パリファッションウィークが「 モーメント 」である理由【ラグジュアリーブリーフィング】
ランウェイを歩くモデルたち。これは、過去から現在まで行われ続けている。だが、ファッションだけではなく、ほかの分野でも注目され続けているデザイナーらは、時代を表現する要素でショーを常にアップデートしている。パリファッションウィーク(以下、PFW)では、ニューヨーク拠点のピーター ドゥ(Peter Do)や、ジョナサン・アンダーソン氏が率いるロエベ(Loewe)などにその例が多くみられる。また、PFW前にコミュニティとより緊密なつながりを築こうとする動きに基づいて考えると、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)もこれに続くことが期待される。
2021年9月からニューヨークでショーを開催してきたピーター ドゥのPFWデビューは、明らかにいまを表していると感じられた。このデビューには、いまの人々の服装、モダンなクリエイティブディレクターによる複数のプロジェクトへの注力、そして、ある程度、デザイン集団のローテーションを好むファッション界の新たなクリエイティブモデルが同時に反映されていた。
ヘルムート ラング(Helmut Lang)は5月、ドゥ氏のクリエイティブディレクター就任を発表したが、ヘルムート ラングのスタイルは当然このショーには取り入れられなかった。しかし、ドゥのコラボレーションコレクションのうちの2つは取り入れられた。1つはバナナ・リパブリック × ピーター ドゥ(Banana Republic x Peter Do)であり、バナナ・リパブリックの販売チャネルで10月10日から発売される28点のコレクションから10つのルックが選ばれた。ランウェイで披露されたトレンチジャケットや「シティコート」は、PeterDo.netで販売中の4200ドル(約63万円)のアウターウェアよりは間違いなく手頃な価格になるだろう。組み合わせられたルックスは、長い間多くのアメリカ人から好まれているスタイルのハイとローの組み合わせを彷彿とさせるものだった。
さらに、ピーター ドゥは、アットコレクティブ(At.Kollective)とのパートナーシップからのスタイルも取り入れた。アットコレクティブは、評価の高いデザイナーによる少量生産の製品に特化し、エコレザー(Ecco Leather)を活用したD2Cブランドだ。元クロエ(Chloé)のデザイナー、ナターシャ・ラムゼイ=レヴィ氏もアットコレクティブのコレクションを制作している。レザースニーカー、プラットフォームブーツ、ハンドバッグ、プレタポルテのセパレーツなどからなるピーター ドゥのアットコレクティブコレクション13点は10月1日まで予約注文可能だ。
最後に、新たなトレンドと現在の価値観に基づいた業界標準に従い、ピーター ドゥのジェンダーレスなルックスは多様な人種のモデルが着用していた。しかし、同ブランドのショー自体が「モーメント」であると宣言する前に、業界の後退している傾向に沿って、サイズインクルーシビティが明らかに考慮されていなかったのは注目に値する。
故ヴァージル・アブロー氏は、おそらく自分の作品に境界線を設けず、文化に刺激されたアプローチをとったことでもっともよく知られたデザイナーだった。そして、ルイ・ヴィトンのメンズウェアのクリエイティブディレクターとしてアブロー氏の後任になったファレル・ウィリアムス氏はこれに追随しているが、これはウィリアムス氏自身の一連の仕事を考えれば当然と言える。6月に開催されたルイ・ヴィトンの2024年春メンズウェアショーという形での就任祝賀パーティーで、ウィリアムス氏が共同設立したゴスペル合唱団が彼のプロデュースによるポップソングを初めて披露した。一方、イタリアのブランド、モンクレール(Moncler)は、9月、製品コラボレーションを中心としたモンクレール・ジーニアス(Moncler Genius)プロジェクトの一環として、ウィリアムス氏と共同制作したアウターウェア中心のコレクションを発表している。
ウィリアムス氏がモンクレールのためにデザインしたものがルイ・ヴィトンのショーに登場しないのは間違いないだろう。ランウェイでのコラボレーションの存在は、多くの場合強制的な妥協や必要性の問題なのだが、LVMH傘下のブランドがこれらの問題に対処しなければならないことはあまりない。たとえば、ピーター ドゥのランウェイで披露されたルック40点が、ある意味3社による取り組みだった理由のひとつにはピーター ドゥが若い独立系ブランドであり、処理能力やリソースが限られていた点があるのかもしれない。また、これは言うまでもないことだが、ドゥ氏は現在、ヘルムット ラングでの新しい仕事があり、二重の任務を負っている。ドゥ氏からはコメントは得られなかった。
コングロマリットの支援を受けていないファッションブランドを経営していくのは非常に困難である。したがって、CFDA(アメリカ・ファッション・デザイナー協議会)などの団体はデザイナーへのサポート提供を中心にしたプログラムの数を増やしている。
9月初めにニューヨークで開催されたティビ(Tibi)のショーの舞台裏で、デザイナーのエイミー・スミロヴィック氏はティビがプレタポルテに徹底的に注力していることについて語っていた。同氏は、ミリアムシェファー(Myriam Schaefer)とハンドバッグのコラボを行ったことはあるが、まだティビの基準を満たすハンドバッグの製造には十分注力していないために、基準は達成できていないと述べている。一方、ニューヨークでのショールームアポイントの際、アナザートゥモロー(Another Tomorrow)のクリエイティブディレクター、リズ・ジャルディーナ氏は、大きな理由としては水準以上のビーガンレザーの入手可能性があるものの、同ブランドが「適切なこと」ができるようになるまでアクセサリーの展開を控えるという決断について語った。レトロフェット(Retrofête)のような今シーズンにランウェイデビューするブランドにとっては、その動きは、カテゴリーの拡大に伴って、頭からつま先までモデルを着飾れる初の機会であることが動機になっている。ほぼ原則として、今シーズン、シューズコラボレーションに関与しているブランドは、メインコレクションにシューズを含めてはいない。
また、ランウェイに合わせたコラボレーションにより、ファッションウィークの公式スケジュールに掲載されていないブランドが注目されることもしばしばある。ジー・シモーヌ(J.Simone)の創業者ジュード・フェラーリ氏は、次のPFWに向けて公式スケジュール掲載を目指していると語っている。また、バナナ・リパブリックはPFWのスケジュールには記載されたことはない。
パリでデザインコレクティブなアプローチをとったほかのブランドには、フェイスコネクション(Faith Connexion)がある。同社の共同オーナー兼創業者、マリア・ブチェラーティ氏はGlossyとのインタビューで、フェイスコネクションは「マルチブランド」に進化しており、現在は「クリエイターに新たな可能性を与える」ことに注力していると述べている。また、ランバン(Lanvin)は、ラッパーのフューチャー氏との期待のカプセルコレクションについての発表は9月末に行っているが、コレクションが披露されるのは11月である。
バナナ・リパブリック x ピータードゥと同様に、クロックス(Crocs)やドクターマーチン(Dr. Martens)などと協働するデザイナーブランドのカプセルコレクションは、ブランドの一般的な価格帯と比較するとしばしば手頃な価格である。そのため、人気のあるハイ&ロースタイルのアプローチに合っている。また、再販の台頭を考えると、ブランドが季節ごとのランウェイに以前のアイテムを取り入れるのもおそらく時間の問題だろう。多大な影響力を持つアナ・ウィンター氏は、最近、複数のポッドキャストで述べていたように、ハイファッションブランドに対して店舗で中古スタイルを販売するよう奨励しており、これは手頃な価格のブランドのあいだで人気が高まっている。エスプリ(Esprit)はニューヨークのソーホーで長期開催しているポップアップでヴィンテージを販売しており、J.クルー(J.Crew)は9月下旬に自社サイトでヴィンテージデニムのセレクションを発表した。入手可能なスタイルは限られているものの、このような動きはブランドの製品品質と寿命に対する証に、そして、将来のシーズンに合わせて組み合わせられる能力に対する証になるだろう。
10月2日に予定されているルイ・ヴィトンの2024年春のショーでは、視聴者に次レベルのアクセシビリティを提供するという予測もある。ルイ・ヴィトンは、9月中旬以来、ポッドキャスト、Discordサーバー、インスタグラムブロードキャストチャンネルを展開しており、Discordサーバーとインスタグラムブロードキャストチャンネルは9月末の4日間で展開された。LVサークル(LV Circle)という名で36万人の会員を抱えるこのブロードキャストチャンネルの初めには、「ニコラ・ジェスキエール氏による#LVSS24ショーの最初のプレビューをお楽しみに」というメッセージがあった。
人々の服装について言えば、デザイナーのジョナサン・アンダーソン氏は、9月29日に披露されたロエベのコレクションを見る限りではスタイルに対するZ世代の要望にうまく寄り添い続けている。脛までの長さの厚手のセーターを中心としたルックのラインナップは秋コレクションだと批判される可能性もあったが、オーバーサイズのセパレーツに対する若い購入客の支持は季節に関係なく根強いものである。
最後に、「モーメント」とは何かという観点については、バイラル性を念頭に置いて制作されたランウェイルックがトレンドになっている。クリスチャン・コーワン(Christian Cowan)のファーボール(毛玉)がその例だ。そして、セレーナ・ゴメス氏やカーダシアン&ジェンナー家のメンバーら、世界でもっともフォローされているセレブたちもショーを忙しく巡っている。
[原文:Luxury Briefing: Why Paris Fashion Week is ‘the moment’]
JILL MANOFF(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)
PFWデビューのピーター ドゥの複数のコラボ
2021年9月からニューヨークでショーを開催してきたピーター ドゥのPFWデビューは、明らかにいまを表していると感じられた。このデビューには、いまの人々の服装、モダンなクリエイティブディレクターによる複数のプロジェクトへの注力、そして、ある程度、デザイン集団のローテーションを好むファッション界の新たなクリエイティブモデルが同時に反映されていた。
ヘルムート ラング(Helmut Lang)は5月、ドゥ氏のクリエイティブディレクター就任を発表したが、ヘルムート ラングのスタイルは当然このショーには取り入れられなかった。しかし、ドゥのコラボレーションコレクションのうちの2つは取り入れられた。1つはバナナ・リパブリック × ピーター ドゥ(Banana Republic x Peter Do)であり、バナナ・リパブリックの販売チャネルで10月10日から発売される28点のコレクションから10つのルックが選ばれた。ランウェイで披露されたトレンチジャケットや「シティコート」は、PeterDo.netで販売中の4200ドル(約63万円)のアウターウェアよりは間違いなく手頃な価格になるだろう。組み合わせられたルックスは、長い間多くのアメリカ人から好まれているスタイルのハイとローの組み合わせを彷彿とさせるものだった。
さらに、ピーター ドゥは、アットコレクティブ(At.Kollective)とのパートナーシップからのスタイルも取り入れた。アットコレクティブは、評価の高いデザイナーによる少量生産の製品に特化し、エコレザー(Ecco Leather)を活用したD2Cブランドだ。元クロエ(Chloé)のデザイナー、ナターシャ・ラムゼイ=レヴィ氏もアットコレクティブのコレクションを制作している。レザースニーカー、プラットフォームブーツ、ハンドバッグ、プレタポルテのセパレーツなどからなるピーター ドゥのアットコレクティブコレクション13点は10月1日まで予約注文可能だ。
最後に、新たなトレンドと現在の価値観に基づいた業界標準に従い、ピーター ドゥのジェンダーレスなルックスは多様な人種のモデルが着用していた。しかし、同ブランドのショー自体が「モーメント」であると宣言する前に、業界の後退している傾向に沿って、サイズインクルーシビティが明らかに考慮されていなかったのは注目に値する。
ルイ・ヴィトンのファレル・ウイリアムス氏の場合
故ヴァージル・アブロー氏は、おそらく自分の作品に境界線を設けず、文化に刺激されたアプローチをとったことでもっともよく知られたデザイナーだった。そして、ルイ・ヴィトンのメンズウェアのクリエイティブディレクターとしてアブロー氏の後任になったファレル・ウィリアムス氏はこれに追随しているが、これはウィリアムス氏自身の一連の仕事を考えれば当然と言える。6月に開催されたルイ・ヴィトンの2024年春メンズウェアショーという形での就任祝賀パーティーで、ウィリアムス氏が共同設立したゴスペル合唱団が彼のプロデュースによるポップソングを初めて披露した。一方、イタリアのブランド、モンクレール(Moncler)は、9月、製品コラボレーションを中心としたモンクレール・ジーニアス(Moncler Genius)プロジェクトの一環として、ウィリアムス氏と共同制作したアウターウェア中心のコレクションを発表している。
ウィリアムス氏がモンクレールのためにデザインしたものがルイ・ヴィトンのショーに登場しないのは間違いないだろう。ランウェイでのコラボレーションの存在は、多くの場合強制的な妥協や必要性の問題なのだが、LVMH傘下のブランドがこれらの問題に対処しなければならないことはあまりない。たとえば、ピーター ドゥのランウェイで披露されたルック40点が、ある意味3社による取り組みだった理由のひとつにはピーター ドゥが若い独立系ブランドであり、処理能力やリソースが限られていた点があるのかもしれない。また、これは言うまでもないことだが、ドゥ氏は現在、ヘルムット ラングでの新しい仕事があり、二重の任務を負っている。ドゥ氏からはコメントは得られなかった。
コングロマリットの支援を受けていないファッションブランドの動向
コングロマリットの支援を受けていないファッションブランドを経営していくのは非常に困難である。したがって、CFDA(アメリカ・ファッション・デザイナー協議会)などの団体はデザイナーへのサポート提供を中心にしたプログラムの数を増やしている。
9月初めにニューヨークで開催されたティビ(Tibi)のショーの舞台裏で、デザイナーのエイミー・スミロヴィック氏はティビがプレタポルテに徹底的に注力していることについて語っていた。同氏は、ミリアムシェファー(Myriam Schaefer)とハンドバッグのコラボを行ったことはあるが、まだティビの基準を満たすハンドバッグの製造には十分注力していないために、基準は達成できていないと述べている。一方、ニューヨークでのショールームアポイントの際、アナザートゥモロー(Another Tomorrow)のクリエイティブディレクター、リズ・ジャルディーナ氏は、大きな理由としては水準以上のビーガンレザーの入手可能性があるものの、同ブランドが「適切なこと」ができるようになるまでアクセサリーの展開を控えるという決断について語った。レトロフェット(Retrofête)のような今シーズンにランウェイデビューするブランドにとっては、その動きは、カテゴリーの拡大に伴って、頭からつま先までモデルを着飾れる初の機会であることが動機になっている。ほぼ原則として、今シーズン、シューズコラボレーションに関与しているブランドは、メインコレクションにシューズを含めてはいない。
また、ランウェイに合わせたコラボレーションにより、ファッションウィークの公式スケジュールに掲載されていないブランドが注目されることもしばしばある。ジー・シモーヌ(J.Simone)の創業者ジュード・フェラーリ氏は、次のPFWに向けて公式スケジュール掲載を目指していると語っている。また、バナナ・リパブリックはPFWのスケジュールには記載されたことはない。
パリでデザインコレクティブなアプローチをとったほかのブランドには、フェイスコネクション(Faith Connexion)がある。同社の共同オーナー兼創業者、マリア・ブチェラーティ氏はGlossyとのインタビューで、フェイスコネクションは「マルチブランド」に進化しており、現在は「クリエイターに新たな可能性を与える」ことに注力していると述べている。また、ランバン(Lanvin)は、ラッパーのフューチャー氏との期待のカプセルコレクションについての発表は9月末に行っているが、コレクションが披露されるのは11月である。
バナナ・リパブリック x ピータードゥと同様に、クロックス(Crocs)やドクターマーチン(Dr. Martens)などと協働するデザイナーブランドのカプセルコレクションは、ブランドの一般的な価格帯と比較するとしばしば手頃な価格である。そのため、人気のあるハイ&ロースタイルのアプローチに合っている。また、再販の台頭を考えると、ブランドが季節ごとのランウェイに以前のアイテムを取り入れるのもおそらく時間の問題だろう。多大な影響力を持つアナ・ウィンター氏は、最近、複数のポッドキャストで述べていたように、ハイファッションブランドに対して店舗で中古スタイルを販売するよう奨励しており、これは手頃な価格のブランドのあいだで人気が高まっている。エスプリ(Esprit)はニューヨークのソーホーで長期開催しているポップアップでヴィンテージを販売しており、J.クルー(J.Crew)は9月下旬に自社サイトでヴィンテージデニムのセレクションを発表した。入手可能なスタイルは限られているものの、このような動きはブランドの製品品質と寿命に対する証に、そして、将来のシーズンに合わせて組み合わせられる能力に対する証になるだろう。
10月2日に予定されているルイ・ヴィトンの2024年春のショーでは、視聴者に次レベルのアクセシビリティを提供するという予測もある。ルイ・ヴィトンは、9月中旬以来、ポッドキャスト、Discordサーバー、インスタグラムブロードキャストチャンネルを展開しており、Discordサーバーとインスタグラムブロードキャストチャンネルは9月末の4日間で展開された。LVサークル(LV Circle)という名で36万人の会員を抱えるこのブロードキャストチャンネルの初めには、「ニコラ・ジェスキエール氏による#LVSS24ショーの最初のプレビューをお楽しみに」というメッセージがあった。
人々の服装について言えば、デザイナーのジョナサン・アンダーソン氏は、9月29日に披露されたロエベのコレクションを見る限りではスタイルに対するZ世代の要望にうまく寄り添い続けている。脛までの長さの厚手のセーターを中心としたルックのラインナップは秋コレクションだと批判される可能性もあったが、オーバーサイズのセパレーツに対する若い購入客の支持は季節に関係なく根強いものである。
最後に、「モーメント」とは何かという観点については、バイラル性を念頭に置いて制作されたランウェイルックがトレンドになっている。クリスチャン・コーワン(Christian Cowan)のファーボール(毛玉)がその例だ。そして、セレーナ・ゴメス氏やカーダシアン&ジェンナー家のメンバーら、世界でもっともフォローされているセレブたちもショーを忙しく巡っている。
[原文:Luxury Briefing: Why Paris Fashion Week is ‘the moment’]
JILL MANOFF(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)