この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。

ファッションレンタルサービスは2024年に向けて、予算に慎重な顧客をより多く獲得することを目標に据えている。

この分野の業者にとって、業績は明暗が分かれている。12月初頭にレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)は、第3四半期の収益が6.3%減の7250万ドル(約104億円)になったことを報告した。テルセイアドバイザリーグループ(Telsey Advisory Group)によると、同社が2021年に上場してから初めて加入者数も減少した。一方でアーバンアウトフィッターズ・インコーポレーテッド(Urban Outfitters Inc.)のヌーリー(Nuuly)は、第3四半期に黒字に転じ、2023年10月31日までの3カ月間には加入者数が前年同期比で68%増加した。4月には、タキシードレンタルプラットフォームのザ・ブラック・タックス(The Black Tux)は、収益がパンデミック前の水準よりも35%増加したとグロッシー(Glossy)に語った。

このような業績の差の一因は、レンタル企業のビジネスモデルによるものだ。たとえば、レント・ザ・ランウェイの共同創設者兼CEOのジェニファー・ハイマン氏は、伸び悩みの理由のひとつとして「在庫の量の問題」を決算説明会で指摘した。これに対してヌーリーはアンソロポロジー(Anthropologie)、アーバンアウトフィッターズ、フリーピープル(Free People)などの姉妹ブランドの商品を提供しているため、在庫管理が簡単であるという利点があるのだと、カーニー(Kearney)のパートナーであるノーラ・クレイネウィリンホーファー氏は米モダンリテールに語った。

消費者の行動も関係している。フルプライスの商品よりもレンタルにお金を払いたいと考える買い物客がいる一方で、自分のクローゼットにあるものを流用できるならどちらも控えるという人たちもいると、クレイネウィリンホーファー氏は言う。「今年の後半は、消費者が支出をためらう傾向が強く見られる」と同氏は語った。

集客のためのアップデート



自社サイトを利用する買い物客を増やすそうと、いくつかのレンタルプラットフォームでは新年に合わせた変更を行おうとしている。たとえばレント・ザ・ランウェイは12月上旬に、ザ・ボールト(The Vault)という1回限りのレンタル専用のラグジュアリーコレクションを開始した。2021年に創設されたピアツーピアレンタルアプリのビックル(Pickle)は、出品アイテムに約5万アイテムを追加したあと、ニューヨーク市に初の実店舗を開設した。2月に創設されたピアツーピア・レンタル&リセールアプリのリスーツ(ReSuit)は、プラットフォームを1年間無料で開放することで、より多くのデザイナーをサイトに呼び込もうとしていると、共同創設者のナダ・シェファード氏は米モダンリテールに語った。

これらの変更は、各企業が2023年に実施したほかのアップデートに続くものだ。たとえばヌーリーは4月、新規契約者向けに標準月額プランを88ドル(約1万2700円)から98ドル(約1万4100円)に値上げした。3月には、レント・ザ・ランウェイが、サブスクリプションのプランをアップデートし、毎回の発送に追加アイテムを恒久的に含めることにした。しかし、品物の価格や数量に留まらず、異なる体験を求める消費者にアピールするため、品揃えと販売チャネルを変更するプラットフォームも増えている。

レント・ザ・ランウェイは、自社のサービスであるザ・ボールトのために、ハイエンドのガウンの新しいコレクションを企画した。ザックポーゼン(Zac Posen)やエトロ(Etro)といった参加するブランドの多くは、これまでレント・ザ・ランウェイで扱われたことがなかったものだ。CEOのハイマン氏は、米モダンリテールとのインタビューにおいて、ザ・ボールトを「真のラグジュアリーへの第一歩」と呼んだ。

「消費者が望んでいるのはこれだ。消費者はソーシャルメディアのおかげで、これまでよりラグジュアリーに慣れ親しんでいる」と、ハイマン氏は話した。

新しい顧客ベースの獲得



レント・ザ・ランウェイは1月、Amazonでデザイナーコレクティブ(Designer Collective)を発売したが、これらの商品をラグジュアリーとはみなしていないとハイマン氏は説明する。同社はメーカー希望小売価格とブランド別にラグジュアリー商品を定義している。ザ・ボールトの商品は、通常1000ドル(約14万4000円)から8000ドル(約115万円)で販売されているが、レンタル価格はパリジョージア(Paris Georgia)のスリップドレスの30ドル(約4320円)から、オスカー・デ・ラ・レンタ(Oscar de la Renta)のガウンの400ドル(約5万7600円)まで幅がある。

ザ・ボールトの成功は、この新しいサービスを既存のメンバーにどれだけ上手に伝えられるかで判断されると、ハイマン氏は述べる。「これによって、多くの顧客が特別なオケージョンに向けたビジネスに戻ってくると考えている。20代の頃に顧客だった人たちが、現在は30代か40代前半になり、以前とは異なるイブニングウェアの品揃えを望むようになっていると思われる。そしてもちろん、これらのブランドによって独自の新しい顧客ベースも呼び込めるだろう」と同氏は述べている。

「我々のサイトでこうした素晴らしいブランドを扱っていることを人々が知れば、レント・ザ・ランウェイを訪れること自体にもっと興味を持ってくれるようになるだろう」とハイマンは付け加えた。

今後の成長を見据えた取り組み



リスーツは新しいアプリとして、まだユーザーベースとマーケットプレイスを築き上げている最中だと、シェファード氏は米モダンリテールに語った。現在のところ、このアプリのメンバー数は800人、出品数が200点ほどだと、同氏は述べる。「多くの人がアプリを使っているが、今はプラットフォーム上の商品をさらに充実させる必要がある」と、同氏は述べている。

2024年に向けて、プラットフォームを利用するデザイナーが増えると同時に、リスーツ用のために特別にデザインされたコレクションが増えることも期待していると、シェファード氏は述べた。リスーツと提携するデザイナーは12カ月間クレジットカードの決済手数料を支払う必要がないといい、これはデザイナーの受け取る収益が増えるということを意味する。「美しいガウンのデッドストックがあっても、80%オフで販売したくないなら、リスーツでレンタルすることで投資を回収できるかもしれない」と同氏は言う。

一方、ヌーリーは、ミズーリ州レイモアにフルフィルメント・センターを新設し、ブランドにとって過去最高となる20万人の加入者を抱えて新年を迎える。ヌーリーはこの施設によって、「将来に向けて健全に成長し、現在の加入者数の3倍以上の数をサポートできる」と、プレジデントのデイブ・ヘイン氏は決算説明会で語った。

市場成長の可能性



レンタル市場の成長予測は、情報源によって異なる。ある推計では、この分野のCAGR(年平均成長率)は2030年まで8.5%だとし、別の推計では、2033年まで10.6%だとされている(2019年のある推計では、2023年までのCAGRが11%とされていた)。カーニーのクレイネウィリンホーファー氏は、レンタル業界に依然残っているトレンドの変化や、アイテムの季節性、競合の激化などの課題を考えると、これらの推計が「多少楽観的な面がある」という。

クレイネウィリンホーファー氏はレンタルについて、「市場の広さから、成長の可能性は大きいと考えている。レンタルを信頼し、利用しはじめている消費者は増えていると思う」と述べる。それでも、「レンタルは多くの消費者にとって比較的新しい体験だろう」とも同付け加えた。

[原文:Fashion rental services are recalibrating their approaches in 2024]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Rent the Runway The Vault