新成人よ、「こんな大人にはなるな!」お笑い芸人・永野が許せない“ダサい生き方”とは…「いまだに『24時間働けますか?』のノリで、『俺、がんばってます!』って顔されても、別にそんなやつらに憧れないですよ」
世の中のあらゆる違和感に対し、舌鋒鋭く切り込むお笑い芸人・永野。独自のスタイルで芸能界をサバイブしてきた“孤高のカルト芸人”が、2024年、新成人に伝えたいメッセージとは。
自分にウソをつかずに生きる時代
――永野さんが思う「嫌な大人」ってどんな人ですか?
永野(以下同) 芸能人で言うと、急にヒロシさんのマネをしはじめたやつは嫌いですね。新成人には「こんな大人にはなるな」と言いたいです。
――ソロキャンプをしている人ということですか?(笑)
はい。ヒロシさんは2015年にソロキャンプで再ブレイクしたけど、もともと記録用に動画を撮っていただけで、本人はバズらせる気なんてさらさらなかったらしくて。
だから、最初にテレビ番組で取り上げられたときも「ひとりでキャンプをする変わった人」という紹介で、「あのヒロシが今はこんなことになっちゃっている」ってイジられていたんです。「いよいよ世捨て人になっちゃったぞ」みたいな感じで。
――完全な変人扱いですね。
当時、「あの人、どうしちゃったんだろうね」ってヒロシさんを嘲笑していた芸能人を僕はひとりひとり覚えているんですけど、そういう人にかぎって、後からソロキャンプブームに乗っかった人が多いんですよ!
ヒロシさんのマネをしている人って、なんかいまだに「24時間働けますか?」のノリで生きている感じがするんですよね。仕事も遊びもがっつりやって、「俺、がんばってます!」って顔されても、僕は別にそんなやつらに憧れないですよ。
――具体的にどんな人ですか?
キャンプに行って、「わー!最高です!」ってSNSに写真をあげるやつです。そういうのを見ると正直疲れません?
たとえば僕がキャンプに行ったとするじゃないですか。火を見て、お酒を飲んで、写真も撮るかもしれないけど、オンタイムでSNSにあげませんよ。結局、「自然を楽しみたい」わけじゃなくて、「他人に褒められたい」という欲が強すぎるんですよね、そういうやつは。
パッキパキの顔して「キャンプで癒されました!」とかSNSにあげる芸能人が多いけど、「嘘つけ!」って思うでしょ? 平成の芸能界を生き抜いてきたタフなやつが、「キャンプで癒されました!」とか急に言いはじめても信じられるか!
――さっきから誰のことを言ってるんですか? 具体的にイメージしている人がいますよね?(笑)
マジメな話、ヒロシさんは自分の好きなことだけをやっているけど、マネをしている人たちは他人の目を気にしすぎているんですよね。そういう生き方ってダサいじゃないですか。
新成人には、自分にウソをつかずに生きていってほしいですね。そういう時代なんじゃないかなと思います。
『エンタ』に出て、ネタにこだわっている芸人ってバカじゃないですか?
――これから社会に出る新成人も多いですが、何か助言はありますか?
若いときって大人とぶつかりがちというか、我を通しがちじゃないですか。そういう時期もあっていいかもしれないけど、大人が言うことにいちいち目くじらを立てず、何事も受け入れてみるのも悪くないですよ。
たまには大人と激論を交わしてもいいけど、合気道みたいに気持ちよくいなせばいいんじゃないですかね。嫌な言い方ですけど、当たり障りなく適当にあしらえばいいんですよ(笑)。
――ときには大人の意見にうまく合わせて受け入れてみるのもありだと。
はい。そのうえで“自分の味”を足してみるとか。やり方はいろいろありますよ。
昔、『エンタの神様』(日本テレビ)で「ゴッホより普通にラッセンが好き」のネタをやったことがあったんですけど、収録中にスタッフが2畳分くらいのカンペに「コーヒーより普通にコーラが好き」とか書いていて。僕はそれを受け入れてノリノリでやったら、スタッフも大喜びでしたよ(笑)。
――永野さんはネタにこだわりを持っていそうなイメージだったので意外です。
TPOに合わせますね。『エンタ』をバカにしているわけじゃないけど、『エンタ』に出て、ネタにこだわっている芸人ってバカじゃないですか?
あるコント師がネタにこだわって『エンタ』のスタッフと議論していましたけど、「この人、何を考えているんだろう?」と思って。『エンタ』を誰もそんなに真剣に見ないよっていう(笑)。
――『エンタ』の視聴者はお笑いのコアファンではなく、ファミリー層が多いから、そこに合わせるべきだと。
そうです。意外だと思われるんですけど、僕、昔から営業で下ネタや毒のあることは基本的に言わないんです。目の前のお客さんが悲しむのは嫌なので。
逆にテレビとかでは、毒のあることを言うと、スタッフが笑ってくれるから言いますしね。そこはTPOに合わせて。求められたことをやるだけです。
令和ロマン優勝で暗い顔をした、中年ピン芸人
――お笑い芸人を志す若者に向けて、「こんな芸人にはなるな」という忠告はありますか?
売れてもないのに、他人のことばかり気にする芸人にはなってほしくないですね。
『M-1グランプリ』の日に、40歳を過ぎて売れていないピン芸人の後輩と仕事をしたんですよ。そしたら、「今日ですね。優勝、誰でしょうね」って彼がソワソワしていて。
いやいやいや、おまえには関係ないし! 『M-1』を見ている場合じゃないだろ。ピンだったら、『R-1グランプリ』でがんばれよって思いましたね。
――他人のことを気にしている場合じゃないと。
令和ロマンが優勝して、彼が暗い顔をしたんですよ。若さも学歴も芸もすべて、令和ロマンに負けているから。スカッとしましたね(笑)。
そういう人って、きっと錦鯉の長谷川雅紀さんが50歳で『M-1』優勝したとき、自分を投影して泣いたはずなんですよ。そういうノリも嫌なんですよね。
「俺、エンジンコータローと表裏一体だ!」
――売れていない芸人さんといえば、永野さんも推薦人として出演した『水曜日のダウンタウン』(TBS)の「スベリ-1 GP」で優勝したエンジンコータローさんを最近取材したんですが、スベリ芸人の烙印を押されたので、今後の仕事をどうしていいか悩んでいました。
いやいやいや、優秀な大人の言うことを聞いて、すべて任せておけばいいんですよ。おまえは何も考えるな!
僕が思うにエンジンはナイーブすぎるんです。自分が推薦したゆきおとこさんや、ギブ↑大久保さんは違いました。どんなカタチであれ、テレビに呼ばれたことでテンションが上がっているんですよ。
ゆきおとこさんなんて、後日、ご丁寧に僕へお礼の手紙をくれましたし、ギブ↑大久保さんに関しては「ギブ↑大久保と『水曜日のダウンタウン』のオンエアを見よう」みたいな企画ライブもやったらしいですから。さすがですよ。何事もおいしいと思うマインドは大事ですよね。かっこいいです。
――「スベリ-1 GP」はプラスにとらえていいですよね。
大チャンスだと思います。僕、2016年あたりの『日経エンタテインメント!』で「つまらない芸人」の1位に選ばれているんですよ。ということは、僕もエンジンと一緒なんです。
僕も不思議なことをやる地下芸人だったので、そこもエンジンと一緒。ラッセンのネタなんて、何を言っているかわからないけど、リズムネタで万人にわかりやすいから、たまたま世に出ただけですよ。もし僕がブレイクする前にドッキリで「スベリ-1 GP」に呼ばれていたら、シュールなネタをやって、エンジンになっていた可能性が高い。
実は収録中に「俺、エンジンコータローと表裏一体だ!」と思ったんです。だから、エンジンのネタを見ていて、「危ねぇ!」と思って笑えなかったです(笑)。
――エンジンコータローさんが永野さんのようにメジャーになるにはどうすればいいですか?
マジでなんでも受け入れて経験するべきだと思います。「サムい芸人が来た」とイジられるような営業に呼ばれたとしても、それでお金をもらえるんなら行けばいい。逆に、もしそこでウケたら、こっちのもんじゃないですか。
だから、「エンジンよ。開放せよ」と言いたいです(笑)。
――いつのまにか新成人ではなく、41歳のエンジンコータローさんへのアドバイスになってしまいましたね(笑)。
昔の自分を見ているようで気になるんですよ……。だって、41歳のシュールっていちばんヤバいじゃないですか(笑)。
取材・文/インタビューマン山下 撮影/井上たろう