「平屋ブーム」到来?! ここ10年で、なぜ1階建ての人気が上昇しているのか
ここ数年、新築住宅に占める1階建ての平屋住宅が増えています。子どもたちが独立して夫婦だけになったシニア世帯から、小さな子どもが一人の子育て世帯、そしてシングルまで幅広く支持されているようです。首都圏などの大都市圏に住んでいるとあまり見かけませんが、なんと、新築住宅の半数を平屋が占める地域もあるようです。
10年でほぼ2倍に
1階建ての平屋住宅がどれくらい増えているのか、国土交通省の「建築着工統計調査」を見てみましょう。
図表1にあるように、2012年には新設の居住専用住宅は44万8,235戸で、そのうち1階建ては3万604戸。3万604戸÷44万8,235戸で、平屋の占める割合である平屋率は約6.8%でした。
そこから平屋率は徐々に高まり、2019年には居住専用住宅は45万9,418戸、うち1階建ては4万8,585戸となり、平屋率は約10.6%とついに10%台に乗りました。その後、2022年には約13.5%に増加。専用住宅に占める平屋率は、10年間でほぼ2倍に増えた計算です。
同じく「建築着工統計調査」から、新設住宅全体の着工戸数をみると、2012年は88万2,797戸だったのが2022年は85万9,529戸となり、10年間でむしろ約2.6%減少しています。着工戸数全体が落ち込む中、平屋の割合は2倍になっているのですから、平屋が注目されるのは当然のことでしょう。
平屋で十分なライフスタイルの人が増えている?
こうした変化を踏まえて、株式会社リクルートのSUUMOリサーチセンターでは、2023年は「平屋回帰」をトレンドキーワードに挙げました。
首都圏などの大都市圏に住んでいると、平屋の住宅を見かけることは多くないでしょう。ところが地方に行くと、広い敷地を生かして階段の昇り降りがない平屋の戸建て住宅を建てる人が多く、それが年々増えているのです。
なぜ、平屋が増えているのでしょうか。
さまざまな要因が考えられますが、単身や夫婦二人世帯、一人親世帯、高齢者世帯などの少人数世帯化が急速に進行していることが第一の要因でしょう。家族の人数が減り、2階建て、3階建てにするほどの広さが必要なくなっているわけです。高齢者世帯も増えているため、階段の昇り降りが大変な2階、3階建てよりも、暮らしやすい平屋が選ばれるという要因もあるでしょう。
ライフスタイルの変化も要因の一つとして考えられます。たとえば、家具や衣類などをフリマアプリで購入して一定期間が経過したらまたフリマアプリで売ったり、CDやDVDなどは購入せずにデジタル、サブスクで楽しんだりすることがごく一般的になっています。所有するより利用することに重点が置かれ、モノを持たなくなっている人が増えているのです。そのため、2階建て、3階建てで延床面積が広い住まいは必要なく、1階建ての平屋で十分というわけです。
平屋を検討する人が5年で5.5ポイント増加
リクルートのSUUMOリサーチセンターでは、毎年注文住宅を建築した人と建築を検討している人を対象に「注文住宅動向調査」を行っています。その調査でどんな住宅を検討したのかを聞いています。
トップは自然災害の多さから「地震に強い住宅」。以降、「家事ラク」「子育て」などの工夫が続いていますが、7位に「平屋の住宅」が入っています。しかも、2018年には約12.4%だったものが、2022年には約17.9%に増加、5年間でその割合が5.5ポイント高まっているのです。平屋を検討する人が増えていることが分かります。
近年のSDGsへの関心の高さなども平屋ブームを後押ししているのかもしれません。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、国の目標として住宅の省エネ化が推進され、消費者の地球環境への貢献意識が高まっています。昨今のエネルギー価格の高騰に直面してコスト意識が強まり、何かとコストを抑制できる平屋が注目されるようになった、という面もあると考えられます。
平屋率が最も高いのは宮崎県の55.8%
東京圏、大阪圏などの大都市部に住んでいると、平屋住宅を見かけることはなかなかありません。ましてや、1階建ての新築住宅を建てたという人の話もほとんど聞くことがないのではないでしょうか。
では、どこで平屋が増えているのか、図表3を見てみましょう。これは、リクルートのSUUMOジャーナルが先の「建築着工統計調査」 をもとに都道府県別に平屋率をランキング化したものです。
2022年に平屋率が最も高かったのは、宮崎県の55.8%でした。次いで、鹿児島県が52.4%で、50%を超えているのはこの両県のみでした。しかも、2014年にはそれぞれ43.4%、42.2%でしたから、8年間で10ポイント以上割合が高まっています。
3位は沖縄県の41.7%ですが、こちらは2014年の47.4%から、5.7ポイント平屋率が低下しています。
福岡県を除く九州は「平屋の王国」
平屋率の高い県は、宮崎県、鹿児島県を含めて九州、四国・中国地方の県がずらりと並んでいます。特に、九州については福岡県を除いた6県が上位10位までに入っており、九州はまさに「平屋の王国」と言えます。どうしてこんなに九州で平屋率が高いのでしょうか。
いくつかの要因が重なっていると考えられますが、土地が比較的安く手に入るため、建物を上に伸ばす必要はなく、平屋でも十分な広さがとれる、というのが第一。そして、熊本県を中心に近年は大規模地震が相次いで発生したこともあり、地震で2階建て、3階建て住宅の倒壊をみて、地震の揺れに強い平屋への注目度が高まっているのでしょう。
さらに、台風の多さも平屋率の高さに影響がありそうです。暴風に耐えるためには、風が当たる面が多い2階建て、3階建てより1階建てのほうが安心です。
加えて、鹿児島県では桜島の噴火の影響も指摘されています。しばしば大量の火山灰が降るため、屋根に積もった火山灰や雨どいを掃除するのにも、平屋のほうが対処しやすいという面があります。
なぜ沖縄県では平屋率が低下しているのか
平屋率の高い都道府県の中で、なぜ沖縄県だけ平屋率が低下しているのでしょうか。平屋率の高い県はすべて8年前に比べ平屋率が高まっていますが、沖縄県では低下しているのです。
戸建て住宅の構造別の割合をみると、全国的には木造の割合が9割ほどを占めていますが、沖縄県では木造の割合は10%から20%程度と言われてきました。沖縄県は本州や九州などに比べて森林地帯が少なく林業があまり発展しなかったことや、台風も多いことから木造住宅よりも鉄筋コンクリート造やコンクリートブロック造の住宅が主流になってきたのです。
昨今では鉄筋やコンクリート価格が高騰して、鉄筋コンクリート造住宅価格が上昇しました。そこへ本州から大手住宅メーカーが本格的に参入し、木造住宅の割合が高まってきています。木造住宅は平屋ではなく、2階建て以上で建てられることが多いため、平屋率の高い県の中では沖縄県のみ平屋率が低下するという結果につながっているようです。沖縄県では、最近は地価上昇率が高いエリアが増え、広い敷地を取得しにくく、狭い敷地に二階建て、三階建てを建てざるを得なくなっているという面もあるのかもしれません。
平屋率が最も低いのは東京都の1.4%
日本で平屋率が最も低いのは、おおむね想像がつくように東京都でした。東京で平屋住宅を見ることが少ないのも、この数字からすれば当然のことでしょう。それでも、平屋率は2014年の1.1%から2022年には1.4%に微増となっています。
東京都は土地代が高いため、限られた予算の中で取得できる土地はどうしても狭くなってしまいます。それなりの延床面積を確保するためには、2階、3階と上に伸ばすしかありません。平屋では十分な広さを確保できないということでしょう。
東京都に次いで、神奈川県が2.7%、大阪府が3.0%など、東京圏、大阪圏の平屋率が低くなっています。大都市に住み続ける限り、予算に余裕がなければ平屋を建てるのはあまり現実的ではないかもしれません。しかし、最近は在宅で仕事ができる会社も増えており、地方への移住を検討する人も増えているようです。その際には、平屋という選択肢も頭に入れておきたいところです。