TSMCは半導体の微細加工技術で世界の先頭を走る。写真は台湾の本社工場(ウェブサイトより)

半導体の受託製造(ファウンドリー)世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)のヨーロッパ初の工場建設計画が一歩前進した。ドイツの独占禁止法当局である連邦カルテル庁が11月7日、TSMCとヨーロッパの半導体大手3社による合弁会社設立を認めると発表したのだ。

合弁会社の名称は「ヨーロピアン・セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(ESMC)」。出資比率はTSMCが70%、ドイツのボッシュ・グループ、インフィニオン・テクノロジーズ、オランダのNXPセミコンダクターズがそれぞれ10%となっている。

「ドイツ産業界にとって重要」

今回の連邦カルテル庁の判断は、ESMCの設立がドイツの独禁法にあたる「競争制限禁止法」の要件をクリアしたことを意味する。

「最近の地政学的な激変は、半導体を安全に調達できることの重要性を際立たせた。これはドイツ産業界にとってとりわけ重要だ」。連邦カルテル庁のアンドレアス・ムント長官は、声明のなかでそうコメントした。

3カ月前の8月8日、TSMCは最大39億9993万ユーロ(約6432億円)を投じてドイツのドレスデンに半導体工場を建設すると発表。合弁パートナーの出資や金融機関からの借入金、欧州連合(EU)およびドイツ政府の補助金などを合算した総事業費は100億ユーロ(約1兆6081億円)を見込む。

ESMCの設立に関して、ドイツ連邦カルテル庁は主に2つの面から審査を行った。第1に、ヨーロッパの3社がESMCに参画することで、3社以外の顧客の半導体調達に与える負の影響がどの程度あるか。第2に、ESMCの設立により、競合のファウンドリーが特定の製品に関して十分な顧客を確保できなくなる可能性がどの程度あるかだ。


TSMCは日本の熊本県でも新工場を建設中だ。写真はその完成予想図(同社ウェブサイトより)

その結果、連邦カルテル庁はこれらの懸念に対して「心配する必要はない」との判断を下した。その根拠として同庁は、ESMCと同業のアメリカのグローバルファウンドリーズが、同じドレスデンに大型工場を構えている(ため、ESMCが独占的サプライヤーにはなり得ない)こと、世界の半導体の供給能力および需要は着実に拡大しており、ESMCの競合企業が顧客を見つけられなくなる理由は見当たらないことなどを挙げた。

2027年末の生産開始目指す

TSMCは、ESMCの新工場に回路線幅22〜28nm(ナノメートル)の平面CMOS(相補性金属酸化膜半導体)および同12〜16nmのFinFET(3次元構造の電界効果トランジスタ)の製造技術を導入し、12インチウエハー換算で月間4万枚の生産を計画する。それにより、現地に2000人のハイテク技術者の新規雇用が生まれると見込む。


本記事は「財新」の提供記事です

工場の建設工事は2024年後半に開始し、2027年末の生産開始を目指している。TSMCはヨーロッパ以外でもアメリカのアリゾナ州と日本の熊本県に新工場を建設中で、中国本土でも江蘇省南京市の既存工場の拡張工事を進めている。

(財新記者:杜知航)
※原文の配信は11月8日

(財新 Biz&Tech)