褐色矮星か浮遊惑星か? ウェッブ宇宙望遠鏡がペルセウス座の散開星団で見つけた3つの天体
こちらは「ペルセウス座」の方向約1000光年先の散開星団「IC 348」の中心付近です。IC 348は誕生から500万年程度しか経っていないとみられる若い散開星団です。
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された散開星団「IC 348」の中心付近(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, and K. Luhman (Penn State University) and C. Alves de Oliveira (European Space Agency))】
IC 348はペルセウス座分子雲(Perseus molecular cloud)と呼ばれる星形成領域にあります。星形成領域とはその名の通り、ガスや塵を材料にして新たな星が形成されている領域のこと。星はガスや塵が高密度に集まった分子雲の中でも、特に濃い部分が重力によって崩壊する(潰れる)ことで誕生すると考えられています。
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
ペンシルベニア州立大学のKevin Luhmanさんを筆頭とする研究チームは、ウェッブ宇宙望遠鏡によるIC 348の観測データを分析した結果、恒星のように形成された天体としてはきわめて質量が小さい褐色矮星を3つ発見したとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文はThe Astronomical Journalに掲載されています。
褐色矮星は恒星と惑星の中間的な天体です。誕生した星の中心部で水素の核融合反応が継続するには、その質量が太陽の約8パーセント(木星の約80倍)以上でなければなりません。褐色矮星の質量はそれよりも軽いので恒星のように核融合反応で輝くことはなく、形成時の余熱を赤外線として放射しています。
「最も軽い星は何か」という疑問の答えを見出そうとしているLuhmanさんは、欧州宇宙機関(ESA)のCatarina Alves de Oliveiraさんたちとともにウェッブ宇宙望遠鏡でIC 348の観測を実施しました。IC 348はまだ若く、余熱を放出する褐色矮星も赤外線では明るく輝いて見えます。そのうえ高感度・高解像度な観測を行えるウェッブ宇宙望遠鏡には、赤外線で暗く見える天体を地上の望遠鏡よりも検出しやすく、また褐色矮星と背景の銀河を識別しやすいというメリットがあります。
観測の結果、研究チームは質量が木星の3〜8倍、表面温度が830〜1500℃の天体3つをIC 348で発見しました。コンピューターモデルを用いて分析したところ、そのうち1つの質量は木星の3〜4倍でしかない可能性が示されたといいます。
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で見つかった褐色矮星とみられる3つの天体(1, 2, 3)の位置と拡大像(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, and K. Luhman (Penn State University) and C. Alves de Oliveira (European Space Agency))】
褐色矮星の質量の上限(すなわち恒星の質量の下限)は、前述の通り「中心で水素の核融合反応が継続する下限の質量」として定めることができます。その一方で、褐色矮星の質量の下限は不明確です。木星の質量の約13倍を下限とする場合もありますが、これまでに5500個以上が見つかっている太陽系外惑星の中には質量が木星の20倍を上回るものが幾つも存在します。今回見つかった天体の質量は惑星の範囲内と言えますから、恒星の周囲で形成された後に系から放り出された浮遊惑星(自由浮遊惑星)なのではないかという疑問が生じます。
しかし、研究チームはこれらの天体が浮遊惑星である可能性は低く、恒星と同じように分子雲の崩壊で形成された褐色矮星の可能性が高いと考えています。巨大な浮遊惑星は小さな浮遊惑星と比べてまれな存在であること、恒星の多くを占める小質量星の周囲で巨大な惑星が形成される可能性は低いこと、若いIC 348では惑星系から巨大な惑星が放り出されるほどの時間がまだ経っていないと考えられることがその理由です。
今回見つかった天体が褐色矮星だとすると、別の疑問が生じます。質量が大きな分子雲では星を生み出すのに十分な重力が働きますが、質量が小さな分子雲では働く重力も弱く、現在の理論では巨大な惑星に匹敵するほど軽い褐色矮星がどうやって形成されるのかを説明するのは困難だといいます。Alves de Oliveiraさんは、太陽の300分の1という非常に小さな質量の天体がどのようなプロセスで形成されたのかを問わなければならないと指摘しています。
見つかった天体は褐色矮星なのか浮遊惑星なのか、褐色矮星だとしたらどうやって形成されたのか。こうした疑問はIC 348のさらなる観測を通して明らかになるかもしれません。浮遊惑星は星団の外側部分で見つかる可能性が理論上では高く、より長時間の観測を行えば木星と同じくらいの質量の天体も検出できる可能性があるといいます。
Luhmanさんは「もしも放り出された巨大な惑星がこのように若い星団にも存在するのであれば、ウェッブ宇宙望遠鏡なら見つけることができるはずです」と期待を寄せています。ウェッブ宇宙望遠鏡によるIC 348の観測は、星の形成過程や太陽系外惑星についての新たな知見をもたらすことになりそうです。
ウェッブ宇宙望遠鏡で観測したIC 348の画像は同望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)をはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)やESAから2023年12月13日付で公開されています。
Source
STScI - NASA's Webb Identifies Tiniest Free-Floating Brown DwarfNASA - NASA’s Webb Identifies Tiniest Free-Floating Brown DwarfESA/Webb - Webb identifies tiniest free-floating brown dwarfPennsylvania State University - NASA’s Webb identifies tiniest free-floating brown dwarfLuhman et al. - A JWST Survey for Planetary Mass Brown Dwarfs in IC 348 (The Astronomical Journal)
文/sorae編集部