日本郵便はかつて日本通運の宅配便「ペリカン便」を吸収したが、大量の遅配が生じた苦しい経験がある。今回は順調に進められるか(撮影:梅谷秀司)

10月から、日本郵政グループとヤマトホールディングス(HD)の協業が本格的にスタートする。

カタログなどをポストに投函して送る「クロネコDM便」は2024年1月に終了し「クロネコゆうメール」に変わる。小型荷物を配達先のポストに投函する「ネコポス」も2023年10月から順次移管し、「クロネコゆうパケット」に変わる。ヤマトは集荷のみ行い、配達業務を日本郵便に委託する仕組みだ。

両社は熾烈なシェア争いを繰り広げてきたが、ヤマトの投函商品は仕分けなどが主力の「宅急便」と別の仕組みだった。バイクを軸に全国規模で小回りの利く態勢を整えることも難しく、日本郵便のような「精度の高さや安定性は、真似してもたどり着けなかった」(ヤマトHDの長尾裕社長)。

クロネコメイト契約終了後の仕事は?

ヤマトは配達業務の移管にあたり、クロネコDM便の配達を担ってきた個人事業主・クロネコメイトの契約終了(最長で2024年度末)に向けた対応を進めている。約3万人が対象とされる。個別に数万円の謝礼金(就労期間などいくつか条件あり)を支払うほか、10月の早い段階で就職支援サイトを立ち上げ、メイト向けに紹介する。


6月の協業会見。左から順にヤマトHDの長尾裕社長、日本郵政の増田𥶡也社長、日本郵便の衣川和秀社長(当時)(撮影:今井康一)

複数メディアがメイトの契約終了について報じているが、6月の協業発表時にはすでに決まっていたことだ。長尾社長も会見で「次のキャリアをどう作っていくか、全力でサポートしていく」と説明していた。

ただし移管にあたり、難題を抱えているのも事実だ。ヤマトが再就職を支援しても、メイトが同じ条件の仕事を見つけるのは難しそうだ。

メイトは比較的小さなエリアで配達を担当している。配達には主に原動機付き自転車などを使い、徒歩で回るケースもある。一部ネコポスも併行して配達するメイトもいる。業務委託契約のため、隙間時間を活用して配達できるのも大きなメリットだ。

ヤマトは日本郵便の仕事もサイトを通じて紹介する方針だが、日本郵便でDM便を担うのは社員だ。正社員と期間雇用社員(時給制の契約社員)が配達している。日本郵便はヤマトとの協業に伴い、仕分け・配達要員を募集する方針だが「個人委託ではなく期間雇用社員の募集を行い、面接等で選考の上、採用する」と説明する。

日本郵便では業務委託で「自由な時間に好きなだけ働く」という条件は準備されていない。ヤマトはメイトに対し、丁寧な説明とともに、できるだけ希望に沿った仕事を紹介するサポートが求められる。

一方、10月からはネコポスの移管がスタートする。こちらも委託会社との調整が必要になる。ネコポスはヤマトのセールスドライバーを中心に配達しているが、EC事業者向けサービス「EAZY(イージー)」の配達を担う委託会社のドライバーも運んでいる。

ネコポスがなくなる分、委託会社には追加でイージーの配送を依頼するなど荷物量の調整が必要になる。ある下請け業者は「イージーを配送しながらネコポスも運んできたのに、なくなってしまうのは困る」と不満を口にする。委託会社と良好な関係を維持していくことも課題だろう。

「スモールスタート」へ移管見直し

今後の焦点は日本郵便への移管を順調に進めることに尽きる。日本郵政の増田寛也社長は「配達までの日数など、品質を落とさないようにする。量が非常に増えるので、オペレーションをきちんと組めるよう、ヤマトのサポートを受けてやっていく」と語る。

ネコポスは当初、10月に総量20%の荷物から移管する計画だったが、「スモールスタートで確実に実施する観点からエリアを限定し、約13%の引き受けから始める」(日本郵便)と見直した。今後は段階的に引き受けを進め、2025年に完全移管する見通しだ。

日本郵便は社内に「ヤマト協業実行推進室」を設置し、ヤマトと定期的に打ち合わせをこなしてきた。本社と支社間でも毎週会議を開き、課題の洗い出しや進捗を確認している。物量の増加に合わせて、人材確保などネットワークの増強を進められるかが重要ポイントだ。

ヤマトも業務を委託するとはいえ、自社ブランドのサービスであることに変わりはない。移管でトラブルが発生すればイメージダウンにつながるおそれもある。サービス品質を保つために、日本郵便と密に連携していくことが欠かせない。

(田邉 佳介 : 東洋経済 記者)