ESAのユークリッド宇宙望遠鏡が撮影した不規則銀河「NGC 6822」
こちらは「いて座(射手座)」の方向約160万光年先の不規則銀河「NGC 6822」です。不規則銀河は渦巻銀河で見られるような星々が集まった中心部や渦巻腕(渦状腕)、回転対称の円盤部といった明確な構造を持たないとされています。
【▲ 欧州宇宙機関(ESA)のEuclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡で撮影された不規則銀河「NGC 6822」(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre (CEA Paris-Saclay), G. Anselmi)】
NGC 6822は私たちが住む天の川銀河と同じ「局部銀河群(局所銀河群)」と呼ばれる銀河のグループに属しており、1884年にアメリカの天文学者エドワード・エマーソン・バーナード(Edward Emerson Barnard)によって発見されたことから「Barnard's Galaxy(バーナードの銀河)」とも呼ばれています。
この画像は欧州宇宙機関(ESA)の「Euclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡」の「可視光観測装置(VIS)」と「近赤外線分光光度計(NISP)」で取得したデータをもとに作成されました。Euclidは可視光線だけでなく人の目では捉えられない赤外線の波長でも観測を行うため、画像の色はデータ取得時の波長に応じて着色されています(700nm付近を青、1.1μm付近を緑、1.7μm付近を赤で着色)。
2023年7月に打ち上げられたEuclid宇宙望遠鏡は、暗黒エネルギー(ダークエネルギー)や暗黒物質(ダークマター)の謎に迫ることを目的に開発されました。数十億個の銀河の画像化を目指すEuclidの観測データをもとに、暗黒物質が形成したと考えられている宇宙の大規模構造に沿って分布する銀河の立体地図を作成することで、宇宙の膨張を加速させていると考えられている暗黒エネルギーについての理解も深まると期待されています。
【▲ Euclid(ユークリッド)宇宙望遠鏡で撮影された不規則銀河「NGC 6822」の一部を拡大した画像(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre (CEA Paris-Saclay), G. Anselmi)】
この宇宙が誕生したばかりの頃には、水素、ヘリウム、それにわずかな比率のリチウムしか存在していなかったと考えられています。天文学で「金属」と総称されるヘリウムよりも重い元素のほとんどは、恒星内部の核融合反応によって生成されてから外部へ放出されたり、重い恒星が起こす超新星爆発などの激しい現象にともなって生成されたとみられています。言い換えれば、宇宙の金属量は恒星の世代交代が進むとともに増えてきたことになります。
ただ、銀河の金属量はどれも同じというわけではありません。ESAによればNGC 6822は金属量が少なく、初期の宇宙における星の形成や塵の進化を理解する上で興味深い天の川銀河近くの対象であることから、最近では「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」による観測も行われました。Euclid宇宙望遠鏡による今回の観測では、画像では紫色をしている幾つもの星形成領域だけでなく、銀河がどのようにして作り上げられてきたのかを理解する上での手掛かりを得られる球状星団も数多く捉えられているということです。
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Euclid宇宙望遠鏡で撮影されたNGC 6822の画像は、Euclidミッションにおける初のフルカラー画像の一つとしてESAから2023年11月7日付で公開されています。
Source
ESA - Euclid’s view of irregular galaxy NGC 6822
文/sorae編集部