なぜ、給食ネタは話題になりがちなのでしょうか(写真:Chi−/PIXTA/写真はイメージで、話題になった写真とは異なるものです)

ネットメディア編集者として10年のキャリアから、筆者は当サイト(東洋経済オンライン)にて、これまでいくつもの「SNS上で盛り上がりやすい話題」を紹介してきた。ある時は新幹線の座席トラブル、ある時は飲食店での迷惑客(バカッター)、またある時は公共交通機関でのマナー問題……といった具合にだ。

今回、取り上げるのは「学校給食」にまつわる議論だ。

ここ数日でも、トレーにのせられた給食の写真が話題になっている。食パン1枚に、スライスチーズ、溶き卵とニンジン、タマネギが浮かぶスープと、ジャガイモとベーコンをあえたジャーマンポテトのようなもの、そしてパック牛乳。「これが令和の給食か」「戦後…?」「少なすぎる」などと、批判的なトーンで広がったのだ。

政治批判の側面が強い本件だが、今回はあくまでネットメディア研究者の視点から、「なぜ給食ネタが話題になりがちなのか」を解説していきたい。

給食ネタが話題になりやすい理由

今回、筆者が考える「給食ネタが話題になりやすい理由」は下記の4つだ。

(1)世代・地域を超えて語ることができる
(2)自治体ごとに事情が異なる
(3)ビフォーアフターものの画像は拡散されやすい
(4)給食費無償化が話題

順番に解説していきたい。

(1)世代・地域を超えて語ることができる

まずは「世代・地域を超える」ことから考えてみよう。昭和最後の年に生まれた私が「どんな給食を食べていたか」と聞かれると、実はあまり思い出せない。強いて言えば、小学校入学前後に大腸菌O-157問題が起きたため、生野菜が出なかったくらいだろうか。

しかし年長者と話してみると、その違いに気づくことができる。クジラの竜田揚げ、脱脂粉乳、ソフトめん……などなどの話を聞くと、ジェネレーションギャップを覚える。ときには、相手が「世代を問わないあるある」だと思っている場合もあって、食べたことないと明かせば、驚かれることもある。

牛乳だけ見ても、筆者は瓶だったが、三角や四角の紙パックもある。学校によっては粉末調味料を溶かして、デザート感覚で楽しめるらしい。大人になってから、スーパーで「ミルメーク」を見つけたとき、もっと早く出会っていればと感じたものだ。

年齢だけでなく、地域差もある。地産地消の観点から、全国的には珍しい食材が出ることはもちろん、ご飯の提供方法もさまざまだ。筆者の出身地では、クラス全員分の米飯を、給食当番が個々に盛り付けるスタイルだったが、一人ひとりすでに別容器にわけられているパターンも存在する。なかには、ご飯を1人分ずつのアルミ容器で炊き上げ、その容器のまま提供するケースも。筆者が地域情報サイトの編集長をしていたときには、こうした「給食の違い」ネタは、しばしば人気記事になっていた。

物事を語りやすくする要素には、総じて「ほどよい共通点と相違点」があるが、給食はその両方を兼ね備えていることがわかるだろう。

全国一律で導入されているのではない

(2)自治体ごとに事情が異なる

次の理由「自治体ごとに事情が異なる」点について考えるうえで、ちょっと真面目な話もしておこう。そもそも、学校給食は全国一律で導入されているのではなく、自治体によっては行われていない。1954年施行の学校給食法第4条では「義務教育諸学校の設置者は、当該義務教育諸学校において学校給食が実施されるように努めなければならない」と定めているものの、あくまで努力義務となっている。

また「給食」とひとくくりにしがちだが、文部科学省の定義では、大きくわけて、ミルクのみの「ミルク給食」、ミルク・おかずの「補食給食」、そこにパンや米飯などが加わった「完全給食」の3タイプとされている。拡散された画像は「完全給食」となる。

これらの情報を頭に入れながら、直近のデータを見てみよう。文部科学省が2023年1月に発表した「令和3年度(2021年度)学校給食実施状況調査」の結果によると、国公私立学校における給食の実施率は95.6%で、完全給食は94.3%だという。

国立・公立・私立ごとのデータもあり、公立小学校は完全給食99.4%(児童・生徒数ベースでは99.8%)、補食給食0.2%(0.1%)、ミルク給食0.1%(0.0%)で計99.7%(99.9%)。公立中学校では完全給食96.1%(95.3%)、補食給食0.3%(0.2%)、ミルク給食1.8%(2.1%)で計98.2%(97.5%)となっている。

「なにを提供するか」に加えて、「どこで作るか」もさまざまだ。小学校は、校内調理の単独調理場方式が46.3%(57.8%)、センターなどでまとめて作る共同調理場方式が52.3%(41.0%)、その他調理方式が1.3%(1.2%)。中学校は単独調理場方式が23.8%(26.2%)、共同調理場方式が61.7%(55.4%)、その他調理方式が14.5%(18.4%)。いずれの調査結果も、都道府県別の統計が出ているので、あわせて読むと興味深いだろう。

人それぞれの「給食像」

(3)ビフォーアフターものの画像は拡散されやすい

ここまで背景をなぞってみると、「あなたの記憶にある『給食像』が、異なるコミュニティーに生活してきた人々の『給食像』と、同じとは限らない」と感じてくるのではないか。そこへ来て、ネットだからこその事情が絡んでくる。「画像で比較しやすい」ことだ。

今回拡散された給食画像でも、時代や地域などが異なる給食写真が、あわせて投稿された。ビジュアルで見せ付けられると、くだんの給食は「たしかに質素すぎるかも」といった印象を受けがちだろう。また、中には海外の給食の写真を投稿する人もおり、「日本は貧しくなった」「円安の影響が給食にも」といった方向でも、話は広がっている。

それだけ「目に見える差」は、人々の興味をひくということだ。読者のなかにもネットサーフィンしていると、「ビフォーアフター」を比較した広告に目が止まり、おもわずアクセスしてしまったことはないだろうか(こうした広告表現は、業界の自主規制や、法律・条例などで制限されているが、今回は横道にそれるので、また別の機会にお話ししたいところだ)。

(4)給食費無償化が話題

加えて、昨今は「給食費無償化」の議論が盛り上がっている。比較的財源に余裕のある自治体を中心に、公立学校への支援開始が相次ぎ、政府も6月に打ち出した「こども未来戦略」で、前向きな姿勢を見せた。同戦略では、各地の実態調査を経て、1年以内に結果を公表。実施状況や法制面などの課題整理を行ったうえで、具体的方策を検討するとしている。

学校給食は、日常生活に密着している。にもかかわらず、それぞれの「経験」は微妙に異なる。SNSのタイムラインで、その差が可視化されることによって、「語るキッカケ」を与えられる。そして、政治的背景が加わることで、より感情を帯びていく--。おそらく今回の拡散事案は、これらの要素が複合的に絡んだ結果、広がっていったのではないかと、筆者は考えている。

給食現場で働く人々は、試行錯誤を重ねている

こうした事情もあって、インターネット上で「給食ネタ」は盛り上がりやすい。そこへ来て、今回のように「量が多い」「少ない」といった、論点が単純化された内容は、波が広がりがちとなる。一方で忘れてはならないのは、栄養士といった給食現場で働く人々は、限られた予算のなかで、試行錯誤を重ねていることだ。

今回やり玉に挙げられた自治体では、2023年度の給食費が、小学校の場合は1食あたり240円前後に設定されていた。そのうち約70円は牛乳代が占め、50円台の主食と、110円台のおかずで構成される(ちなみに、この自治体の中学校給食費は1食300円だが、今年度から無償化が行われている)。

参考までに、先に紹介した文科省の「学校給食費調査」では、公立小中学校における保護者負担の給食費(完全給食)が、小学校は月平均4477円、中学校は5121円となっていた。だいたい20日で割ってみると、小学校が約224円、中学校が約256円となる。

この枠に収めながらも、なるべく栄養バランスを保ちつつ、バリエーション豊かな献立を用意できるよう、関係者は常々考えていることだろう。実際、自治体公式サイトの献立表を見てみると、話題になった給食も、他の日と同水準の約600キロカロリーとなっていた。

イメージやノスタルジーも大切だが、そこに最新データをかけ合わせると、新たな発見が生まれる。もしかしたら今回の「質素な給食騒動」は、教育の今について改めて考える、いい機会になったのかもしれない。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)