依頼者の父親が一人暮らしする家はゴミ屋敷状態だった(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

施設に入所する父のため、数年ぶりに子どもが実家を訪れると、そこはネズミが暮らす「ゴミ屋敷」となっていた。

本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。

ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直社長が、生前整理の大切さを現場から訴える。

ネズミと糞と獣の臭いでいっぱいだった実家

ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」には、ゴミ屋敷の片付けだけではなく生前整理の依頼もやってくるという。生前整理とは、自分が死ぬ前にモノや財産など身の回りを整理しておくことだ。子どもに迷惑をかけたくないという思いから親が「終活」の一環として行う。それが一般的な生前整理のイメージだ。

だが、実際には生前整理をまったくしていなかったために、親が亡くなってから子どもが慌てるケースが多いという。今回も片親を亡くした依頼者から「実家の片付けをしてほしい」と電話が入り、イーブイが現場に向かった。

1階部分にある玄関と居間には年季の入ったモノの数々が無造作に放置されていた。全体的にホコリがかぶっていたり、段ボールがそのまま置いてあったりと、長年モノの整理をしてこなかったようだ。生ゴミなどの生活ゴミは少ないが、ゴミ屋敷と言っても差し支えないだろう。


年季の入ったモノであふれたリビング(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

2階に上がる階段下の押し入れを開けると、ここにもしばらく使っていなさそうな荷物が詰め込まれていた。その形からネズミのものだと思われる糞がこびりついていたので、押し入れが住処になっていたようだ。

背の高い家具の上にもネズミの糞が散乱していて、臭いもかなりきつい。親が一人でこの家に住んでいたらと考えると、子どもとしては心が痛んでしまいそうな状況だった。


ネズミのものだと思われる糞(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

「部屋をきれいに維持してあげられなかった」と後悔

この家に住んでいたのは依頼者の両親だった。長らく夫婦で暮らしていたが、10年前に妻が他界し、夫(依頼者の父親)が一人で住んでいた。しかし、高齢ということもあって施設に入所することになり、残された子どもが家を片付けることになった。

本来ならば、母親が亡くなった時点で一度片付けをしておきたかったところだ。しかし、そこで放置してしまったがゆえに、今になってそのひずみが出てきてしまった。


スタッフが冷蔵庫を運び出す(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

依頼者は両親が一緒に暮らしている間も、父親が一人で暮らしている間も、ほとんど実家の様子を見に来ていなかったそうだ。今回、必要に駆られて久しぶりに実家に入ってみると、冒頭のような状況に直面し、「部屋をきれいに維持してあげられなかった」と後悔が残ったという。依頼者はそれほど遠くない場所に住んでいたようだが、なぜ荒れる実家を放置するようなことになってしまったのか。見積りのときの様子を二見氏が話す。

「近いところに住んでいても、連絡が取れていたり元気にしていたりすれば、わざわざ家にまで上がらなくても安心してしまう部分はあるんじゃないでしょうか。それこそ、距離が遠ければなかなか様子は見に来られないでしょうし、親が部屋を見られることを拒むことだって考えられますし、すべての親子の関係が良好であるわけもありません。依頼者の方は後悔しているとは言いつつ、どこか淡々とした印象を受けました」(以下、同)

口にしないだけで、依頼者と両親の間にも何かしら事情があったのかもしれない。


手際よく家の中を片付けていく(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

世代でモノに対する価値観にギャップ

高齢となった親の実家によく生じる問題がモノの多さだ。月に約130軒のゴミ屋敷の片付けを行うイーブイの二見氏は、「モノに対する価値観のギャップ」を多くの親子間に感じるという。

「年配の方には“モノは捨てずにとっておくのが当たり前”という価値観があるように思います。昔は今みたいにミニマリストなんて言葉もなかったでしょうし、そういう考え方すら世の中にまだなかったはずです。モノを捨てるという行為に馴染みがないので、必然的に家の中はモノであふれていきます」


発掘された古雑誌(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

だが、年代が下がるにつれてモノに対する価値観は変わっていく。モノに重きを置かなくなると言えばいいだろうか。

「逆に若い人たちは、“捨てる前提”でモノを買っているように思います。だから、高い車も買わなければ、高いブランド品を持っているだけですごいみたいな発想にならないですよね。これって、昔の人は終身雇用制度でガチッと会社に固められていたことも影響していると思うんです」

年功序列で出世が決まっていく風潮から成果主義へと移りつつあり、転職することが若い世代では当たり前の世の中。フリーランスという働き方も珍しいものではなくなった。

形あるものでもいつかは変化し、なくなる。だから、形は重要ではない。そんな価値観が根付いてきたように思うが、高齢者には基本的にそれがないのだ。


タンスの中に敷かれていた新聞紙(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

前述したように、親が亡くなってから実家のモノの多さに慌てる子どもは多い。そこで大切になってくるのが「生前整理」だ。親が亡くなると、死亡届の提出、訃報の連絡、葬儀の手配、年金の受給停止、健康保険や介護保険の資格喪失届など……、膨大な手続きが待っている。それを終えた後に待っているのが、相続だ。とてもじゃないが実家の片付けをしている暇などなく、放置せざるをえなくなってしまうのだ。

「ここでその詳細には触れませんが、葬儀の費用は遺族にとって大きな負担になります。そこで、仮に実家が賃貸でしかもゴミ屋敷やモノ屋敷だった場合、どうなるでしょうか。すぐに片付けることは無理だと思うので、2カ月、3カ月と家賃が延々に発生してしまうんです。そして、本当に多くの人が、“親が亡くなる前に片付けておけばよかった”と悩むんです」

遺品にゆっくり向き合えない


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さらに言えば、これはお金だけの問題ではない。

「お葬式のときってその忙しさから悲しむ時間もないって言うじゃないですか。やることがあまりにも多すぎて悲しめない。それって実はいいことではないと思うんです。実家の片付けも同じで、時間に迫られていたら遺品にゆっくり向き合うことはできません。時間がないというだけで、大切なものまで捨ててしまうことになると思うんです」


モノがなくなった1階(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

両親の体調は把握できていても、実家の荷物の量までは把握できていない人もいるはずだ。「モノの量が多すぎる」と気付けたら、片付けられるうちに片付けておくのが理想だ。親は子のために、子は自分のために、早いうちから生前整理を視野に入れたい。

(國友 公司 : ルポライター)