横須賀に伝わる謎カクテル「横須賀ブラジャー」って何? 現地で飲んでみた!
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●横須賀の中心エリア、横須賀中央駅にほど近い飲み屋街「若松マーケット」の「横須賀ブラジャー」を調査。提供店はなんと49店とも……その実態を確かめに現場に行ってみた
神奈川県横須賀市は米海軍、海上自衛隊がある「基地の街」として知られ、独特のカルチャーが根付く街ですが、その中心部・横須賀中央駅にほど近いエリアに小さな飲食店が立ち並ぶ飲み屋街「若松マーケット」があります。
取材は明るい時間でしたが、夜にはお酒を楽しむ人たちが多く行き交う「若松マーケット」
その趣きは、古き良き昭和の風情を感じさせ、夜にはお酒を楽しむ人たちが多く行き交います。そんな「若松マーケット」には「横須賀ブラジャー」という名物カクテルがあり、なんとその提供店は49にも及ぶと言います。なんとも脳裏にひっかかるこのカクテルの名前。一体どんな飲み物なのでしょうか。今回は、地元の組合・若松新生商業組合の北見雅則組合長に解説してもらいつつ、名物店『サタン』で、その「横須賀ブラジャー」を実際にいただくことにしました。
かつては近寄りがたい街だったが、世代交代で開かれた街に
地元の組合・若松新生商業組合の北見雅則組合長。北見さんはここ「若松マーケット」で『noB’z』というお店を運営しています
現在の「若松マーケット」は、北見さんの組合に加入している店が70店舗。そのうちほとんどの店が個人の飲食店で、各店ともに他エリアでは見られない個性豊かな店だそうです。まず、北見さんからここ「若松マーケット」の歴史について話を聞きました。
「『若松マーケット』はもともと戦後の闇市でした。物資が入手しにくかった時代の生活市場みたいなものでした。第二次世界大戦後も朝鮮戦争、ベトナム戦争などが起き、米軍関係者からの物資の出入りがあったことで活気のある街だったんですね。その活気に乗じて日本人の女の人たちが集まるようになり、その女性に群がってくる日本人の男性が続々やってきて賑わったと言われています。
しかし、そういった泡銭が落ちるところっていうのは、反社会的勢力の飯場にもなりがちで、だから僕が学生の頃なんかは、『若松マーケット』に来ることをためらうような、ちょっと危なく感じるエリアでもありました。だいたい、昔の『若松マーケット』の時代を知っている横須賀の人は同じ印象だと思いますよ。ある意味で閉ざされたエリアで、『会員制』っていう札を貼っていなくても、ほぼ会員制みたいな店ばかりでした」(北見さん)
ところが、2000年代に入ると、神奈川県警の尽力もあり、ずいぶんと開かれた街となり、気軽に各店に立ち寄れる飲み屋街へと変わっていったそうです。
「警察のおかげももちろんあるのですが、各店の代替わりの影響もあったと思います。各店を継いだ若い世代の店主たちが街の雰囲気を変えていってくれたように思います。若い世代のお客さんや一見さんであっても『安心して来られます』『飲めます』『食べられます』っていう街になったんですね。今では横須賀に観光に来た人が遊びに来ることも多くなりました」(北見さん)
町おこし的な意味合いから誕生したカクテル「横須賀ブラジャー」
「横須賀ブラジャーシルク」に使う専用ジンジャーエール
こういった変遷を経て、2011年11月11日に誕生したのが今回調査してる「横須賀ブラジャー」。「若松マーケット」独自のカクテルで町おこし的な意味合いから生まれたのだそうです。
「ブランデーとジンジャーエールを割ったカクテルで、基本は『横須賀ブラジャーシルク』と『横須賀ブラジャーレギュラー』の2種類です。主に『氷』『ニッカ ドンピエールV.S.O(ブランデー)』『ウィルキンソン(ジンジャーエール)』を使って作るものですが、『シルク』のほうは、独自開発した専用のジンジャーエールを使うことを基本とし、現在『若松マーケット』では49の店でこの『横須賀ブラジャー』を楽しむことができます。各店とも、この『基本』をアレンジして出し、価格もまちまちですが、絶対に守ってもらっていることは『店にポスターを貼ること』『専用グラスを使うこと』。そのことで『若松マーケット』の名物カクテルにしましょう、という思いがありました」(北見さん)
底にはたっぷりの生姜。独特の味わいを楽しめるとのこと
こういった試みに対し、横須賀市も資金面でバックアップしてくれたとのことで、地元の人たちのアツい思いが反映されたカクテルのようにも思いました。
「『若松マーケット』には60年以上営業を続けている店もあります。時代は変わりながらもここ『若松マーケット』だけは変わらないでいたい。よそが目まぐるしく変わっていくのはおおいに結構だと思いますが、だからこそ『昭和の雰囲気』を残す街も守り続けたいです。そういった意味でも『横須賀ブラジャー』によって、『若松マーケット』を多くの人に知ってもらい、レトロな雰囲気を守り続けられると良いなと考えています」(北見さん)
「横須賀ブラジャー」のポスターのモデルになった親子経営のバーへ!
シブい店構えにテンションが上がる一方、その名が怖くもある『サタン』
ここまでの話を聞いたところで北見さんは筆者に「さ、行きましょう!」と言い、ある店へと連れていってくれました。その店の名は『サタン』。年季の入った店構えがシブく、良い酒を飲めそうでかなり興味をそそられましたが、しかしこの名前です。悪魔のような怖いママが出てくるのではないかとビビりましたが、応対してくれたのは優しいママとその娘さん。
迎えてくれたのは優しいママと明るく美しい娘さんでした
北見さんによれば『横須賀ブラジャー』のポスターなどで使われるビジュアルイラストは、この『サタン』の緒方さん親子がモデルになっているそうです。緒方さん親子に話を聞いてみました。
「うちは1963年開業で、当時は東京オリンピックを目前に控えていた時代でした。この頃はうちの母が開業し主な客は公務員、米軍基地勤務者、自衛隊員など。みんな良いお客さんばかりでしたので、後に私がお店を継ぐことになりました」(サタン・緒方廣子さん)
「横須賀ブラジャー」のビジュアルイラストのモデルになったのは、この『サタン』のママと娘さんとのこと
やがて、娘さんの恵美さんもスタッフに加わり『サタン』はなんと親子3代で店を受け継ぎ、今年で60年を迎えることになったと言います。
「母と一緒にお店を続けています。禁煙、カラオケなしのお店ですが、『横須賀ブラジャー』はもちろんあります。ぜひ多くの方にお越しいただければ嬉しいです」(サタン・緒方恵美さん)
「たくさんの思い出が詰まった1杯。心を込めて提供していきます!」
「横須賀ブラジャーシルク」(左)、「横須賀ブラジャーレギュラー」(右)
というわけでこの『サタン』で「横須賀ブラジャー」をいただくことにしました。専用グラスを2つ並べ、恵美さんが「シルク」「レギュラー」それぞれを作ってくれました。
「シルク」は専用のジンジャーエールを使っていることもあり、強い生姜感が体を温めてくれるブランデーが苦手な人でもグイグイいけそうな一杯だと思いました。そして「レギュラー」のほうは、ブランデーのまろやかな口あたりをさらに、まろやかにしたようなカクテルで、これも美味。グイグイ飲んでしまいそうな危険な感じは否めませんが、「若松マーケット」ならではの味でした。
恵美さんに入れてもらう一杯が超うまそう!
「『横須賀ブラジャー』は永く愛される『若松マーケット』のご当地カクテルに育ってほしいと思っています。2011年の開発当初の地元のみんなの思い、盛り上げようと紹介してくださった方々の思い、この味を目当てに『若松マーケット』まで足を運んでくださる方々の思い……たくさんの思いでできあがった特別な一杯です。これからも心を込めて提供していきたいと思っています」(サタン・緒方恵美さん)
●調査結果:「若松マーケット」に関わる人々、訪れる人々のアツい気持ちがこもったカクテル「横須賀ブラジャー」。口当たり以上にアツい気持ちにさせてくれる一杯だった!
「若松マーケット」という古き良き飲み屋街で提供される「横須賀ブラジャー」は、多くの人々の思いが込められたカクテルだということがわかりました。前述の通り、とても飲みやすく、どこか懐かしい気持ちにもなれるカクテルです。ぜひ一度、「若松マーケット」でこの「横須賀ブラジャー」を飲んでみてはいかがでしょうか。ただし、あまりの口当たりの良さに、飲み過ぎには要注意ですよ(笑)!
(撮影・文◎松田義人)
●SHOP INFO
店名:サタン
住:神奈川県横須賀市若松町3-13
TEL:046-825-9068
営:16:30~21:30
休:日曜、振替の月曜(他にサボリあり)
店名:noB’z
住:神奈川県横須賀市若松町3-13
TEL:080-3707-3711
営:17:00~22:00
休:日曜、月曜