株式会社アストロスケールは2024年2月8日、同社が開発した商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ)」の打ち上げが日本時間2024年2月18日に予定されていると発表しました。ADRAS-Jはニュージーランドのマヒア半島からロケットラボの「エレクトロン」ロケットに搭載されて打ち上げられます。


【▲ 商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」が納められたエレクトロンロケットのフェアリングとアストロスケールの社員(Credit: Astroscale )】

アストロスケールは日本に本社と開発拠点を置く民間宇宙企業で、安全で持続可能な宇宙環境を目指してスペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去を含む軌道上サービスの提供を行っています。


ADRAS-Jは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「商業デブリ除去実証(CRD2)」フェーズI契約相手方として2022年3月に選定されたアストロスケールが開発した商業デブリ除去実証衛星です。CRD2はスペースデブリ対策の事業化を行う民間企業と連携して宇宙ビジネスの市場創出や国際競争力の確保を狙うJAXAの取り組みで、フェーズIではターゲットとなる大型デブリへの接近・近傍制御と情報取得を、フェーズIIでは大型デブリの除去を実証することが計画されています。


JAXAやアストロスケールによると、CRD2のターゲットは温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」を打ち上げた「H-IIA」ロケット15号機の上段(2段目、全長約11m・直径約4m・重量約3トン)です。同ロケット上段は2009年1月の打ち上げ以来地球低軌道を周回し続けており、フェーズIの実証衛星であるADRAS-Jはこのロケット上段の運動や損傷・劣化の状況を把握するために接近して撮影を行う予定です。


【▲ 商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」の実機(Credit: Astroscale )】

アストロスケールによると、ADRAS-Jで実証されるのはデブリ除去事業で不可欠とされる「RPO(Rendezvous and Proximity Operations、ランデブー・近傍運用)」技術です。ミッションは除去対象のデブリに対するランデブー(Rendezvous)、近接アプローチ(Proximity Approach)、近傍運用(Proximity Operation)、離脱(Departure)という手順を踏んで行われます。


除去の対象となるデブリが自らの位置情報を発信していない非協力物体である場合は正確な位置情報が分からず、おおよその位置を地上局からの観測データをもとにして割り出す必要があります。しかし、地上局からの観測データは軌道上から発信される情報よりも精度が低いため、RPOは限られた情報をもとに行わなければならない難易度の高い技術です。アストロスケールによれば、実際のデブリへ安全に接近して状況を明確に調査する試みは世界初とされています。


なお、アストロスケールは2021年3月にスペースデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d(エルサディー)」を打ち上げました。2機で構成される衛星のうちデブリの捕獲機構を搭載した「サービサー」はスラスターの半数を喪失するトラブルに見舞われたものの、もう1機の模擬デブリ役となる「クライアント」へのランデブー、近接運用、捕獲などの実証に成功しています。同社は2024年1月24日、使用可能なスラスターを使ったサービサーの軌道離脱制御運用が行われたことで、ELSA-dのミッションが完了したと発表しました。サービサーは約3年半、スラスターを持たないクライアントは約5年で大気圏に再突入して燃え尽きると予測されています。


 


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Astroscale - アストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」、2月18日に打上げへAstroscale - アストロスケール、ELSA-dミッションにおいて軌道離脱制御の運用を終えミッションを完了Astroscale - ADRAS-J Press KitJAXA - CRD2

文/出口隼詩 編集/sorae編集部