必須アミノ酸「イソロイシン」の摂取量を減らすと寿命が延びることが判明
栄養不足は健康の維持や長寿の大敵で、特に体内で合成できない必須アミノ酸は文字通り人が生きていくのになくてはならない栄養素です。そんな必須アミノ酸の1つである「イソロイシン」の摂取量を制限したところ老化が遅くなり、寿命が延びることすらあることがマウスの実験により判明しました。
Dietary restriction of isoleucine increases healthspan and lifespan of genetically heterogeneous mice: Cell Metabolism
Cutting Back on One Amino Acid Increases Lifespan of Middle-Aged Mice Up to 33% : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/cutting-back-on-one-amino-acid-increases-lifespan-of-middle-aged-mice-up-to-33
イソロイシンは、アミノ酸の中でも特にタンパク質の合成に重要な3つの分枝鎖アミノ酸(BCAA)のうちの1つで、体内で作れない必須アミノ酸でもあります。そのため、人は卵や乳製品、大豆、肉類などからイソロイシンを摂取しなければ体を維持することができません。
しかし、必要だからといって大量に摂取すればいいというわけでもないことが、少しずつわかってきました。例えば、2021年に発表された研究では、BMIが高い人ほどアミノ酸を多く摂取している傾向があることや、食事に含まれるイソロイシンの量が代謝の健康と関連していることが判明しています。
先行研究から、「特定のアミノ酸と健康寿命との間に何らかの関連性があるのではないか」との仮説を立てたアメリカ・ウィスコンシン大学のダッドリー・W・ラミング氏らは、マウスにアミノ酸の含有量をコントロールしたエサを与える実験を行いました。
実験はマウスが生後6カ月、人間に当てはめると30歳ほどの年齢の時点で開始されました。マウスは3つのグループに分けられ、各グループのマウスには「アミノ酸が豊富に含まれたエサ」「アミノ酸を3分の1にしたエサ」「イソロイシンだけを3分の1にしたエサ」のいずれか1種類が与えられました。
「アミノ酸が豊富に含まれたエサ」には20種類のアミノ酸がバランスよく含まれており、カロリーに占めるタンパク質の割合は自然なマウスの食事の21%に合わせられました。一方、「アミノ酸を3分の1にしたエサ」はアミノ酸を67%カットする代わりに炭水化物を増やしました。また、「イソロイシンだけを3分の1にしたエサ」では、減らしたイソロイシンの代わりに他の種類のアミノ酸が多く配合されました。脂肪分や総カロリーは3種類とも同じで、各グループのマウスは割り当てられた種類のエサを好きなだけ食べることができたとのこと。
3種類のエサでマウスを飼育した結果、イソロイシンを制限されたマウスは寿命と健康寿命の両方が長くなり、体は丈夫になり、体重や脂肪は減り、グルコース恒常性、つまり血糖コントロールは改善されました。具体的には、イソロイシンが制限されたオスのマウスは制限されなかったマウスに比べて寿命が33%、メスは7%延びたとのことです。
イソロイシン制限フードを与えられたマウスは、他にも筋力、持久力、尻尾の使い方、毛並みなど26種類の健康指標でも良好なスコアを示しました。また、オスのマウスは加齢に伴う前立腺肥大の発生率が少なく、さまざまな血統のマウスに共通するがん性の腫瘍の発生も抑制されていました。
興味深いことに、低イソロイシンのグループのマウスは、他のマウスに比べて多くのカロリーを摂取しましたが、活動量に差がなかったにもかかわらずより他のグループのマウスより多くのカロリーを消費し、その結果やせた体重を維持することができたとのことです。
研究チームは、イソロイシンを制限すればマウスだけでなく人間でも同様の老化防止効果が得られる可能性があると考えています。とはいえ、1種類のフードだけで飼育できるマウスとは違って人間の食事は多様なので、イソロイシンだけを減らした食事の実現は困難です。また、イソロイシン以外の栄養素も長寿に関係している可能性が十分にあるほか、タンパク質が不足するのは一般的に体に悪いため、タンパク質が豊富な食材を抜けばいいということもでもありません。
ラミング氏は「人々の食事をすべて低イソロイシン食に切り替えることはできません。しかし、長寿のメリットに関係している栄養素を1つのアミノ酸に絞り込めれば、生物学的プロセスの理解が深まり、イソロイシン阻害薬のような人間向けの治療への応用も可能になるでしょう」と話しました。