柴山昌彦(しばやま・まさひこ)/自由民主党・再生可能エネルギー普及拡大議員連盟会長、衆議院議員。1965年生まれ。1990年東京大学法学部卒業後、住友不動産に入社。2000年に弁護士登録。2004年に衆議院議員に当選し、現在7期目。安倍晋三内閣では文部科学大臣も務めた(撮影:梅谷秀司)

秋本真利衆議院議員が受託収賄などの罪で9月27日、起訴された。政府の洋上風力発電事業を巡る汚職事件で、事業者から約7200万円にも上る賄賂を受け取っていたとされる。

自由民主党の「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(再エネ議連)」の事務局長として秋本氏(8月5日に離党)は、「再エネ政策の差配ができる」と周囲に喧伝していた。再エネ議連会長を務め、秋本氏とともに洋上風力政策に深く関わっていた柴山昌彦氏(衆議院議員)に話を聞いた。

襟を正していかなくてはならない

――国会議員が近しい業界、企業の人間と馬主組合を通じて、多額の資金のやりとりをしていました。秋本議員が受託収賄で起訴されたことについての受け止めは?

びっくりした。やっぱり李下に冠を正さずっていうね。応援してくれた議員に(事業者が)ありがとうという気持ちを示すことは自然なことだと思う。だがそれに対して、不当な利益をもたらす関係があると、職務の公正さや信頼が損なわれてしまうことになる。襟を正していかなくてはならないと思う。

この件については今後、司法の場で事実解明がなされることを期待している。秋本さんの利益供与の話はわれわれとしてはまったく寝耳に水のことだった。

――秋本議員は以前から、自らを再エネ議連の事務局長として「再エネ政策を差配できる立場にある」と洋上風力の関係者に対して喧伝していました。政治と企業との距離についてはどう考えますか。

政治的な圧力を何と捉えるのかということだ。自民党の部会や議員連盟は、さまざまな要望を政府に反映させるためのものだ。だから、圧力と表現するかどうかはともかく、要望を政府にのんでもらうために動くことは、正当なプロセスだと思っている。

われわれは国民の代表であり、さまざまなステークホルダーからの要望について政府に伝える役割を担っている。ただ、気をつけなければならないのは、われわれは一部(の企業や団体)だけの代表ではないということだ。

つまり全体利益の実現を目指さなければならない。再エネ導入によって、あまりにも国民負担が跳ね上がってしまうなら、国民負担を極力増やさないような取り組みが重要になる。最近は太陽光、風力発電設備の設置によって周辺環境に与える影響についてもいろいろな声をいただいている。

経産省が当時は教えてくれなかった

――2021年12月、国による洋上風力発電の公募入札(第1ラウンド)において三菱商事陣営の「総取り」が決まりました。秋本議員はその後、2022年2月の国会質問で「2回目の公募(第2ラウンド)から評価の仕方を見直していただきたい」などと萩生田光一経産相(当時)に繰り返し質問し、入札ルールの変更を迫りました。当時、再エネ議連としてはどう受け止めたのですか。

当時、一部報道では赤字覚悟の応札を三菱商事が行ったのではないかといった話や、発電プロジェクトの運転開始時期を遅く設定しているから(安い売電価格になったの)ではないかといろいろな疑惑があった。

第1ラウンドでは(三菱商事陣営が入札で提示した)価格が圧倒的な結果につながった。だから価格以外の配点について、どういう基準でどこがどういう点数を取ったのか教えてくれと経済産業省に言ったが、当時は教えてくれなかった。

そこで価格以外の点数について評価項目や基準をどうするか、第2ラウンド以降は考えるべきではないかと考えた。

このことは、萩生田経産相自身が第1ラウンドの直後に「ほかの仕組みも考えたい」ということをおっしゃっていたので、その意向にも沿うことになると思っていた。

そこで、再エネ議連として三菱商事や有識者へのヒアリングを行った。が、当時の一部報道とはまったく違うことを言っていた。三菱商事は地元の方々にはきちんと説明をしているし、海底地盤調査などさまざまな調査も行っている。そして、赤字覚悟の安い価格を出すことで受注したわけではないということだった。

発電所の運転開始時期についても(三菱商事などが計画している時期よりも)早期化すれば、より早くコストを回収できることになり、さらに売電価格を安くできるという話だった。なるほど、それならば公募入札の中で運転開始時期についても競う仕組みにしなくてはいけないだろうと考えた。

競争政策上よくないのではないかと考えた

もう1つ三菱商事が言っていたのが、子会社でオランダの再エネ企業エネコのノウハウ(洋上風力発電の開発実績)を活用したということだ。とすれば、コンソーシアムで誰と組むかが重要だ。

第2ラウンド以降でもまったく同じように、三菱商事とエネコ以外の事業主体が戦うことができなくなってしまう可能性がある。そうなれば、価格面も含め競争政策上よくないのではないかと考えた。


2022年6月、洋上風力に関する提言書を萩生田光一経産相(左)に手渡しした、自民党・再エネ議連の柴山昌彦会長(中央)、秋本真利事務局長(右)。肩書は当時(記者撮影)

――三菱商事の対抗馬がいなくなるという危機感があったわけですね。2022年6月23日に、萩生田経産相へ洋上風力発電に関する提言書を渡しました。どんな内容だったのでしょうか。

この提言書では、落札制限(入札参加者の案件獲得数を制限するルール)は入っていない。というのは、コンソーシアムをつくるうえで事業者の予見可能性を大きく損なうことになりかねないからだ。制限をするべきではなく自由にやったほうがよいと考えた。

第2ラウンド以降は事業者が売電する仕組みがFIT(固定価格買い取り制度)からFIP(市場価格にプレミアム価格を上乗せする方式)に変更になる。さまざまな事業者から、ここで設定するプレミアム価格は一定以下にしないでくれという声があった。

だが、われわれ再エネ議連は「最低価格の制限はするべきではない」、「国民負担の観点からもキャップをはめるべきではない」ということも提言に入れている。ただ結局、経産省がわれわれの提言にはなかった最低価格の導入を盛り込んだ。

再エネ議連が国民負担を犠牲にして、新規参入を目指す事業者のために、この最低価格の制限を入れたのではないか。入札制限もそうではないか、という人がいるが両方とも真っ赤なウソだ。両方とも再エネ議連の提言にはまったく入っていない。確かに秋本議員は「強力な入札制限を入れるべきだ」ということを再エネ議連内でも主張していたが、結局この提言には入っていない。

秋本さんがすべてを牛耳っていたわけではない

――秋本議員の考えと議連の方針が一致していたわけではない、と。

秋本さんが再エネ議連のすべてを牛耳っていたわけでもないし、あの(賄賂をもらって行ったとされる国会での)質問は「再エネ議連でこういう質問をしてくれ」と頼んだわけではない。ましてや馬とか、あんな利益を得ていたということは私も河野太郎・再エネ議連顧問(デジタル相)もまったく寝耳に水の話だった。

――政府が異例の対応をとったことは確かです。2022年3月18日には、秋田県八峰町・能代市沖の公募入札(第2ラウンド)をやり直すことが決まりました。

確かにすでに始まっていた入札を一度止めてやり直すというのはイレギュラーではある。だが、これによって国民負担とのバランスを取りながら再エネ事業者の裾野を極力広げるために必要だと思ってやったことだ。

異例ではあっても不当だとは考えていない。その認識は今も変わらないし、再エネ議連が一部の事業者を利するように動いていたという考えにはまったく当たらない。

議連が提言書を出したのは第2ラウンド中止の発表後だ。再エネ議連の提言書の内容がすべてルール見直しに反映されたわけではない。イレギュラーではあるけれども、経済産業省はきちんとしたプロセスを踏んで入札の見直しを適切に行ったと理解している。

河野顧問の「ファインプレー」投稿が示すものは?

――SNSでは、河野顧問のツイートが話題になりました。洋上風力の公募ルール変更が決まった後の「秋本代議士や柴山代議士のファインプレー」とのツイートです。これはどういうことでしょうか。


2022年3月、twitter(現X)で河野太郎氏は秋本氏の投稿を引用し「ファインプレー」とツイート

河野さん自身は「(三菱商事が)低価格で落札したことは別にいいじゃないか」と言っていた。だけど、有識者や事業者からのヒアリングを行い、議論を深め「運転開始時期の早期化についても大事だ」ということを再エネ議連で提起した。

このことに河野さんも共感してくれた。結局、ルール見直しはイレギュラーではあるけれども不当なものではないということを河野さんのツイートも示しているにすぎない。

一方で私は再エネ議連の会長であり、秋本氏は事務局長として一緒に(議連での)ヒアリングを進めてきたことは間違いない。政治的な働きかけをしたことは事実だ。

ただ、受託収賄は職務の遂行に関連して金品を受け取ることであり、そこに関わっていない人間は該当しないのは当たり前だ。賄賂を受け取ったのは秋本さんだけなのだから。

職務行使で完全に彼と一緒だったかというと、再エネ議連としては国民全体の利益を考えて提言書もまとめた。健全な形で再エネを導入するためには第2ラウンドから評価基準の見直しをすることが必要ではないかと提言した。

――昨年、洋上風力の公募入札ルール変更が取り沙汰されていた時、柴山議員、秋本議員、河野顧問が新聞記事等を指して「あれは提灯記事だ」と評する光景を何度も見聞きしました。どのような意図があったのですか。

私がここまで述べてきたようなことが正確な内容なんですよ。にも関わらず、われわれの活動によって国民負担が増えたとか、萩生田経産相の意図が伝わっていないとか報じられて、そこは河野さんもすごく怒っていた。われわれも情報発信しなければならないと思っていた。

――2023年2月に国産再エネ議連(国産再エネに関する次世代型技術の社会実装加速化議員連盟:発起人に岸田文雄首相、麻生太郎副総裁など)が設立されました。柴山さんが会長を務める再エネ議連との違いは何なのでしょう。

「国産」という性格を明確にしたいという動きもあったかもしれないし、河野さんたちがやっている再エネ議連とは違う流れをつくりたいという思いも自民党幹部や経産省の中にはあったかもしれない。

私は国産再エネ議連の副会長にも入っているので(再エネ議連と)相反するものではない。ただ、この国産再エネ議連で提言しているのはペロブスカイト型太陽電池や洋上風力発電を推進しようという、「そりゃそうですよね」という話ばかり。

旧来の電力システムが再エネの普及拡大のボトルネックになってきた。そこに反省の光を当てて打開するためにどうするべきかを提言してきた唯一の議連が再エネ議連だ。

再エネの発電コストの高さと供給の不安定性をどう克服するかを一生懸命考えてきたし、改革しなければいけないと旧電力システム側とはバチバチと戦ってきた。国産再エネ議連が出している提言はその辺りには触れてない。

利権のためにやっているつもりはない


「日本の再エネ政策が後ずさりすることだけは絶対に避けなければならない」と語る柴山氏(撮影:梅谷秀司)

――日本の再エネ政策への秋本事件の影響をどう見ていますか。

今回の件によって脱炭素社会に向けた日本の再エネ政策が後ずさりすることだけは絶対に避けなければならない。

こんなことをいうのも何だが、自民党では旧大手電力会社側の応援を受けていた方々が圧倒的に多い。再エネをやっているのは「変わり者」という位置づけだったのではないかと思う。いわば、われわれは異端児だが、利権のためにやっているつもりはない。

再エネがものすごい勢いで普及拡大しなければ、2030年のGHG(温室効果ガス)排出量の半減、2050年のゼロエミッション目標の達成は無理だ。われわれ再エネ議連は非常に大きな使命を持っている。今後の再エネ議連の活動については仲間と相談しながら適切な運営を検討したい。

(大塚 隆史 : 東洋経済 記者)