シリーズ4作目となる『ジョン・ウィック:コンセクエンス』®, TM & © 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

キアヌ・リーブスの最新作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』が日本でも9月22日に公開された(配給:ポニーキャニオン)。4作目となるこの映画は、すでに全世界で4億2700万ドルを売り上げ、シリーズ最高のヒット作となった(アメリカ公開は今年3月24日)。

最近はまた、スピンオフのドラマ『ザ・コンチネンタル:ジョン・ウィックの世界から』が配信開始になったところでもある。来年にはアナ・デ・アルマスが主役を務めるスピンオフ映画『Ballerina(バレリーナ)』の公開が控え、『ジョン・ウィック』のユニバースは広がっていく一方だ。

1作目は期待されていなかった

キアヌはこの4作目で2200万ドル(約32億円)を稼いだとされる。2014年に公開されたオリジナルの『ジョン・ウィック』のギャラは100万ドルから200万ドルの間だったので、最低でも10倍になった計算だ。

しかも、1作目で、キアヌは自腹まで切っている。インディーズ映画だったオリジナルには資金が集まらず、プロデューサーのベイジル・イバニクは、撮影開始の5日前に製作を中止することも考えた。「そんなことをしたら関係者や組合から訴訟される」と弁護士に忠告されて思いとどまったものの、想定していたより低い予算でやりくりしなければならなくなり、キアヌも手助けしたのだ。

結果的にそこまでした甲斐は十分あったわけだが、それは決してお金の意味だけではない。キアヌは、ただ俳優として役を演じただけではなく、ジョン・ウィックというキャラクターを作り上げるのに大きく貢献しているのである。情熱を注いだそのキャラクターが世界からこんなに受け入れられたという事実こそ、彼にとって一番の見返りに違いない。

興味深いことに、もともとキアヌは、ジョン・ウィック役の対象外だった。最初の脚本で、このキャラクターは60代から70代の男性として書かれていたのだ。

この脚本の権利を買ったイヴァニクも、ハリソン・フォードのような俳優をイメージしていたが、キアヌの担当エージェントから、「キアヌがアクション映画を探している」と聞き、キアヌに脚本を送った。彼は脚本を気に入るも、「自分が演じるのであれば、こういうキャラクターにしたい」と、さまざまな意見を出した。

ジョン・ウィックの口数がとても少ないのも、そのひとつ。何ページにもわたる会話のシーンで、ジョン・ウィックは最後に相槌を打つだけになったりもした。寡黙な人物にしたことで、ジョン・ウィックは、よりストイックでミステリアスになったのである。


寡黙でミステリアスなキャラクター作りが成功した『ジョン・ウィック』®, TM & © 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

スタントマンを監督に起用

脚本家のコルスタッドと一緒に脚本の書き直しをする一方で、キアヌは、アクションシーンについて意見を聞くため、『マトリックス』などで何度も一緒に仕事をしてきたスタントマンのチャド・スタエルスキとデビッド・リーチに連絡をした。するとふたりは、アクションだけを担当するのではなく、この映画を監督させてほしいと言い、キアヌも彼らの希望を支持した(クレジットにはスタエルスキの名前だけが出ているが、実際にはふたりの共同監督だった)。

監督としては新人であるふたりを信頼したことについて、2017年の筆者とのインタビューで、キアヌは、「僕は彼らを長年知っている。チャドは『マトリックス』や『コンスタンティン』で僕のスタントダブルをやってくれた。彼らは僕に何ができるかを知っている。僕らは好みも似ているし、ジョン・ウィックの話をどちらに持っていくかで意見が衝突したことはない。このアクションはストーリー上、どんな意味を持つのかという話し合いを常にしたし、彼らは僕の意見を聞いてくれた」と語っている。

だが、スタジオや配給会社にしてみれば、無名監督は魅力に欠ける。それに、キアヌは、『フェイク・クライム』『47Ronin』『ファイティング・タイガー』を立て続けに失敗させたところだった。スタジオや配給会社各社を招いて完成作の試写を行ったところ、興味を示してくれたのは、ライオンズゲートに買収されたばかりだったサミット・エンタテインメントのみ。次があるなどと思ってもいないスタエルスキとリーチは次の仕事を確保し、イバニクも次のプロジェクトを探し始めた。

しかし、批評家に向けて試写を回し始めると、反応は上々だったのだ。批評サイトRottentomatoes.comでは86%の批評家から称賛され、世界興収も、2000万ドルの予算にしては文句のない8600万ドルを弾き出すことになる。

すると、思いもしなかったことに、ライオンズゲートが「製作資金を出してあげるから続編を作らないか」と言ってきたのだ。その時の気持ちについて、キアヌは、筆者のインタビューで、「オリジナルがどんなふうに始まったかを覚えているだけに、自分たちはこんなところまで来られたのかとしみじみ思ったね。わからないものだよ。オリジナルはインディーズ映画で、話題にも上らなかった。でも、僕自身は、あれをクールな映画だと思っていた。ほかの人もそう思ってくれたことを、すごく嬉しく思う」と語っている。

一方、イバニクは、「Vulture」のインタビューで、「いかにもハリウッドらしいよね。みんなこの映画を欲しくないと言ったんだよ。その同じ人たちが、今、自分たちも『ジョン・ウィック』みたいな映画を作ろうとしているのさ」と皮肉を述べている。

シリーズ総売り上げは10億ドルを突破

スタエルスキが単独で監督した続編は、4000万ドルの製作費に対し、世界興収1億7400万ドルのヒットとなった。3作目は、製作費が7500万ドル、世界興収は3億2800万ドル。最新作の製作費は1億ドルで、毎回コンスタントに製作費の4倍を売り上げてきている。

シリーズとしての総売り上げは10億ドルを超えた。だが、キアヌとスタエルスキは、規模が大きくなってもオリジナルの精神が失われないよう、常に心がけているという。何より変わらないのは、彼らのジョン・ウィックへの愛。だからこそ、スタエルスキはジョン・ウィックを苦しめ続けるのだ。

「観客に思い入れをもってもらう手段として、ヒーローを苦しめるというものがある。どんなにつらい思いをしても、ヒーローは立ち上がるんだ。ジョンも、10回倒れても、10回立ち上がる。彼のそんな忍耐強さが、僕は好きだ。誰も彼を止めることはできないんだよ」と、スタエルスキ。最新作でもこてんぱんにやられては立ち上がるジョン・ウィックを、観客の皆さんも愛を持って見守ってあげてほしい。

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)