不動産投資で本当に収入を得られるのか。住宅コンサルタントの寺岡孝さんは「不動産業者は家賃収入を得られるメリットを強調し、ローリスク・ミドルリターンと売り込むが、実際はハイリスク・ローリターンだ。不動産投資で成功するのはほんの10%に過ぎず、残りの90%の人は失敗者となってしまう」という――。
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ralf Geithe

■「不動産投資で成功」に初心者がダマされる

コロナ禍を経て比較的好調を維持している日本の不動産投資市場ですが、巷でいう不動産投資にはどういった側面があるのでしょうか。

不動産投資はある意味、不動産の物件を買ってもらうために編み出した販売手法ととらえることができます。

また、不動産会社や不動産投資で大家になった人が成功事例として著者となっている書籍が多数出回っています。そこでは、家賃収入を得るメリットや将来の不労所得が語られ、借金状態にもかかわらずそれを「資産」としています。

不動産投資を勧めてくる側は将来の不安をあおり、心の弱い人に巧みに付け込む要素が巧妙に展開されているため、不動産投資に対して知識のない初心者が騙されてしまいます。

■現実は極めて「ハイリスク・ローリターン」

例えば、「節税効果」「生命保険代わり」「年金代わり」「将来の資産形成」など、「不動産投資をすれば将来への不安が解消されます!」と勧めてくるのです。業界の謳い文句では「不動産投資はローリスク・ミドルリターン」と言っていますが、実際に不動産投資を始めてみると、とてもローリスク・ミドルリターンとは言えません。

節税できると言われて投資マンション8戸も買って2億円の借金を背負い込んでしまった人、将来の生活不安から不動産投資をすれば安定した家賃収入が得られると言われて1棟マンションを買った人などは、結果的にハイリスク・ローリターンの投資となっているのです。

私のところに来られる相談者の多くは、「借金の返済が膨らみ、どうにもならなくなってしまった」という内容です。

こうした状況を見ると、投資対象としての不動産は欠陥だらけと言わざるを得ませんし、不動産投資はプロでないと儲からない仕組みと言えるでしょう。

■「オープン価格」という不動産業界の闇

投資商品の多くはオープンで透明性のあるものです。

例えば、株式投資は市場で取引されており、世界中の誰もが簡単に行えます。取引自体は法的に説明義務があり、客観的な数値の変動に基づいて公開されたマーケットで取引が行われるので透明性があり、オープンなものと言えます。

ところが、不動産投資の場合、「1物4価」(「実勢価格」「公示価格」「固定資産税評価額」「相続税評価額」)と言われるように、正確な不動産価格はひとつとして存在しません。ある意味不動産価格はすべてオープン価格になっているので、その取引の主体者が勝手に値段を決めることができます。

例えば、マンションの売主が大手のデベロッパーであれば、デベロッパーの利幅が大きく価格反映されています。昨今「東京23区では1億円ないと新築マンションは買えない」というようなフレーズがありますが、まさに取引の主体者が値段を決めています。

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■素人は適正価格なのかわからないまま購入する

したがって、一般のエンドユーザーがこの価格を見て本当に正しい価格かどうかの判断はできないのです。言葉巧みに「希少物件」だとか「滅多に出ないいい物件」といって買わせてしまうのが常套手段です。

ひとつとして同じ不動産物件はありませんが、それに近い物件は山ほどあります。そうした情報を的確に仕入れない限り、エンドユーザーには全くといっていいほど適正価格がわからないのです。

このように、不動産投資の取引の大半は実に不透明なもので、いわゆるブラックボックス化されており、公開市場もなく不透明な取引が多いと言えるでしょう。したがって、数々の不祥事や不正行為がなくならないのも理解できます。不動産取引は株式市場のような公開マーケットが存在しませんので、不動産価格の信憑性が疑われても仕方がないのでしょう。

■「毎月8万円の副収入」のはずが、赤字に

インターネットで見かける広告の中に、「ほったらかしのマンション投資で毎月8万円の副収入が入ってくる!」という文言。マンション投資を勧める広告です。

この広告を見るとだれもがマンション投資をしたくなると思いませんか?

ところが、読めないくらい小さい文字で以下のことが掲載されているのです。

【ローン返済期間中はローン返済に充当されます。】
【物件購入後、当社平均家賃が月8万円で貸し出した場合を想定、物件や諸条件により異なります。また、将来の運用成果を保証するものではありません。】

つまり、ローンの返済中は月8万円の家賃はローン返済に充当され、広告のように副収入はなく下手したら持ち出し金が発生する。広告の文字通りになるのはローンの返済が終わってからということ。

これを信じてこの不動産会社に問い合わせしたら最後、カモがネギを背負って来たということになり、ガッツリ営業されて投資マンションの2戸や3戸を買わせるという流れが想定できます。

■オーナー負担の維持コストは相当に高い

この広告のように、例えば、毎月8万円の家賃収入があってもローンの返済金が7万、管理費・修繕積立金で1万、年間7万円の固定資産税を月割りすれば約6000円、これらの合計が8万6000円となり、毎月6000円の持ち出しとなります。

この持ち出し金がローンの返済期間中は必ず発生するので、年で7万2000円、30年返済でローンを組んでいれば30年で219万円の持ち出しとなります。

毎月の持ち出し金は少額と考えがちですが、トータルで考えてみると投資対象としては決していいとは言えません。

ローンの完済後になればこうした持ち出し金はなくなりますが、30年間でマンション自体がどうなっているかはだれにもわからないもの。また、専有部の設備の交換や修繕の費用はオーナー負担であるため、給湯器やエアコン、クロスや床の全面貼り替えが必要となれば相当なコストとなります。

つまり、30年のローン完済までには毎月の持ち出し以外にこうした設備の交換修繕費用がかかり、マンション投資はその維持コストが相当に高いということが理解できます。

■儲からない物件を2戸も買ってしまった30代男性

こんな相談者のお話をしましょう。

Eさんは年収500万円程度で30代の一般企業に勤めるサラリーマンです。ひょんなことから、投資マンションを買う羽目になりました。それは、会社の先輩からの話で、投資マンション話を聞かされ、興味を持ってしまったのです。先輩も投資マンションを買っているという安心感も手伝ってか、不動産業者の話を聞くことにしました。

話を聞いてみると、なんとなく将来の不安が解消できそうなイメージで物件を紹介され、契約をしました。しかも、続けて2戸も買ってしまったのです。のちにわかるのですが、買った物件は都心ではあってもそれほどいい立地とは言えないもので、建物自体は売値に見合った分譲マンションとは言えず、いわゆる地主が自分の土地に建てるRCのマンションの類いで、しかも低層、高級感などはまったくありません。

そんな新築マンションでも、戸当たり25m2の1Kタイプで3000万円近くの価格です。しかも、賃料はせいぜい高くて9万円未満ですから、とても儲かるはずはありません。こんな物件を自己資金10万円、その他はすべてローンで賄うというものでした。

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■業者は値引きする裏で、約1000万円を儲けた

購入の際には、所有権の移転登記やローンの抵当権設定費用、こまごました税金など、約100万円程度を業者が値引きをしていました。

Eさんに聞けば、不動産業者の方で特別に値引きしてもらったとのこと。そのくらいの費用を業者が持っても、業者の儲けは2戸で概ね1000万円近くになります。したがって、その程度の諸費用を値引くのにはなんの躊躇もありません。ある意味、まんまとカモられてしまったわけです。

Eさんはどこに相談したらいいかわからないまま悶々としていましたが、インターネットで弊社の存在を知り、相談に来ました。

物件の詳細を精査してみると、毎月5万円の持ち出し金が発生していました。年間で60万円もの持ち出しがあり、ローンの返済期間はこの持ち出しが続くことをEさんにお知らせすると、相当なショックを受け、すぐに売却したいと言いました。

しかしながら、ローンの残債額と市況価格には大幅な乖離(かいり)があり、それを埋め合わせる資金がなければ売却はできません。

■親に500万円を援助してもらい、なんとか脱出

本人だけではにっちもさっちもいかないことが分かり、Eさんは親御さんからの資金を受けることになりました。資金援助のメドがたった段階でサブリース契約を解約してできる限り高値での売却を目論見ました。最終的に2戸の売却はうまく完了しました。

ただ、売却額は2戸で約4000万円、売却時のローン残債額は合計4500万円もあったので、資金援助の額は合計で概ね500万円となり、いかに物件を高値掴みしていたかを痛感したようです。

Eさんは親御さんの資金援助で出口が取れましたが、もし援助がなかったら30年間、毎年60万円の持ち出し金を払い続けることになり、下手すれば自己破産という結末になりかねません。

不動産投資は一歩間違えればこのような状況になってしまうのです。

同様の事例を多数知っている私から見ると、不動産投資で成功するのはほんの10%に過ぎず、残りの90%の人は失敗者となってしまうのです。

■「任意売却」が成立しても個人の信用は傷ついたまま

不動産投資でローンが返済できない状況に陥ってしまうと、どうなるのでしょうか。

住宅ローンや借入金等の返済が困難になった場合、債権者は担保権(抵当権等)の実行により債権を回収することになり、よく聞くのが「競売」による不動産の売却という方法です。

しかしながら、競売では現金化までに時間がかかるうえ、市場価格より安くなるケースもあります。

そこで、不動産会社の仲介により債権者・債務者の調整を行い、市場で担保不動産を売却する「任意売却」という方法を取る場合があります。

任意売却は債務者(所有者)、債権者(金融機関)、担保物件を買う第三者で話し合い、合意した売価価格で第三者に売却するという内容です。債務者は売却代金をローン返済にあて、債権者は抵当権を抹消するという流れになります。

この任意売却では対応できないとなれば、金融機関は法的手続きで貸金の回収をします。これを「競売」といい、金融機関が競売の申し立てを裁判所にすると強制的に売却されます。こうした方法で借金はなくなるわけですが、ローンの延滞履歴が残るなど個人情報が毀損(きそん)してしまうため、当面はクレジットカードやその他のローン借り入れはできないことになります。

したがって、ローンの返済が滞ってにっちもさっちも行かない状況になってしまったら、早い段階で借入先の金融機関に相談して任意売却等の道筋をつけてもらう必要があります。

そうすることで最悪の結末は防げることになります。

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寺岡 孝(てらおか・たかし)
住宅コンサルタント
1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行っている。これまでに2000件以上の相談を受けている。NHK名古屋「ほっとイブニング」「おはよう東海」などTV出演。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWEBメディアに住宅、ローンや不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『不動産投資は出口戦略が9割』『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』『不動産投資の曲がり角で、どうする?』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)がある。
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(住宅コンサルタント 寺岡 孝)