今の学生たちが就職先を選ぶうえで重視していることとは(写真:pearlinheart/PIXTA)

日本の人口が減少する中、企業にとって日本人、外国人にかかわらず優秀な人材を必要なだけ確保することは非常に難しくなっており、今後より困難になることが予想されている。日本経営の研究者であり、大学で教鞭を取る私は日本企業のトップや人材担当者とこの課題についてよく議論をするが、実際問題、今の学生たちは就職においてどんなことを重要視しているのか。

求職者が求めているものに「変化」

そこで、東京を拠点に人材採用コンサルタントおよびリクルーターとして活動するアンソニー・ブリック氏と協力して、在日本の大学の国際課程に在籍している学生680人を対象に調査を実施したところ、現在の求職者が求めていることが、10年前と大きく変わっている結果となった。本稿ではこの調査に基づいて、企業がより「魅力的な就職先」になるためにできることを提示したい。

今回の調査の対象者の内訳は、日本人280人、外国人留学生400人で、全員が英語を話せる。また、今後2年以内に卒業し、就職活動を予定している。

今回、調査は主に3つのことを調べるために行った。

1. 将来の就職先やキャリアを決める際、何を重視するか
2. 将来の就職先についてどういう心配があるか
3. 上記について、日本人学生と外国人留学生で違いはあるのか

まず、キャリア選択について重視する点について聞いたところ、大変興味深い結果が出てきた。


私が教え始めた20年以上前は、給与とキャリアの展望が企業を選ぶ際に最も重要な要素だったが、これは劇的に変化した。図にあるように、「ワークライフバランス」が最も高いスコアとなっている。この傾向は外国人留学生だけでなく、日本人学生でも強い。

給与と福利厚生は依然として重要な要素だが、外国人留学生、日本人学生とも2位にとどまっている。 そのほかの重要な要素としては、自分のアイデンティティに合った興味深い仕事と、フレンドリーな同僚が挙げられている。また、フレキシブルな勤務地やスケジュールもかなり高いスコアとなっている。

日本人と外国人の回答に差がほぼない

一方で、「出世」は重視しない傾向もわかった。「チームを率いることができる」「早く昇進できること」「会社や組織の地位や評判」など、一世代前は重視された要素が、2023年の日本では重視されなくなってきている。

もう1つの興味深い事実は、日本人と外国人の回答における差がほとんどないことである。唯一、日本人と外国人の間で有意な差が見られるのは、「海外で働けるかどうか」という質問である。日本人学生は、海外で働ける企業への関心が非常に高い。これは、国際プログラムで英語を流暢に話す学生だけがインタビューを受けているという事実によって説明することができる。

次に学生たちがキャリアについてどのような点を心配しているかを調査した。


ここでも、同じような傾向が見られる。日本人学生も外国人学生も、”有害”な環境で働くこと、自分のスキルが十分でないかもしれないこと、モチベーションが低いこと、お金のためだけに働くことを最も心配している。この回答は海外の調査データとよく似ている。また、ここではワークライフバランスや職場環境の良し悪しが最も重要な役割を果たしている。

19歳のめいの就職でわかったこと

オーストリアのウィーンに住む19歳のめいがシェフになるための職を探していたとき、私はこのことを、身をもって体験した。彼女は大きなホテルでの修行を希望し、ウィーンのすべての高級ホテルに応募した。

オーストリアでは、特にホスピタリティ業界において、見習いシェフが圧倒的に不足しているのだ。1週間もしないうちに、姪はウィーンの5つ星ホテル(以前はANAジャパンに所属していた)と、オーストリアで最も有名なホテルの2つの面接に招待された。

面接に行く前から、姪は「一緒に働く人がいい人かどうか」を心配していたので、私は「職場の雰囲気を聞いておくといいよ」と言った。両方の面接を終えて、彼女が決断するのに要した時間はわずか数分だった。1つ目のホテルは、人々が彼女と楽しく話し、ホテルを案内し、彼女は最初の1分から歓迎されていると感じた。

一方、有名ホテルの面接は彼女にストレスを与えた。面接官は有名ホテルで働くことを非常に誇りに思っており、少し傲慢に見えたのだ。だが、待遇は1つ目のホテルの2倍で、全従業員に支給される約5万8000円相当の交通費チケットも提供してくれた。 姪はこの申し出に驚いたが、こう言った。「面接のときから居心地が悪かったら、ここで働いても居心地がいいとは思えない」。

彼女は結局、給与は有名ホテルの半分だが、働く人たちの感じがよく、チームに「歓迎されている」と感じた1つ目のホテルを選んだ。彼女の第一印象は、新しい職場で2日間の試用期間を過ごしたことで確信に変わった。彼女は今月から本格的に働き始めた。

上記の回答や姪の例からも日本人と外国人の学生が似たような価値観を共有するようになってきていることがわかる。

唯一大きな違いがあるのは、「将来のパートナーとのキャリア上の衝突」や「成功するために必要なスキルを持つこと」についての質問で、日本人学生はこの点についてより心配しており、「お金のためだけに働き、情熱を追わないこと」については外国人学生のほうがより懸念を抱いている。

しかし、ここでも差はそれほど大きくない。興味深いことに、どちらのグループも人工知能(AI)が将来仕事を奪うことを最も恐れていない。彼らはデジタル化の進展により多くのメリットを感じているようだ。

日本人と外国人ではっきりと差が出たもの

今回は、将来のキャリアに対してどの程度準備ができていると感じているかについても尋ねたが、結果は将来のキャリアに対する準備について、日本人と外国人の間で大きな違いがあることを示している。

日本人学生は自信がなく、将来の仕事の能力に対して高い不安を感じている。「自信がある」「どちらかといえば自信がある」と感じている日本人学生は26%にすぎず、42%が将来の自分の能力に不安を感じている。

一方、外国人留学生は、35%が自分のスキルに「とても自信がある」または「自信がある」と回答しているのに対し、34%は「自信がない」と回答している。


この結果の差は、日本以外の多くの国では、留学先の選択が将来のキャリアやどの企業に就職するかに非常に強い影響を及ぼしているという事実があるのかもしれない。海外の大学教育では、企業に入る前のスキルアップがより重視されており、このことが、留学生が将来のキャリアに自信を持ち、準備する理由になっている可能性がある。

日本は文学部卒でも銀行や企業に就職できる数少ない国の1つである。日本では、学生が企業に入る際にどの学位を取るかはまだあまり関係ないが、このことは、学生が適切なスキルセットを持って企業に入らず、企業は彼らを訓練するために多くの費用と資源を費やさなければならないという事実にもつながっている。

日本人も留学生も「日本で働きたい」

最後に、学生が日本で働きたいか、海外で働きたいかを調査した。結果は以下の図4の通りである。


90%以上の日本人学生が日本での就職を希望している、もしくは検討していることがうかがえる。留学生のグループでは、28.25%が日本での就職を予定しており、41.75%はまだ決めていない。

これは、国際的な人材の採用に関心のある日本企業にとっては朗報である。日本での就職を意図的に計画しておらず、交換留学生として1学期だけ来日した学生でさえ、日本で働くというアイデアに魅力を感じているからだ。

これらの結果を踏まえて、採用担当者にとって重要な点をおさらいしたい。

・日本と外国人のZ世代は価値観が似てきている。

・ワークライフバランスと働きやすい職場環境は、すべてのZ世代の求職者にとって最も重要であり、給与や福利厚生よりも重要である。一方、彼らにとって最大の心配事は、有害な環境で働くことである。

・キャリアの選択肢は、日本人、外国人のZ世代にとって最も重要性が低い。

・海外でキャリアをスタートさせたいと考えている日本人学生はわずか6.42%であるのに対し、日本での就職を希望または想像できる留学生は58.5%に上る。

日本のZ世代の求職者は、他の先進国の同世代と同じ価値観を共有するようになってきている。これは驚くべきことではない。多くの研究が、異なる国の年齢層は、同じ国や文化の異なる年齢層よりも多くの類似点を示すことが多いことを示している。

日本企業はどう変わらないといけないか

日本の企業にとってこれは、以前のように日本で新卒者を採用できないことを意味する。これは確かに多くの企業にとって課題である。かつての企業は、長期的なキャリアの見通し、終身雇用、高い給与を持つ新卒者の採用を競っていた。

ところが今後は、優秀な人材を雇用し、確保するために、魅力的な雇用主にならなければならない。雇用主の選択は、働きやすい職場環境、企業の価値観、家族への配慮、海外で働く機会といった要素に基づくことが多くなるだろう。キャリアの選択肢や出世は若い求職者にとって重要ではなくなっている。

企業は採用プロセスを変え、より強いファミリー志向を示し、協力的で快適な職場環境を作る必要がある。これには、フレックスタイムやリモートワークの選択肢を増やすことも含まれる。また、製品ブランディングだけでなく、雇用者ブランディングに注力することも求められるだろう。

いいニュースもある。データが示すように、日本は外国人留学生にとって魅力的な就職先となりつつある。30%が日本での就職を希望し、42%近くが日本で働くことを想像している。このような学生を採用することは、日本企業に新たな課題をもたらすだろうが、日本の労働力不足と戦うための適切な一歩となるかもしれない。

(パリッサ・ハギリアン : 上智大学教授(国際教養学部))