掲載:THE FIRST TIMES

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山下達郎が 1976年~1982年までRCA/AIR YEARSにて発売した、アナログ盤、カセット、全8アイテム が 2023年最新リマスター&ヴァイナル・カッティングにてリリースし、好評を博している。しかも幅広い年代のファンが手にしているようだ。

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山下達郎の、そして彼のアナログ盤の魅力とは何なのか?

今回は、全国のCD、レコードショップから、山下達郎を敬愛する7人に登場してもらい、それぞれのショップの様子から、店頭での施策、山下達郎へのリクエストまで、率直な意見を語ってもらった。(*取材は8月に実施)

【PART 1】 最初に登場は、タワーレコード梅田NU茶屋町店:伊藤さん、玉光堂イオンモール旭川駅前店・小杉さん。

■「自分が好きなバンドが達郎さんの音楽に影響を受けたと言っていたので、気になって来てみた」という若者も多い

──5月からスタートした『TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection』企画ですが、それぞれの店舗での盛り上がりはいかがでしたか?

伊藤:予約だけでかなりの数になってしまい、その他の方にはなかなか回らない状況になりましたが、うちは7月中旬からポップアップストアもやっていましたので、達郎さんファンが集結してくださり、盛り上がりました。毎月連続リリースなので、毎月店舗に足を運んでくださる方も多く、僕もお客さんの顔を覚えるので、そこでちょっと話が弾んだり、予約している方もポップアップストアに寄って、他のレコードやグッズを買ってくださって、お祭り的な側面を感じました。

──若い方もいらっしゃいましたか?

伊藤:そうですね。幅広いファン層の方が足を運んでくださって、若い方は、自分が好きなバンドが達郎さんの音楽に影響を受けたと言っていたので、気になって来てみたという人も多かったです。たしかに大阪のライブハウスにインディーズバンドのライブを観に行っても、達郎さん音楽を参照している、シティポップに影響を受けたであろうアーティストがたくさんいます。あとは僕みたいに、父親や母親が達郎さんを聴いていたので、影響を受けて好きになって買いに来ましたとか、上の世代の方は、昔聴いていたものを改めてLPで聴いてみたいという方もいらっしゃいました。

──伊藤さんは20代で達郎さんの大ファンということですが、やはりご両親の影響ですか?

伊藤:そうなんです。父親が車の中で達郎さんの『Big Wave』とかをずっと流していて、「悲しみのJODY」がすごく印象に残っていて、達郎さんの音楽が自分の音楽体験のルーツであることは間違いないです。

──玉光堂の小杉さん、旭川では今回の盛り上がりはいかがでしたか?

小杉:旭川という地方都市では、そこまでアナログの需要というのはそれほど多いわけではないので、最初は“レコードはなかなか難しいでしょ」と思っていました。今回の達郎さんの企画は好調ではありますが、実際店頭にはまだ数枚在庫があるという状況です。でも今伊藤さんのお話を聞くと、世の中には需要があって売れている場所があるのだから、取り組みの差だなと思いましたし、アナログレコードの可能性を感じることができ勇気づけられました。街のCDショップに行ってもレコードなんて置いていないと思って、最初から購入するのを諦めている人も多いと思うので、そういう方たちにも熱心にインフォメーションすれば違ってくるのかもしれない、店頭のイノベーションが必要だと感じました。

──他のアーティストのアナログ盤も同じような状況ですか?

小杉:予約や問い合わせもそれほど多いわけではないのですが、経験上こういうムーブメントはある程度時間を経て、田舎にも必ず波及してきます。アナログ人気の流れを北海道にも持ってきたいですし、今回の達郎さんの企画はいい刺激になりました。旭川は意外とインバウンド、中国、台湾からの方が多く、驚いたことに普段あまり日本のお客さんが手にしないシティポップのアーティストのCDを買ってくださったり、ちょっと驚いています。

──小杉さんご自身はアナログレコードは買ったり聴いたりする機会は多いですか?

小杉:CDばかり聴いていますが、たまにレコードも聴くと、DJの友人がよく言っているアナログの魅力がよくわかります。音が柔らかい、優しい感じの音質が人気の秘密なんだと思います。もちろん人それぞれどういう目的でアナログを買っているのかはわかりませんが、モノとしての所有欲を満たすという側面はあると思います。

伊藤:たしかにジャケットの大きさって購買の動機に繋がっているなということは、お客さんのお話を聞いていて感じますね。やっぱり好きなものを自分の部屋に置きたい、飾りたいという気持ちがあるみたいで、そういう意味では12cmのCDよりも12インチのLPの方が今風に言うと映えるっていうのはあると思います。でも達郎さんだけではなく、自分が好きなアーティストがレコードを出すと、プレイヤーを買って聴いてみようって一緒にプレイヤーを買うお客さんも一定数はいます。

──達郎さんの『FOR YOU』はジャケットと音がひとつになって『FOR YOU』というイメージがあります。

伊藤:『FOR YOU』以降に出ているシティポップ的な作品や、昨今のシティポップのコンビレーションは、やっぱり『FOR YOU』のテイストというのがサウンドの共通言語のようになっていると思います。

■やっぱり達郎さんの音楽のバックグラウンドの豊かさを今回のアナログを聴くと、改めて感じます

──伊藤さんはアナログレコードを聴きますか?

伊藤:(山下達郎さんの)アナログは持っていなかったのですが、中古レコード屋さんを回って探したりしていますし、今回のシリーズも全部予約して揃えます。今回のシリーズで『CIRCUS TOWN』のアナログを聴いて、CDとの違いを一番感じました。小杉さんがおっしゃっていたようにアナログだと温かく優しい音が響いていて、CDの『CIRCUS TOWN』って僕の中では良くも悪くもクールというイメージがありました。でもアナログで聴くことによって、内側に秘めている熱みたいなものをすごく感じた気がしたんです。それが印象深かったです。

小杉:今回のシリーズのオリジナルレコードを当時聴いていて、その後すぐCDで聴くようになったので、正直アナログをそんなに聴きこんできたわけではないのですが、やっぱり達郎さんの音楽のバックグラウンドの豊かさを今回のアナログを聴くと、改めて感じます。はっぴいえんどの音楽も、バックグラウンドの音楽を色濃く感じることができますが、私は豊潤なロックや黒人ミュージック、達郎さんもカバーしているカーティス・メイフィールドが好きで。大好きな「あまく危険な香り」が収録されている、9月6日に発売される『GREATEST HITS!OF TATSURO YAMSHITA』を聴くのが楽しみです。

──『TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection』のように最新リマスターしたものを、毎月発売するというのは達郎さんならではの企画だと思いますし、改めてアナログレコードの良さを幅広い人に伝えるいい機会だし、きっかけになると思いました。

伊藤:当時鳴っていた音がどんな音なんだろうって、若い世代の僕からすると70年代や80年代にリアルに鳴っていたスピーカーの音を感じることができません。昔の音は良かったという話を上の世代の人から聞いたり、オリジナル盤を中古で高い値段出して追い求めるのはそこにいい音があるからだという人たちがいる中で、その方たちの中には明確に“いい音”の音像がある。でも僕らはどれだけ頑張ってもそこに辿り着くことができないので、そういう意味では、今の時代にいい技術でいい音を聴かせてくれる今回のシリーズは本当にうれしいです。

──一方で達郎さんはサブスクはやらないと、CDとアナログで音にこだわりその世界観を伝えると宣言しています。それについてはどう思いますか?特にサブスク世代の伊藤さんはどう受け止めていますか?

伊藤:いちレコード店店員としては、そのスタンスを貫いてくださってるのはすごくありがたいです。小杉さんもおっしゃっているように僕らのことを常に視界にちゃんと留めてくださっているのを感じるので本当にありがたいです。一方で、Z世代ギリギリのサブスク世代としては、サブスクは全世界に広がるチャンスでもあるので、そういう意味で僕らが逆に達郎さんの音楽の素晴らしさが世界中に広がること足止めしてないかな、という不安もあります。もし達郎さんがサブスクを始めれば、世界中のシティポップを聴いてる音楽ファンによりリーチできるのに、という思いもあって、正直複雑なところではあります。

小杉:我々CDショップのことを忘れずにいてくれているということに関しては、個人的には素直にありがたいと思っています。でも伊藤さんがおっしゃるように、サブスクはもっと世界の人に達郎さんの音楽を知ってもらうためのひとつの手段ではあると思うし、CDのセールスにもいい影響があるはずだと感じています。

【PART 2】 続いて、タワーレコード京都店:藤瀬さん、フタバ図書 TSUTAYA TERA イオンモール福岡店:大畑さん。

■京都店では、日本人よりも外国の方からの反応がいい印象です

──『TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection』の各作品がオリコンランキングの上位にチャートインするなど、大ヒットしていますが店頭での盛り上がりはいかがでしょうか?

大畑:地方都市では予約だけで予定枚数が終了して、次はいつ入荷するかわからない状況なので、多くのキャンセル待ちの方がいらっしゃる感じです。

藤瀬:私どもも予約でいっぱいになって、キャンセルが出てもすぐに売れてしまう状況です。京都は場所柄外国からのお客様が多くて、欧米の人はもちろんですが東南アジア、特にマレーシアやタイ、インドネシアなどシティポップが浸透している国からの問い合わせが多く、なんとか全国の店舗から社内在庫を譲ってもらって、先週から全タイトル揃えましたが、全部売れています。日本人よりも外国の方からの反応がいい印象です。

──シリーズの中で特に好調だった作品は?

藤瀬:やっぱり『FOR YOU』と『RIDE ON TIME』はすぐに在庫がなくなりました。個人的には『IT’S A POPPIN’ TIME』が大好きなので9月が楽しみです(笑)。

──大畑さんは今回のシリーズを聴いてどんな印象を持ちましたか?

大畑:僕がレコード屋でバイトをし始めたのが1981年からで、年が明けた頃に届いた『FOR YOU』を試聴盤で聴いたときの衝撃を超えるのはいまだにないです。音圧というのかなんというのか、あのとき感じたものが今回はどうなんだろうと思っていたら、素晴らしいマスタリングで感動しました。

──マスタリングとカッティングの技術の向上が今回のシリーズが実現した、大きな要因だと思います。

大畑:昔から、納得できる音が出せるまでアナログは再発しないと言っていた達郎さんも、納得いくものが出来上がったのだと思います。ソニーさんの技術もそうですが、ニーズも重なってきて、個人的には理想的な音圧が出せたことが、達郎さんが今回の企画にGOサインを出す一番の理由になったのではないかと想像しています。欲を言うと(笑)、今回のアナログの音圧でCDを、ボックスでもいいので出してほしいなと思っています。

藤瀬:個人的に好きなCDの形態がUHQCDなのですが、あれで出してほしいです。

──おふたりとも、もともとアナログ愛好家で?

藤瀬:ずっと集めていました。今アナログがすごく流行っていますけど、流行る前に半分くらい売ってしまったのを後悔しています(笑)。

大畑:僕も藤瀬さんと同じように、二束三文でどんどん売ってしまって、売っていなかったら今頃富豪になっていたかもしれません(笑)。

──先ほどタワーレコード京都店さんは場所柄海外からのお客さんが多いとおっしゃっていましたが、全体的に若いお客さんが多いのでしょうか?

藤瀬:京都は大学生の比率が日本でいちばん大きい街なので、若い人たちがすごく多い印象です。僕は名古屋から京都に来てまだ2年くらいですが、地元のバンドの作品やインディーズの商品も動いています。もちろん流行りのアーティストのものは売れますが、あとは洋楽で聞いたことがないようなアーティストの注文を受けたり、割とマニアックな人が多くて、文化的なレベルが高いんだなって感じています。達郎さんの今回の商品も、若い人の予約はそこまでなかったのですが、店頭で見つけたら手に取る人は多いです。

──タワーレコード京都店さんは他のタワーレコードとは少し変わっている感じがしますか?

藤瀬:変わっていますね。京都と名古屋でもお客さんの年齢層も人気のジャンルも違うので、面白いなと思います。名古屋は比較的上の世代の方が多く、アナログも売れていました。洋楽が強い土地柄でした。京都店は去年リニューアルをして、最近はカタログの在庫も全体的に少なくなってきていたのでそれを増強したところ、見事に売れて、やっぱり欲しい方が多いんだなと実感しました。アナログも限定ではなくカタログ化してほしいです。昔は継続して入ってきていたものですが、今は発売と同時に買わないと買えない、在庫がないというのが不安です。

──大畑さんの店舗はどんな雰囲気ですか?

大畑:僕がいるお店は、イオンモールの中にあるということもあって、老若男女幅広い層のお客さんが来てくださいますが、今回、達郎さんのレコードは30代くらいの方がいちばん買ってくださった感じがします。若すぎない感じ。アナログって以前と比べて価格も高くなっているので、若い人はよほどのものでなければ買えないのかなって思います。

──タワーレコード京都店さんではシティポップのアイテムを海外の方が買っていく傾向があるようですが、大畑さんの店舗ではいかがですか?

大畑:例えば松原みきとか、メインどころの商品は動きますが、いわゆるモール系のお店なので、そこまで盛り上がっている感じはないです。シティポップブームは続くと思いますが、商品開発が重要だと思います。例えば達郎さんが今後他の作品をどう出してきてくれるか。例えば僕が気になってるのは『JOY』。レコードは曲順がCDと違いますので、3枚組で出したらめちゃくちゃ売れるのでは、と思っています(笑)。

──達郎さんはデジタル配信はやらない、CDとアナログで音にこだわって出していくということを貫いていますが、これについてはどう捉えていますか?

大畑:やっぱり流石だと思います。それでこそ職人。絶対パッケージで聴いてほしいというメッセージを間接的に伝えてくれているのだと思います。達郎さんはライブをずっと続けていらっしゃるので、その空気感はアナログにすごい近いものがあるので、アナログを出して、最近はツアー会場でも売っていますが正解だなって思います。実は僕、前職から数えると20年以上達郎さんのライブ会場でのCD販売をやっていて、そこでもできるだけいい音で流したいので、いいスピーカーとアンプを持ち込んでいます。僕らスタッフの「いらっしゃいませ」の声が聞こえないくらい大音量で流しています(笑)。

藤瀬:サブスクでも聴くけど、本当に欲しいなら買うという人は世代問わずに多いと思います。アナログに関しては、売上げはサブスクをやっても伸びるかもしれません。やっぱりアナログの音というのはアナログでしか聴けません。

■アナログってライブ会場に行くとグッズみたいな売れ方をするので、店舗で動かなくてもライブ会場で売れることはあります

──今アナログを出すアーティストが増えていますが、CDが売れるアーティストは同じようにアナログも売れるものなのでしょうか?

大畑:アナログってライブ会場に行くとグッズみたいな売れ方をするので、店舗で動かなくてもライブ会場で売れることはあります。お店に足を運んでくださる人は、聴くために買っていると思いますが、衝動買いも多いライブ会場で購入した人は、半分くらいは聴いていない、モノとして保有したいという人だと感じています。

藤瀬:今はアナログは出せば売れる状況になってきています。ただ上限商品が多いのでもうちょっと供給量を増やしたほうがいいと思う機会が増えてきました。特にアニメ系とかサントラは今問い合わせがすごく多くて、すでに売れているジャンルでいうとスタジオジブリ作品のサントラのLP、海外で人気のあるアニメのLP、しかも国内盤の日本語表記のものは英語圏中華圏問わず、問い合わせが本当に多いです。

──達郎さんのラジオ『サンデーソングブック』に若い人からのハガキが増え、ライブにも若い人が増えているようですが、店頭では実際どんな感じでしょうか?

大畑:店頭は微増という感じです。ライブ会場で見る限り昔に比べたら増えました。もともとチケットが入手困難ですから。何も知らずに来た若い人は一曲目の「SPARKLE」でいきなり立とうとしますからね(笑)。微笑ましいですけどね。

藤瀬:他のアーティストへの楽曲提供や「SPARKLE」のMVが新たに制作されたり、「LOVELAND,ISLAND」のスペシャルクリップが公開されたり、CMソングに起用されたり、達郎さんがクローズアップされている昨今、お店でも商品を手にする若い人が少しずつ増えています。とはいえ何か入口みたいなものはいくらあってもいいと思うので、ご本人がどう思われるかわかりませんが、3枚組とかそんなにボリューミーではないセレクトのベスト盤とか、そういうアイテムが今欲しいなって思います。

大畑:そういう意味では、今回のアナログ『GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』(9月6日)はいい機会なんですけど、あれがあの音でCDで聴けたほうがいいと個人的には思います。僕はシティポップという意味で考えると、RCA時代までと思っているので、『GREATEST HITS!~』は再評価されるべきいい内容だと思います。ぜひこのリマスターでCDにしてほしいです。それから昔店頭用に作られた竹内まりやさんのベストのような音源がありました。いわゆるメドレー的なもので10分くらいでまとめたものですが、達郎さんのも本人がマスタリングをし、納得したものをサブスクで解禁するのはありじゃないかと思います。たぶんダメだと思いますが(笑)。

藤瀬:今アルバイトの面接をしていると、ほぼ全員が音楽をサブスクで聴いているので、なかなか届きにくいという状況もあります。しかもテレビもあまり見ない世代なので、YouTubeでダイジェストを作っていただけたのはよかったのですが、若いお客さんに訴求するために、達郎さんの音楽をまずバイヤーに深く理解してもらうことも必要だと思っています。

大畑:先ほども出ましたが、サブスク以外であれば達郎さんにはとにかくいろいろなCDは出してほしいです。まずは『JOY2』じゃないでしょうか(笑)。『JOY』からもう20年以上経っています。マスタリングはしてほしいと思うし、考えていらっしゃると思いますし、ラジオでも出したいとずっとおっしゃっています。今回のアナログシリーズの後は、やっぱりみんなが首を長くして待っている『JOY2』ではないでしょうか!(笑)

【PART 3】 最後は、タワーレコード渋谷店副店長・後藤さん、タワーレコード新宿店・村越さん、エトウ南海堂・江藤さん。

■音がいいからという理由で、「今、流れてるのは?」という問い合わせがありました

──達郎さんの『RCA/AIR YEARS Vinyl Collection』が5月から連続リリースになり、残すところいよいよ9月の2作品になりました。その好調さはオリコンランキングに軒並みチャートインしていることでもわかりますが、みなさんの店舗での盛り上がりを教えてください。

江藤:全タイトル予約でいっぱいで、申し訳ないですがお客様にお待ちいただいてるような状況で、問い合わせも非常に多いです。購入層の中心は50代、60代が多い印象ですが、30代や20代と思われる方から問い合わせがあったり、反応は確実に増えています。

後藤:全然関係ないのですが、私、大分県・別府市の出身で、学生時代はエトウ南海堂さんによくCDを買いに行っていました。今日お話しできるのを楽しみにしていました。

江藤:ありがとうございます。今日はすばらしい出会いが待っていました(笑)。

──エトウ南海堂さんは創業何年になるんですか?

江藤:おそらくもうすぐ100年です。

──100年続くってすごいです。そこにCDを買いに行っていた後藤さんが中心となって盛り上げているタワーレコード渋谷店さんではどんな状況ですか?

後藤:客層的には想定して年代よりも若いという印象で、渋谷という土地柄ならではという部分でいうと、海外のお客様もすごく多いです。達郎さんの作品を店内で流していると、音がいいからという理由で、「今、流れてるのは?」という問い合わせがありました。純粋に音がかっこいいところが、若い方にも刺さるポイントだと思います。

──5月に開催していたポップアップストアもまた9月から開催(~9月28日)しまますが、海外の方も足を運んでくれますか?

後藤:そうですね。アナログのフロア自体は6階ですがポップアップストアはシティポップと銘打って、8階で入場無料ということは英語でも表記しているので、たくさんの方が来てくださって感動したという声もいただいています。もちろん購入もしていただいていて大盛況でした。

──村越さん、新宿も海外からのお客さんも多いですか?

村越:多いです。アナログのコーナーで達郎さんの作品を探している方もいますが、CDのフロアでもお問い合わせいただくことが多いです。アナログが出たことでその作品にスポットが当たってCDも同時に売れています。新しいファンが拡大しているという手応えを感じています。むしろニッチではなくいろいろな人が手を出しやすい、出したくなるフォーマットという意味では、素晴らしいタイミングでアナログを出していただけたと思います。

──『FOR YOU』、『RIDE ON TIME』が特に人気を集めたと思いますが、他のアイテムはいかがですか?

村越:『SPACY』も人気でした。

江藤:うちもそうです、『SPACY』と『THE GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』も反応が早かったです。

後藤:『SPACY』が『FOR YOU』の次に待っていらっしゃる方が多い印象でした。

──村越さんは今回のアナログ、聴いてどんな印象でしたか?

村越:僕は役得というか、渋谷店のポップアップストアに開店前に行って、試聴スペースを独占して(笑)、後藤さんに超高音質オーディオシステムで『FOR YOU』を聴かせてもらいました。めちゃくちゃ良かったです。もはやCDを聴いても音がいいと思いますし、ただ今回渋谷店で聴いて思ったのは、改めて伊藤広規さんのベースの存在感がすごかったです。やんちゃな感じというか、攻めるアグレッシブなベースの感じが今回のアナログを聴いたときに、すごくパンチがあってかっこいいなと思いました。達郎さんのライブでも、達郎さんのリズムギターと広規さんのベースに釘付けになっています。

江藤:私はCDしか聴いてこなかったのですが、今回『FOR YOU』の一曲目「SPARKLE」を聴いただけでレコードならではの感動がしっかり伝わってきました。大満足でした。

後藤:私も『FOR YOU』を誰よりも早く出勤して、高音質オーディオで一人で堪能しました(笑)。実は『FOR YOU』をレコードで聴いたのは今回初めてでした。CDでしか聴いたことがなかったので、広がりというか、奥行きが全然違い、感動しました。

■「アナログ買いました。プレーヤー持ってないんですけど」という人が多いですが、グッズとして買う人が多いと思います

──今アナログを発売するアーティストも多いですが、実際若い方たちの反応がいかがですか?

村越:「アナログ買いました。プレーヤー持ってないんですけど」という人が多いですが、グッズとして買う人が多いと思います。アナログは数量限定のことが多いですが、でも買いたいという人は以前より増えていると思います。

後藤:若いサブスクの世代のアーティストは、CDは出さずに7インチだけで出したり、CDを出さずにアナログだけというパターンがもう主流になっているし、そっちのほうがかっこいいという感覚だと思います。CDとしてモノを売るというより、アナログとしてしっかりモノを売りたいという意志を感じます。私はCD世代なので、CDも頑張って売りたいと思う気持ちはありますが、若いアーティストの方は、CDにこだわらずに、パッケージとしてのアナログのよさからそっちを売りたいと思っている人が多いです。村越さんがおっしゃったように、達郎さんのポップアップストアでも、プレイヤーは持ってないけど初めてレコードを買ってみますという方がたくさんいらっしゃいました。ジャケットのあの大きさ、デザイン、色を見るとモノとして欲しくなるのだと思います。

江藤:大分は地方なので正直、まだそこまでのアナログへの反応は、達郎さん以外ではあまり感じられないというのが正直なところです。ただスピッツさんとかも出されて、ビッグアーティストのアナログに関しては、やっぱりコレクターアイテムとして買っておきたいという方が、CDと一緒に問い合わせしてくださいます。あとは、アナログはどうしても完全生産限定盤になってしまうので、そうなるとうちのような小さいな規模のお店にはなかなか入ってこないという現実もあります。なので地方では挑戦することがなかなか難しいかな、という感じなんです。でも日本に眠っている、保存状態のいいレコードを海外の方が掘り起こしに来る流れが確実にあるので、これからもっとアナログに注目が集まると思います。

──価格も気になりますよね。

江藤:新譜のアナログを見ると、値段の部分で引っ掛かるお客さんっていうのが、海外の方も国内のお客さんも結構多いのではないでしょうか。なので中古で流れをつくっていくのか、それとも新譜も交えつつ流れを作っていくのかということを、まずしっかり定める必要があります。コロナ禍で家に眠っていたレコードを売りに出した方が、また新たに新譜で買うとなったら、5000円、6000円のレコードを買っていただけるかどうか。特に地方は値段設定に関しては過敏なので、そこは気を付けたいところです。今回の達郎さんのアナログは4400円で、買いやすいと思いました。この辺がボーダーラインかなという感じがします。

村越:今回、かなり良心的だなと思いました。

後藤:そうですよね。

村越:今輸入盤も高くなっているというか、高くせざるを得ない状況でむしろ輸入盤のほうが5000円、6000円の価格帯が結構あります。それでも買われる方が一定数いらっしゃるので、本当にアナログで聴きたいという方が多いんだなって実感しています。江藤さんがおっしゃるように、買いやすさという部分では中古も価格上昇しているので、日本人がだんだん手を出せないようになって、海外の方向けの価格設定のような感じになってきています。だから達郎さんの今回の再販みたいな形で、価格をそれぐらいで押さえていただいて、常に手に入るような再プレスをしていただけるのが、いちばんいい形かなと思います。

──江藤さんのお店では、達郎さんのCDやレコードを購入する方は常連さんが多いのでしょうか?

江藤:そうですね、常連さんが多いですね。ただ私が毎日のように達郎さんを流しているので、おばあちゃんとかが「なんかいいのが流れてるわ」って反応してくださってコーナーにお連れしたりしています。通販とかオンラインとかができない方が、まだまだこちらには多いので、現物をしっかり見てもらって買っていただくというスタイルが根強く残っています。

──大分は温泉天国でインバウンドも多そうなイメージです。海外の方がお店を訪れることもあります?

江藤:海外の方も結構多いのですが、海外の方で問い合わせがいちばん多いのはやっぱり松原みきさんの作品です。

後藤:うちもシティポップといわれているアーティストの中では、松原みきさんの作品への問い合わせが圧倒的に多いです。お土産として買っていく感覚で、J-POPでは達郎さんとNujabesさんがものすごく売れています。達郎さんかNujabesさんっていうぐらいうちでは海外のお客さんに人気の二大巨頭です。

村越:うちは高中正義さんの商品が結構動いています。高中さんはフュージョンですが、シティポップと同じ感覚で買っているのだと思います。古い名盤から新しいものまで動いています。

──9月のこのシリーズは終了ですが、達郎さんのこんな商品が欲しいというリクエストはありますか?

村越:周年盤は出していただけると思うので、あとはやっぱり『JOY2』をお願いします(笑)。

後藤:ラジオで年末までにはっておっしゃってました!

村越:それと『JOY』の3枚組レコードが今ものすごい高値で取引されているので、こちらもなんとかしていただきたいです。それから、誰かがセレクトしたベスト盤というのも面白いと思います。達郎さんが選ぶのか、竹内まりやさんが選ぶのか、どなたが選ぶのかわかりませんが、あえてどなたかの意思が少し入ったベスト盤だと、曲の聴こえ方も変わってくると思います。

──後藤さんはいかがですか?
後藤:『JOY2』は本当に楽しみにしてるので、早く出していただきたいです(笑)。今回RCA/AIR YEARSの作品を復刻していってくれていて、その後の作品も徐々に復刻、ということがもし叶うのであれば、個人的には全作品をお願いしたいです。

江藤:すごく個人的にはなりますが、私『サンソン』のトークがすごく面白くて大好きなので、トークCDとかも面白いかなと。

後藤:いいですね。

■達郎さんのトークCDというのがあってもいいと思います。トークCDでなくても、曲の前に達郎さんの声で解説が入っているCDというのも

──さだまさしさんのような。

江藤:そうです。さださんのトークCDがあるように、達郎さんのトークCDというのがあってもいいと思います。トークCDでなくても、例えば曲の前に達郎さんの声で解説が入っているCDというのも、ちょっと毛色が違っていて面白いと思います。ラジオを聴いてるような感覚で聴けるCDですね。いろいろなことをやりながら、聴き流すというと失礼になるかもしれませんが、ある意味ヒーリング的な感じで聴ける達郎さんのCDがあってもいいかなと。

──アナログシーン、まだまだ盛り上がりそうですね。

村越:本当にカタログになって根付いていって、例えば達郎さんのアナログが店頭に揃えられる状況になったら本物かなという気がします。プレーヤー持っていない方もまだまだ多いんで、そういう意味で伸びしろはあると思います。

後藤:今回はカセット同発されましたが、私は需要があると思ったのですが、店長からは仕入れ過ぎだって怒られました(笑)。ただ、実際にカセットプレーヤーのデッキを出してお客様に聴いていただくことをポップアップストアでやったのですが、そこで「そう、これこれ」って言って買っていってくださる方はいらっしゃいました。実際に手に取ってみて、ボタンを押してっていう瞬間があると、懐かしさを感じてくださる方と、本当に若い方は扱ったことない人も多くて、これからカセットもクると私は思っています。

村越:すみません最後にひと言だけ言わせていただいてもいいですか?今回のアナログも素晴らしいのですが、最新アルバム『SOFTLY』がやっぱり凄かったと思いまして。シティポップのブームで達郎さんに大きな注目が集まる中で、どういう作品になるのかなと思っていたら、寄せるどころか全然違うタッチできたので、そこはやっぱり現役の気概を感じました。そういうブームへの反発…きっとそれさえもないとは思いますが、現役のソングライティングパワーを見せつけてくれました。今回のRCA/AIR YEARSって華やかな、達郎さんの音楽の上昇期のものなので特に注目が集まるのですが、新曲もすごくよかったです。職業作家としてCMに寄り添いながら、更新した感じを提示してくれ、改めて恐ろしいアーティストだと思いました。そのことを今日はどうしても言いたかったんです。ありがとうございます!

INTERVIEW&TEXT BY 田中久勝
メイン写真:『CITY POP UP STORE CIRCUS TOWN @ TOWER RECORDS SHIBUYA』より
他、写真は各ショップより提供

イベント情報
【タワーレコード渋谷店 Space HACHIKAI 『CITY POP UP STORE CIRCUS TOWN @ TOWER RECORDS SHIBUYA』
※開催は9/28(木)まで。