【闘病】やっぱり遺伝していた「アンチトロンビン欠乏症」それでも妊娠・出産を乗り越えられた理由
遺伝性疾患の一つである「アンチトロンビン欠乏症」は、見た目ではわからず自覚症状もない疾患です。しかし、妊娠時や手術の際に高いリスクを伴う疾患であり、適切な治療を行う必要があります。今回お話を聞いた悠里さんは、ご家族にもアンチトロンビン欠乏症の方がいたため、念のために検査を受けたところ発覚しました。その時、悠里さんは第一子を妊娠していました。そこで悠里さんに、アンチトロンビン欠乏症の治療と妊娠出産、その後の治療についてお話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年10月取材。
体験者プロフィール:
悠里さん
20代の女性。2020年2月、第一子妊娠を機に遺伝性疾患の検査を行ったところ、母と同様にアンチトロンビン欠乏症と診断。同年3月から約4カ月間の点滴治療と出産直前までのヘパリンカルシウム皮下注射を実施。2023年4月に第二子を妊娠し、同じく出産直前までの治療を継続。
記事監修:
今村 英利いずみホームケアクリニック
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
アンチトロンビン欠乏症は1/2の確率で遺伝する
編集部
悠里さんの抱えているアンチトロンビン欠乏症とはどのような疾患なのでしょうか?
悠里さん
アンチトロンビン欠乏症は血液凝固制御因子である「アンチトロンビン」という物質の生成が少なく、血が固まりやすくなる疾患です。アンチトロンビン欠乏症になると、血栓症の発症リスクが高まり四肢末端の壊死、紫斑、発熱、腎不全、ショック症状、脳梗塞・脳出血、硝子体出血などを起こすリスクがあるようです。私のように女性の場合、習慣流産を起こしやすくなる点も警戒しなければなりません。
編集部
病気が判明したきっかけは何でしたか?
悠里さん
母親もアンチトロンビン欠乏症で、2分の1の確率で子どもに遺伝すると言われました。2020年2月に第一子を妊娠した際、「妊娠中にこの病気は厄介になる」と聞いていたので検査を行ったところ判明しました。
編集部
病気が判明した時は不安もあったのではないでしょうか?
悠里さん
遺伝してしまう可能性があると前もって聞いていたので、自分の中では「おそらく遺伝してる」と考えていました。そして予想通り「アンチトロンビン欠乏症」と診断されたので、へこむことはなく比較的ポジティブに捉えられていました。病院の先生からも「大変な治療なのに前向きでへこまないのが素晴らしい」と褒められましたね。
編集部
発症後に行った治療についても教えていただけますか?
悠里さん
第一子妊娠の際は、2020年3月から6月まで血液凝固機能を正常に戻す目的でアンチトロンビンⅢ製剤のノイアートの点滴を週2回行いました。ほかには、11月の出産1週間前まで血液凝固を抑えるヘパリンカルシウムを1日2回皮下注射していました。現在第二子を妊娠していますが、同じ治療を行っています。そして、妊娠37週目に入院してヘパリンカルシウム皮下注射を中止し、同じ成分の24時間持続型点滴に切り替え、38週目に無事出産に至りました。出産後もワーファリンを内服して血液凝固が進まないように治療を行いました。
第二子妊娠中に「深部静脈血栓症」を発症
編集部
アンチトロンビン欠乏症の治療を開始されてから、生活にどのような変化がありましたか?
悠里さん
私の場合は妊娠時の検査で発覚したので、それまでの日常生活では何もありませんでした。出産後はノイアートやヘパリンカルシウムもなく、服薬のみなのでそれほど日常生活に変化はありません。ただ、血をサラサラにしているわけですから、少しの怪我でも怖いなと思いながら日々を過ごしています。
編集部
妊娠中に体調面で変化などはありましたか?
悠里さん
現在、第二子妊娠中ということもあり、ワーファリンによる悪影響を避けるために服薬はやめています。そして、2023年4月に妊娠がわかってからは、ヘパリンカルシウムの皮下注のみを行いました。しかし、2023年5月に「深部静脈血栓症」を発症したため、1カ月半ほど入院してノイアート点滴、ヘパリン24時間持続型点滴も行いました。退院後は第一子の時と同じように週2回のノイアート点滴、ヘパリンカルシウム皮下注射を1日2回行う生活です。
編集部
辛かったこと、支えになったことは何ですか?
悠里さん
左足の膝から下に血栓ができてしまったため、激痛を伴いながら車椅子生活を送ったときは辛かったですね。妊娠中であることを考えて、強い痛み止めは使用できず、大して効果のないカロナールを内服し、1週間痛みに耐える日々を過ごしました。気持ちの支えになったのは、赤ちゃんが元気に育ってくれていたこと、そして息子の動画を見ることでした。
編集部
現在、体調面や症状は落ち着いているのでしょうか?
悠里さん
体調面では大きな変化はありません。現在妊娠7カ月ですが、ノイアート点滴とヘパリンカルシウム皮下注射を継続したおかげか、赤ちゃんも無事に成長中です。ただ、皮下注射を1日2回打っているため、太ももとお腹はあざだらけになっており、半ズボンはとても履けません。
編集部
悠里さんが普段の生活で気を使っていること、取り組んでいることはありますか?
悠里さん
アンチトロンビン欠乏症は水分をよく摂らないと血液が固まりやすく、また血栓ができてしまうリスクがあります。日頃から水分をたくさん摂るようにしていて、妊娠中で悪阻がひどい時は水分の点滴をしてもらったこともあります。辛い時もありますが、血栓症になれば私自身だけでなく、赤ちゃんにとっても危険だと思って日々気を付けています。
アンチトロンビン欠乏症は検査でわかるので早めに検査してほしい
編集部
悠里さんの体験を通して、医療従事者にお伝えしたことや希望したいことなどはありますか?
悠里さん
患者さんは、医師に言われた治療に沿うしかありません。もう少し患者さんと先生が対話し、ほかの医師とも意見を共有していろんな治療方法を検討できる体制ができればよいなと思いました。
編集部
ご自身の経験を通じて、同じような症状に悩む女性、妊活中の女性に伝えたいことを教えてください。
悠里さん
もしご両親に血栓症を発症した方がいる場合は、遺伝性の病気が潜んでいるかもしれません。私自身も検査するまでに自覚症状がなかったのですが、妊娠中に母体と赤ちゃんを危険にさらさないためにも、血液検査で早めに確認してほしいです。
編集部
最後に記事の読者へ向けてメッセージをお願いします。
悠里さん
アンチトロンビン欠乏症の方はとにかく妊娠することも妊娠中もハイリスクで、治療も毎日のことで大変と言われています。治療は辛いかもしれませんが、10カ月頑張れば最後に最高の幸せが待っていて、報われる瞬間が訪れます。私も頑張った分、治療をしないと簡単には生まれてこなかった我が子が、なによりも可愛くて愛おしいです。「子どもがほしいけど難しいよね」と思っている人も、諦めないでください。
編集部まとめ
今回は妊娠中にアンチトロンビン欠乏症と診断されながらも、治療の甲斐あって無事に子供の出産を迎えられた悠里さんにお話を聞きました。アンチトロンビン欠乏症は遺伝性疾患で大きく分けて2種類(Ⅰ型とⅡ型)があり、いずれの型も血栓症の発症リスクを持ちます。しかし、全体の約35%の方で、生涯にわたり血栓症を発生しない場合もあり、血栓症を発症する人(全体の約65%)も、男性では手術や外傷が、女性では妊娠などがきっかけとなって血栓症を発症する場合が多いようです。血液検査で比較的簡単に判明するため、家系に血栓症や塞栓症を発症した人がいる方は、一度検査を受けておくことをおすすめします。適切に対応すれば今までに近い生活を送れるので、早めに診断と治療を行うことが大切です。
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