ボーイングとNASAが、「トラス・ブレース翼」と称される、非常にユニークな翼型を特徴とした実証機の開発を進めています。この翼型にはどのようなメリットがあり、どのように生み出されたのでしょうか。

主翼にまさかの「柱」?

 アメリカの航空機メーカー、ボーイングとNASA(アメリカ航空宇宙局)では、「遷音速トラス ブレース翼機」(Transonic Truss-Braced Wing)なるタイプの実証機「X-66A」の開発を進めています。この機は「トラス・ブレース翼」という従来にないユニークな翼型を特徴とします。


ボーイングらが開発を進める「X-66A」(画像:ボーイング)。

 X-66Aに装備される「トラス・ブレース翼」は、胴体の大きさからすると非常に長く、なおかつ極めて薄いのが特徴です。その主翼の下には、胴体下部から主翼中盤にかけて斜めに別の翼が取り付けられており、支柱のように主翼を下から支えています。「トラス(三角)」の名前は、この翼型が機体前方・後方から見ると、三角形に見えるためです。

 NASAによると、この翼型にすることで空気抵抗を限りなく減らし、従来よりはるかに燃料効率の良い航空機の開発が期待できるとのこと。実証機は、現在実用化されている単通路(通路が1本)航空機と比較し、燃料消費と二酸化炭素排出量を最大30%削減することを目標としています。

 X-66Aは旅客機「MD-90」をベースに、胴体を短縮のうえ、翼とエンジンを交換するなどして整備されています。2023年8月には、ベース機が改造作業を行う工場に到着しており、12月現在は改修作業の段階へ移行していると見られます。

 先述のとおり、この翼の形は現在一般的に想起される旅客機のそれとは大きく異なるもの。どのようにしてこの形状が生まれたのでしょうか。

「トラス・ブレース翼」誕生の経緯とは

 ボーイングの資料によると、「トラス・ブレース翼」は2007年、若手航空宇宙エンジニアだったザック・ホイジントン氏などの発案により誕生したものだそうです。

 同氏はかねて、支柱を翼に組み込む構造で軽量かつ強靭な翼を設計することに興味をもっていたそう。そうしたなかで、翼の位置を高く、全長を長く、かつ薄くする案として「トラス・ブレース翼」の飛行機を思いついたと記載されています。


改修地へ到着したMD-90。今後「X-66A」へと生まれ変わる予定だ(画像:ボーイング)。

 支柱は翼の付け根部分を堅牢にします。そのうえで翼を薄くすることで、翼端の柔軟性を高めているそう。この構造により、現行の(胴体下部を翼が貫いている)旅客機でよく見られる、翼端がしなるように大きくせりあがった形状を再現できるとのこと。

 その一方、高翼にすれば翼と胴体の離隔が大きくなるため、その間へ先進的な推進システムを搭載できるようになるといいます。

 なお「X-66A」にはプラット&ホイットニー社が製造するギヤード・ターボファンエンジンが搭載されると発表されています。一般的に現代のジェット旅客機用のターボファンエンジンは高性能、つまり低燃費・低騒音であるほど大型化する傾向にありますが、この翼型を採用することで、「性能がよくても大きすぎてエンジンを搭載できない」というリスクは大きく減るということでしょう。

 なお、「X-66A」の地上・飛行試験は2028年に開始する計画とのこと。今回の実証機はあくまでテストとはなりますが、もしこれが高い実力を発揮できれば、将来的にこれが「旅客機のスタンダード」となる可能性もありえるかもしれません。