店頭では増税前に新ジャンルの「買い置き」を推奨する動きが目立った(なんでも酒やカクヤス提供)

10月1日に、酒税改正が行われる。

今回の改正の柱は、ビール減税と新ジャンル(いわゆる「第3のビール」)の増税。ビールは350ミリリットル缶あたり6.65円の減税となる一方、新ジャンルは同約9円増税され、発泡酒と同額となる。これにより「新ジャンル」という分類は消滅する。


これを機に改めて酒税を考えてみよう。酒と税金の関係は深く、酒税の始まりは室町時代に遡る。明治30年代には、税収に占める酒税の割合が第1位となり、国を支えた。

時代が進むにつれ所得税や法人税などの直接税のウェートが高まり、酒税が国税収入に占める割合は大幅に減少。2021年度にはこれが1.5%となった。しかし、国税庁によれば、酒税は現代においても「安定した租税収入として重要な役割」を果たしている。

同じようなものには同じような税を

その酒税が3年前から段階的に改正されている。日本には、酒類などモノにかかる税について「同じようなものには同じような税を」という考え方がある。

酒類は、製造方法や性状によって、ビールや発泡酒などの「発泡性酒類」、ワインや日本酒などの「醸造酒類」、焼酎やウイスキーなどの「蒸留酒類」、リキュールやみりんなどの「混成酒類」の4つのカテゴリーに分類されている。

発泡酒や新ジャンルはビールと同様に発泡性酒類に分類されるが、これらの税率には差があった。財務省はこの状況を不公平と判断し、「酒類間の税負担の公平性を回復する観点から」改正を進めているというわけだ。

実は、同様の考え方から、日本酒とワインの税率も10月に1リットルあたり100円に統一される。2026年にはさらなるビール減税と発泡酒の増税ががなされ、ビール系飲料の税率は完全に一本化される。

一連の酒税改正に対しては、ビールに課せられた高税率に対抗してきたメーカーの「企業努力を潰す政策だ」という批判がある。

実際、発泡酒と新ジャンルは、ビールの味に近づけつつ、酒税法の「ビール」に当てはまらないように開発された。基本的には原料中の麦芽比率を50%未満まで下げたものが発泡酒。新ジャンルは、麦や麦芽以外を原料にしたり、発泡酒にスピリッツなどのアルコール飲料を加えたりしてきた。

発泡酒や新ジャンルは、発売以降、その安さからよく売れた。これを受け財務省は、これらの製品が市場で拡大するたびに税率を引き上げてきた。ビール業界では、長年「いたちごっこ」が繰り広げられている。

こうした財務省とビール会社の応酬は、2026年にビール類の税率が一本化することでひとまず終結する。

ビール大手5社が会員の業界団体であるビール酒造組合は、一連の改正について、「いたちごっこを終わらせる、バランスの取れた一つの着地点。一方で、今後もビール減税を求め続ける」と話す。

減税しても、ビールにかかる税金は高いまま

日本のビールにかかる税の高さは、諸外国と比べると明らかだ。ビール減税がひと段落する2026年10月以降の数値と比較しても、その額はフランスの約3倍、アメリカ(ニューヨーク市)の約5倍、ドイツの約11倍と大きな差がある。


日本がビールに対してここまで高い税率をかけているのは、昔、ビールは富裕層だけが飲める高級酒とされていたからだ。つまり、高所得者に重い税負担をさせるために定められた税率だった。

このように日本の酒税は、税の「逆進性」を薄めることを1つの目的としてきた。酒類のカテゴリーごとに基本税率が定められており、どの区分に分類されるかによって税負担が変わる。この仕組みのもと、高級酒には高い税負担を、大衆酒には低い税負担を課してきた。

しかし、今やビールは庶民も飲める酒になった。それにもかかわらず、ビールの税率は高いまま。これでは、「逆進性への対応策」という説明は筋が通らない。

税法の専門家である青山学院大学の三木義一名誉教授は、「ビールが大衆酒になったのだから、酒税の基本的思想からすれば減税されるべき。しかし財務省は、消費量の多いビールからの税収確保を優先してきた」と話す。

酒税の仕組み自体にも再考の余地がある

イギリスやフランスなどでは、酒税がアルコール度数と製造量に応じて課されている。その結果、主要諸国では比較的アルコール度数の低い醸造酒よりも、度数の高い蒸留酒に課される税率のほうが高い。

現在の日本の酒税は複雑で、ビール会社や消費者が何に対してお金を払っているかがわかりにくい仕組みになっている。他方で、度数に応じた課税は、健康促進施策としても一定の合理性がある。消費者としても、「健康に良いものには軽い税、悪いものには重い税を払う」という仕組みであれば納得しやすい。

その他、「安かろう悪かろうの酒づくりを防ぐため、良質な原料を使用している日本酒や洋酒は減税、そうでないものは増税してはどうか」(三木名誉教授)という案もある。

財務省の担当者によれば、発泡酒や新ジャンルは「海外では認められないような酒」。そのためビール類間の税率格差をなくす一連の酒税改正は、「より魅力的な商品をつくっていってほしいというメッセージの意味合いも含んでいる」(財務省担当者)という。

しかしながら、目的がはっきりせず、高い税率のままの制度だからこそ、メーカーは原料費の安い「ビールのような酒」を開発せざるを得ないとも言える。酒は日本において重要な食文化の一つだ。酒税の仕組みづくりにおいては、消費者にとって魅力的な商品開発を阻害しない制度設計が求められる。

(田口 遥 : 東洋経済 記者)