「車内エンタメ」をウリにしたミニの新しい世界観
ミニクロスオーバー改め、ミニカントリーマンにスペインで試乗した(写真:BMW)
ミニ「カントリーマン」が、フルモデルチェンジ。2023年11月21日のガソリン版に続き、2024年3月1日にピュアEV版の日本での販売が開始された。カントリーマンは、従来日本で「クロスオーバー」と呼ばれていたモデルだ。
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ミニといっても、全長3050mmにすぎなかったオリジナル(1959年登場)より、はるかに大型化。狭い市街地での取り回しのよさは、オリジナル・ミニの最大の美点だったが、今のミニには(ご存じのとおり)それはない。
ミニシリーズの中でも最大のカントリーマンは、全長4445mm×全幅1845mm×全高1645(あるいは1660)mm。新型になり、大型化している。このクルマのセリングポイントは、さらに別のところにあるようだ。
BMWと同じマーケティング戦略のもとに
私が、新型カントリーマンをドライブしたのは、2024年2月のポルトガルでのジャーナリスト向け試乗会。リゾートホテルに並べられたのは、もっともパワフルな「ミニ・ジョンクーパーワークス・カントリーマン」と、ピュアEV「ミニ・カントリーマンSE ALL4」だ。
スタイリングは誰が見てもミニだが、面構成はけっこうシンプルになった感がある(写真:BMW)
思い出されるのは、ほぼ同時に発表された新型BMW「X2」。このクルマについて、BMWの開発者は「BMWのマーケティング戦略は、モデルの多様性にある」としていた。おそらく、ミニも同様。
ミニシリーズにはSUVのカントリーマンもあれば、人気の高い(通常の)3ドアや5ドアもあり、さらにコンバーチブルや、BMWでいうところのSAC(スポーツアクティビティクーペ)的な「エースマン」も控えている。
多様なボディと多彩なパワートレインのラインナップは、市場での存在感を放ちつづけるためのもの。おもしろいことに、ミニの開発者はそれを家族にたとえている。
ヘッド・オブ・ミニのステファニ・ブルスト氏(写真:BMW)
「どのモデルも共通のDNAですが、それでいて個々のモデルが強い個性をもっている構成は、まさに人間のファミリーと同じではないかと考えています」
ヘッド・オブ・ミニ(ミニブランド責任者)の肩書を持つステファニ・ブルスト氏は、シリーズ全体のコンセプトをそう説明する。
連想したのは、トヨタのクラウン4姉妹(自動車はラテン系の言語では女性名詞なのであえて“姉妹”とする)だ。
セダン以外の「クラウンクロスオーバー」「クラウンスポーツ」「クラウンエステート」は基本的なプラットフォームを共用し、少しずつ異なったボディスタイルを持つ。ベーシックなコンセプトを共通させた“差異化戦略”である。
“ミニ的なキャラクター“はどちらにも
BMWとミニは、このところ新型車を発表すると、内燃機関と電動車をともに設定している。理由は、施行が控えている厳しい排ガス規制「ユーロ7」への対応のため。
印象的なのは、かつてのように「BEVだから」と、走り出しのトルク感をことさら強調するような“演出”がないことだ。エンジン車もバッテリー駆動車も、ほとんど同じような乗り味にしている。
SE ALL4は66.45kWhの駆動用バッテリーを搭載し、一充電走行可能距離は最大で433km(写真:BMW)
別の言い方をすれば、パワートレインに関係なく、ミニに乗ってきた人ならなじみのある、“ミニ的なキャラクター“がきちんとそなわっているということだ。
極端にいうと、モデルによってはパワートレインがエンジンなのかバッテリーとモーターなのか、区別がつかないぐらい。
はたして新型カントリーマン、乗ったのは233kWの最高出力と400Nmの最大トルクを発生する1998cc4気筒エンジンに全輪駆動システム(ミニは「ALL4」と呼ぶ)を組み合わせたジョンクーパーワークスと、225kWと494Nmのバッテリー駆動のSE(こちらもALL4)。
チェッカーフラッグをイメージした凝った意匠のホイールを履くジョンクーパーワークス(写真:BMW)
ともに、シリーズ中もっともパワフルなモデルだったこともあるのだろうか、加速感、キレのいいステアリング、それに硬めだけれどしなやかに動くサスペンションシステムによるハンドリングなど、基本的なドライブフィールにはかなり近いものを感じた。
もちろん、モーターとエンジンでは出力特性がまったく違うので、走り出しからずっと、アクセルペダルの踏み込みに対してスムーズな加速感がほしいならバッテリー車がいいだろうし、ぐーっとトルクが増していく従来のエンジン車のフィールが今も大好きなら、ジョンクーパーワークスのほうがよい。
スポーティさが強調されるジョンクーパーワークスのインテリア(写真:BMW)
ジョンクーパーワークスに乗って改めて感じたのは、大人っぽいというか、SUVとして見た場合の洗練度が上がったことだ。このところのミニのトレンドに乗っかって、かつてのように車体がほとんどロールしないような足まわりの設定ではなくなっていて、素直な動きが気持ちよい。
ただし、ドライブモード(ミニでは「エクスペリエンスモード」と呼ぶ)には、通常の「スポーツ」に相当する「ゴーカート」モードがあり、たしかにアクセルペダルの踏み込みに対する反応がとても速くなるし、ステアリングの操舵感覚も同様にさらに鋭さを増す。
で、私にはこのフィーリングがとても好ましい。自分の意思どおりにクルマを走らせられるように思えるからだ。
一方「そればっかりじゃ……」というときのための、一般的な「エコ」に当たる「グリーン」モードも、なかなかよい。厚いトルク感を生かしてアクセルペダルを軽く踏んでいるとき、“適度な気持ちよい加速感”が得られるからだ。
ミニのアイコンでもある中央の円形メーターはフルデジタルになり、「ミニOS9」搭載で24cm径(筆者撮影)
リサイクルマテリアルの素材感を強調したインテリアはデザイン性が高い(筆者撮影)
ポルトガルの道では、この2つのモードを使いわけて走った。山岳路では、腕や足の小さな動きでクルマが機敏に動いてくれるゴーカートモード、海岸道路や高速道路ではグリーンモードで、という具合。
実は最新のミニには、ノーマルモード相当の「コア」モードなど、全部で7つものモードがある(SUVのカントリーマンだけは「トレイル」モードがあって8つ)。
走りの変化はなく、ライティングやサウンドなど、ドライバーの気分をもり立てるためのモードもあるのだが、これがなかなかおもしろい。
円形モニター下のトグルスイッチもミニの特徴のひとつで、エクスペリエンスモードもここで切り替える(写真:BMW)
ミニ(とBMW)が見せる新たなクルマ像
まさにこの“エクスペリエンス”こそ、最新のミニの製品戦略じゃないかと私は思った。運転がそもそもエクスペリエンス(体験)なのだけれど、ミニではそれに加えて乗っている時間、ドライバーと他の乗員に特別な体験を与えようとしているからだ。
ライティングやモニターの表示によりさまざまな世界が楽しめる(写真:BMW)
たとえば「ビビッド」モードは、音楽による演出でドライブ中の気分をもり立てようというもの。ストリーミングも使えて、選ぶ音楽に応じて、インテリアのライティングも変わる。
ミニ(とBMW)で感じられるのは、さまざまな方面での差異化を図っていることだ。それには走り、デザイン、走行支援システム、そして上記のような車内のエンターテイメントが含まれる。それをセリングポイントにしている。
これまでの自動車業界の動きを見ていると、BMW/ミニはたいていマーケットにおいて先手をうまく打ってきている。カントリーマンは、その象徴のようなクルマだった。
(小川 フミオ : モータージャーナリスト)