筆者はスターキャンプで、アウトランダーPHEVと自前のカーサイドテントなどを使って一晩過ごした(筆者撮影)

ふもとっぱら(静岡県朝霧高原)で、三菱自動車工業(以下、三菱)が2023年9月9日〜10日に開催したファンミーティング「スターキャンプ」に参加。「アウトランダーPHEV」を使い、富士山のふもとで一夜を過ごしてみた。

そこで感じたのは、メーカーとユーザーとのつながりの大切さ、そして大きな変動期を迎えた自動車産業界における中堅メーカーの生き残りをかけた厳しい現実だ。


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スターキャンプは1991年に始まり1997年にいったん終了するも、三菱ユーザーや販売店からの要望で2007年に復活した人気イベント。

2017年からは、全国の三菱販売会社が主催する地域型スターキャンプも実施され、2023年は北海道、高知、兵庫、静岡、大分、広島、埼玉、長野、滋賀の合計9カ所で行われる、三菱ユーザーにとって楽しみなイベントだ。

体験走行+人とのふれあい

中でも、三菱本社主催のスターキャンプは、プログラムが充実しているため人気が高い。今回、参加したのは約300組だが、三菱によると約2700組の応募があったという。

主なプログラムとしては、プロドライバーによる「デリカD:5」でのオフロード同乗走行、「アウトランダーPHEV」での電動車走行体験、そして人気軽自動車「デリカミニ」を使った林道走行体験などがあり、体験コンテンツが充実する。

ただし、スターキャンプの主役はクルマではなく、人。「人とのふれあい」が大きなテーマだ。


石窯でのピザづくり体験に参加するファミリーの人たち(筆者撮影)

たとえば、小型の石窯でピザを作るといったアウトドアクッキングのワークショップ、またPHEVの電気で焼印ができるオリジナルレザーキーホルダーづくりのようなモノづくりワークショップなど、家族で一緒に学べる場がある。

そのほか、アクティビティとして、スポーツクライミング体験、バランス感覚が大事なスラックライン、丸太切り、トランポリン、そしてさまざまなグッズを用意する「あそびの広場」など、会場各所で子どもたちの笑顔があふれていた。


写真のカヌー体験など、さまざまなアウトドアアクティビティが体験できた(筆者撮影)

また、サンリオの仲間たちによるショーや、キャンプ大好き芸人、じゅんいちダビッドソンさんらによるラジオの生放送、アウトランダーPHEVの給電機能を使った大型スクリーンでの映画上映、シャボン玉を使ったナイトバブルショー、そして河口恭吾さんをゲストに迎えたキャンプファイア&スペシャルライブ……と、さまざまなコンテンツが実演されたメインステージも見ものであった。

筆者も日頃、個人所有車等を使ってオートキャンプをする機会がある。今回も、自前のカーサイドテントや各種キャンプグッズを持参して、朝霧高原の自然を全身で感じた。

深夜、満天の星空を眺め、午前5時過ぎにあたりが明るくなると、目の前に富士山が姿を現した。車載の1500W給電システムとポータブルバッテリーを使って、朝食の準備を進めるのが実に楽しい。

スターキャンプの運営スタッフの多くは、三菱本社のさまざまな部署の社員だ。会場内の各所で社員の声を拾ってみると、「こうしてお客様と直接ふれあうことが、とても良い刺激になる」という意見が多かった。


メインステージ前に集まっての朝ヨガの様子(筆者撮影)

見方を変えると、「普段は顧客との直接的な接点がほとんどない」とも言える。これは三菱に限った話ではなく、自動車メーカー各社における潜在的な課題だ。

「製販分離」という業界図式にある課題

背景にあるのが、「製販分離」である。製造と販売の事業が分かれている業界図式を指す表現だ。

自動車メーカーは、自動車の新車製造と新車卸売り販売が主な事業であり、自動車メーカーにとって直接的な顧客は新車販売会社となる。新車販売会社が個々のユーザーに新車を小売りするのが、自動車産業界の基本構図である。

一般ユーザーにとっては、新車購入時に自宅近くの新車販売店に出向いて営業担当者と商談をする際、商談相手が自動車メーカーではなく小売り事業者だという意識を持つことはほとんどないだろう。


富士山を背景に、三菱社員とユーザーのコミュニケーションが各所で見られた(筆者撮影)

自動車メーカーのホームページや商品カタログで、開発担当者による商品説明などを見ることはあっても、ユーザーが直接、自動車メーカーの社員と接する機会はほとんどない。

今回、スターキャンプに参加した三菱本社の販売関係部署の社員も「ユーザーが、実際に三菱車をどうやって使っているのかがよくわかった」という表現を使うほど、自動車メーカーとユーザーとの距離が遠いのが実情だ。

そうした中で、スターキャンプのようにアウトドアを切り口とすると、「クルマを使ったライフスタイル」という観点で、自動車メーカー、新車販売店、そしてユーザーが直接つながりやすくなる。

自動車産業界では、2010年代半ばから「CASE」という技術とサービス領域をきっかけとした大変革が始まっている。

改めて説明すると、CASEとは、Connected(コネクテッド)、Automated(自動運転)、Shared & Services(シェアリング・サービス)、Electric(電動化)の頭文字をとった言葉だ。

そして、CASEの影響を大きく受けているのが、三菱のような中堅メーカーである。

その事業規模から、CASEに対応するには初期投資の負担が大きいため、大手メーカーとの事業連携が必然となる。三菱の場合、ルノー・日産とのアライアンスにおいて、リーダー/フォロワーという関係を構築しているところだ。


「デリカミニ」の化身「デリ丸。」と、ハロウィーンの仲間たち。アウトランダーPHEV車内にて(筆者撮影)

同じく、中堅の日系メーカーでは、スバルとマツダがある。この2社は、トヨタとBEV(電気自動車)を軸足として連携を強化すると同時に、両社とも自社独自開発の道を並存させていく腹づもりだ。

こうした中で、中堅メーカー各社が直面している課題が「らしさ」である。

電動化や大手メーカーとの連携の中で、「三菱らしさ」「スバルらしさ」「マツダらしさ」のあるべき姿について、経営陣、社員、労働組合、そして販売会社などが暗中模索している。

こうした「らしさ」を探すためには、前述の製販分離が大きな壁になりかねない。だからこそ、スターキャンプのような「人が触れ合う場」の重要性が高まっているのだと思う。

国内ラインナップが充実するこれから

三菱においては、2010年代の事業立て直し期を超え、ルノー・日産・三菱アライアンスをフル活用したモデルが続々と登場している。

キャラクター「デリ丸。」効果もあり、デリカミニは200万円台が主体となる価格設定でも販売は好調だ。

今回、実車がお披露目されたコールマンとのコラボ限定仕様は、ボディラッピングなどを施すと300万円を超えることになるが、東京オートサロン2023でのコンセプトモデル公開後に、全国の三菱販売会社やユーザーから量産を熱望する声が上がったという。


コールマンのブース、その後方にデリカミニ×コールマンのコラボラッピングカー(筆者撮影)

また今回、筆者はアウトランダーPHEVを乗って・使ってみて、「i-MiEV」から培ってきた三菱独自の電動化技術と日産との車体共有化により、走りのクオリティが高まっていることを改めて認識した。

新型車のトピックとしては、ピックアップトラックの「トライトン」が12年ぶりに日本市場に復活することも話題だ。このトライトンは、2024年初頭に発売される予定だという。

国内でのモデルラインアップが充実していく中、三菱は今こそ「未来に向けた攻めのブランド戦略」に打って出るべき時期なのではないだろうか。スターキャンプの現場で、多くの三菱関係者と言葉を交わしながら、そう感じた。

(桃田 健史 : ジャーナリスト)