世界で類をみない人口爆発が、アフリカで起こっている(写真:hecke71/PIXTA)

「『地理』を知れば、国や地域の自然・環境だけではなく、歴史・民族・文化・経済・政治までを理解できます。地理を知るだけで、世界は一気に面白くなります」――そう語るのは、筑波大学教授で地理教育を専門とする井田仁康氏。

本稿はそんな井田氏が編著者として上梓した『世界の今がわかる「地理」の本』より、本文を一部引用・再編集してご紹介します。

将来、アフリカの人口は世界の4割に

アフリカの人口が急増している。1900年に約1億だったのが、2000年には約8億になった。2100年には約43億に達すると推計されており、これは世界全体の推計109億のおよそ4割に及ぶ。これほどの人口急増がなぜ起こるのだろうか。


(出所:『世界の今がわかる「地理」の本:紛争、経済、資源、環境、政治、歴史…“世界の重要問題”は「地理」で説明できる!』)

アフリカの人口分布には著しい偏りがある。サハラ砂漠や南部の乾燥地帯では人口密度がきわめて低い一方で、地中海沿岸、ギニア湾岸、アフリカ東部の高原地帯では人口密度が高い。

特に「サヘル」とよばれるサハラ砂漠南縁の国々で人口が急増している。女性1人が産む子どもの数である合計特殊出生率は、ニジェールで7.0に近く、マリやチャドも6.0に近い値を示す。世界で類をみない人口爆発が、アフリカで起こっている。

「人口爆発」をもたらした理由は?

サヘル諸国を中心に人口爆発といえる状態になっているのは、出生率が高いままで死亡率が低下したためである。一部地域では砂漠化の進行による生活環境の悪化も見られるが、そうした地域でも人口は増えている。

アフリカ最大の人口を擁するナイジェリアでは、2019年に100人当たりの出生数が3.7人なのに対し、死亡数が1.2人であり、年間で500万人あまりが自然増加した。


(出所:『世界の今がわかる「地理」の本:紛争、経済、資源、環境、政治、歴史…“世界の重要問題”は「地理」で説明できる!』)

死亡率が低下した背景には、医療の進歩や衛生環境の改善がある。ワクチンが普及したり栄養状態が良くなったりしたことで、マラリアやデング熱などの風土病による死者が大きく減った。それにともない人々の生活水準も、全体としてみれば向上している。

たとえば携帯電話の普及率は、ケニアで2002年に10%程度だったのが、2017年には92%に達した。サハラ砂漠以南のアフリカ諸国では、経済成長率が2003年から2012年までの10年間で、年平均5.8%に及んでいる。アフリカでは、人口急増と経済成長が同時に起こっている。

◎熱帯雨林と砂漠が大部分を占める

急増する人口が経済成長に結びつく要因には、鉱産資源を埋蔵する自然の恵みがあるからにほかならない。アフリカ大陸の自然は、「北部の砂漠地帯」「中部の熱帯雨林地帯」「南部の砂漠地帯」「東部の高原地帯」に大きく分けられる。

北部の砂漠地帯は、アフリカ大陸の3分の1を占める広大なサハラ砂漠を中心とした乾燥地帯である。

中部の熱帯雨林地帯は、赤道付近で起こる活発な上昇気流のために雨が多く、密林となっている。密林の周囲には、雨季に草原、乾季に枯れ野となるサバナが広がり、ここに多くの野生動物が生息する。

南部の砂漠地帯は、ボツワナとナミビアを中心にカラハリ砂漠が広がり、その周囲には草原や、標高の高い地域に落葉樹林も広がるなど、多様性に富む。

東部の高原地帯は、高原の中に地盤の裂け目である「アフリカ大地溝帯(グレート・リフト・バレー)」がある。これに沿ってタンガニーカ湖、マラウイ湖など、断層運動で生じた窪地にできた湖である「断層湖」が並ぶ。アフリカ大地溝帯は変動の激しい地帯であることから、近くには標高5895mでアフリカ最高峰のキリマンジャロ山などの火山も多い。

石油、金、銀、ウラン……豊富な資源

こうした自然の中に、石油などのエネルギー資源や、銅などの鉱産資源が豊富に存在している。

石油は主に地中海沿岸とギニア湾岸に集中する。「石油輸出国機構(OPEC)」に加盟する国はリビア、アルジェリア、ナイジェリア、ガボン、アンゴラ、赤道ギニア、コンゴ共和国の7カ国にのぼり、これはOPEC加盟13カ国の過半数を占める。

ほかにも、南アフリカ共和国の金、ザンビアの銅、ギニアのボーキサイト、ナミビアのウランなども、産出量が世界の上位に入る。アフリカ大陸が最大の産出量シェアをもつものにダイヤモンド、クロム鉱、マンガン鉱などがあり、いずれも工業原料に欠かせない鉱産資源である。

これらの鉱山からの収益が、アフリカの人々を等しく豊かにしているとはいえない。国全体の経済は成長しても、国内での経済格差はむしろ拡大している。工業が発達していないため、鉱物は未加工のまま輸出され、地域への経済波及効果は少ない。

国家収入となる鉱山使用料も、その多くは採掘に関わるインフラ整備に当てられるほか、汚職の温床にもなっている。鉱産資源が生む権益は、開発に関わる外国企業が握り、利益の大部分を国外に持ち出してしまう実態がある。利益配分の偏りは、不法な操業による環境への悪影響とともに、アフリカ諸国の構造的な問題になっている。

◎「直線の国境」が紛争の種に

アフリカは、近年の経済成長にもかかわらず、いまだに紛争の多い大陸のままである。その背景には、54を数えるアフリカの国々のほとんどが、ヨーロッパ諸国の植民地となった歴史が関係している。


(出所:『世界の今がわかる「地理」の本:紛争、経済、資源、環境、政治、歴史…“世界の重要問題”は「地理」で説明できる!』)

フランスがサハラ砂漠西部からギニア湾岸、イギリスがアフリカ大陸東部、ベルギーがコンゴ盆地一帯、ポルトガルが現在のアンゴラなど、ヨーロッパの国々が植民地支配した。そのため、当初は植民地の境界を定めるために便宜的に引かれたラインがそのまま国境線となり、独立国家となった。

アフリカの44%が直線の国境線

アフリカの国境線は直線状になっているものが目立ち、大陸全体の国境線の44%が直線である。民族分布と無関係に国境線が引かれたことで、民族間のパワーバランスに不均衡が生じることになった。

こうした不安定要素が、主に国内での紛争を引き起こしている。

たとえばルワンダでは、多数派のフツ族と少数派のツチ族との間で主導権をめぐる激しい衝突が起こり、1994年には約100日間で80万人以上が殺害されるという大虐殺が起こった(ルワンダ虐殺)。

またスーダンでは、北部のイスラム系住民と南部のアフリカ系住民の対立から「アフリカ最長の内戦」と呼ばれ、約200万人の死者を出した南北内戦が起きた。その後2011年には、住民投票を経て南スーダンとして独立を達成したものの、油田の権益をめぐって両国間で争いが続いている。

また、西部のダルフールではアラブ系遊牧民とアフリカ系農耕民の対立から、2008年までに30万人以上が犠牲となるダルフール紛争が起こった。こうした民族・宗派間での衝突は、時に鉱産資源の利権がかかわることで激化し、東西陣営の介入があることで長期化する。

ナイジェリアでのビアフラ紛争(1967〜1970年)は油田の支配権をめぐって激化した例であり、アンゴラ内戦は、アメリカ合衆国、ソ連、中国など他国が介入して長期化した例である。

一方で、急速な発展を遂げた国もある。ルワンダでは内戦終結後、高度人材の育成を進め、「アフリカの奇跡」と称される驚異的な復興を遂げた。女性の社会進出もめざましく、国会議員の約6割にも達する。

ボツワナでは独立後、産出するダイヤモンドから得られる利益を生活水準の向上にあてるとともに産業の多角化を進め、工業化に成功した。紛争や貧困といった負の側面で語られることの多いアフリカだが、全体としてみれば経済は着実に成長し、国民生活は向上している。

◎ナイル川は誰のものか?


(出所:『世界の今がわかる「地理」の本:紛争、経済、資源、環境、政治、歴史…“世界の重要問題”は「地理」で説明できる!』)

エジプトを潤すナイル川は、上流部で降る雨の水を集め、中・下流で砂漠地帯を流れる。こうした砂漠を貫流する川を「外来河川」というが、外来河川のために水の蒸発は激しく、水量はあまり多くない。

河口に達するときの流量は毎秒2830立方メートルと、20万立方メートルに達するアマゾン川の15%程度である。

こうした限られた水資源に、流域の約3億人の生活がかかっている。エジプトでは人口の96%がナイル川の流域に居住し、生活用水・農業用水・工業用水を頼っている。

特に大量の水を必要とする農業は、ナイル川の水がなくてはまったく成り立たない。国内にはアスワンハイダムなどの多目的ダムが建設され、灌漑用水の供給に役立っている。

水資源でエジプトは厳しい状況に

ところがこの水資源をめぐって、近年エジプトは厳しい状況におかれている。上流の各国と水の争奪戦が繰り広げられているのである。スーダンによる新たなダムの建設や、タンザニアとウガンダによるビクトリア湖からの灌漑用水取水の計画がある。


さらにエチオピアでは、支流の青ナイルに大エチオピア・ルネサンスダムが建設され、2020年には貯水を開始した。

青ナイルは、白ナイルとともに二大支流の1つである。ナイル川全体の流量の6割以上を占めるため、エジプトは青ナイルの水量減少を危惧し、反対している。エチオピアにとっても、大エチオピア・ルネサンスダムは農業用水や工業用水だけでなく、6000メガワットの電力をもたらし、発展の基礎となるもので、譲れない事情がある。

そこで流域11カ国のうち10カ国は「ナイル流域イニシアティブ」を組織し、水資源利用のあり方を話し合っている。

しかし、既得権益を維持したいエジプトなど下流の国と、水の利用を拡大したいエチオピアなど上流の国とが対立し、交渉は難航している。

(井田 仁康 : 筑波大学人間系長、教授/博士(理学))