超音波を使ってアルツハイマー病の進行を遅らせたり薬物依存をやめさせたりする治療法が登場している
ウェストバージニア大学ロックフェラー神経科学研究所の神経外科医であるアリ・レザイ氏が研究する「超音波技術を用いたアルツハイマー病と薬物依存症の治療法」を、アメリカのニュースメディアであるCBSが特集しています。
Neurosurgeon works to slow Alzheimer's progression, treat addiction with cutting-edge technology - CBS News
Neurosurgeon pioneers Alzheimer's, addiction treatments using ultrasound | 60 Minutes - YouTube
アルツハイマー病の原因とされているのが、脳の灰白質に存在するアミロイドβタンパク質の細胞外沈着物であるアミロイドβプラークです。このアミロイドβプラークの沈着量が増えると、脳の細胞機能を妨げて認知障害が起こると考えられています。以下の図で赤い部分が、アミロイドβプラークの密度が高い部分です。
アルツハイマー病の治療薬は記事作成時点で2種類市販されており、いずれもこのプラークの分解を促進する効果があります。これらの治療薬を処方するには、18カ月以上・月1〜2回通院し、1〜2時間の点滴を受ける必要があり、非常に時間がかかります。しかし、その間にもアルツハイマー病が進行するため、進行を食い止めるのは難しいとのこと。
治療薬の処方に時間がかかってしまうのは、薬の成分が「血液脳関門」と呼ばれる脳のバリアを通過するのが難しいためです。この血液脳関門は毒素が脳に侵入するのを防ぐ役割を担っていますが、同時に薬物の侵入も防いでしまいます。
レザイ氏が取り組んでいる治療法は、脳内の特定の領域に集中的に超音波を当てることで、患者の血流に微小な気泡を発生させ、その影響で血液脳関門を一時的に開けるというもの。これにより、従来よりもずっと効果的に治療薬を脳内に届けることができるというわけです。
以下が患者の頭に装着する超音波照射装置。
レザイ氏が3人の患者にこの治療法を施したところ、6カ月で従来と比較してアミロイドβプラークが1.5倍以上減少していたとのこと。この「超音波を使ってアミロイドβプラークをより速やかに分解する」という治療法は、アルツハイマー病によって失われた脳細胞機能の復元の可能性を探るためにFDAの承認を受けています。
さらに、レザイ氏はパーキンソン病だけではなく、薬物依存症の治療にも超音波を応用しています。この治療法は、脳の報酬をつかさどる大脳基底核に超音波を集中的に当てて電気的および科学的活動を変化させるというもので、皮膚を切開したり頭がい骨を開けたりする必要がないため、合併症や感染リスクを避けながら、依存症の患者に効果的な治療を提供できるとのこと。すでに行われている臨床試験では、薬物の使用を完全に止めることができたケースも報告されています。
レザイ氏は「リスクは常にありますが、リスクなしに前進したり発見したりすることはできません。私たちは前に進み、リスクを負う必要があります。なぜなら、依存症やアルツハイマー病の患者がいなくなるわけではないからです。患者はすでに存在しているのですから、なぜ10年、20年も待つ必要があるのでしょうか? 今やるべきです」とコメントしました。