Ryzen 8000Gシリーズを試す - Ryzen 7 8700GとRyzen 5 8600G、拡張性もポイントに
●CineBench / PCMark / Procyon / GeekBench
今年のCESで発表されたRyzen 8000Gシリーズであるが、予定通り1月31日に発売された。既に秋葉原で発売されているのはレポートの通りだ。今回諸般の事情で評価チップが届いたのが発売日後ということで、遅めの性能レポートになってしまった事をお詫びしたい。
○評価機材
今回はRyzen 5 8600GとRyzen 7 8700Gの両方が届いた(Photo01〜05)。きちんとOSからも認識されている(Photo06〜09)。ちなみに評価キットにはRyzen 8000G対応のBIOSを搭載したマザーボードが付属していたが、マザーボード各社はRyzen 8000Gに合わせて対応BIOSをリリースしており、これにUpdateする事で問題なく既存のSocket AM5マザーボードで利用可能である。実際今回評価に浸かったASUS PRIME X670E-PRO WIFI-CSMも今年の1月30日付でAGESA version Combo AM5 PI 1.1.0.2bに対応したVersion 2412がリリースされており、これを利用する事で問題なく動作した。
Photo01: Ryzen 7 8700GはWraith Spireが付属する関係でやや大振りのパッケージ。Ryzen 5 8600GはWraith Stealthなのでやや小型である。
Photo02: 側面というかパッケージの奥行もクーラーの大きさに合わせて異なっている。
Photo03: ブリスターパッケージそのものに変化はなし。
Photo04: ヒートスプレッダも同じく。ただRyzen 7000シリーズはヒートスプレッダの隙間に細かくチップコンデンサが配されていたのだが、綺麗さっぱりなくなっているのは、Single Die構造でスペースにゆとりが出来たのと、消費電力そのものが下がっているので少ない数で賄えるようになったという両方の要因だろうか。
Photo05: 当然ながら裏面に変化はなし。
Photo06: Ryzen 7 8700GのCPU-Z表示。Core Voltageが1.272Vというのはどういうことだろう?
Photo07: OSからも8core/16threadと認識されている。
Photo08: Ryzen 5 8600GのCPU-Z表示。Core Voltageはほぼ1.3Vに。
Photo09: こちらも問題なく6core/12threadと認識されている。
その他の環境は表1に示す通りである。今回の評価は
Ryzen 8000GシリーズのCPU性能はどの程度の性能か?
Ryzen 8000Gシリーズの統合GPU(Radeon 760M/780M)はどの程度の性能か?
の2点であり、対抗馬としてはギリギリ1080P Gamingを名乗れるであろうRadeon RX 6600を用意した。GeForce RTX 3060でも良かったのだが、以前のテストで、大体Radeon RX 6600も同程度(やや性能は低いがその分消費電力も低い)と判っているので、今回はRadeon RX 6600だけにした。もっとも普通に考えてRadeon RX 6600に及ぶ筈もないのであって、頑張ってどこまで行けるのかを見る程度にとどめた(あるいはRadeon RX 6500 XTとかGeForce RTX 3050あたりまでグレードを落とした方が良かったかもしれないが)。Ryzen 7 5700GはAPUの前世代製品ということで、前世代からどこまで性能が向上したかの指標とするために利用した。そんな訳でRyzen 7 5700G、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは内蔵GPUのみで、Ryzen 7 7700XとCore i7-13700KFはRadeon RX 6600と組み合わせての評価としている。
なお内蔵CPUに関しては、FSR2/FSR 3を利用できるものに関してはこれを有効にした場合としなかった場合で、利用できないものはAMD FMF(Fluid Motion Frames 参考記事:https://news.mynavi.jp/article/20240209-2880538/)を無効/有効化して、それぞれ性能の変化も確認した。
グラフ中の表記は
5600G :Ryzen 5 5600G
7700X :Ryzen 7 7700X
8600G :Ryzen 5 8600G
8700G :Ryzen 7 8700G
13700KF:Core i7-13700KF
となっている。FSR2/FSR 3、ないしFMFを使った場合の結果は、例えば5600G_FSR2の様に表記している。また解像度表記も何時もの通り
1.5G:1600×900pixel
2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
とした。
○◆CineBench R23(グラフ1)
CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
グラフ1
もう旧ベンチマークになってしまったCineBench R23であるが、古いCPUとの比較には便利であろうという事でとりあえずやってみた。結果はグラフ1の通りでまぁ順当といった結果。同じ8コア同士で言えば、TDP 65W枠のRyzen 7 5700Gに比べてRyzen 7 8700GはSingleで11%、Multiで22%の性能向上が見られ、それなりに性能が向上しているのが判る。TDP 105WのRyzen 7 7700Xと比較してもRyzen 7 8700Gのスコアはそれほど遜色ない。流石に合計24threadのCore i7-13700KFには及ばないが、消費電力も桁違いであることを考えると、性能/消費電力比では悪くない(というか、むしろ良い)性能になっていると思う。
○◆CineBench R24(グラフ2)
CineBench R24
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
グラフ2
こちらが現行版である。ちなみにCineBench R24では久々にGPU Renderingが復活したのだが、残念ながらRyzen 7 5700GはもとよりRyzen 8000GシリーズのRadeon 760M/780Mでも動作環境を満たしていないということで動作しなかった。最低要求が8GBのVRAMを搭載していることで、これに引っかかったものと思われる。
結果(グラフ2)はグラフ1と同傾向である。まぁ最高速なのがCore i7-13700KFなのは不思議でも何でもないが、後で消費電力の所で説明するがCore i7-13700KFの実効消費電力差はRyzen 8000Gシリーズの3倍程であり、性能/消費電力値では非常に良い(Ryzen 7 5700Gを上回る)結果を出しているあたり、絶対性能と性能/消費電力比のどのあたりでバランスをとるか、を問う結果になっている感じである。絶対性能で言えば、確かにRyzen 7 7700Xにも及ばない程度であるのだが。
○◆PCMark 10 v2.1.2662(グラフ3〜8)
PCMark 10 v2.1.2662
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10
グラフ3
グラフ4
グラフ5
グラフ6
グラフ7
グラフ8
おなじみPCMark 10。もっともPCMark 10そのものはもうだいぶ通常のUsage Modelから外れてしまった感が強く(特にOpenCLを多用するあたり)、Office 365を使ったApplication Testが一番実情に近い気はするのだが、それは兎も角。全体の傾向(グラフ3)としては
Ryzen 7 5700G < Ryzen 5 8600G < Ryzen 7 8700G < Ryzen 7 7700X < Core i7-13900KF
という感じであるが、意外にRyzen 7 5700GとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの性能差が無いのが判る。これはRyzen 7 7700X/Core i7-13700KFについても同じで、確かに性能差はあると言えばあるのだが、大きいものだとは言いにくい。唯一性能差がはっきり出るのはPCMark 10 Extendedの結果だが、これは3DMark FireStrikeを組み込んでいるのが関係しており、これを除いたPCMark 10の結果はそう大きな違いが無いあたりがこれを物語っている。
もう少し仔細に、ということでTest Group(グラフ4)を見ると、明確に「大きな」差があるのはDigital Contents CreationとGaming(これは3DMark FireStrikeである)で、EssentialsやProductivityは言うほど大きな差は無い。
Essentials(グラフ5)を見ると、Video ConferencingなどRyzen 7 5700GがRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gを上回る結果になっている。これはVideoConferencingDetectPrivateOclとVideoConferencingDetectGroupOclという2つのOpenCLを使った処理が、Ryzen 8000Gシリーズでは性能が出ないため。ただその他のOpenCLを使った処理は同等の性能なので、一概にRyzen 8000GシリーズはOpenCLが遅いとも言いにくいし、ただRDNA2のRadeon RX 6600の方は更に高速に処理できる(これがRyzen 7 7700XとCore i7-13700KFが更に性能が高い一因でもある)あたりは、ドライバの癖とでもいうべき問題なのかもしれない。
Productivity(グラフ6)ではWritingではRyzen 7 5700G以外大きな差は無し。これは恐らくだがメモリ帯域の問題かと思われる(Load/Save/Pictureの3つのみ、他より時間を要しているため)。一方のSpreadsheetsは、CPU処理に関してはどれも殆ど性能差が無い(というか、一番遅いのがRyzen 7 5700Gで、他は大差がない)のだが、MonteCarloとEnergyMarketという2つのOpenCLを利用した処理で性能差が出ており、これは先のVideo Conferenceの時と同じくRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gが妙に遅いのが性能差がついた理由である。
これはDigital Contents Creation(グラフ7)も同じである。Video Editingのスコアが実際のCPU性能の差にほぼ近い。Rendering & Visualizationは3DMark Sligh Shot+POV-Rayであり、POV-RayのスコアはほぼCPU性能に比例する感じであるが、3DMark Sligh Shotの方がもろにGPU性能を反映しており、これで大差がついた格好だ。一方Photo EditingではやはりOpenCL系の処理がそのままスコアに直結している。ただこれをちょっと生データで見てみたのが表2である。CPUを使う処理に関しては概ねCPU性能そのままといったところで判りやすいのだが、問題はOpenCLの方。BatchとかContrastは間違いなくRyzen 7 5700Gが一番遅いのだが、BlurなどではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GはそのRyzen 7 5700Gの倍の処理時間を要するといった具合に、処理による差が結構大きい。もっと面白いのはRyzen 7 7700XとCore i7-13700KFで、どちらもRadeon RX 6600を使っているのだから性能差は無いか? と思うと、これが全般的にRyzen 7 7700Xの方が処理が高速になっているのが判る。このOpenCL周りの処理性能の差+CPU処理性能の差がグラフ7の結果に繋がっている訳で、なかなか複雑である。
そういうOpenCL周りの影響を受けない(何しろOpenCLのアクセラレータを利用していない)のがApplications(グラフ8)で、Excelを除くとそう大きなばらつきは無い(PowerPointとEdgeも多少差はあるが、どちらもメモリ帯域に影響されやすいアプリケーションであり、内蔵GPUを使うとそのメモリ帯域で多少のハンディキャップが出る事は否めない)。ではExcelは? というと、これはもう純粋にCPU性能というかマルチスレッド性能の差であり、コア数もピーク性能の高いCore i7-13700KFが最高速、次いでRyzen 7 7700Xというのは妥当な結果である。ただスコアの絶対値で言えば、一番低いRyzen 7 5700Gでも全体で12000超、Excelでも22000超というのは普通に使う分には全く問題を感じさせないレベルのスコアであることは改めて強調しておきたい。Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは、確かにCore i7-13700KFやRyzen 7 7700Xには及ばないスコアであるが、普段使いに支障があるようなレベルでは全くない。
○◆Procyon v2.6.988(グラフ9〜12)
Procyon v2.6.988
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/procyon
グラフ9
グラフ10
グラフ11
グラフ12
次はProcyonであるが、度重なるAdobeのVersion Upにベンチマーク本体が追い付かない現象がまたしても発生。今回Photoshop及びLightroom Classicを使ったPhoto Editingが途中でエラーを吐いて終了するため、Photo Editingは省いて残り3つで比較を行った。
と言う事でOverallがこちら(グラフ9)。まぁやはりCPUの性能そのままという感じだが、Video EditingではCPU性能以上の差がついているのはメモリ帯域も関係しての事と思われる。
まずAI Inference(グラフ10)だが、生憎ProcyonはまだRyzen AIに対応していない(これはIntelのCore Ultra搭載NPUも同じであるが)。またGPUにも対応していないため、これは純粋にCPUの性能となる。こちらは6種類のNetworkのInferenceをCPUで実行し、その際の所要時間を示したもので、なので棒が長いほど遅い事になる。また結果の桁が大きくばらついているので、グラフが対数表示になっている事に注意されたい。さて、Ryzen 7 7700X/Core i7-13700Kが最高速なのは当然として、Ryzen 7 5700GとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの性能差も2倍以上というのは、単にCPU性能だけではなくメモリ帯域(DDR4-3200×2 vs DDR5-5200×2)も効いているものと考えられる。まぁ本来これらはCPUでやるものではなく最低でもGPU、できればNPUで実施すべきものであり、あくまで一つの目安といったところだろうか。Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GとRyzen 7 7700X/Core i7-13700Kの性能差も微妙で、差が大きい物(Deeplab v3とかInception v4)は3倍近い性能差があるのに、小さい物(例えばEsrgan)は数十%程度の差でしかないなど、Networkによって差があるのはまぁ仕方ないところか。このあたり、早くアプリケーションの側がGPU/NPUに対応してほしいところである。
もう少し意味のあるベンチマークがOffice Productivity(グラフ11)で、傾向的には先のPCMark 10のApplications Testに近いものになっている。ただWordの結果でCore i7-13700KFの伸びがPCMark 10より大きいが、これはPCMark 10の方には含まれないPDFの書き出しとかExcelからの表の取り込みなどが入っており、ここで差をつけた格好になっている。このあたりは動作周波数の違いもあるから、ある程度差が付くのは致し方ないところだ。
次のVideo Editing Detail(グラフ12)もまたCPUのみでのEncodeなので、やはりCPU性能がそのまま反映される形になっている。ただこれも、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GがターゲットとするようなマーケットであればむしろMedia Encoderを使って処理すべきものであり、Professional向けにパラメータを細かくいじってCPUによる高品質エンコードを行うような用途はXeon WなりRyzen Threadripperなりを投入すべきなので、あまり現実的な比較ではない様にも思える。まぁそれはともかくとして、ここでは性能差がAI Inferenceとか程には出てこないのは、CPUの処理負荷が律速段階になってしまっており、メモリ性能などより先にCPUボトルネックを起こしているためと考えられる。こうなると、実は言うほどに性能差が出ない。一番処理負荷の高いH.265 #1(4K UHD動画のエンコード)の場合、Ryzen 7 5700Gの処理性能を1.0とするとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは1.12〜1.14程度、Ryzen 7 7700Xが1.35、Core i7-13700KFも1.55程度でしかない。つまり、言うほど性能差は無い、という訳だ。
○◆GeekBench ML 0.60(グラフ13)
GeekBench ML 0.60
Primate Labs Inc.
https://www.geekbench.com/ml/
Procyonよりもう少しマシなAI Benchmarkは無いか? ということで色々探したのだが、結果から言えば無かった。一番問題なのは、まだRyzen AIを利用するベンチマークが、AMD自身すら持ち合わせていない(Ryzen AIを利用するデモソフトは存在するが)ということで、この辺りは現時点では見送りとするしかない。次善の策ということで試してみたのがこのGeekBench MLである。まだ完全版ではない(なにしろVersion 0.60だ)が、ONNX RuntimeをCPUとGPU(DirectML)を選んで実行できるという意味で貴重なテストである。
起動するとこんな感じ(Photo10)。FrameworkはONNXのみが選択可能である。BackendはCPUとDirectMLが選択可能で、DirectMLを利用した場合はGPUの選択が可能となる(Photo12)。テストそのものは
Image Classification
Image Segmentation
Pose Estimation
Object Detection
Face Detection
Depth Estimation
Style Transfer
Image Super-Resolution
Text Classification
Machine Translation
の10種類について、それぞれFloat32/Float16/Int 8で推論を行い、その結果からInference Scoreを算出して結果をhtmlで表示する(Photo13)。もう少し詳細な説明はこちらにまとめられているが、算出方法そのものは明記されていない(恐らくだが、個々のテストについてReferenceとの性能比を求め、最終的に幾何平均でReferenceとの性能差を求め、それにReference Scoreを乗じている様に思われる)。ちなみにReferenceはCore i7-10700を利用した場合で、その際のReference Scoreは1500になるそうだ。
グラフ13
ということで結果がグラフ13となる訳だが、Ryzen 7 7700X/Core i7-13700Kが突出しているのはまぁ当然として、CPUだとRyzen 7 5700GとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gが大差ない、というのはちょっと意外だった。逆にGPUを使うとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GはRyzen 7 5700Gのダブルスコア、とまではいかないものの相応に高いスコアが出ているのはGPU性能差(というかDirectMLの性能差)という訳だ。ただそれでもRadeon RX 6600には及ばないのだが。
Photo10: これは原稿のために手元のマシンで起動させた際のスナップなので、構成が違っている事に注意。
Photo11: 勿論これはDirectML対応デバイスがシステムに搭載されている場合に限る。
Photo12: 複数のDirectML対応GPUが存在する場合、ここでその選択が可能である。
Photo13: 結果が縦方向に長いのはまぁどうしようもない。
●TMPGEnc / 3DMark
○◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.30.33(グラフ14〜15)
TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.30.33
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html
グラフ14
グラフ15
先にProcyonのところでMedia Encoderの話に触れたので、こちらでその検証を。グラフ14はx265、つまりPegasys製のSoftware Encoderを使った場合で、これはもうCPU性能がそのまんまという感じだ。TMPGEncの場合、メモリ性能があまり大きくは影響しないようで、Ryzen 7 5700GとRyzen 5 8600Gがほぼ同じスコアになっているが、逆に言えば6coreのRyzen 5 8600Gで8コアのRyzen 7 5700Gに十分伍する性能が出せているという意味でもある。Ryzen 7 8700GとRyzen 7 7700Xの間にはちょっと大きな性能ギャップがあるし、Core i7-13700KFは更に性能差が大きいが、これは動作周波数や消費電力、Core i7-13700KFではコア数も効いてくるから妥当な性能差と言える。
面白いのはAMD Media Encoder、つまりAMD Media SDK経由でGPU側のEncoderを使った場合だ。1streamだとEncoderが遊び気味になり、むしろCPU性能の方が効いてくるためかRyzen 7 7700XやCore i7-13700KFの方が高速だが、2/4streamだとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの方がエンコード速度が高速になっているのは、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gに搭載されているEncoderはRDNA 3ベースで、RDNA 2ベースのRadeon RX 6600のEncoderよりも高性能になっているという訳だ。ついでに言えば消費電力も低く、実に効率的である。先程も書いたがProfessional向けには色々難点があるだろうが、Consumer向けの動画のエンコードには、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは最適なソリューションと言えるかもしれない。
○◆3DMark v2.28.8217(グラフ16〜18)
3DMark v2.28.8217
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark
グラフ16
グラフ17
グラフ18
今回からSolar Bayもテスト項目に入れている。なお、SolarBay/PortRoyalはRay Tracingを利用している関係でRyzen 7 5700Gでは実行できないのでNo Scoreであるが、SpeedWayは筆者のミスでデータをRyzen 7 5700Gだけ取り損なっている事をお詫びしておく。
ということで結果であるが、Overall(グラフ16)を見るとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GのスコアはRadeon RX 6600比で、良くて半分。悪いと3分の1程度のスコアに留まっている(TimeSpy Extremeなど4分の1程度だ)。ここからCPU/Physics Testの結果などを抜いたGraphics Testの結果がグラフ17で、グラフ16では2.5倍程度だったNightRaidの差が3倍まで広がっている。こちらでは平均3倍ほどのフレームレートの差が出ている訳だ。
まぁ当たり前といえば当たり前で、Radeon RX 6600はRDNA 2ベースの28CU。Ryzen 7 8700GはRDNA 3ベースながら8CUで、RDNA 2換算も16CU相当。Graphics Frequencyは2.9GHzと発表されているが、実際どこまで動作周波数が上がっているか不明だし、なにしろ65W枠だからそう長時間の維持は出来ない。Radeon RX 6600はGame Clockこそ2044MHzだが、何しろTBPが132WとRyzen 7 8700Gの倍の許容量がある。Memory BandwidthもRadeon RX 6600は14Gbps/128bitで224GB/sec。DDR5-5200×2で83.2GB/secどまりのRyzen 7 8700Gとは比較にならない。まぁこのくらいの性能差で済んでよかったというべきか。それでもRyzen 7 5700G比では1.5倍位のフレームレートにはなっているし、性能は兎も角DXRTにも対応しているから、SolarBay/PortRoyalなどもちゃんと動く事は評価してよいかと思う。
グラフ18はPhysics/CPU Testの結果で、まぁこんなもんだろうというのはともかくとして、なんでFireStrikeではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GよりRyzen 7 5700Gの方がスコアが上なのだろう? これだけが不思議ではあるのだが、あとは概ね納得できる数字であり、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの3D性能はそれなりに向上してはいるものの、過大な期待はしてはいけない事が良く判る結果となった。
●ゲーム: Borderlands 3 / Company of Heroes 3 / Far Cry 6 / ForSpoken / Metro
○◆Borderlands 3(グラフ19〜24)
Borderlands 3
2K Games
https://borderlands.com/ja-JP/
ベンチマーク方法はこちらのBorderland 3の項目に準ずる。設定は
全体的な品質:Low
アンチエイリアス:テンポラル
とした。
グラフ19
グラフ20
グラフ21
グラフ22
グラフ23
グラフ24
結果(グラフ19〜21)を見ると、Ryzen 7 8700Gは何とか2Kで60fps超えを果たしており、Ryzen 5 8600Gはちょっと厳しいといったところ。ただRyzen 7 5700Gよりはだいぶ改善している。その2Kのフレームレート変動はグラフ23の通りで、まぁこれならRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700G共にプレイ可能かな? という範疇。1.5K(グラフ22)だとかなりゆとりはあるが、流石に1.5Kだと画面がぼやけた感じになってしまい、あまりお勧めできない。一方2.5K(グラフ24)はちょっとフレームレート的にプレイが厳しい。これ以上設定を下げようもないし、まぁプレイするなら2K以下で、という感じだ。ちなみにFMFは案の定効果なしという感じであった。
○◆Company of Heroes 3(グラフ25〜30)
Company of Heroes 3
Relic Entertainment
https://www.companyofheroes.com
ベンチマーク方法はこちらのCompany of Heroes 3の項目に準ずる。設定は
mage Quality Low
Physics Quality Low
Shadow Quality Low
Texture Detail Low
Geometry Detail Low
Anti-Aliasing Low
とした。またCompany of Heroes 3はFSR 2.1に対応しているため、内蔵GPU搭載3製品についてはFSR無しとFSR 2.1 Balancedの両方の設定で結果を測定した。
グラフ25
グラフ26
グラフ27
グラフ28
グラフ29
グラフ30
ということで結果(グラフ25〜27)であるが、そもそもこちらだとRadeon RX 6600ですら結構厳しく、1.5Kですら平均で40〜45fps程度になっているため、相対的にRadeon RX 6600を利用するRyzen 7 7700X/Core i7-13700KFの結果とRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの結果があまり変わらない、という事になってしまった。Ryzen 7 5700Gは1.5Kですら平均30fpsだから、これに比べれば向上しているのは判るのだが、今回試したどの製品もプレイには適さないという結果に。実際フレームレート変動(グラフ25〜27)でもこれは明らかである。ちなみにFSRを有効にするとそれなりに性能は上がるのだが、それでも2K場合で40fps台を推移しており、いくらFPS系ではないと言ってもこのフレームレートではプレイにちょっと支障が出る感じである。
○◆Far Cry 6(グラフ31〜36)
Far Cry 6
Ubisoft Entertainment
https://www.ubisoft.com/ja-jp/game/far-cry/far-cry-6
ベンチマーク方法はこちら(https://news.mynavi.jp/article/20211006-2009913/)に準ずる。設定は
Graphics Quality:Low
Motion Blur:Off
Camera Shakes:Minimal
で、勿論DXRもOffとしている。
グラフ31
グラフ32
グラフ33
グラフ34
グラフ35
グラフ36
さて、ここまで品質を下げるとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは何とか2K程度まではPlayableな性能となる(グラフ31〜33)。実際フレームレート変動を見ても、2K(グラフ35)でRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gはほぼ60fps程度を維持できている。流石に2.5K(グラフ36)は厳しいものがあるが、後追いでGPUカードを追加するまでの繋ぎとして使う分には何とか使える範囲と言えるだろう。ちなみにRyzen 7 5700Gは1.5K(グラフ34)でも50fps前後とかなり厳しい性能であるから、随分性能の上乗せが出来たことになる。
またFMFはご覧の通り役立たずというか、少なくともFar Cry 6では性能の上乗せは期待できない。まぁ2Kで60fps実現できただけでも大したものだ、ということだろう。
○◆ForSpoken(グラフ37〜42)
ForSpoken
Square Enix
https://www.jp.square-enix.com/forspoken/
こちらの考察でもちょっと触れたForSpoken。発売は2023年1月とちょっと古めであるが、FSR 3に対応ゲームということと、In-Game Benchmarkを搭載していること、それとそのBenchmarkのフレームレートがログで残る事から今回採用してみた。
ベンチマークの方法だが、まずTop Menu(Photo14)で"SETTINGS"を選び、Display Settings Tab(Photo15)で解像度を選択する。ついでGraphics TabでImage Quality Presetsを設定する(Photo16)が、この時点でImage QualityでFSR 3が自動選択される。そこでFSR 3を無効化すると、自動的にPresetはCustom扱いとなる(Photo17)。
Photo14: ベンチマークもここから(Settingsからはベンチマークに直接移れない。ちょっとだけ不便)。
Photo15: ここでVSyncもOffにしておく。
Photo16: Texture Memoryの選択画面になっているのはたまたまで、特に意味は無い。Image Quality Presetを変更すると全項目が自動変更される。
Photo17: CustomになってもFSR 3以外の項目は先に設定されたままとなる。
変更が終わったらPhoto14のTop Menuに戻ってBenchmarkを選ぶとすぐにベンチマークが始まるが、ベンチマークそのものが7つのパートに分かれており、しかも各々のパートのロードにかなりの時間が掛かる関係で、ベンチマーク全体が終わるのには10分前後の時間が必要である(ロード時間次第である)。
ちなみにベンチマークが終わると(ベンチマーク時間全体に比して)「一瞬」だけ結果が表示されてすぐにPhoto14に戻る、というあたりはかなりの不親切設計ではあるのだが、ログは自動的に保存される。ただその保存場所が
C:\Users\ユーザー名\AppData\Local\FORSPOKEN\Steam\76561197972210042\benchmark
という判りにくいものなのはどうにかしてほしいところだ。このログは、最小/最大/平均フレームレートと、7つのシーンのロード時間、それとベンチマーク設定が記録されたファイル以外に、フレームレート変動ログが(シーン毎に)合計7つ生成される。ログファイル名はベンチマーク毎に変化するので、上書きされる心配はない。
グラフ37
グラフ38
グラフ39
グラフ40
グラフ41
グラフ42
さて結果をまとめたのがグラフ37〜39だが、ご覧の通りFSR 3無しだとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは1.5KでもPlayableとは言いにくい程度なのが、FSR 3を併用する事で何とか2Kまで利用可能と言う事になっている。ただFSR 3を有効にするとちょっと振る舞いがおかしく、フレーム毎の所要時間を見ると
0.438ms→22.041ms→0.345ms→21.876ms
といった具合に妙に所要時間が少ないフレームが挟み込まれており(恐らくはこれがFSR 3で生成されたフレームだろう)、結果として最大フレームレートが3000〜5000fpsとかいう結果になっている。なので最大フレームレートは無視して頂いた方が良い。
まぁそんなわけでRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GはRadeon RX 6600には勿論遠く及ばないものの、Radeon 7 5700Gに比べれば2倍、FSR 3を使うと2.5倍ほどフレームレートが向上し、何とか使い物になる数字が出ている格好だ。
これはフレームレート変動(グラフ40〜42)からも明らかで、Ryzen 5 8600Gは2Kだとちょっと厳しいが1.5Kなら十分、Ryzen 7 8700Gもギリ行ける程度のフレームレートを確保できている。Ryzen 7 5700Gは1.5K+FSR 3でもかなり厳しい(30fps台)事を考えれば、これはかなりの違いと言えるだろう。ちなみにFSR 3だからRadeon RX 6600でも勿論利用可能で、これを有効にすると2.5Kでも平均148fps(Ryzen 7 7700X)/152fps(Core i7-13700KF)を叩き出しているので、あるいは2KにしてFSR 3を併用しながらもう少し画質を向上させてプレイするのがRadeon RX 6600を使う場合の正しい選択かもしれない。
○◆Metro Exodus PC:Enhanced Edition(グラフ43〜48)
Metro Exodus PC:Enhanced Edition
4A Games
https://www.metrothegame.com/
ベンチマーク方法はこちらのMetro Exodus Enhanced Editionの項に準じる。設定は
Shading Quality:Low
Ray Tracing:Normal
DLSS:Off
Reflections:Hybrid
Variable Rate Shading:4x
Hairworks/Advanced PhysX:Off
Tesselation:Off
とした。ただDXRTの無効化は出来ないので、Ryzen 7 5700Gはテストできなかった。
グラフ43
グラフ44
グラフ45
グラフ46
グラフ47
グラフ48
結果(グラフ43〜45)であるが、ある程度予想はしていたものの、ここまで画質を落としてもRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gでは1.5Kですら満足にプレイできない、という結果になった。多分敗因はRay Tracingであって、Ray Tracingが実装されていない古いMetro Exodusであればそこそこ行けたのではないかとは思うが、まぁ次第にRay Tracing対応ゲームが増えてきている昨今にそれを言っても仕方がない。
フレームレート変動(グラフ46〜48)もこれを裏付けており、また元々のフレームレートが低すぎることもあってかFMFも全く役立たずである。要するにRay Tracing Unitを搭載してはいるものの、それを利用する類のゲームを実行するのは現状では厳しい、というのがRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの正直な評価ではないかと思う。
●Sandra 2021 / PCI Express Test
○◆Sandra 2021 31.137(グラフ49〜74)
Sandra 2021 31.137
SiSoftware
https://www.sisoftware.co.uk/
今回はあまり深い解析をするつもりが無いので、CPU性能の比較、それとメモリコントローラ周りの素性の確認だけをしておきたい。
グラフ49
グラフ50
グラフ51
グラフ52
まずDhrystone/Whetstone(グラフ49〜52)、MTの絶対値という意味ではCore i7-13700KFがブッチギリなのはコア数と動作周波数(&消費電力)の高さによるものだが、それよりもRyzen 7 8700GがRyzen 7 7700Xとそう変わらないスコアを出しているのが注目である。またRyzen 5 8600GもRyzen 7 5700Gを上回っているあたりもコアの性能の向上が大きく関係しているものと考えられる。これは1Tの場合も明確で、こちらではCore i7-13700KFが大きく性能を落としている分、むしろRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの性能の高さが際立っている。
グラフ53
グラフ54
グラフ55
グラフ56
Cryptography関連(グラフ53〜56)も同じで、1T/MT共にRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの性能はRyzen 7 7700Xに迫る勢いである。Ryzen 7 5700Gとの性能差も大きく、Zen 4コアの威力を感じる。あるいはHashingのMT(グラフ55)で、SHA1とかSHA2-512だとRyzen 7 8700GはCore i7-13700KFといい勝負(SHA2-256は流石に負けるが)というのも面白い。ちなみに1TだとそもそもCore i7-13700KFは勝負になっていない。
グラフ57
グラフ58
グラフ59
Financial Analysis(グラフ57〜59)もこの傾向がそのまま引き継がれている。計算処理によって多少の得手不得手があり、特にCore i7-13700KFは結構変動が大きい(グラフ58のBinomial EURO OptionのSingle Float 1Tの数字は流石に何かおかしくないか再確認したほどだ)一方でRyzen系はやや低め安定といった傾向にあるのだが、その中でRyzen 7 8700GはRyzen 7 7700Xにやや及ばない程度の成績を常に残しており、またRyzen 5 8600GもMTはRyzen 5 5700Gと同程度、1TならRyzen 7 8700Gに並ぶ程度の性能を維持しており、悪くない。
グラフ60
グラフ61
グラフ62
Scientific Analysis(グラフ60〜62)では、L3容量の違いかRyzen 7 7700Xが結構伸びが大きく(特にFFTとかN-Body)、それもあってRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gとの差が広まっているが、それでもRyzen 5 5700Gからの伸びも大きい。科学技術計算的なものをどこまでこのクラスのCPUでやるのか、という問題はあるにせよ、性能/消費電力比的には悪くない結果になっている。
グラフ63
グラフ64
Image Processing(グラフ63・64)は項目によってばらつきが大きいので一概にどうこうは言いにくいのだが、例えばMTのMotion BlurでRyzen 5 8600GはRyzen 5 5700Gの3倍の性能を発揮するというあたりはZen 3→Zen 4だけでなくメモリ帯域の違いもあるのかもしれない。Ryzen 7 8700GはRyzen 7 7700Xにちょっと及ばずと言ったところ。概ね動作周波数の比に近い感じで、L3の削減(32MB→16MB)はあまり影響ない様だ。
グラフ65
グラフ66
次がMemory Bandwidth(グラフ65・66)である。DDR4-3200を使うRyzen 7 5700Gがとびぬけて帯域が低いのはまぁ当然として、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700G/Ryzen 7 7700Xの帯域がほぼ同じあたりに収まっている辺りは、Ryzen 8000GのMemory ControllerはRyzen 7000シリーズのIoDに搭載されているものと基本的な素性は殆ど変わらない、と考えて良さそうである。面白いのはRyzen 7 5700Gで、MTより1Rの方が帯域が増えている事だ。要するにMTだと多数のコアから同時にアクセス要求が来ることで、Memory Controllerが飽和して性能低下するが、1Tなら1コアからの要求だけなので処理が追い付いている(もしくは緩和している)事と考えられる。このあたりはRyzen 7000シリーズやRyzen 8000Gシリーズでは改善されている、と考えて良さそうだ。
グラフ67
グラフ68
グラフ67・68がキャッシュ領域までを含めての帯域である。まぁ動作周波数通りという感じではあるのだが、面白いのはMTのL1〜L2でRyzen 5 8600GとRyzen 7 5700Gがほぼ同程度ということだ。単にCPU性能だけでなくメモリアクセス性能もZen 4では相応に向上していることが如実に示されている。逆に1TだとCore i7-13700Kのスコアが露骨に悪いが、これは1TのスコアがE-CoreとP-Coreの結果を重み付き平均で計算しているので、E-Coreが足を引っ張っていると言える。多分P-CoreだけであればZen 4とそう変わりが無い筈である。
最後にMemory Latency(グラフ69〜74)だが、正直キャッシュ(L1〜L3)が効果的な範囲ではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GはほぼRyzen 7 7700Xと変わらないことが見えているので、今回はその先のMemory Accessのみチェックする事にした。なのでcycle数ベースの結果は示さずに、nsベースの結果だけを示す。
グラフ69
グラフ70
グラフ71
グラフ69〜71がGlobal Data Memory、つまりデータアクセスのLatencyである。グラフ69などRyzen 5 8600Gのグラフが完全にRyzen 7 8700Gに重なってしまっているので見えないが、Ryzen 7 7700Xに比べて微増といったところで、これは内蔵GPUの画面リフレッシュに伴うメモリアクセスが影響しているものと思われる。ただIn-Page Random(グラフ70)やFull Random(グラフ71)だとややLatencyが他の製品と比べて多めになっているのが気になる。もっとも傾向だけ見ていればRyzen 5 5700Gも同じで、ただしこちらはDDR4ベースなのでLatencyの絶対値がDDR5よりもやや少ないあたりが違いとしてあるかと思われる。つまりこれもGPUの画面Refreshに伴うLatency増加で、これは避けようがないということだ。
グラフ72
グラフ73
グラフ74
グラフ72〜74はInst/Code、つまりL1 I-Cache/Prefetchを経由するルートで、こちらは基本Readのみ(Decoderからメモリに命令を書き出したりはしない)となるわけだが、L2から先はGlobal Dataと同じPathになるので、ある程度Global Dataと同じ傾向になる。実際SequentialではL3あたりまではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GのLatencyはRyzen 7 7700Xより大きいのだが、L3の先ではむしろ逆転しているというのが面白い。まぁ理由は恐らくRyzen 7 7700Xが大きめ(32MB)のL3を持っているがために、L3 Missの判定までに余分に時間が掛かるという辺りではないかと思う。あるいはRyzen 7 7700Xの命令Prefetcherが強力すぎるのかもしれない。一方In-Page Random/Full-Randomは何れもRyzen 7 7700Xから微増なのはGPUの画面リフレッシュに起因し、またRyzen 5 5700Gと比較しても僅かに上というのは、DDR4/DDR5の差ということで説明がつく程度の差でしかない。総じて特筆するような違いは無い、として良いかと思う。
○◆PCI Express Test(グラフ75)
性能評価の最後に、PCIe Bandwidthを測定しておきたいと思う。Ryzen 7 8700GのFull SpecificationのConnectivityのところの記載はこんな感じ(Photo18)になっている。
Photo18: 赤枠は筆者追加。ちなみにこの部分の記述はRyzen 5 8600Gでも同様。
PCIeレーンが合計20本CPUから出るが、うち有効なのは16レーンとされる。では4レーンは? というとChipset接続用ということで、これはまぁ理解できる。以前X670の構造を示したが、本来AM5ではCPUから28レーンが出る格好で、
x16:GPU接続用
2x4:NVMe SSD接続用×2
x4:Chipset接続用
という割り振りになっている。ところがRyzen 5 8600GとRyzen 7 8700Gは合計20レーンしか用意されていない。可能性としてはNVMe接続用を全部ぶっちぎってGPUにx16を割り当てるか、もしくはGPU用をx8に減らしてNVMe接続用を維持するか、である。以前のPCIeだとx12という規格が存在した(InfiniBand接続用)のだが、誰も使わないという事で廃止されてしまっており、なのでGPU様にx12、NVMe SSD用にx4という選択肢はない。まぁ可能性としてはGPU用がx8、NVMe SSD用に2x4という公算が一番高いという事で、これが正しいかを検証してみた。
テスト方法は簡単で、PCIe 4.0x16のI/Fを持つビデオカード(今回はRadeon RX 6800 Referenceを使った)を装着して、3DMarkのPCIe TestとSandraのVideo Memory Bandwidthを実施してみるという方法だ。
グラフ75
グラフ75がその結果である。ReferenceはRyzen 7 7700Xで、3DMarkのPCIe Testでは21.4GB/sec、SandraのVideo Memory Bandwidthでは24.1/22.3GB/secとなった。PCIe 4.0×16の理論帯域が片方向当たり32GB/secだから、まぁ21〜24GB/secならちゃんとx16で動作していることが判る。
ではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gでは? というと3DMark PCIe Testでは14〜15GB/sec、SandraのVideo Memory Bandwidthでは14GB/sec弱となっており、これはPCIe 4.0 x8の帯域に概ね等しい。そもそもNVMeの帯域が削られていたら、PCMark 10のEssentials当たりの成績が激減している筈(ブートドライブのNVMe SSDが繋がっているから)で、そうした傾向が見えないあたりはPCIeのレーン数が半減しているものと考えられる。
もっともこれで性能が大幅に下がるか? というと、多分そんなことはない。というのは殆どのゲームはプレイ中にPCIeでテクスチャやらなにやらを送ったりはしておらず(してたらそこがボトルネックになる)、描画指示とか程度になるからだ。勿論シーンチェンジなどでテクスチャロードとかが発生すると、そこの待ち時間は大幅に増えるとは思うが。影響が出ても10%未満であろう(昔何かで検証した時は、確か2〜3%程度の差でしかなかった)。
ちなみにRyzen 5 8500Gも既に出荷が開始されているが、こちらはPCIeが合計14レーンで、うち有効10レーンしかない。ということは
・GPU用:x8、NVMe用:2x1
・GPU用:x2、NVMe用:2x4
のどちらかになる。なんとなく後者な気がするが、確証はない。ただ後者だとすると、流石にこれは相当遅い(PCIe経由での描画コマンドの発行がボトルネックになりそう)と思われるので注意が必要だ。まぁ3Dゲームを遊ばないなら、そこそこ動くとは思うが。
●消費電力 / 考察〜まとめ
○◆消費電力(グラフ76〜84)
最後にこちらを。まずSandraのDhrystone/Whetstoneをグラフ76に、CineBench R24のMultiの1周分(CineBench R24はデフォルトでは10分の間延々とレンダリングを繰り返すので、1回分が終わったタイミングまでとした)をグラフ77に、TMPGEnc Video Mastering Works 7で4streamをx265でエンコードした場合をグラフ78、AMD Media Encoderを使った場合をグラフ79に、3DMark NightRaid Demoをグラフ80、Solar Bayをグラフ81に、そしてMetro Exodusの1.5Kをグラフ82にそれぞれ示す。それぞれの稼働中の平均消費電力をグラフ83に、グラフ83と待機時の消費電力の差をグラフ84にそれぞれまとめてみた。
グラフ76
グラフ77
グラフ78
グラフ79
グラフ80
グラフ81
グラフ82
グラフ83
グラフ84
まず驚いたのが、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gを利用した時の待機電力の低さである。Ryzen 7 7700Xと比べて20Wほど下がっている。筆者はRyzen 7000シリーズの待機電力の高さをX670Eチップセットの構造(B650Eチップセットのタンデム接続)にあると考えて居たのだが、Ryzen 8000Gを使うと20Wも下がるというのはちょっと考え方を改める必要がありそうだ。
さて、CPU Benchmarkに関して言えばRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの効率の高さが際立つ結果になった、として良いかと思う。まず表3にDhrystone、表4にWhetstoneの効率を示すが、Dhrystoneでは5GIPS/W超え、Whetstoneでも3GFLOPS/W超えを果たしている。絶対的な消費電力で言えばRyzen 5 5700Gもいい勝負だが、性能が違うから勝負は明白だ。Ryzen 7 7700XはもとよりCore i7-13700KFでは逆立ちしても届かない。
表5はTMPGEnc Video Mastering Works 7でx265を利用した場合の効率、表6はAMD Media Encoderを利用した場合の効率で、これもRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gが圧倒的に高い。
表7は先にCineBench R24の所で触れた、Multi Renderingにおける効率をまとめた物である。Ryzen 7 8700はCore i7-13700KFの倍とは言わないものの、8割近く効率が良い。絶対性能を取るならCore i7-13700KFなりRyzen 7 7700Xの方が好ましいだろうが、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの良さは特筆ものと考えて良いと思う。
問題はGPUの方で、これもグラフから明らかな様に消費電力そのものは猛烈に低い。が、性能もそれなりでしかない。この性能をどう判断するか、がポイントになるだろう。
○考察
ということで遅まきながらRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの評価をお届けした。値段は冒頭に示した大塚実氏のレポートにもあるように、Ryzen 7 8700Gが\58,000前後、Ryzen 5 8600Gが\40,000というところ。ただこの\58,000という値段は、例えばRyzen 7 7800X3Dとほぼ同等の価格(価格例:https://www.amazon.co.jp/dp/B0C2D943TC/ 2月21日時点で\54,444)であって、性能を取るか、効率と統合GPUを取るかという判断が難しい。同様にRyzen 5 8600Gも、Ryzen 5 7600X(価格例:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BF4XS27Z/ 2月21日時点で\42,222)と競合する感じだ。
筆者の個人的な見解としては、本格的にGameをやろうというには、このGPUではかなり不満を感じるだろうと思う。大塚氏は「グラフィックスカードがなくても、ある程度ゲームを遊ぶことができる」と書いたが、実際は「グラフィックスカードを追加しなくても、ある程度遊べるゲームもある」と言う方が近い。3D性能に過大な期待は禁物だ。
その一方で、そこまで派手に3Dを使うつもりもなく、コストパフォーマンスとか性能効率に重きを置く(省スペースPCとか静音PCとか)用途には、ベストなCPUと考えて良いかと思う。今回は試せなかったが、今後ソフトウェアがRyzen AIに対応してくれれば、AIベースのアプリケーションがGPUを使うよりずっと効率よく実行できる「可能性がある」。拡張性こそRyzen 7000シリーズには及ばない(主にPCIe周り)が、「そこそこの性能のPCを限られた予算で組みたい」なんて場合にはベストな選択かと思う。まずはGPUも無しでとりあえず組んで、後で欲が出てきたらCPU交換なりGPU追加なりをすればいいのだから。
ちなみにAMDからは、「OCをすると性能が結構伸びる」としてDDR5-6400のDIMM(当然OC対応)も一緒に送られてきたが、今回は評価に利用しなかった。Ryzen 8000GにOC Memoryを組み合わせたからといって、Radeon RX 6600に及ぶ程の性能が出るわけではないし、むしろバランスが崩れる可能性もあると少なくとも筆者は考える(ただ、この辺は好みや用途の問題ではあるのだが)。
今年のCESで発表されたRyzen 8000Gシリーズであるが、予定通り1月31日に発売された。既に秋葉原で発売されているのはレポートの通りだ。今回諸般の事情で評価チップが届いたのが発売日後ということで、遅めの性能レポートになってしまった事をお詫びしたい。
○評価機材
今回はRyzen 5 8600GとRyzen 7 8700Gの両方が届いた(Photo01〜05)。きちんとOSからも認識されている(Photo06〜09)。ちなみに評価キットにはRyzen 8000G対応のBIOSを搭載したマザーボードが付属していたが、マザーボード各社はRyzen 8000Gに合わせて対応BIOSをリリースしており、これにUpdateする事で問題なく既存のSocket AM5マザーボードで利用可能である。実際今回評価に浸かったASUS PRIME X670E-PRO WIFI-CSMも今年の1月30日付でAGESA version Combo AM5 PI 1.1.0.2bに対応したVersion 2412がリリースされており、これを利用する事で問題なく動作した。
Photo02: 側面というかパッケージの奥行もクーラーの大きさに合わせて異なっている。
Photo03: ブリスターパッケージそのものに変化はなし。
Photo04: ヒートスプレッダも同じく。ただRyzen 7000シリーズはヒートスプレッダの隙間に細かくチップコンデンサが配されていたのだが、綺麗さっぱりなくなっているのは、Single Die構造でスペースにゆとりが出来たのと、消費電力そのものが下がっているので少ない数で賄えるようになったという両方の要因だろうか。
Photo05: 当然ながら裏面に変化はなし。
Photo06: Ryzen 7 8700GのCPU-Z表示。Core Voltageが1.272Vというのはどういうことだろう?
Photo07: OSからも8core/16threadと認識されている。
Photo08: Ryzen 5 8600GのCPU-Z表示。Core Voltageはほぼ1.3Vに。
Photo09: こちらも問題なく6core/12threadと認識されている。
その他の環境は表1に示す通りである。今回の評価は
Ryzen 8000GシリーズのCPU性能はどの程度の性能か?
Ryzen 8000Gシリーズの統合GPU(Radeon 760M/780M)はどの程度の性能か?
の2点であり、対抗馬としてはギリギリ1080P Gamingを名乗れるであろうRadeon RX 6600を用意した。GeForce RTX 3060でも良かったのだが、以前のテストで、大体Radeon RX 6600も同程度(やや性能は低いがその分消費電力も低い)と判っているので、今回はRadeon RX 6600だけにした。もっとも普通に考えてRadeon RX 6600に及ぶ筈もないのであって、頑張ってどこまで行けるのかを見る程度にとどめた(あるいはRadeon RX 6500 XTとかGeForce RTX 3050あたりまでグレードを落とした方が良かったかもしれないが)。Ryzen 7 5700GはAPUの前世代製品ということで、前世代からどこまで性能が向上したかの指標とするために利用した。そんな訳でRyzen 7 5700G、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは内蔵GPUのみで、Ryzen 7 7700XとCore i7-13700KFはRadeon RX 6600と組み合わせての評価としている。
なお内蔵CPUに関しては、FSR2/FSR 3を利用できるものに関してはこれを有効にした場合としなかった場合で、利用できないものはAMD FMF(Fluid Motion Frames 参考記事:https://news.mynavi.jp/article/20240209-2880538/)を無効/有効化して、それぞれ性能の変化も確認した。
グラフ中の表記は
5600G :Ryzen 5 5600G
7700X :Ryzen 7 7700X
8600G :Ryzen 5 8600G
8700G :Ryzen 7 8700G
13700KF:Core i7-13700KF
となっている。FSR2/FSR 3、ないしFMFを使った場合の結果は、例えば5600G_FSR2の様に表記している。また解像度表記も何時もの通り
1.5G:1600×900pixel
2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
とした。
○◆CineBench R23(グラフ1)
CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
グラフ1
もう旧ベンチマークになってしまったCineBench R23であるが、古いCPUとの比較には便利であろうという事でとりあえずやってみた。結果はグラフ1の通りでまぁ順当といった結果。同じ8コア同士で言えば、TDP 65W枠のRyzen 7 5700Gに比べてRyzen 7 8700GはSingleで11%、Multiで22%の性能向上が見られ、それなりに性能が向上しているのが判る。TDP 105WのRyzen 7 7700Xと比較してもRyzen 7 8700Gのスコアはそれほど遜色ない。流石に合計24threadのCore i7-13700KFには及ばないが、消費電力も桁違いであることを考えると、性能/消費電力比では悪くない(というか、むしろ良い)性能になっていると思う。
○◆CineBench R24(グラフ2)
CineBench R24
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
グラフ2
こちらが現行版である。ちなみにCineBench R24では久々にGPU Renderingが復活したのだが、残念ながらRyzen 7 5700GはもとよりRyzen 8000GシリーズのRadeon 760M/780Mでも動作環境を満たしていないということで動作しなかった。最低要求が8GBのVRAMを搭載していることで、これに引っかかったものと思われる。
結果(グラフ2)はグラフ1と同傾向である。まぁ最高速なのがCore i7-13700KFなのは不思議でも何でもないが、後で消費電力の所で説明するがCore i7-13700KFの実効消費電力差はRyzen 8000Gシリーズの3倍程であり、性能/消費電力値では非常に良い(Ryzen 7 5700Gを上回る)結果を出しているあたり、絶対性能と性能/消費電力比のどのあたりでバランスをとるか、を問う結果になっている感じである。絶対性能で言えば、確かにRyzen 7 7700Xにも及ばない程度であるのだが。
○◆PCMark 10 v2.1.2662(グラフ3〜8)
PCMark 10 v2.1.2662
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10
グラフ3
グラフ4
グラフ5
グラフ6
グラフ7
グラフ8
おなじみPCMark 10。もっともPCMark 10そのものはもうだいぶ通常のUsage Modelから外れてしまった感が強く(特にOpenCLを多用するあたり)、Office 365を使ったApplication Testが一番実情に近い気はするのだが、それは兎も角。全体の傾向(グラフ3)としては
Ryzen 7 5700G < Ryzen 5 8600G < Ryzen 7 8700G < Ryzen 7 7700X < Core i7-13900KF
という感じであるが、意外にRyzen 7 5700GとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの性能差が無いのが判る。これはRyzen 7 7700X/Core i7-13700KFについても同じで、確かに性能差はあると言えばあるのだが、大きいものだとは言いにくい。唯一性能差がはっきり出るのはPCMark 10 Extendedの結果だが、これは3DMark FireStrikeを組み込んでいるのが関係しており、これを除いたPCMark 10の結果はそう大きな違いが無いあたりがこれを物語っている。
もう少し仔細に、ということでTest Group(グラフ4)を見ると、明確に「大きな」差があるのはDigital Contents CreationとGaming(これは3DMark FireStrikeである)で、EssentialsやProductivityは言うほど大きな差は無い。
Essentials(グラフ5)を見ると、Video ConferencingなどRyzen 7 5700GがRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gを上回る結果になっている。これはVideoConferencingDetectPrivateOclとVideoConferencingDetectGroupOclという2つのOpenCLを使った処理が、Ryzen 8000Gシリーズでは性能が出ないため。ただその他のOpenCLを使った処理は同等の性能なので、一概にRyzen 8000GシリーズはOpenCLが遅いとも言いにくいし、ただRDNA2のRadeon RX 6600の方は更に高速に処理できる(これがRyzen 7 7700XとCore i7-13700KFが更に性能が高い一因でもある)あたりは、ドライバの癖とでもいうべき問題なのかもしれない。
Productivity(グラフ6)ではWritingではRyzen 7 5700G以外大きな差は無し。これは恐らくだがメモリ帯域の問題かと思われる(Load/Save/Pictureの3つのみ、他より時間を要しているため)。一方のSpreadsheetsは、CPU処理に関してはどれも殆ど性能差が無い(というか、一番遅いのがRyzen 7 5700Gで、他は大差がない)のだが、MonteCarloとEnergyMarketという2つのOpenCLを利用した処理で性能差が出ており、これは先のVideo Conferenceの時と同じくRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gが妙に遅いのが性能差がついた理由である。
これはDigital Contents Creation(グラフ7)も同じである。Video Editingのスコアが実際のCPU性能の差にほぼ近い。Rendering & Visualizationは3DMark Sligh Shot+POV-Rayであり、POV-RayのスコアはほぼCPU性能に比例する感じであるが、3DMark Sligh Shotの方がもろにGPU性能を反映しており、これで大差がついた格好だ。一方Photo EditingではやはりOpenCL系の処理がそのままスコアに直結している。ただこれをちょっと生データで見てみたのが表2である。CPUを使う処理に関しては概ねCPU性能そのままといったところで判りやすいのだが、問題はOpenCLの方。BatchとかContrastは間違いなくRyzen 7 5700Gが一番遅いのだが、BlurなどではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GはそのRyzen 7 5700Gの倍の処理時間を要するといった具合に、処理による差が結構大きい。もっと面白いのはRyzen 7 7700XとCore i7-13700KFで、どちらもRadeon RX 6600を使っているのだから性能差は無いか? と思うと、これが全般的にRyzen 7 7700Xの方が処理が高速になっているのが判る。このOpenCL周りの処理性能の差+CPU処理性能の差がグラフ7の結果に繋がっている訳で、なかなか複雑である。
そういうOpenCL周りの影響を受けない(何しろOpenCLのアクセラレータを利用していない)のがApplications(グラフ8)で、Excelを除くとそう大きなばらつきは無い(PowerPointとEdgeも多少差はあるが、どちらもメモリ帯域に影響されやすいアプリケーションであり、内蔵GPUを使うとそのメモリ帯域で多少のハンディキャップが出る事は否めない)。ではExcelは? というと、これはもう純粋にCPU性能というかマルチスレッド性能の差であり、コア数もピーク性能の高いCore i7-13700KFが最高速、次いでRyzen 7 7700Xというのは妥当な結果である。ただスコアの絶対値で言えば、一番低いRyzen 7 5700Gでも全体で12000超、Excelでも22000超というのは普通に使う分には全く問題を感じさせないレベルのスコアであることは改めて強調しておきたい。Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは、確かにCore i7-13700KFやRyzen 7 7700Xには及ばないスコアであるが、普段使いに支障があるようなレベルでは全くない。
○◆Procyon v2.6.988(グラフ9〜12)
Procyon v2.6.988
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/procyon
グラフ9
グラフ10
グラフ11
グラフ12
次はProcyonであるが、度重なるAdobeのVersion Upにベンチマーク本体が追い付かない現象がまたしても発生。今回Photoshop及びLightroom Classicを使ったPhoto Editingが途中でエラーを吐いて終了するため、Photo Editingは省いて残り3つで比較を行った。
と言う事でOverallがこちら(グラフ9)。まぁやはりCPUの性能そのままという感じだが、Video EditingではCPU性能以上の差がついているのはメモリ帯域も関係しての事と思われる。
まずAI Inference(グラフ10)だが、生憎ProcyonはまだRyzen AIに対応していない(これはIntelのCore Ultra搭載NPUも同じであるが)。またGPUにも対応していないため、これは純粋にCPUの性能となる。こちらは6種類のNetworkのInferenceをCPUで実行し、その際の所要時間を示したもので、なので棒が長いほど遅い事になる。また結果の桁が大きくばらついているので、グラフが対数表示になっている事に注意されたい。さて、Ryzen 7 7700X/Core i7-13700Kが最高速なのは当然として、Ryzen 7 5700GとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの性能差も2倍以上というのは、単にCPU性能だけではなくメモリ帯域(DDR4-3200×2 vs DDR5-5200×2)も効いているものと考えられる。まぁ本来これらはCPUでやるものではなく最低でもGPU、できればNPUで実施すべきものであり、あくまで一つの目安といったところだろうか。Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GとRyzen 7 7700X/Core i7-13700Kの性能差も微妙で、差が大きい物(Deeplab v3とかInception v4)は3倍近い性能差があるのに、小さい物(例えばEsrgan)は数十%程度の差でしかないなど、Networkによって差があるのはまぁ仕方ないところか。このあたり、早くアプリケーションの側がGPU/NPUに対応してほしいところである。
もう少し意味のあるベンチマークがOffice Productivity(グラフ11)で、傾向的には先のPCMark 10のApplications Testに近いものになっている。ただWordの結果でCore i7-13700KFの伸びがPCMark 10より大きいが、これはPCMark 10の方には含まれないPDFの書き出しとかExcelからの表の取り込みなどが入っており、ここで差をつけた格好になっている。このあたりは動作周波数の違いもあるから、ある程度差が付くのは致し方ないところだ。
次のVideo Editing Detail(グラフ12)もまたCPUのみでのEncodeなので、やはりCPU性能がそのまま反映される形になっている。ただこれも、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GがターゲットとするようなマーケットであればむしろMedia Encoderを使って処理すべきものであり、Professional向けにパラメータを細かくいじってCPUによる高品質エンコードを行うような用途はXeon WなりRyzen Threadripperなりを投入すべきなので、あまり現実的な比較ではない様にも思える。まぁそれはともかくとして、ここでは性能差がAI Inferenceとか程には出てこないのは、CPUの処理負荷が律速段階になってしまっており、メモリ性能などより先にCPUボトルネックを起こしているためと考えられる。こうなると、実は言うほどに性能差が出ない。一番処理負荷の高いH.265 #1(4K UHD動画のエンコード)の場合、Ryzen 7 5700Gの処理性能を1.0とするとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは1.12〜1.14程度、Ryzen 7 7700Xが1.35、Core i7-13700KFも1.55程度でしかない。つまり、言うほど性能差は無い、という訳だ。
○◆GeekBench ML 0.60(グラフ13)
GeekBench ML 0.60
Primate Labs Inc.
https://www.geekbench.com/ml/
Procyonよりもう少しマシなAI Benchmarkは無いか? ということで色々探したのだが、結果から言えば無かった。一番問題なのは、まだRyzen AIを利用するベンチマークが、AMD自身すら持ち合わせていない(Ryzen AIを利用するデモソフトは存在するが)ということで、この辺りは現時点では見送りとするしかない。次善の策ということで試してみたのがこのGeekBench MLである。まだ完全版ではない(なにしろVersion 0.60だ)が、ONNX RuntimeをCPUとGPU(DirectML)を選んで実行できるという意味で貴重なテストである。
起動するとこんな感じ(Photo10)。FrameworkはONNXのみが選択可能である。BackendはCPUとDirectMLが選択可能で、DirectMLを利用した場合はGPUの選択が可能となる(Photo12)。テストそのものは
Image Classification
Image Segmentation
Pose Estimation
Object Detection
Face Detection
Depth Estimation
Style Transfer
Image Super-Resolution
Text Classification
Machine Translation
の10種類について、それぞれFloat32/Float16/Int 8で推論を行い、その結果からInference Scoreを算出して結果をhtmlで表示する(Photo13)。もう少し詳細な説明はこちらにまとめられているが、算出方法そのものは明記されていない(恐らくだが、個々のテストについてReferenceとの性能比を求め、最終的に幾何平均でReferenceとの性能差を求め、それにReference Scoreを乗じている様に思われる)。ちなみにReferenceはCore i7-10700を利用した場合で、その際のReference Scoreは1500になるそうだ。
グラフ13
ということで結果がグラフ13となる訳だが、Ryzen 7 7700X/Core i7-13700Kが突出しているのはまぁ当然として、CPUだとRyzen 7 5700GとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gが大差ない、というのはちょっと意外だった。逆にGPUを使うとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GはRyzen 7 5700Gのダブルスコア、とまではいかないものの相応に高いスコアが出ているのはGPU性能差(というかDirectMLの性能差)という訳だ。ただそれでもRadeon RX 6600には及ばないのだが。
Photo10: これは原稿のために手元のマシンで起動させた際のスナップなので、構成が違っている事に注意。
Photo11: 勿論これはDirectML対応デバイスがシステムに搭載されている場合に限る。
Photo12: 複数のDirectML対応GPUが存在する場合、ここでその選択が可能である。
Photo13: 結果が縦方向に長いのはまぁどうしようもない。
●TMPGEnc / 3DMark
○◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.30.33(グラフ14〜15)
TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.30.33
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html
グラフ14
グラフ15
先にProcyonのところでMedia Encoderの話に触れたので、こちらでその検証を。グラフ14はx265、つまりPegasys製のSoftware Encoderを使った場合で、これはもうCPU性能がそのまんまという感じだ。TMPGEncの場合、メモリ性能があまり大きくは影響しないようで、Ryzen 7 5700GとRyzen 5 8600Gがほぼ同じスコアになっているが、逆に言えば6coreのRyzen 5 8600Gで8コアのRyzen 7 5700Gに十分伍する性能が出せているという意味でもある。Ryzen 7 8700GとRyzen 7 7700Xの間にはちょっと大きな性能ギャップがあるし、Core i7-13700KFは更に性能差が大きいが、これは動作周波数や消費電力、Core i7-13700KFではコア数も効いてくるから妥当な性能差と言える。
面白いのはAMD Media Encoder、つまりAMD Media SDK経由でGPU側のEncoderを使った場合だ。1streamだとEncoderが遊び気味になり、むしろCPU性能の方が効いてくるためかRyzen 7 7700XやCore i7-13700KFの方が高速だが、2/4streamだとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの方がエンコード速度が高速になっているのは、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gに搭載されているEncoderはRDNA 3ベースで、RDNA 2ベースのRadeon RX 6600のEncoderよりも高性能になっているという訳だ。ついでに言えば消費電力も低く、実に効率的である。先程も書いたがProfessional向けには色々難点があるだろうが、Consumer向けの動画のエンコードには、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは最適なソリューションと言えるかもしれない。
○◆3DMark v2.28.8217(グラフ16〜18)
3DMark v2.28.8217
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark
グラフ16
グラフ17
グラフ18
今回からSolar Bayもテスト項目に入れている。なお、SolarBay/PortRoyalはRay Tracingを利用している関係でRyzen 7 5700Gでは実行できないのでNo Scoreであるが、SpeedWayは筆者のミスでデータをRyzen 7 5700Gだけ取り損なっている事をお詫びしておく。
ということで結果であるが、Overall(グラフ16)を見るとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GのスコアはRadeon RX 6600比で、良くて半分。悪いと3分の1程度のスコアに留まっている(TimeSpy Extremeなど4分の1程度だ)。ここからCPU/Physics Testの結果などを抜いたGraphics Testの結果がグラフ17で、グラフ16では2.5倍程度だったNightRaidの差が3倍まで広がっている。こちらでは平均3倍ほどのフレームレートの差が出ている訳だ。
まぁ当たり前といえば当たり前で、Radeon RX 6600はRDNA 2ベースの28CU。Ryzen 7 8700GはRDNA 3ベースながら8CUで、RDNA 2換算も16CU相当。Graphics Frequencyは2.9GHzと発表されているが、実際どこまで動作周波数が上がっているか不明だし、なにしろ65W枠だからそう長時間の維持は出来ない。Radeon RX 6600はGame Clockこそ2044MHzだが、何しろTBPが132WとRyzen 7 8700Gの倍の許容量がある。Memory BandwidthもRadeon RX 6600は14Gbps/128bitで224GB/sec。DDR5-5200×2で83.2GB/secどまりのRyzen 7 8700Gとは比較にならない。まぁこのくらいの性能差で済んでよかったというべきか。それでもRyzen 7 5700G比では1.5倍位のフレームレートにはなっているし、性能は兎も角DXRTにも対応しているから、SolarBay/PortRoyalなどもちゃんと動く事は評価してよいかと思う。
グラフ18はPhysics/CPU Testの結果で、まぁこんなもんだろうというのはともかくとして、なんでFireStrikeではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GよりRyzen 7 5700Gの方がスコアが上なのだろう? これだけが不思議ではあるのだが、あとは概ね納得できる数字であり、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの3D性能はそれなりに向上してはいるものの、過大な期待はしてはいけない事が良く判る結果となった。
●ゲーム: Borderlands 3 / Company of Heroes 3 / Far Cry 6 / ForSpoken / Metro
○◆Borderlands 3(グラフ19〜24)
Borderlands 3
2K Games
https://borderlands.com/ja-JP/
ベンチマーク方法はこちらのBorderland 3の項目に準ずる。設定は
全体的な品質:Low
アンチエイリアス:テンポラル
とした。
グラフ19
グラフ20
グラフ21
グラフ22
グラフ23
グラフ24
結果(グラフ19〜21)を見ると、Ryzen 7 8700Gは何とか2Kで60fps超えを果たしており、Ryzen 5 8600Gはちょっと厳しいといったところ。ただRyzen 7 5700Gよりはだいぶ改善している。その2Kのフレームレート変動はグラフ23の通りで、まぁこれならRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700G共にプレイ可能かな? という範疇。1.5K(グラフ22)だとかなりゆとりはあるが、流石に1.5Kだと画面がぼやけた感じになってしまい、あまりお勧めできない。一方2.5K(グラフ24)はちょっとフレームレート的にプレイが厳しい。これ以上設定を下げようもないし、まぁプレイするなら2K以下で、という感じだ。ちなみにFMFは案の定効果なしという感じであった。
○◆Company of Heroes 3(グラフ25〜30)
Company of Heroes 3
Relic Entertainment
https://www.companyofheroes.com
ベンチマーク方法はこちらのCompany of Heroes 3の項目に準ずる。設定は
mage Quality Low
Physics Quality Low
Shadow Quality Low
Texture Detail Low
Geometry Detail Low
Anti-Aliasing Low
とした。またCompany of Heroes 3はFSR 2.1に対応しているため、内蔵GPU搭載3製品についてはFSR無しとFSR 2.1 Balancedの両方の設定で結果を測定した。
グラフ25
グラフ26
グラフ27
グラフ28
グラフ29
グラフ30
ということで結果(グラフ25〜27)であるが、そもそもこちらだとRadeon RX 6600ですら結構厳しく、1.5Kですら平均で40〜45fps程度になっているため、相対的にRadeon RX 6600を利用するRyzen 7 7700X/Core i7-13700KFの結果とRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの結果があまり変わらない、という事になってしまった。Ryzen 7 5700Gは1.5Kですら平均30fpsだから、これに比べれば向上しているのは判るのだが、今回試したどの製品もプレイには適さないという結果に。実際フレームレート変動(グラフ25〜27)でもこれは明らかである。ちなみにFSRを有効にするとそれなりに性能は上がるのだが、それでも2K場合で40fps台を推移しており、いくらFPS系ではないと言ってもこのフレームレートではプレイにちょっと支障が出る感じである。
○◆Far Cry 6(グラフ31〜36)
Far Cry 6
Ubisoft Entertainment
https://www.ubisoft.com/ja-jp/game/far-cry/far-cry-6
ベンチマーク方法はこちら(https://news.mynavi.jp/article/20211006-2009913/)に準ずる。設定は
Graphics Quality:Low
Motion Blur:Off
Camera Shakes:Minimal
で、勿論DXRもOffとしている。
グラフ31
グラフ32
グラフ33
グラフ34
グラフ35
グラフ36
さて、ここまで品質を下げるとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは何とか2K程度まではPlayableな性能となる(グラフ31〜33)。実際フレームレート変動を見ても、2K(グラフ35)でRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gはほぼ60fps程度を維持できている。流石に2.5K(グラフ36)は厳しいものがあるが、後追いでGPUカードを追加するまでの繋ぎとして使う分には何とか使える範囲と言えるだろう。ちなみにRyzen 7 5700Gは1.5K(グラフ34)でも50fps前後とかなり厳しい性能であるから、随分性能の上乗せが出来たことになる。
またFMFはご覧の通り役立たずというか、少なくともFar Cry 6では性能の上乗せは期待できない。まぁ2Kで60fps実現できただけでも大したものだ、ということだろう。
○◆ForSpoken(グラフ37〜42)
ForSpoken
Square Enix
https://www.jp.square-enix.com/forspoken/
こちらの考察でもちょっと触れたForSpoken。発売は2023年1月とちょっと古めであるが、FSR 3に対応ゲームということと、In-Game Benchmarkを搭載していること、それとそのBenchmarkのフレームレートがログで残る事から今回採用してみた。
ベンチマークの方法だが、まずTop Menu(Photo14)で"SETTINGS"を選び、Display Settings Tab(Photo15)で解像度を選択する。ついでGraphics TabでImage Quality Presetsを設定する(Photo16)が、この時点でImage QualityでFSR 3が自動選択される。そこでFSR 3を無効化すると、自動的にPresetはCustom扱いとなる(Photo17)。
Photo14: ベンチマークもここから(Settingsからはベンチマークに直接移れない。ちょっとだけ不便)。
Photo15: ここでVSyncもOffにしておく。
Photo16: Texture Memoryの選択画面になっているのはたまたまで、特に意味は無い。Image Quality Presetを変更すると全項目が自動変更される。
Photo17: CustomになってもFSR 3以外の項目は先に設定されたままとなる。
変更が終わったらPhoto14のTop Menuに戻ってBenchmarkを選ぶとすぐにベンチマークが始まるが、ベンチマークそのものが7つのパートに分かれており、しかも各々のパートのロードにかなりの時間が掛かる関係で、ベンチマーク全体が終わるのには10分前後の時間が必要である(ロード時間次第である)。
ちなみにベンチマークが終わると(ベンチマーク時間全体に比して)「一瞬」だけ結果が表示されてすぐにPhoto14に戻る、というあたりはかなりの不親切設計ではあるのだが、ログは自動的に保存される。ただその保存場所が
C:\Users\ユーザー名\AppData\Local\FORSPOKEN\Steam\76561197972210042\benchmark
という判りにくいものなのはどうにかしてほしいところだ。このログは、最小/最大/平均フレームレートと、7つのシーンのロード時間、それとベンチマーク設定が記録されたファイル以外に、フレームレート変動ログが(シーン毎に)合計7つ生成される。ログファイル名はベンチマーク毎に変化するので、上書きされる心配はない。
グラフ37
グラフ38
グラフ39
グラフ40
グラフ41
グラフ42
さて結果をまとめたのがグラフ37〜39だが、ご覧の通りFSR 3無しだとRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gは1.5KでもPlayableとは言いにくい程度なのが、FSR 3を併用する事で何とか2Kまで利用可能と言う事になっている。ただFSR 3を有効にするとちょっと振る舞いがおかしく、フレーム毎の所要時間を見ると
0.438ms→22.041ms→0.345ms→21.876ms
といった具合に妙に所要時間が少ないフレームが挟み込まれており(恐らくはこれがFSR 3で生成されたフレームだろう)、結果として最大フレームレートが3000〜5000fpsとかいう結果になっている。なので最大フレームレートは無視して頂いた方が良い。
まぁそんなわけでRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GはRadeon RX 6600には勿論遠く及ばないものの、Radeon 7 5700Gに比べれば2倍、FSR 3を使うと2.5倍ほどフレームレートが向上し、何とか使い物になる数字が出ている格好だ。
これはフレームレート変動(グラフ40〜42)からも明らかで、Ryzen 5 8600Gは2Kだとちょっと厳しいが1.5Kなら十分、Ryzen 7 8700Gもギリ行ける程度のフレームレートを確保できている。Ryzen 7 5700Gは1.5K+FSR 3でもかなり厳しい(30fps台)事を考えれば、これはかなりの違いと言えるだろう。ちなみにFSR 3だからRadeon RX 6600でも勿論利用可能で、これを有効にすると2.5Kでも平均148fps(Ryzen 7 7700X)/152fps(Core i7-13700KF)を叩き出しているので、あるいは2KにしてFSR 3を併用しながらもう少し画質を向上させてプレイするのがRadeon RX 6600を使う場合の正しい選択かもしれない。
○◆Metro Exodus PC:Enhanced Edition(グラフ43〜48)
Metro Exodus PC:Enhanced Edition
4A Games
https://www.metrothegame.com/
ベンチマーク方法はこちらのMetro Exodus Enhanced Editionの項に準じる。設定は
Shading Quality:Low
Ray Tracing:Normal
DLSS:Off
Reflections:Hybrid
Variable Rate Shading:4x
Hairworks/Advanced PhysX:Off
Tesselation:Off
とした。ただDXRTの無効化は出来ないので、Ryzen 7 5700Gはテストできなかった。
グラフ43
グラフ44
グラフ45
グラフ46
グラフ47
グラフ48
結果(グラフ43〜45)であるが、ある程度予想はしていたものの、ここまで画質を落としてもRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gでは1.5Kですら満足にプレイできない、という結果になった。多分敗因はRay Tracingであって、Ray Tracingが実装されていない古いMetro Exodusであればそこそこ行けたのではないかとは思うが、まぁ次第にRay Tracing対応ゲームが増えてきている昨今にそれを言っても仕方がない。
フレームレート変動(グラフ46〜48)もこれを裏付けており、また元々のフレームレートが低すぎることもあってかFMFも全く役立たずである。要するにRay Tracing Unitを搭載してはいるものの、それを利用する類のゲームを実行するのは現状では厳しい、というのがRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの正直な評価ではないかと思う。
●Sandra 2021 / PCI Express Test
○◆Sandra 2021 31.137(グラフ49〜74)
Sandra 2021 31.137
SiSoftware
https://www.sisoftware.co.uk/
今回はあまり深い解析をするつもりが無いので、CPU性能の比較、それとメモリコントローラ周りの素性の確認だけをしておきたい。
グラフ49
グラフ50
グラフ51
グラフ52
まずDhrystone/Whetstone(グラフ49〜52)、MTの絶対値という意味ではCore i7-13700KFがブッチギリなのはコア数と動作周波数(&消費電力)の高さによるものだが、それよりもRyzen 7 8700GがRyzen 7 7700Xとそう変わらないスコアを出しているのが注目である。またRyzen 5 8600GもRyzen 7 5700Gを上回っているあたりもコアの性能の向上が大きく関係しているものと考えられる。これは1Tの場合も明確で、こちらではCore i7-13700KFが大きく性能を落としている分、むしろRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの性能の高さが際立っている。
グラフ53
グラフ54
グラフ55
グラフ56
Cryptography関連(グラフ53〜56)も同じで、1T/MT共にRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの性能はRyzen 7 7700Xに迫る勢いである。Ryzen 7 5700Gとの性能差も大きく、Zen 4コアの威力を感じる。あるいはHashingのMT(グラフ55)で、SHA1とかSHA2-512だとRyzen 7 8700GはCore i7-13700KFといい勝負(SHA2-256は流石に負けるが)というのも面白い。ちなみに1TだとそもそもCore i7-13700KFは勝負になっていない。
グラフ57
グラフ58
グラフ59
Financial Analysis(グラフ57〜59)もこの傾向がそのまま引き継がれている。計算処理によって多少の得手不得手があり、特にCore i7-13700KFは結構変動が大きい(グラフ58のBinomial EURO OptionのSingle Float 1Tの数字は流石に何かおかしくないか再確認したほどだ)一方でRyzen系はやや低め安定といった傾向にあるのだが、その中でRyzen 7 8700GはRyzen 7 7700Xにやや及ばない程度の成績を常に残しており、またRyzen 5 8600GもMTはRyzen 5 5700Gと同程度、1TならRyzen 7 8700Gに並ぶ程度の性能を維持しており、悪くない。
グラフ60
グラフ61
グラフ62
Scientific Analysis(グラフ60〜62)では、L3容量の違いかRyzen 7 7700Xが結構伸びが大きく(特にFFTとかN-Body)、それもあってRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gとの差が広まっているが、それでもRyzen 5 5700Gからの伸びも大きい。科学技術計算的なものをどこまでこのクラスのCPUでやるのか、という問題はあるにせよ、性能/消費電力比的には悪くない結果になっている。
グラフ63
グラフ64
Image Processing(グラフ63・64)は項目によってばらつきが大きいので一概にどうこうは言いにくいのだが、例えばMTのMotion BlurでRyzen 5 8600GはRyzen 5 5700Gの3倍の性能を発揮するというあたりはZen 3→Zen 4だけでなくメモリ帯域の違いもあるのかもしれない。Ryzen 7 8700GはRyzen 7 7700Xにちょっと及ばずと言ったところ。概ね動作周波数の比に近い感じで、L3の削減(32MB→16MB)はあまり影響ない様だ。
グラフ65
グラフ66
次がMemory Bandwidth(グラフ65・66)である。DDR4-3200を使うRyzen 7 5700Gがとびぬけて帯域が低いのはまぁ当然として、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700G/Ryzen 7 7700Xの帯域がほぼ同じあたりに収まっている辺りは、Ryzen 8000GのMemory ControllerはRyzen 7000シリーズのIoDに搭載されているものと基本的な素性は殆ど変わらない、と考えて良さそうである。面白いのはRyzen 7 5700Gで、MTより1Rの方が帯域が増えている事だ。要するにMTだと多数のコアから同時にアクセス要求が来ることで、Memory Controllerが飽和して性能低下するが、1Tなら1コアからの要求だけなので処理が追い付いている(もしくは緩和している)事と考えられる。このあたりはRyzen 7000シリーズやRyzen 8000Gシリーズでは改善されている、と考えて良さそうだ。
グラフ67
グラフ68
グラフ67・68がキャッシュ領域までを含めての帯域である。まぁ動作周波数通りという感じではあるのだが、面白いのはMTのL1〜L2でRyzen 5 8600GとRyzen 7 5700Gがほぼ同程度ということだ。単にCPU性能だけでなくメモリアクセス性能もZen 4では相応に向上していることが如実に示されている。逆に1TだとCore i7-13700Kのスコアが露骨に悪いが、これは1TのスコアがE-CoreとP-Coreの結果を重み付き平均で計算しているので、E-Coreが足を引っ張っていると言える。多分P-CoreだけであればZen 4とそう変わりが無い筈である。
最後にMemory Latency(グラフ69〜74)だが、正直キャッシュ(L1〜L3)が効果的な範囲ではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GはほぼRyzen 7 7700Xと変わらないことが見えているので、今回はその先のMemory Accessのみチェックする事にした。なのでcycle数ベースの結果は示さずに、nsベースの結果だけを示す。
グラフ69
グラフ70
グラフ71
グラフ69〜71がGlobal Data Memory、つまりデータアクセスのLatencyである。グラフ69などRyzen 5 8600Gのグラフが完全にRyzen 7 8700Gに重なってしまっているので見えないが、Ryzen 7 7700Xに比べて微増といったところで、これは内蔵GPUの画面リフレッシュに伴うメモリアクセスが影響しているものと思われる。ただIn-Page Random(グラフ70)やFull Random(グラフ71)だとややLatencyが他の製品と比べて多めになっているのが気になる。もっとも傾向だけ見ていればRyzen 5 5700Gも同じで、ただしこちらはDDR4ベースなのでLatencyの絶対値がDDR5よりもやや少ないあたりが違いとしてあるかと思われる。つまりこれもGPUの画面Refreshに伴うLatency増加で、これは避けようがないということだ。
グラフ72
グラフ73
グラフ74
グラフ72〜74はInst/Code、つまりL1 I-Cache/Prefetchを経由するルートで、こちらは基本Readのみ(Decoderからメモリに命令を書き出したりはしない)となるわけだが、L2から先はGlobal Dataと同じPathになるので、ある程度Global Dataと同じ傾向になる。実際SequentialではL3あたりまではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700GのLatencyはRyzen 7 7700Xより大きいのだが、L3の先ではむしろ逆転しているというのが面白い。まぁ理由は恐らくRyzen 7 7700Xが大きめ(32MB)のL3を持っているがために、L3 Missの判定までに余分に時間が掛かるという辺りではないかと思う。あるいはRyzen 7 7700Xの命令Prefetcherが強力すぎるのかもしれない。一方In-Page Random/Full-Randomは何れもRyzen 7 7700Xから微増なのはGPUの画面リフレッシュに起因し、またRyzen 5 5700Gと比較しても僅かに上というのは、DDR4/DDR5の差ということで説明がつく程度の差でしかない。総じて特筆するような違いは無い、として良いかと思う。
○◆PCI Express Test(グラフ75)
性能評価の最後に、PCIe Bandwidthを測定しておきたいと思う。Ryzen 7 8700GのFull SpecificationのConnectivityのところの記載はこんな感じ(Photo18)になっている。
Photo18: 赤枠は筆者追加。ちなみにこの部分の記述はRyzen 5 8600Gでも同様。
PCIeレーンが合計20本CPUから出るが、うち有効なのは16レーンとされる。では4レーンは? というとChipset接続用ということで、これはまぁ理解できる。以前X670の構造を示したが、本来AM5ではCPUから28レーンが出る格好で、
x16:GPU接続用
2x4:NVMe SSD接続用×2
x4:Chipset接続用
という割り振りになっている。ところがRyzen 5 8600GとRyzen 7 8700Gは合計20レーンしか用意されていない。可能性としてはNVMe接続用を全部ぶっちぎってGPUにx16を割り当てるか、もしくはGPU用をx8に減らしてNVMe接続用を維持するか、である。以前のPCIeだとx12という規格が存在した(InfiniBand接続用)のだが、誰も使わないという事で廃止されてしまっており、なのでGPU様にx12、NVMe SSD用にx4という選択肢はない。まぁ可能性としてはGPU用がx8、NVMe SSD用に2x4という公算が一番高いという事で、これが正しいかを検証してみた。
テスト方法は簡単で、PCIe 4.0x16のI/Fを持つビデオカード(今回はRadeon RX 6800 Referenceを使った)を装着して、3DMarkのPCIe TestとSandraのVideo Memory Bandwidthを実施してみるという方法だ。
グラフ75
グラフ75がその結果である。ReferenceはRyzen 7 7700Xで、3DMarkのPCIe Testでは21.4GB/sec、SandraのVideo Memory Bandwidthでは24.1/22.3GB/secとなった。PCIe 4.0×16の理論帯域が片方向当たり32GB/secだから、まぁ21〜24GB/secならちゃんとx16で動作していることが判る。
ではRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gでは? というと3DMark PCIe Testでは14〜15GB/sec、SandraのVideo Memory Bandwidthでは14GB/sec弱となっており、これはPCIe 4.0 x8の帯域に概ね等しい。そもそもNVMeの帯域が削られていたら、PCMark 10のEssentials当たりの成績が激減している筈(ブートドライブのNVMe SSDが繋がっているから)で、そうした傾向が見えないあたりはPCIeのレーン数が半減しているものと考えられる。
もっともこれで性能が大幅に下がるか? というと、多分そんなことはない。というのは殆どのゲームはプレイ中にPCIeでテクスチャやらなにやらを送ったりはしておらず(してたらそこがボトルネックになる)、描画指示とか程度になるからだ。勿論シーンチェンジなどでテクスチャロードとかが発生すると、そこの待ち時間は大幅に増えるとは思うが。影響が出ても10%未満であろう(昔何かで検証した時は、確か2〜3%程度の差でしかなかった)。
ちなみにRyzen 5 8500Gも既に出荷が開始されているが、こちらはPCIeが合計14レーンで、うち有効10レーンしかない。ということは
・GPU用:x8、NVMe用:2x1
・GPU用:x2、NVMe用:2x4
のどちらかになる。なんとなく後者な気がするが、確証はない。ただ後者だとすると、流石にこれは相当遅い(PCIe経由での描画コマンドの発行がボトルネックになりそう)と思われるので注意が必要だ。まぁ3Dゲームを遊ばないなら、そこそこ動くとは思うが。
●消費電力 / 考察〜まとめ
○◆消費電力(グラフ76〜84)
最後にこちらを。まずSandraのDhrystone/Whetstoneをグラフ76に、CineBench R24のMultiの1周分(CineBench R24はデフォルトでは10分の間延々とレンダリングを繰り返すので、1回分が終わったタイミングまでとした)をグラフ77に、TMPGEnc Video Mastering Works 7で4streamをx265でエンコードした場合をグラフ78、AMD Media Encoderを使った場合をグラフ79に、3DMark NightRaid Demoをグラフ80、Solar Bayをグラフ81に、そしてMetro Exodusの1.5Kをグラフ82にそれぞれ示す。それぞれの稼働中の平均消費電力をグラフ83に、グラフ83と待機時の消費電力の差をグラフ84にそれぞれまとめてみた。
グラフ76
グラフ77
グラフ78
グラフ79
グラフ80
グラフ81
グラフ82
グラフ83
グラフ84
まず驚いたのが、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gを利用した時の待機電力の低さである。Ryzen 7 7700Xと比べて20Wほど下がっている。筆者はRyzen 7000シリーズの待機電力の高さをX670Eチップセットの構造(B650Eチップセットのタンデム接続)にあると考えて居たのだが、Ryzen 8000Gを使うと20Wも下がるというのはちょっと考え方を改める必要がありそうだ。
さて、CPU Benchmarkに関して言えばRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの効率の高さが際立つ結果になった、として良いかと思う。まず表3にDhrystone、表4にWhetstoneの効率を示すが、Dhrystoneでは5GIPS/W超え、Whetstoneでも3GFLOPS/W超えを果たしている。絶対的な消費電力で言えばRyzen 5 5700Gもいい勝負だが、性能が違うから勝負は明白だ。Ryzen 7 7700XはもとよりCore i7-13700KFでは逆立ちしても届かない。
表5はTMPGEnc Video Mastering Works 7でx265を利用した場合の効率、表6はAMD Media Encoderを利用した場合の効率で、これもRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gが圧倒的に高い。
表7は先にCineBench R24の所で触れた、Multi Renderingにおける効率をまとめた物である。Ryzen 7 8700はCore i7-13700KFの倍とは言わないものの、8割近く効率が良い。絶対性能を取るならCore i7-13700KFなりRyzen 7 7700Xの方が好ましいだろうが、Ryzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの良さは特筆ものと考えて良いと思う。
問題はGPUの方で、これもグラフから明らかな様に消費電力そのものは猛烈に低い。が、性能もそれなりでしかない。この性能をどう判断するか、がポイントになるだろう。
○考察
ということで遅まきながらRyzen 5 8600G/Ryzen 7 8700Gの評価をお届けした。値段は冒頭に示した大塚実氏のレポートにもあるように、Ryzen 7 8700Gが\58,000前後、Ryzen 5 8600Gが\40,000というところ。ただこの\58,000という値段は、例えばRyzen 7 7800X3Dとほぼ同等の価格(価格例:https://www.amazon.co.jp/dp/B0C2D943TC/ 2月21日時点で\54,444)であって、性能を取るか、効率と統合GPUを取るかという判断が難しい。同様にRyzen 5 8600Gも、Ryzen 5 7600X(価格例:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BF4XS27Z/ 2月21日時点で\42,222)と競合する感じだ。
筆者の個人的な見解としては、本格的にGameをやろうというには、このGPUではかなり不満を感じるだろうと思う。大塚氏は「グラフィックスカードがなくても、ある程度ゲームを遊ぶことができる」と書いたが、実際は「グラフィックスカードを追加しなくても、ある程度遊べるゲームもある」と言う方が近い。3D性能に過大な期待は禁物だ。
その一方で、そこまで派手に3Dを使うつもりもなく、コストパフォーマンスとか性能効率に重きを置く(省スペースPCとか静音PCとか)用途には、ベストなCPUと考えて良いかと思う。今回は試せなかったが、今後ソフトウェアがRyzen AIに対応してくれれば、AIベースのアプリケーションがGPUを使うよりずっと効率よく実行できる「可能性がある」。拡張性こそRyzen 7000シリーズには及ばない(主にPCIe周り)が、「そこそこの性能のPCを限られた予算で組みたい」なんて場合にはベストな選択かと思う。まずはGPUも無しでとりあえず組んで、後で欲が出てきたらCPU交換なりGPU追加なりをすればいいのだから。
ちなみにAMDからは、「OCをすると性能が結構伸びる」としてDDR5-6400のDIMM(当然OC対応)も一緒に送られてきたが、今回は評価に利用しなかった。Ryzen 8000GにOC Memoryを組み合わせたからといって、Radeon RX 6600に及ぶ程の性能が出るわけではないし、むしろバランスが崩れる可能性もあると少なくとも筆者は考える(ただ、この辺は好みや用途の問題ではあるのだが)。