「数字で語る」を意識すれば、新人であっても説得力を持って話を進められます(写真:kou / PIXTA)

ビジネスコンサルタント・作家の大石哲之氏によるロングセラー『コンサル一年目が学ぶこと』から一部を抜粋し、「ビジネスの基礎」となるスキルを紹介しています。今回は「数字というファクトで語る」がテーマです。

「数字でものを言う」が効果的な理由

コンサルタントは、一年目であっても、年上で経験も豊富なクライアントと話すことが少なくありません。どうしてそんなことができるかというと、ずばり「ファクトで語っているから」です。

クライアントの会社で、コンサルティングのプロジェクトのクライアント側の担当者になるような方は、みなそれなりの年齢の人です。さらに責任者は取締役とか部長クラスで、そういう方は、だいたい50歳前後。

実際にわたしが現場でやりとりする課長やリーダーといった人々も、35歳とか40歳で、とにもかくにも、新人のわたしからしたら、はるかに年上の人たちでした。

新人の目標は、そういう年上のクライアントの前に戦力として出してもらい、できれば、1対1でやりとりができるようになることでした。そのために必要となるのが、ファクトです。では、ファクトとは何なのか?

動かしようのない「ファクト」の筆頭である「数字」で語る

ファクトとは、事実のこと。つまり自分の経験談や、気の利いた言葉ではなく、動かしようのない事実をさします。事実の最たるものは「数字」です。数字は誰も動かしようがなく、否定もしようがありません。ですから、数字でものを言うのが、いちばん効果的です。

新人と呼ばれる時期も終わろうとするころ、経験もない一年目のコンサルタントの武器はそれしかない、とわたしは思うようになりました。

仮に、世界共通言語があるとしたら、それは英語ではなく数字です。それも、難しい数字ではなく、売上、出荷の個数、コスト、利益率などの単純な数字です。

わたしは、新人時代に、「営業の効率を上げる」ことをテーマにしたプロジェクトに配属され、そこで、はじめて1対1でクライアントと話す機会を与えられました。そのきっかけになったのが、とある会社の営業社員の行動に関するデータ分析でした。

そもそも、営業社員はどういった顧客を訪れるべきだと思いますか?

もちろん売れている顧客、より正確に言うと、「予算をたくさんもっていて、実際に買おうと考えている顧客」ですね。では、そういう顧客のところに、自社の営業社員はちゃんと足を運んでいるのか?

当たり前と思われるかもしれませんが、本当にそうなのか、数字による確認が必要です。わたしは、その数字の分析を当時のマネジャーに指示されました。作業は地道なものでした。典型的な、新人の仕事です。

まず、営業の日報を取り寄せ、誰がどこに何回訪問したのかを集計しました。そして、実際の売上実績や、マーケティング会社が提供する市場規模のデータとそれらを突き合わせました。

その結果、その会社の営業社員は、自社製品をすでに使ってくれている顧客に足繁く通っていて、結果的に、予算があるものの攻めきれていない顧客には、たいして時間を割けていない傾向があることがわかりました。

部長が知りたかったのは、この事実です。実際に、自社の営業社員がどういう行動をしているのか、部長は感覚的には問題を認識しつつも、実際の数字としては、事実を把握できておらず、人を納得させる「証拠」がありませんでした。

ですから、わたしたちはコンサルタントとしてそれを調べあげました。事実は、予想された通り。営業社員は、予算のあるところにではなく、行きやすいところに行っていたのです。

感覚的に把握している問題を、実際に「数字」に落とし込み、「証拠」にすることで、人を納得させる。

事実には誰も文句を言えない

このデータを見た部長は、薄々感じていたことがデータで裏付けられ、納得した様子でした。もちろん、社内的にもこの事実はショックです。しかし、事実なのだから、誰も文句は言えません。しぶしぶかもしれませんが、納得するしかないのです。

その後、どうして改革が必要かを社内に語る際にも、このデータは重要な事実として引用されました(なお、このデータを使ってクライアントの部長に話をしたのは、一年目のわたしではなく、マネジャーです)。

その後、みんなこの数字に興味をもってくれました。わたしが分析したようなデータをすぐに取得できる簡単なシステムをつくれないか、という依頼もあり、実際につくりました。

そのシステムは、その後の本格的なマーケティング分析システムを構築するきっかけともなりました。その過程で、わたしは、マーケティングに関する数字の取得と分析について任されるようになり、はじめてクライアントの前で「数字については、彼が担当します」と上司に言ってもらえたのです。

わたしは、特にたいした経験もなければ、経営に関してはまったく何も知らない単なる新人でした。しかし、顧客が知らなかった事実を数字で示すことによって、価値を認めてもらえたのです。

数字こそが、一年目の武器になる。おかしいと思ったら、事実を集めて数字にする

このように、動かせない事実こそが、新人にとって、もっとも有効な武器となります。

たとえば、社内で、非効率だったり、理不尽だったり、無駄だと思えることがあって、それを改善したいと思っているとしましょう。そういうときに、

「○○は非効率だと思います。変えるべきです。危機感をもってください」

こういう言い方をしてしまうと、人には伝わりません。相手の危機感を煽ろうとしても、逆効果です。なぜ新人がそんな偉そうなことを言うのか、と思われてしまいます。

だから、新人であればあるほど、事実を拾ってこないといけないのです。

いくら新人の提言であっても、それが事実ならば、聞いてもらえます。

意見は封殺されることがありますが、事実は封殺しようがありません。

自分しか数えられないデータが有効

「○○がおかしい」と思ったら、まず、事実を集めましょう。集めるときは、大上段にかまえたものではなく、具体的なものを集めるようにします。


たとえば、街角で調査員がカウンターをもって数えている、あのデータのように、ウェブサイトや新聞に載っていない、あなたが数えなければ決して数えることができないようなデータこそが、有効です

誰が、何を、何回したのか。

どれが、いつ、何回利用されているのか。

こういう数字を集めてきてください。それこそ、カウンターをもって現場調査をしてもいいでしょう。

もしあなたが集めた数字に意味があれば、少なくともそれが完全に無視されることはありません。そして、そういう地道なことをするのが、新人の役割でもあるのです。

経験のない一年目の唯一の武器が、数字。それもほかでは得られない、独自に集めた数字が有効。


(大石 哲之 : 作家・コンサルタント)