでになっています。
私は、低学年から塾通いをすることを否定はしません。ただし、子どもがまだ塾に通う準備が整っていないうちに入塾するのはおすすめできません。
低学年のうちはいろいろな体験をして、運動をして体力をつけ、勉強習慣をつけて基礎学力を身につけるほうが優先度が高いからです。子どもがまだ塾に通いたいという気持ちが高まっていないのに、親の気持ちが先行して塾に入れるのはおすすめしません。
「啐啄の機」という言葉があります。ひな鳥が卵からかえるときに、ひな鳥が内側から出ようとするタイミングに合わせて、母鳥が卵を外からつついて殻を割ってやるのと同じように、子どもに何かしてあげるには、してあげるタイミングを見極めるのが大事です。
塾の勢力図の変化
30年前、首都圏で中学受験塾といったら日能研、日曜にテストを実施する塾といったら四谷大塚でした。四谷大塚のテストを受けるためには「会員」「準会員」になる必要があって、そのための勉強を栄光ゼミナールなどのほかの塾でするのが主流でした。
そして、現在、「トップをめざすならSAPIXでしょ!」というのが、あたかも常識であるかのようになっています。当時は主流ではなかった塾がトップに君臨しているわけで、塾の勢力図自体が変わったといえます。
SAPIXというのは、TAP進学教室という塾をやめた幹部たちが1989年につくった塾です。今や40以上の校舎ができて、東京校や自由が丘校のような大規模校舎だと、20クラス以上も設置されているという大盛況ぶりです。
そんなSAPIXを筆頭に、早稲田アカデミー、四谷大塚、日能研の4つの塾が、首都圏4大塾と呼ばれていて、そこに、 SAPIXをやめた幹部たちがつくった塾、Gnobleが難関校の合格実績を出す塾として続いています。
塾のオンライン化もこの30年でずいぶん進みました。
現在、四谷大塚のテキスト『予習シリーズ』を使って授業をパソコン、タブレット、スマホで受けられる「進学くらぶ」の「予習ナビ」をはじめ、スタディサプリなどのオンライン塾も増えています。
新型コロナウイルスが広がって「緊急事態宣言」が出されたときは、多くの塾が一時的に対面授業を停止、オンライン映像の授業に切り替えて、それをきっかけに多くの塾のオンライン対応が加速しました。今後、さらに塾のオンライン化は進んでいくでしょう。
入試もオンライン化が進んでいます。
かつては、受験するための願書を学校までもらいに行って、その願書を提出するために早朝から学校の正門前の行列に並ぶ……そんな光景が見られました。
今でも、学校の窓口まで願書を取りに行って提出する学校も中にはありますが、ほとんどの学校はネット出願となったうえに、合格発表もネットで行われるようになっています。
学校の掲示板での合格発表は今でも行われていますが、合否をその場で確認するというよりは、ネットで合格を確認した人が入学手続きのために学校に行った際に、掲示板でも自分の受験番号を再確認して、その前で記念撮影をする……というのが定番になっています。
入試制度・問題の変化
30年前の入試は、国語・算数・理科・社会の4科目で受験するか、それとも国語・算数の2科目で受験するかという二択が中心でした。しかし今は、公立中高一貫校の適性検査型入試や、英語選択入試を採用する私立中が半数近くになっています。さらに英検の保持級によって、入試の点数に加点をしてくれる学校も増えています。
そのほか、適性検査型入試、英語入試以外の新傾向として、
• プログラミング入試
• 思考力入試
• 自己アピール入試
• 探究型入試
• 協働プレゼン入試
• マインクラフト入試(聖徳学園)
など、30年前は考えたことすらなかったような入試を採用する学校が増えています。
この変化を受けて、早稲田アカデミーでは2020年にSTEM教育プログラム「CREATIVE GARDEN」という講座をスタート。個別指導のユリウスはロボットプログラミング講座を開き、四谷大塚を運営するナガセは2022年に「CodeMonkey」という学習ソフトを使ったプログラミング講座を開設しました。
このように、30年前と今では入試制度が変わってきています。
これらは偏差値にこだわらない志望校選びをする人にとっては、受験科目の選択肢が増え、好ましいことだと思います。
新傾向入試で問われる能力は、大手塾に通わなくても、それぞれ専門のスクールに通って高めることができます。そして、身につけたプログラミングやプレゼンのスキルは、今後社会に出たときに大いに役立ちます。
探究する姿勢を身につけ、思考力を高めて、プログラミングができて、仲間と協働して、プレゼンができたら、この令和の時代、やりたいことはたいていかたちにすることができます。国語、算数、理科、社会の勉強はもちろん意味があるものですが、新たなジャンルに取り組むのも自分を生かす道です。
入試問題の変化1 時事問題の増加
入試問題の中身も変わってきています。30年前は「時事問題を出す学校がある」くらいだったのですが、今では、約8割の学校が時事問題を出しています。しかも、小問として1問だけ出題というのではなくて、大問丸ごと時事問題というケースも目立つようになりました。
受験生にとって時事問題がやっかいなところは、通常のテキストで勉強しているだけでは解けるようにならないことです。そこで、中学受験をめざす子は、小4、5くらいになったら子ども向けの新聞を読み始めることをおすすめします。
いろんな新聞社から子ども向け新聞が出ているので、比較してから定期購読するといいですが、慣れないうちは『読売KODOMO新聞』(読売新聞社)だとハードルが低くおすすめです。1週間に1日の発行なので、読まないうちに溜まってしまうことが避けられますし、四谷大塚監修の受験生向け問題なども掲載されています。
小6になったら毎年10・11月に各出版社から出版される時事問題用の本を手に入れて勉強するようにしましょう。
入試問題の変化2 資料読み取り問題の増加
現在の入試問題は、資料読み取り問題が多いです。
昔は「読解力」といえば「文章を読んで理解する力」でしたが、今は「図表や資料が示している意図を読み取る力」も読解力に含まれます。最近は特に資料読み取り問題が多くなりました。
このような問題が多くなったのは、「大学入試センター試験」にとってかわった「大学入学共通テスト」の影響です。大学入学共通テストの「対話文」と「資料」の組み合わせ問題に、中学入試問題も寄せてきているのです。
資料読み取り問題を解くうえで必要なのは、どういう見方をすればその資料の意図することが見えてくるのかを、資料をじっくり読んで考えていくことです。
この力をつけるために、おすすめなものがあります。学校の授業で一回も使われることがないままその存在が忘れられがちな副教材、社会や理科の資料集がありますよね。じつはあの資料集、かなり優れもので、忘れ去ってしまうのはもったいないです。
休憩時間などに眺めて「なんでこれはこうなってるんだろう?」と考えると、資料読み取り問題にも強くなっていきます。掲載資料の近くに解説も付いているので、それも併せて読むと、より深い理解が得られます。
入試問題の変化3 文章の長文化
いわゆる「難関校」と呼ばれる学校の国語の入試では、平均すると本文が約8000字にもなります。8000字というのは、原稿用紙にして20枚分。対して、小学6年生の学校の国語のテストの文字数が800字くらいなので、難関校の国語の入試問題の文章量は学校のテストの10倍近いです。
国語の入試問題は本文だけではなくて、問題文、特に選択肢問題のような文章量が多い問題もあります。それら問題文の文章も含めると、文章量が1万字を超える学校も珍しくありません。受験生は50分程度の制限時間内に、本文を読んで、問題を読んで、問題の答えを考えて、答えを解答欄に書く必要があるわけです。
……という話を聞いて、「それは大変! 速読即解、速く読んで速く解けるようにしないと!」と考え、子どもにスピードを求めると、ただ文章を読み飛ばして感覚で解くだけになって、かえって読解力がつかずに点数が下がっていくことになりかねません。
速く読めるようになるためには、速く読もうとしないことです。じっくり読むトレーニングを積んでいく中で、自然と読むスピードが速くなっていくのが理想です。
入試問題の変化4 問題の難度が上がった
入試問題はこの30年間で難しくなりました。30年前にトップ校で出題された問題が、今や中堅校でも出題されます。それに合わせて塾のカリキュラムもどんどん増えて、授業の進度も早くなって、宿題も大量に出されるようになっています。
その結果、大手進学塾では、成績上位のクラス以外は授業についていけない生徒が続出していて、なんとか授業についていけている生徒も必死であるというのが実態です。
この状況にどう対応すればいいかというと、応用・発展問題への取り組みは後回しにしてでも、基本の理解と例題を解けるようになることに時間をかけるようにしましょう。
入試問題が難しくなっているといっても、誰も見たこともないような問題や、算数ではなくて数学の知識がないと解けない問題、専門知識がないと正解できない理科や社会の問題などは出ません。
「難しい問題」は未知の問題ではなく、「基本問題」をかけ合わせてつくった問題です。
だから結局、基本を理解することが大事なのです。
入試問題の変化5 思考力・発想力を問う問題の増加
「これからの時代、知識があることよりも、いかに深く考えられるか、いかに広い発想ができるかが求められる」ということは、私が塾講師を始めた30年近く前からいわれてきたことです。
実際、30年前の入試問題でも思考力、発想力が問われる問題が出題されていました。ただし、30年前の思考力、発想力が問われる問題の多くは、思考の型、発想の型を学んで、反復練習をくり返せば解けたのです。
今の入試はそうはいきません。思考の型、発想の型を学んで、反復練習をくり返しても、最近の問題は型破りで、型にはめて正解を導き出すのが難しいのです。そんな型破りの新傾向問題は、特に新興の進学校に多く見られます。
とにかく知識を暗記し、ひたすらパターン演習をトレーニングする……このようなかつての勉強も必要なことではありますが、それだけでは現在の入試には通用しませんし、そもそもそんな勉強はつまらないですよね。ある程度知識をつけたら、そこからより深く考えたり、発想を広げていったりするところに、学ぶおもしろさがあります。
「勉強がつまらない……」と思っている子は、勉強内容、勉強時間を減らしてでも、各単元の基礎を深く理解することを優先しましょう。一見、全然別のものだと思っていた2つのことに、じつは共通点があると知ることや、自分とは全く関係のなさそうなことが、じつは関係があることを知ったときの「そうなんだ!」という驚きと興奮を味わってもらいたいと思います。
そうすることが、結果的に中学受験の入試問題に対応できる力を養うことにつながります。
「ひたすら量をこなす」スタイルは通用しない
昭和、平成のような
• とにかくがんばって覚える
• とにかくがんばって問題を多く解く
• とにかくがんばって勉強時間を増やす
という「とにかくがんばる熱血スタイル」だと、いずれ限界がきます。
勉強=「暗記と反復練習」、勉強=「努力と根性」、このように勉強してきた子は、知っている知識・解いたことがある問題には強いです。早く正確に答えを出せます。
でも、その反面、初めて見るタイプの問題に出くわすと「これは、知らないから解けない」と思い込んで、あっさりあきらめがちです。でも「知らないから解けない」という思い込みが「知らなくても解ける」という意識に変わると、意外と解けるものです。
テストや模試で解けない問題があったとき、その分野の知識が足りないと考えて、テキストを取り出して書かれていることを一生懸命覚えることが復習だと考えている子、ご家庭は少なくありません。
「どう考えたら今の知識で解けるか?」
そういうことも考えながら勉強に取り組めると、令和の思考力・発想力を試す問題を解く力が身についていきます。
■ 30年前の受験知識を、現在のものにアップデートする。
■ 昭和、平成の情報や考え方は、今では通用しないと心得る。
■ 勉強方法を現在の入試傾向に合わせ、「暗記と反復」から「深く考え、広く発想する」へ変えていく。
(西村 創 : 教育・受験指導専門家)