「前立腺がんの主な5つの症状」はご存知ですか?なりやすい人の特徴も解説!
前立腺がんは、日本で急激に患者数が増えている病気です。1975年は2,000人程度でしたが、2020年には78,000人以上と、ここ50年で患者数は35倍以上となっています。
この前立腺がんは男性特有の病気であり、特に50歳以上の中高年の男性にとっては重要な病気といえるでしょう。
この病気は初期段階では自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに進行することが多いという病気です。
しかし、前立腺がんは早期発見と適切な治療によって、治療が可能ながんの1つです。
この記事では、前立腺がんの原因・症状・治療法・予防方法について詳しく解説します。
前立腺がんについての理解を深め、早期発見の重要性を認識しましょう。
監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科
前立腺がんの原因
前立腺がんの発生原因は明確には特定されていません。しかし、前立腺がんにかかる可能性を高める主なリスクファクターとして、以下の要因が指摘されています。
遺伝的要因(AML)
脂肪の大量摂取
肥満(CML)
遺伝的要因については、前立腺がんにかかった家族がいる場合、前立腺がんのリスクが高まります。
例えば、父や兄弟が前立腺がんだった場合の前立腺がん発生リスクは以下の通りです。
父親が前立腺がんだった場合:1.65倍~3.77倍
兄弟が前立腺がんだった場合:2.57倍~3.00倍
父親・兄弟・息子にいずれかが前立腺がんだった場合:2.26倍~8.73倍
このように、遺伝的要因が前立腺がんの原因として挙げられるでしょう。また、脂肪の大量摂取や肥満も前立腺がんのリスクファクターとして考えられています。
例えば、同じ日本人であったとしても日本在住の日本人よりもハワイ在住の日本人の方が3.6倍~6倍程度、前立腺がんにかかりやすいとされています。また、BMIと前立腺がんのリスクとの関係もあるとされており、脂肪や肥満が前立腺がんのリスクファクターとして挙げられるでしょう。
その一方で、トマトなどに含まれるリコピンや豆類に含まれるイソフラボンが前立腺がんのリスクを下げることも報告されています。そのため、前立腺がんにかかるリスクを抑えるためには、脂肪分を控え、トマトや大豆を普段からの食事に取り入れることが重要です。
前立腺がんの症状
前立腺がんの症状は下記のとおりで、加齢に伴って現れる現象と類似しています。
早期の自覚症状はない
尿が出にくい
排尿の回数が多い
血尿
腰痛
そのため、症状から前立腺がんを見分けることは困難です。
早期の場合は自覚症状がない
前立腺がんは、早期において自覚症状はありません。早期の前立腺がんは小さく、前立腺内にがんが限られているため、症状が出ないことが一般的です。
尿が出にくい
前立腺がんが進行してくると、尿が出にくくなる場合があります。前立腺がんが進行することによって、前立腺が肥大化し、尿道を圧迫してしまう場合があります。これによって、尿が出にくくなるという症状が現れてくるのです。
排尿の回数が多い
排尿の回数が多くなることも前立腺がんの症状の1つです。前立腺が肥大化し尿道が圧迫されると、尿の出が悪くなるため、頻繁にトイレに行く必要が生じます。特に夜間頻尿が現れるケースが多いです。
血尿
血尿も前立腺がんの症状として現れます。これは、がんが尿路に悪影響を及ぼすことで、尿に血が混じってしまうためです。
腰痛
前立腺がんがさらに進行すると、腰痛の症状も現れることがあります。前立腺がんは骨への転移が多いとされており、そのため、骨盤や椎骨などに転移すると腰痛の症状を伴うようになります。
前立腺がんの検査方法
前立腺がんの早期発見を行うためには、その検査方法についても理解しておく必要があるでしょう。前立腺がんの検査方法には以下の3つ方法があります。
早期の自覚症状はない
尿が出にくい
排尿の回数が多い
血尿
腰痛
これら3つの検査方法について詳しく解説を行います。
PSA検査
PSA(前立腺特異抗原)検査は、血液中のPSA値を測定することで前立腺がんのリスクを評価する検査です。PSAは前立腺から分泌されるタンパク質で、その値が高いほど前立腺がんの可能性が高まります。
ただし、PSA値の上昇は前立腺がん以外の状態、例えば前立腺肥大などでも見られるため、PSA検査だけでがんの診断を下すことはできません。
直腸診
直腸診は、医師が肛門から指を挿入し、直腸の内側から前立腺を触診する検査です。
この方法により、前立腺の大きさ・硬さ・表面の異常などを評価することができます。前立腺がんはしばしば前立腺の外側部分に発生するため、直腸診は非常に有効な診断ツールといえます。
この検査は、簡単にできて痛みも通常はない点がメリットですが、その一方で客観性に欠けるというデメリットもあります。
前立腺生検
前立腺がんの疑いがある場合に、最終的な診断を下すために行われる検査が、前立腺生検です。この検査では、前立腺の組織サンプルを採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を検査します。
これにより、がん細胞の有無や、がんの悪性度を評価することができます。この検査において、がん細胞が見つかれば前立腺がんにかかっていることが分かりますが、見つからなかったからといって前立腺がんにかかっていないとはいえません。そのため、油断せず定期的な診察が必要となります。
前立腺がんの治療方法
前立腺がんの治療方法は薬物療法・放射線治療・手術の3つです。これらの特徴を把握しておくことは、医師による治療方針の説明をより理解する上でも重要です。
そこで、ここでは薬物療法・放射線治療・手術の3つについて詳しく解説を行います。
薬物療法
前立腺がんに対する治療の方法の1つとして挙げられるのが、薬物療法です。前立腺がんはほとんどが男性ホルモンによって成長します。そのため、この男性ホルモンを抑える薬を飲むことで前立腺がんを小さくさせるのが薬物療法です。
この薬物療法は放射線治療や手術が困難な場合・放射線治療の前後・がんが他の臓器に転移している場合に選択される場合が多い治療法です。この薬物療法は、短期的には効果的ですが、次第に効果を失っていくという問題もあります。
放射線治療
放射線治療は、前立腺がん細胞に直接放射線を当ててがん細胞を破壊する方法です。局所的ながんに対して効果的であり、外部から放射線を照射する外照射療法や、体内に放射性物質を直接挿入する組織内照射療法があります。
これらの2つの療法を組み合わせた方が単独よりも効果的であったものの、副作用がより強く出るという研究があります。そのため、担当の医師とよく相談をして治療を行うようにしましょう。
手術
がんが前立腺内にとどまっており、余命が10年以上と判断される場合に行うことが多い治療方法が手術です。手術では、前立腺と精のうを摘出し、膀胱と尿道をつなぐ前立腺全摘除術といわれる手術が行われます。その手術の際に、周囲のリンパ節を除去するケースもあります。
ただし、手術後には尿失禁や性機能障害などの合併症が生じる可能性には注意が必要です。
前立腺がんのステージ別症状・治療法
前立腺がんの治療について理解を深めるためにも、前立腺がんの各ステージにおいてどのような症状が生じ、またどのような治療が行われるかを理解することは重要です。
そのため、ここでは前立腺がんの各ステージにおける症状や治療法について解説をします。
ステージ別症状
前立腺がんの各ステージはがんの大きさや転移の有無によって以下のように分類されます。
I期:触診や画像検査で明らかにならない、あるいは前立腺に限られているものの片葉の1/2以内にとどまる状態
II期:触診または画像検査で明らかになっており前立腺に限られているものの、片葉の1/2を超えるか両葉に進展している状態
III期:前立腺被膜を超えて進展している状態
IV期:隣接する臓器・リンパ節などへの転移や遠隔転移がある状態
I期やII期では無症状であることが多く、III期以降で症状が現れてきます。IV期になると腰痛などが現れることもあります。
治療法
I期やII期の前立腺がんで中心となる治療方法は、手術・放射線治療です。III期では、放射線治療に加えて薬物治療が中心となります。IV期では、薬物療法が中心となります。
早期に発見するポイント
前立腺がんを早期に発見するためには、定期的な診断をしっかりと受けるようにすることが重要です。
前立腺がんは初期症状はなく、また進行に伴って現れる症状も加齢とともに生じる症状と類似しています。そのため、前立腺がんに患者自身が気づくことは非常に困難です。
近年では、健康診断でPSA検査を受けられるようになってきたため、無症状でも発見できるようになりました。そのため、こうした健康診断の活用やがん検診・人間ドックを活用することが前立腺がんを早期に発見するためにも重要です。
前立腺がんの症状についてよくある質問
ここまで前立腺がんの初期症状・治療方法・早期発見のポイントなどを紹介しました。ここでは「前立腺がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
前立腺がんの予防方法について教えてください
村上 知彦(医師)
前立腺がんを予防するためには、健康的な食生活と適切な体重を維持することが重要です。前立腺がんは脂肪分の多い食事をとっている人や肥満の人がなりやすい病気です。そのため、脂肪分の多い食事を避け、バランスの取れた食事を心がけましょう。
前立腺がんにかかりやすい人の特徴はありますか?
村上 知彦(医師)
前立腺にかかりやすい人は、高齢者・前立腺がんにかかった家族がいる人・肥満の人です。年齢や遺伝的要因は個人では防ぐことができないので、肥満にならないように気をつけることが重要です。
まとめ
前立腺がんは初期段階においては自覚症状がほとんどないため、発見が遅れることが多い病気です。
しかし、他の病気等による死亡の影響を取り除いた5年相対生存率はI期からIII期までなら100%と、治療が期待できる病気でもあります。
そのため、早期発見・早期治療を行うためにも、必ず定期的に健康診断・人間ドック・がん検診を受けるようにしましょう。
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「前立腺がん」と関連する病気は3個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
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前立腺肥大症これらの病気は前立腺がんと同時に起こることもあります。早期発見・早期治療を行うためにも、定期的に検診を受けましょう。
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「前立腺がん」と関連している、似ている症状は4個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
排尿障害
血尿腰痛
尿失禁
前立腺がんが進行すると腫瘍が尿道を圧迫することによって、排尿障害などが現れます。
これらの症状は前立腺がん以外の疾患によっても引き起こされるため、症状だけで前立腺がんかどうかを判断するのは困難です。
上記のうち当てはまる症状がある方は、一度医療機関で検査を受けてみてください。
参考文献
前立腺がん(日本赤十字社がん診療センター)
前立腺がん(九州大学病院がんセンター)
前立腺生検術について