「多発性骨髄腫の前兆となる4つの初期症状」はご存知ですか?進行速度も解説!

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多発性骨髄腫(Multiple Myeloma: MM)という病気をご存知ですか?多発性骨髄腫は血液のがんの一種であり、完治させることは難しいとされています。

病気が進行していくと、自己免疫能力の低下・腎障害・骨の破壊などさまざまな症状が起こり、生活に大きな負担が出てきます。そのため、早期の発見・治療を行うことが非常に重要です。

今回は多発性骨髄腫の初期症状・特徴・治療法に至るまで、詳しく解説していきます。

≫ 「多発性骨髄腫の原因」はご存知ですか?症状・検査法も解説!【医師監修】

監修医師:
甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室産業医)

大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。2023年、TOTO関西支社健康管理室産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

多発性骨髄腫とは?

多発性骨髄腫は、がんの中でも珍しい部類になりますが、どのような症状が現れるのかご存知ですか?病気と向き合っていくためにも、正しい知識を身につけておきましょう。

形質細胞ががん化することで発生するがん

多発性骨髄腫は血液中の細胞である形質細胞が、がん化して起こるものです。通常、形質細胞は体をウイルスなどの細菌から守る抗体を作り出しています。
しかし、形質細胞ががん化し骨髄腫細胞になることによって、細菌を攻撃する能力のないMタンパクという抗体を生成し続けます。この骨髄腫細胞・Mタンパクが体内に蓄積されていくと自己免疫能力が低下し、感染症を始めとするさまざまな問題が引き起こされるのです。
特にご高齢の方は、免疫力の低下による合併症を引き起こすリスクが高いので、注意が必要になります。

10万人あたり約5人が発症するとされている

多発性骨髄腫は10万人あたり約5人が発症するとされており、がんの中でも珍しく発症する確率はがん全体の1%程度です。
高齢の方が発症する場合が多く、50代後半から発症率は上昇していき、腎障害・感染症といった合併症のリスクが懸念されます。また、女性より男性の方がやや発症する割合は高くなっています。

多発性骨髄腫の初期症状は?

多発性骨髄腫の初期では症状が現れにくく、発見が遅れてしまうことがあります。個人差はありますが、日常的に見られる症状が多いので、しっかりと確認して見過ごさないようにしましょう。

動悸・息切れ

まず多発性骨髄腫の初期症状として、動悸・息切れが挙げられます。骨髄腫細胞が増加することで造血機能が低下し、血中の赤血球・白血球などの減少が起こります。日常的に貧血・動悸・息切れが見られる場合は軽視せず、早めに医療機関に受診することが大切です。

倦怠感

多発性骨髄腫の初期症状では、倦怠感が現れることもあります。先程の動悸・息切れと同様に造血機能の低下によって、慢性的に倦怠感の症状が見られます。
倦怠感は個人差も大きく、見過ごしてしまう方も多いでしょう。日々の生活で倦怠感を覚える場合は、注意が必要です。

歯茎からの出血・鼻血

多発性骨髄腫で造血機能が低下していると、歯茎からの出血・鼻血が出るといった症状も見受けられます。この出血は造血機能の低下によって、血中の血小板が減少することが理由です。出血を止める役割を持つ血小板が減少すると、出血した際に血が止まりにくいという特徴があります。

骨折

多発性骨髄腫によって骨髄腫細胞が増加すると、次第に骨が溶けて脆くなっていきます。骨が脆くなってしまうと、わずかな力・衝撃でも病的骨折が引き起こされます。また、骨折を起こす前にも骨に痛みを感じることが多いので、違和感を感じたら早めに医療機関に相談してみましょう。

初期には症状が出ないことも多いため注意が必要

多発性骨髄腫は、初期症状が出ないこともあるので注意が必要な病気です。初期症状はここまでご紹介してきたもの以外に、めまい・吐き気・頭痛・むくみ・発熱・風邪が長引くなど多岐にわたります。
症状も幅広く日常的に起きるものですので、ご自身では見極めることが難しく、検査で発覚することが多い状態です。症状が全く現れない方も中にはいらっしゃるので、医療機関での定期的な検診を行うことが大切になります。

多発性骨髄腫の特徴

多発性骨髄腫は、大きく分けて骨の破壊・Mタンパクの増加・造血機能の低下という3つの特徴を持っています。まず、多発性骨髄腫の最も大きな特徴として、骨の破壊が挙げられるでしょう。多発性骨髄腫を発症すると、骨を破壊する破骨細胞が活性化し、骨が脆くなっていきます。
症状が進行していくと骨の痛みを感じ、病的骨折を起こしやすく、日常生活に支障をきたしてしまいます。また、骨からカルシウムが溶け出し、高カルシウム血症を起こすので注意が必要です。次に、多発性骨髄腫によってMタンパクが増加すると、免疫機能の低下・腎障害などが引き起こされます。
Mタンパクは外部からの細菌に対して攻撃を行わないので、免疫機能が低下します。さらに、Mタンパクは腎臓を通過して一部が尿として体外に排出されるので、腎臓に負担がかかってしまうのです。
最後に、造血機能の低下は多発性骨髄腫によって、骨髄内で骨髄腫細胞が増加することで起こります。造血機能が低下すると、血中の赤血球・白血球・血小板の生成が阻害され、さまざまな症状を引き起こします。

多発性骨髄腫の治療法

多発性骨髄腫の治療は、患者さんの状態に合わせて適切な判断が必要です。骨髄腫細胞によって何らかの症状が現れた場合、基本的には化学療法・大量化学療法・自家造血幹細胞移植の適切な処置を患者さんへ行っていきます。無症状の方に関しては経過観察を行い、処置が必要だと判断された場合、治療が開始されます。

化学療法

化学療法は、抗がん剤を使用する基本的な処置です。また、65歳以上で感染症や肝臓・腎臓に障害がある場合、自家造血幹細胞移植ができないので化学療法を行います。合併症の有無など患者さんの経過を観察しながら、投与する薬剤の種類・量を調整していきます。

大量化学療法

大量化学療法は65歳未満で感染症・肝臓・腎臓の機能に障害が見られない場合に、自家造血幹細胞移植と共に行われます。
大量の抗がん剤を投与し、骨髄腫細胞を死滅させることが目的です。しかし、脱毛・嘔吐・下痢・腎障害をはじめとするさまざまな副作用がありますので、医師とよく相談し治療していくことが重要になります。

自家造血幹細胞移植

自家造血幹細胞移植は、大量化学療法によって骨髄腫細胞をできるだけ死滅させ、あらかじめ採取しておいた自身の造血幹細胞を戻すことを指します。自家造血幹細胞移植を行うことにより、正常な造血機能への回復を目指す方法です。

多発性骨髄腫についてよくある質問

ここまで、多発性骨髄腫の初期症状・特徴・治療法を解説してきました。ここでは「多発性骨髄腫の初期症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

多発性骨髄腫の原因について教えてください。

甲斐沼 孟(医師)

多発性骨髄腫は、形質細胞の遺伝子に異常が起こるものですが、なぜ発症に至るのかまだ明確な理由がわかっていません。多発性骨髄腫の発症はがん全体の1%といえど、50代・60代と高齢になるにつれて発症する可能性が上がりますので、定期的な検診を受けていただくことをおすすめします。

多発性骨髄腫の進行速度について教えてください。

甲斐沼 孟(医師)

多発性骨髄腫は個人差があり、同じスピードで病状が進行していくわけではありません。ゆっくり進行する方もいれば、非常に早く進行する方もいます。また、多発性骨髄腫は一旦治療が完了しても再発したり、再び病気が進行したりする可能性が高いです。そのため、油断せず、病院で定期的に検査を受ける必要があります。治療自体も長期的なものになりますので、根気強く病気と向き合っていくことが大切です。

編集部まとめ

多発性骨髄腫は発症が10万人に5人程度と珍しい病気ですが、初期症状が見極めづらく治療も難しい病気です。中には無症状の方もいらっしゃるので経過観察も含め、患者さんに適切な処置を施す必要があります。特に高齢の方は発症する割合が多いので、注意が必要です。

多発性骨髄腫の初期症状に気づくことができれば、今後の処置の選択肢が増えます。

骨の痛み・動悸・倦怠感・鼻血など、日常生活で些細なことでも違和感を感じたら、医療機関に受診し相談してみましょう。

多発性骨髄腫と関連する病気

多発性骨髄腫と関連する病気は3個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

形質細胞腫

形質細胞白血病

原発性マクログロブリン血症

これらは多発性骨髄腫と似た症状が出る可能性がある病気です。

多発性骨髄腫と関連する症状

多発性骨髄腫と関連している、似ている症状は4個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

動悸倦怠感鼻血

歯茎などの出血

上記の症状がある・続いている場合、多発性骨髄腫の疑いがありますので、早めに医療機関へ受診してください。

参考文献

多発性骨髄腫(国立がん研究センター)

血小板(国立がん研究センター)

骨髄腫(日本赤十字社医療センター)