「多発性骨髄腫を治療しない」とどうなるかご存知ですか?ステージについても解説!

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多発性骨髄腫とは?多発性骨髄腫は治療しないとどうなるのでしょうか?本記事では多発性骨髄腫について以下の点を中心にご紹介します。

・多発性骨髄腫とは?

・多発性骨髄腫の治療

・多発性骨髄腫の生存率

多発性骨髄腫について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。

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監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

多発性骨髄腫とは?

多発性骨髄腫は、血液の一部であるB細胞が異常に増殖し、骨髄内に集まる疾患です。
B細胞は、通常、体を守るための抗体を作りますが、異常に増殖した細胞は機能しない抗体(M蛋白)を大量に生産します。
多発性骨髄腫は、骨髄腫細胞やM蛋白が増えることで、体に様々な影響を及ぼします。
具体的には、血液中のカルシウム濃度が上昇したり、腎臓の機能が低下したり、貧血が起こったり、骨がもろくなって骨折しやすくなったりします。
症状が出ていない場合でも、多発性骨髄腫と診断されることがあります。
このような場合は、無症候性多発性骨髄腫と呼ばれ、すぐに治療を開始する必要はなく、定期的な検査で経過を観察します。

多発性骨髄腫は治療しないとどうなるのか

多発性骨髄腫は血液がんの一種で、免疫細胞の一種が異常に増殖し、骨髄の中で広がる病状を指します。
この病気は、骨や免疫力が弱くなるなどの影響を及ぼします。
骨髄腫細胞が臓器に損傷を引き起こす(高カルシウム血症、腎機能不全、貧血、骨折)や腰痛のような症状が現れた場合、治療が必要となります。
治療を行わない場合、これらの症状は進行し、患者さんの生活の質を大きく低下させ、最終的には生命を脅かす可能性があります。
また、多発性骨髄腫は完治が難しく、病気の勢いが一度おさまっても再発したり、新たながんや甲状腺機能低下症、不妊などが起こる可能性があります。
多発性骨髄腫の治療には、現在、多くの薬剤が利用可能で、薬を適切に使用することで、病気をコントロールすることが可能とされています。

多発性骨髄腫の治療

以下では、多発性骨髄腫の初回治療について解説します。

自家造血幹細胞移植ができる場合の治療

多発性骨髄腫は、骨髄腫細胞が引き起こす様々な臓器の問題(例:高カルシウム血症、腎臓の問題、貧血、骨折等)や腰痛のような症状が出現した際に、治療が求められます。
多発性骨髄腫の主要な治療法は、骨髄腫細胞の数を減らすことを目指した、抗がん剤を用いた化学療法です。
移植が可能な患者さん(65歳以下)で、重篤な感染症や肝臓・腎臓の障害がなく、心臓の機能にも問題がない等の条件を満たす場合、自家造血幹細胞移植が行われます。
導入療法によりMタンパクが一定の割合以上減少した場合、「奏功した」と判断され、大量の抗がん剤を投与して(大量化学療法)、骨髄腫細胞を最大限に死滅させた後、患者さんの血液中の造血幹細胞を採取し(末梢血幹細胞採取)、それを再投与(自家末梢血幹細胞移植)して、造血機能を回復させます。

自家造血幹細胞移植ができない場合の治療

多発性骨髄腫の治療は、患者さんの状況により異なります。
自家造血幹細胞移植が適応できない場合、一般的には化学療法が選択されます。
自家造血幹細胞移植は、年齢、体力、合併症、臓器の機能障害などを考慮して決定されます。
初期治療では、さまざまな薬物が組み合わせて使用されます。
その後、一時的に薬を中止して病状を観察する場合や維持療法を続ける場合もあります。
高齢者や腎臓や心臓などの持病がある人は、その状況に応じて薬の量を調整し、副作用を最小限に抑えながら病状を管理することが重要です。
また、「リスク因子」が1つ以上ある人や骨髄抑制(白血球・好中球・血小板の減少、貧血)が重度の人は、段階的に薬の量を減らすことが推奨されます。

再発・難治性骨髄腫の治療

再発には、無症候性と症候性の2つの主要な形態が存在します。
無症候性再発は、M蛋白が25%以上増加すると診断されますが、新たな症状はないとされています。
それに対して、症候性再発は、M蛋白の増加とCRAB症状(高カルシウム血症、腎機能障害、貧血、骨病変)が伴います。
再発への治療法は、以前の治療、年齢、再発のタイミングなどにより異なります。
初回の多発性骨髄腫の再発に対しては、最初の治療から6~9ヶ月の無治療期間があった場合、同じ治療を再度行うことで効果が期待できます。
近年、多発性骨髄腫の治療は、新薬の導入により大きく進化しています。
新薬では、さまざまな薬が利用可能で、難治性の多発性骨髄腫には承認された薬が使用されます。
多発性骨髄腫の治療では、化学療法により、さまざまな薬剤を組み合わせて使用します。
近年では、D-MPB療法やD-LD療法が主流となっています。

妊孕性について

以下では、多発性骨髄腫が妊孕性、つまり妊娠能力にどのように影響を及ぼすかについて詳しく解説します。

妊孕性とは

妊孕性(にんようせい)は、「妊娠するための力」を指す言葉です。
この力は、女性と男性の両方に関連しています。
妊娠するためには、卵子と精子が必要です。
卵子と精子は、女性の卵巣と男性の精巣で生成され、それぞれ重要な役割を果たします。
さらに、女性では子宮、男性では性交渉を行うための勃起や射精能力なども妊孕性を構成する要素となります。
しかし、妊孕性は卵子と精子だけでなく、性機能や生殖器、内分泌の働きも重要です。
したがって、妊孕性は、妊娠にかかわる臓器や配偶子、機能を含めた「妊娠する力」とも言い換えられます。
がん治療などの医療処置により、妊孕性が影響を受けることがあります。
そのため、妊孕性を温存するための治療法が存在します。
これらの治療法は、がん患者が将来子供を持てるよう、希望を持ってがん治療にのぞめるようにするためのものです。
妊孕性についての理解は、将来子供を持つことを望むかどうかを考え、適切な選択をするために重要です。
主治医や生殖医療専門医とのコミュニケーションを通じて、妊孕性についての知識を深め、自身の妊孕性についての選択を行うことが推奨されます。

妊孕性温存療法

妊孕性温存療法は、がん治療が生殖機能に影響を及ぼす可能性がある場合に、将来の妊娠の可能性を保つための方法です。
妊孕性温存療法は、がんの種類、健康状態、そして患者さんの個々の状況に基づいて選択されます。
具体的な方法としては、手術中に卵巣や子宮を保護すること、放射線治療で卵巣が放射線を受けないように手術で卵巣の位置を移動することなどがあります。
また、受精卵(胚)、未受精の卵子、卵巣組織の凍結保存も行われます。
がん治療が終了した後、凍結保存されていたものを解凍し、子宮内に移植して妊娠を試みることもあります。
これは生殖補助医療と呼ばれます。
ただし、妊孕性温存療法が必ずしも未来の妊娠や出産を保証するわけではありません。
妊孕性温存療法を考慮する際には、主治医との相談が重要です。
安全性や効果について十分に理解し、パートナーや家族とよく話し合い、慎重に考慮することが必要です。
また、小児がんの場合には、親の同意とともに患者自身の同意も必要となります。
これらの情報を理解し、適切な決定を下すことが重要です。

多発性骨髄腫の予後・生存率

多発性骨髄腫は血液がんの一種で、予後は病期によって大きく異なります。
早期の段階では、5年生存率は約80%を超え、がんが進行することなく生存している人は半数を超えます。
しかし、病気が進行すると生存率は低下します。
具体的には、国際病期分類(ISS)によると、ステージⅠの約50%生存期間は約62ヶ月(約5年)、ステージⅡは約44ヶ月(約3~4年)、ステージⅢは約29ヶ月(約2~3年)とされています。
多発性骨髄腫の予後は、症状の強さや進行度などによっても異なります。
特に、高齢者、ISS (国際病期分類)Ⅰ<Ⅱ<Ⅲ、骨髄腫細胞の染色体異常のうち17番染色体短腕の欠失(17p-)あるいは4番14番染色体の転座(t (4;14))が認められる場合などが予後不良に関係が深いことが示されています。
現在の医療では多発性骨髄腫の完治は難しいとされており、再発することも多いです。
しかし、有効とされる治療薬が数多く開発されており、再発しても新たな治療法を選びながら長期間に渡り繰り返し治療を行っていくことが可能です。

多発性骨髄腫についてよくある質問

ここまで多発性骨髄腫の症状を紹介しました。ここでは「多発性骨髄腫の症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

多発性骨髄腫のステージを教えてください。

中路 幸之助(医師)

多発性骨髄腫は、M蛋白と骨髄腫細胞の存在、そして症状の有無に基づいて、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症、無症候性骨髄腫、症候性骨髄腫といったカテゴリーに分けられます。
病気の進行度は、初期のⅠ期から進行したⅢ期までの3段階で示されます。
意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症と無症候性骨髄腫は、血液や骨髄にM蛋白や形質細胞が存在するが、症状や臓器への影響は見られない状態を指します。
一方、症候性骨髄腫は、症状や臓器への影響があり、治療が必要な状態を示します。
病期は、血清中のアルブミンとβ2ミクログロブリンのレベルに基づいて、ⅠからⅢまでの3段階に分けられます。
数字が大きいほど、病気が進行していることを示します。

多発性骨髄腫の予防法はありますか?

中路 幸之助(医師)

多発性骨髄腫は血液細胞の一つである「形質細胞」ががん化することで起こる疾患です。
しかし、現在のところ、多発性骨髄腫の明確な原因は分かっておらず、そのため特定の予防法は存在しないとされています。
一方で、早期発見と早期治療が重要とされています。
血液検査や尿検査で異常が指摘された場合は、放置せずに精密検査を受けることが推奨されています。
また、定期的な健康診断を受けることも早期発見に役立ちます。
治療後は、定期的に通院しながら経過を観察することが大切です。
多発性骨髄腫は再発したり、病気が再び進行する可能性が高いため、定期検査は必ず受けるようにしてください。
また、感染症対策として、うがい・手洗い、防寒などをしっかり行うことも推奨されています。

編集部まとめ

ここまで多発性骨髄腫についてお伝えしてきました。
多発性骨髄腫についての要点をまとめると以下の通りです。

⚫︎まとめ

・多発性骨髄腫とは、血液の一部であるB細胞が異常に増殖し、骨髄内に集まる疾患である

・多発性骨髄腫の治療として、抗がん剤を用いた化学療法が挙げられる

・多発性骨髄腫の生存率は、ステージⅠの50%生存期間は約5年、ステージⅡは約3~4年、ステージⅢは約2~3年といわれている

多発性骨髄腫と関連する病気

多発性骨髄腫と関連する病気は1個あります。
各病気・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

腫瘍内科の病気

形質細胞腫瘍

具体的な症状や治療法については、担当の医師と相談しましょう。

多発性骨髄腫と関連する症状

多発性骨髄腫と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

骨折

骨痛

貧血

腎機能の低下

感染症

これらの症状が持続する場合、または新たにあらわれた場合、医師の診察を受けることが大切です。

参考文献

国立がん研究センター

日本血液学会

日本がん・生殖医療学会