不登校について誤解されがちですが、単一の理由で学校に行かなくなるという人はまずいません。ほとんどの人が複数の理由が重なって、学校に行かなくなります(写真:Yoshi.photography/PIXTA)

9月1日は年間の中で若者の自殺者数が最も多い日である。小中高生の自殺者数は近年増加傾向が続き、令和4年は過去最多で深刻な状況にある。政府も問題視して、とくに夏季休暇明けの自殺防止に向けてさまざまな取り組みを進めている(厚生労働省)。

子どもが「学校に行きたくない」と言ったらどのように対応すればよいのか。思い詰める若者にどのような言葉をかけるのがよいのか。対応を誤れば、追い詰めてしまうことにもなりかねない。YouTube「未来に残したい授業」を主宰する代麻理子氏が企画編集の書籍『9月1日の君へ』から、『不登校新聞』代表の石井しこう氏の対談を一部抜粋、再構成してお届けする。

単一の理由で行かなくなるという人はまずいない

石井しこう(以下、石井):私は現在『不登校新聞』の代表をしています。不登校の専門紙として、当事者の声や不登校の保護者が生の体験を語り、それを新聞に残していくといった活動をしています。1997年9月1日にある中学生が命を絶ったことをきっかけの一つにして生まれた新聞で、NPO法人が発行しています。

10代だった私は、新聞の理念に共感し、創刊当初の『不登校新聞』に参加しました。9月1日に自殺の件数が多いことは、不登校に関わる人たちには当時から知られていました。統計が明らかになったのは2016年ですが、取材していく中で私自身も9月1日は多いと感じていました。

代麻理子(以下、代):不登校の若者たちは、一人ひとり苦しんでいる理由は違うと思います。そこに何か傾向はありますか?

石井:不登校の人が学校に行かなくなる入口はさまざまですが、最も多いのはいじめです。統計でも、2人に1人はいじめが原因だとされています。あるいは先生と合わない、勉強がわからなくなっている、特性上、集団生活が苦手、親からの期待がつらいという子もいます。

なお、誤解されがちなのですが、単一の理由で行かなくなるという人はまずいません。ほとんどの人が複数の理由、平均して3.5ほどの理由が重なって、学校に行かなくなります。

フリースクールへ行き「自分だけではないんだ」

:石井さんご自身が不登校になったとお聞きしたのですが、その経験についてお聞きしてもよろしいですか?

石井:私が不登校になったのは中学2年生のときです。その後は一切学校に行っていません。高校も大学も通っていないので、正式には中学卒業が最終学歴です。実際は中学を中退しているので、小卒と言ったほうがいいかもしれません。

代わりに、フリースクールという不登校の子たちが集まる場所に通っていました。私の場合は、学校に行かなくなる直前にフリースクールの存在を知っていたので「学校に行かなくなったらここに行こう」と決めていました。事前に決められていたのはよかったです。

不登校になったときは苦しかったですが、フリースクールに行ってから考えたいと思っていました。いざ行ってみたら、同い年ほどの人たちが多く、「そうか、自分だけではないんだ」と安心しました。

「自分だけではない」という言葉は、字で書くと迫力がありませんが、自分自身の感覚としては大きな安心でした。同じような経験をした人たちで、世間話をしたり、ときに取材のようにプロジェクトを一緒にやったりすることで、癒されていきました。

:家族を説得する必要はありましたか?

石井:ありませんでした。自分でもびっくりしたのですが、「学校に行きたくない」と親に伝えたとき、号泣してしまいました。すでに中学2年生になっていたのですが、まさに号泣でした。その様子に驚いたのか、母親はフリースクールに行くと言ったときはすんなり受け入れてくれました。

親は欲深いので「学校に行かないなら塾に行け」などと言ってしまうこともあります。ただ、一つ確かなのは、子どもが気持ちをまっすぐにきちんと伝えれば、何とかしようとしてくれるということです。少なくとも私の場合はそうでした。

:私も自分が苦しかったとき、なかなか親に言えませんでした。言ったら悲しむかな、どうやって伝えようかと悩んで、ギリギリのところまで抱えこんでしまいました。たとえ親に酷いことを日常的に言われていても、大抵の人は「親は自分のことをどこかで好きだ」と感じています。だからこそ、悲しませたくないと考えてしまう。でも、親からしたら、言わないでいなくなってしまうよりは、言ってほしいですよね。

石井:本当にそうですね。

学校に通っているうちからフリースクールに見学にいく

:石井さんの話を聞いて、学校に通っている間にフリースクールの存在を知るのは大事だと感じました。

石井:そう思います。時期にもよりますが、ほとんどのフリースクールは簡単に見学ができます。会費がかかるところが多いですが、見学だけは無料あるいは少額ということもあります。行ってみたうえで「よかった、楽しいな」「安心するな」と思うかどうかが大切です。行ったうえで「つらい」「肌に合わない」と思うならば、行かないほうがいい。

学校に通っているときでも、ちらっと見学してみるのがおすすめです。

:『学校に行きたくない君へ』(ポプラ社)で「大人になってからも、たくさん失敗する」と石井さんが書かれていたのが素敵だと思いました。苦しい思いをしているときは、「自分なんて……」と、どうしても劣等感を抱いてしまいます。しかし、実際には大人になってからでも失敗はたくさんします。「それでも、大丈夫。それでもいい」と石井さんが言ってくれているように思いました。

石井:伝わりづらいかもしれませんが、今日も収録の時間を忘れていて、代さんからの電話を受けてようやく気がつきました。いただいていたメールがどこにいったかもわからなくなって、本当にバタバタしていました。日々、現在進行形で失敗しています(笑)。

不登校のまま生きていてもいい

石井:『不登校新聞』は、名前から「学校に行けるようになるための新聞」だと勘違いされることが多いですが、そういうことは一切していません。学校に行かない人、あるいは学校に行かない人の親が読んで「不登校のまま生きていてもいい」と思ってもらえるように、不登校中の生活をより良くするような、共感にあふれた新聞作りを目指しています。そして、学校で苦しんでいる人が安心できる社会をどうしたら作れるかを考えながら作っています。


著名人の方にも出ていただいています。不登校経験者が多いですが、不登校になっていない方にも、不登校当事者の取材を受けて答えていただいたりしています。完全にノーギャラです。

不登校経験者ではない中で取材を受けてくださった方には、辻村深月さんや坂上忍さんがいらっしゃいます。取材中、不登校している子が「坂上さんのような大人になりたい」と言ったのを聞いて、私も驚きましたが、坂上さん自身はもっと驚いていて「え、俺に? 俺はやめたほうがいいよ!」とおっしゃっていました(笑)。不登校経験者で言えば、中川翔子さんや俳優・モデルのゆうたろうさんなどに出ていただいています。

:2023年の今年は、「不登校動画選手権」を開催されたそうですね。『不登校新聞』の活動や『学校に行きたくない君へ』には、きっとヒントになる何かがあると思います。身の回りには同じような経験をした人や共感してくれる人はいないかもしれないけど、範囲を広げてみると実はいる、ひとりぼっちじゃないんだということを実感していただけたらなと思います。

(石井 しこう : 『不登校新聞』代表)
(代 麻理子 : ライター・編集)