2024年3月16日にデビューした山形新幹線の新型車両E8系(記者撮影)

JR各社のダイヤ改正が行われた3月16日、全国で営業運転する新幹線の車両にまた1つ新顔が登場した。形式名は「E8系」。JR東日本が開発した山形新幹線向けの車両だ。山形新幹線では1992年の東京―山形間開業時には400系、その後1999年の山形―新庄間開業時にはE3系が投入された。今回のE8系は山形新幹線にとって25年ぶりの新型車両となる。

最高時速は300kmに

当初の計画では2022年9月に最初の車両を完成させ、2024年春の営業運転開始までふた冬かけて試運転を行う予定だったが、折からの世界的な半導体不足が災いし完成が2023年2月にずれ込んだ。ただ、すぐに試運転を開始し、目標のふた冬かけた試運転は実現できた。試運転を繰り返した結果、安全性など運行性能に問題ないことが確認され、予定どおり営業運転に投じられることとなった。

E8系導入による最大の変化は宇都宮―福島間の最高速度が時速275kmから時速300kmに向上したことだ。これにより、所要時間が従来よりも最大で4分短縮し、東京―山形間が最速2時間22分、東京―新庄間が最速3時間7分で結ばれる。また、冬季の運行時、従来は福島駅で車体に付着した雪を落とす作業を行って列車が遅れることもあったが、E8系は床下に着雪防止用のヒーターを設置しているため、冬季の定時運行に寄与しそうだ。


E8系の最初の車両は半導体不足の影響で完成が2023年2月にずれ込んだ=2023年2月(撮影:尾形文繁)

運行開始に先立つ3月7日に関係者向け試乗会が開催され、上野―郡山間を往復した。E8系の外観のカラーリングは車体上部が紫、オレンジ色の帯をはさんで車体は白。この配色の構成はE3系に似ている。ただ、先頭車の「鼻」に当たる部分は長さ9m。E3系よりも3m長い。形状は「アローライン」と呼ばれるもので、E5系やE6系でも採用されている。


E8系の「鼻」はE3系よりも3m長い=2023年2月(撮影:尾形文繁)

普通車は通路中央部に最上川をモチーフとした柄を通し、座席は山形県の花である紅花をイメージした鮮やかな黄色から赤へのグラデーションを採用した。E3系と比べると明るい印象を受ける。なお、グリーン車の座席は、樹林の広がる月山や最上川のゆらぎを再現したという緑色がモチーフだ。

また全席、肘掛けの下にコンセントがある。新幹線の車両では足元にコンセントがあることが多いが、場所によっては差しにくかったり、足が引っかかったりする。肘掛けの先端にコンセントが設置されている車両もあるが、リクライニングのボタン操作の邪魔になったりする。肘掛けの下というのはJR東日本の苦心の賜物である。


E8系普通車の車内(撮影:尾形文繁)


肘掛けの下に設置されたコンセント(撮影:尾形文繁)

福島のネック解消へ「アプローチ線」増設

上野駅を出発した列車は宇都宮駅を過ぎたあたりからぐんぐんスピードを上げ、車窓から見える外の景気も飛ぶように流れていく。スマホの速度表示アプリで計測したら確かに速度は時速290kmを超えていた。その割にはあまり揺れていないように感じられる。「高速走行時の横揺れを軽減するフルアクティブサスペンションを全車両に設置して、乗り心地を向上させている」と、同乗したJR東日本の担当者が教えてくれた。

郡山駅では駅員たちが「郡山駅へようこそ」と書かれた横断幕で出迎えてくれた。列車は30分ほど停車した後、再び上野駅に向かって走り出した。


郡山駅で試乗列車を出迎える駅員たち(記者撮影)

山形新幹線をめぐっては、ほかにも輸送安定や所要時間短縮のための取り組みがいくつか行われている。福島駅には新幹線と在来線が直通するための「アプローチ線」が設けられているが、アプローチ線は1本のみで上り、下り兼用となっている。そしてこのアプローチ線は福島駅の14番線につながっている。

福島駅の新幹線ホームは4本あり、基本的には11・12番線が上り東京方面、13番線が下り仙台・盛岡方面となっているが、14番線は下り山形方面と上り東京方面の供用となっている。そのため仙台方面からやってきて山形新幹線と連結する上りの東北新幹線は、下りの13番線をまたいで14番線に入る。そして山形新幹線と連結した後は、再び下り線をまたいで上り線に入る。

このように福島駅で上り線と下り線が交差しているとダイヤ乱れの影響が大きくなりかねない。たとえば、山形方面からやってきた上り列車の到着が遅れ、東北新幹線と連結した上り列車が線路をまたぐタイミングがずれると、下り列車にも影響が出てしまう。

そこで、アプローチ線をもう1本建設して上りホームにもつなげて、山形新幹線の上りと下りを完全に分け、上りの列車が下りの線路を横断しなくてもすむようにする工事が現在行われている。2026年度末に完成の予定で、運行の安定性の向上が期待できる。


停車中のE8系。車体上部に紫とオレンジ色の帯を配した塗装だ(記者撮影)

「新トンネル」はフル規格への布石?

もう1つは山形新幹線が走る奥羽本線の庭坂―米沢間約23kmの区間に、新トンネル(仮称:米沢トンネル)を建設する構想である。この区間は雨、雪、あるいは動物との衝突により新幹線の運行に大きな影響を及ぼしている。JR東日本と山形県は抜本的対策として新トンネルの事業化に向けて2022年10月に覚書を締結した。トンネルが完成すれば雪などの影響が減り、運行の安全性、安定性が増すほか、10分強のスピードアップも見込まれる。

なお、山形県は福島―山形―秋田を結ぶ奥羽新幹線と、富山―新潟―秋田―青森を結ぶ羽越新幹線の実現を目指している。山形新幹線は在来線を走るため厳密には新幹線といえない。それだけに高速運行が可能なフル規格の奥羽新幹線は県の悲願でもある。実現すれば東京と県内の沿線各駅を結ぶ所要時間は大きく短縮される。


「つばさ 山形」の行き先を表示したE8系(撮影:尾形文繁)

米沢トンネルは時速200km以上の高速走行も可能としており、もし米沢トンネルの工事が始まれば、それは将来の奥羽新幹線整備への布石という意味も持つことになる。米沢トンネルの工期は着工から約15年、事業費は約1500億円を見込み、調査により今後精査するとしている。

E8系のデビュー後も、2026年度末には福島駅新アプローチ線の完成が予定され、その後は米沢トンネルの構想がある。さらにその先にはフル規格の奥羽新幹線――。この山形県の悲願を実現するためには、フル規格に向けた機運醸成は不可欠。だからこそE8系導入を契機に地域の経済や観光をぜひとも活性化させなければならない。


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(大坂 直樹 : 東洋経済 記者)