「涙道手術」の適応やリスクを眼科医が解説 涙目・目ヤニが気になったら受診のサイン!?
涙の通り道を治す「涙道手術」。しかし、目にメスを入れるということに不安を感じる人も多いのではないでしょうか。また、手術にはどのようなリスクがあるのかも無視できません。今回は涙道手術の適応やリスク、治療の流れについて、「みねざき眼科」の嶺崎先生に教えていただきました。
≫【眼科の定期検診】目の病気を予防するという考え方が、今後必要になるワケ監修医師:
嶺崎 輝海(みねざき眼科)
東京医科大学卒業。その後、東京臨海病院初期研修、東京医科大学病院眼科や東京医科大学八王子医療センターなどに勤務、新百合ヶ丘総合病院医長を務める。2023年、東京都国立市に位置する「みねざき眼科」の院長に就任。医学博士。日本眼科学会認定眼科専門医。日本角膜学会、日本角膜移植学会、日本涙道・涙液学会、日本眼形成再建外科学会の各会員。東京医科大学病院客員講師。
涙道手術とは? どのような疾患が対象?編集部
「涙道手術」という治療があると聞きました。そもそも涙道とはなんですか?
嶺崎先生
涙道とは、涙の通り道のことです。そもそも、涙は上まぶたの外側にある涙腺という部分で作られ、目の表面を流れることで潤します。その後、 目頭にある涙点という部分から吸い込まれ、涙小管、涙嚢、鼻涙管を通り、最終的に鼻の中に流れていきます。この通り道のことを涙道と言います。
編集部
涙道手術はなぜ必要なのでしょうか?
嶺崎先生
涙道に異常が起きると、「いつも涙が溢れている(涙目)」「目ヤニが多い」などの症状が表れます。こうした症状を引き起こすものを総称して涙道疾患と言い、それを改善するためにおこなうのが涙道手術です。
編集部
涙道疾患とは、具体的にどのようなものですか?
嶺崎先生
「涙道閉塞症」が代表的です。涙道閉塞症は、涙道の一部あるいは全部が塞がってしまう疾患で、鼻へ抜ける涙が逆流してしまうために流涙症状を引き起こしてしまいます。
編集部
なぜ、涙道閉塞症が起きるのですか?
嶺崎先生
涙道閉塞症の原因には様々なものがありますが、原因不明のケースが大半とされています。ただし、患者さんの男女比を見ると圧倒的に女性の方が多いのです。そのため、「女性ホルモンのバランスが影響しているのではないか」「アイメイクが関係しているのではないか」などが涙道閉塞症の原因ではないかと言われています。
編集部
ほかにも原因が考えられるのですか?
嶺崎先生
流行性角結膜炎を発症後に涙道の閉塞を起こす人も多いですし、先天的に閉塞を起こしているケースもあります。そのほか、近年の研究により、抗がん剤の副作用でも閉塞が起きることもわかっています。さらに、副鼻腔炎など鼻や副鼻腔疾患の合併症として起きるケースも少なくありません。
編集部
涙道閉塞症以外には、どのような涙道疾患がありますか?
嶺崎先生
涙道の一部である鼻涙管が詰まると、「涙嚢炎」を引き起こすことがあります。涙嚢炎は、涙を溜める袋である涙嚢のなかで菌が繁殖し、炎症を起こしてしまった状態を指します。涙目や目ヤニがひどくなり、目の周りが腫れ上がって強い痛みを生じさせることもあります。
涙道手術の流れは?どのようにして手術がおこなわれる?編集部
涙道手術はどのようにおこなわれるのですか?
嶺崎先生
まずは細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査や通水検査などをおこなって、ほかの疾患が隠れていないか確認したり、閉塞の状況を調べたりします。その後、治療をおこないます。涙道閉塞の治療は大きく分けて、以下の2つに分類されます。涙管チューブ挿入術
涙嚢鼻腔吻合術(DCR)
編集部
それぞれの治療法について簡単に説明をお願いします。
嶺崎先生
涙管チューブ挿入術とは、涙道内視鏡を用いて閉塞部位を掃除し、閉塞を解除した後、再び閉塞が起きないようにチューブを留め置く治療法です。基本的にチューブは2~3カ月後に抜去します。涙道内視鏡が開発されたことで安全性と確実性が高まり、治療成績が飛躍的に向上しました。
編集部
治療後、再発することはないのですか?
嶺崎先生
いいえ。残念ながら涙管チューブ挿入術では再発の可能性があります。また、閉塞が重症の場合には治癒することが難しいこともあります。涙管チューブ挿入術で再発した場合や、重症の場合に用いられるのが涙嚢鼻腔吻合術です。これは、本来の涙道を利用するのではなく、迂回ルートを鼻腔との間に作成する治療法です。目頭内側の皮膚を切開する「鼻外法」と、鼻の中からアプローチする「鼻内法」があります。
編集部
手術が失敗することはあるのでしょうか?
嶺崎先生
鼻内法、鼻外法とも非常に成功率は高く、また、強い副鼻腔炎、鼻中隔偏位やポリープなどがある場合は、同時に手術をおこなうこともできます。
涙道手術のリスクについて編集部
涙道内視鏡検査が不安です。どのようにおこなわれるのですか?
嶺崎先生
まず、検査の所要時間は片側5~10分と非常に短く、目頭に麻酔の注射をしておこないます。術後、一時的にものが二重に見えることがあるので、片側に眼帯をします。また、チューブの刺激により、術後に涙や目ヤニなどの症状が悪化することもありますが、多くの場合、1~2週間で改善するのであまり心配はいりません。
編集部
涙管チューブ挿入術のリスクはありますか?
嶺崎先生
非常に安全性の高い治療法ですが、リスクがあるとしたら、再発する可能性があることです。また、閉塞の程度によっては手術が適さない場合もあります。研究によると、罹病期間が長いほど、再発が多いことがわかっています。
編集部
一方、涙嚢鼻腔吻合術はいかがですか?
嶺崎先生
手術時間は片側1時間程度で、医療機関にもよりますが、日帰りでおこなうこともできます。鼻外法、鼻内法ともシリコンチューブを挿入して迂回路を作り、3カ月程度で抜去します。鼻内法と比べて鼻外法の方が、視野が広く、狭窄や閉塞部位に関係なくほとんどの症例で適応となりますが、鼻外法は皮膚を切開するため、切開創が若干残ることもあります。
編集部
それぞれの治療法にメリットやデメリットがあるのですね。
嶺崎先生
鼻外法、鼻内法とも90~95%と成功率が非常に高いのですが、鼻外法の方が若干、手術時間が長かったり、鼻内法の場合には鼻内視鏡などの装置や鼻内操作の習得が求められたり、どちらも欠点や必要な条件があります。自分の症状に応じて、適切に治療法を選択することが大切です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
嶺崎先生
日本では、涙目を専門的に診察している眼科医は非常に少ないのが現状です。そのため、もし涙目で困っていることがあったら、「日本涙道・涙液学会」のwebサイトをチェックしてみてください。そこに医師の一覧が掲載されているので、お近くの医師を訪ねるといいと思います。鼻の疾患が原因で涙道閉塞症が起きている場合もありますが、涙目で困っている場合にはまず眼科を受診し、必要に応じて耳鼻科での治療を受けましょう。
編集部まとめ
涙目や目ヤニは緊急性の高い疾患ではないかもしれませんが、たえず涙や目ヤニが出ている状態が続くと、生活の質を著しく下げてしまうこともあります。困っていることがあったら、早めに医師に相談を。発症してから治療までの期間が長いと、根治まで時間がかかることもあるので、早めの対処が肝心です。
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