東北大学が若手研究者の活躍機会創出のために創設したという「東北大学テニュアトラック制度」。本題のテニュアトラック制度とは違うものだという(写真:tommy/PIXTA(ピクスタ))

「国際卓越大学」に内定した東北大学。国が評価したものの1つに、同大学の「テニュアトラック」制度の方針がある。だが、実際には、これまで有期雇用の若手研究者をほとんどテニュア(終身雇用)に引き上げてこなかった。(『卓越大内定・東北大が「名ばかりテニュアトラック」』)

東北大学の制度は「偽テニュアトラック」ではないのか。同大学理事・副学長(研究担当)の小谷元子氏に直撃した(インタビューはオンライン取材で実施)。

名前が紛らわしいが、一般の制度とは違う

――「東北大学テニュアトラック制度」では、若手研究者の大半をテニュアに登用せず、それどころかテニュア審査すら実施していない場合も多いと、在籍していた人たちから聞いています。本来のテニュアトラック制度のあり方に反していませんか。

まず、そもそも東北大学では、いろいろな分野の若手研究者が互いに切磋琢磨しながら新しい研究を開発できるところとして、学際科学フロンティア研究所(学際研)を2013年にスタートした。

任期は最大5年で、うち3年は研究に専念いただき、そのあと余裕をもって次のキャリアを開発していただく形で2017年までやってきた。そうした中で、学際研の研究者が素晴らしく育ち、良い研究成果を創出していることが学内でも認知されていった。

もともと囲い込むつもりはなく、世界で活躍する人材をつくりたいという思いだった。ただ、これだけ素晴らしい研究者が育っているのならば、東北大学でも何とか安定的なポストで獲得できないか、そのためにできることはないかを検討した。

そこで、(東北大学内の)部局での採用機会を増やすために、学際研の若手研究者の活動状況を関係する部局長に紹介し、積極的に情報提供をするようにした。このように、東北大学テニュアトラック制度とは、大学全体で若手研究者が安定的なポストを獲得できるように支援するというものだ。名前が紛らわしいが、一般のテニュアトラック制度とは(趣旨が)違う。

――東北大学テニュアトラックという名称は外部の多くの人に異なる印象を与えています。

一般的なテニュアトラック制度の考え方は、ご認識の通りテニュアのポストが用意されていること。それからある基準に達しさえすれば(審査を経て)皆さんがテニュアに移行できること。その基準があらかじめ明示されていることが必要だと私も考えている。

ただ、東北大学テニュアトラック制度は先ほど申し上げた通りのもので、テニュアトラック制度ではないので、そこは誤解がないようにしていただきたい。

プレスリリースと公募要領は違う

――東北大学テニュアトラック制度を発表した2018年9月当時のプレスリリースには、「テニュアトラックとは」という説明書きがあり、文部科学省も定義する一般的なテニュアトラック制度の内容が記されています。それなのに「うちの制度は一般的なものとは違う」と主張するのでしょうか。

プレスリリースに一般的なテニュアトラック制度の説明を書いたのは、テニュアトラック制度は必ずしも皆さんが知っているものではないからだ。本学はプレスリリースを出すにあたり、カタカナ用語などで難しそうな言葉には必ず、一般的な説明をつけることにしている。


オンラインで取材に応じた東北大学理事・副学長(研究担当)の小谷元子氏。専門分野は数学、微分幾何学、離散幾何解析学。2020年4月より現職(リモート取材の画面のスクリーンショット)

一方で、公募される方は必ず公募要領をご覧になると思う。東北大学テニュアトラック制度のプレスリリースに貼られている公募要領のURLを見ていただければ、東北大学テニュアトラック制度がどういうものかをご確認いただけるようになっている。

――公募要領では、「極めて優秀と判定され、採用計画に合致すれば准教授として採用することもある」というふうには書かれています。ただ、あくまでもここに記されているのは准教授への採用の話です。一般のテニュアトラックとは違います、とは書かれておらず、テニュア審査を受けられない可能性があることの説明もありません。

学際研の採用者に対しては、「あなたはテニュアトラックです」ということは言っていない。採用する前に必ず任期付きのポジションだと説明しているので、そこはきちっと理解して来ていただいていると思う。


――通常のテニュアトラックでも3〜5年程度の有期雇用なので、任期付きですよね。任期付きだと説明することがテニュアトラックではないという説明にはならないのでは。

大学の中にいると、世間知らずになっているところがあるかもしれないが、任期付きといった場合には、テニュアトラックではないと伝わると考えていて、公募要領にはそういうふうに(任期付きだと)書かせていただいている。

ただ、それだけでは説明としては十分ではないと考えていて、採用を決定する前の面接でも、一般のテニュアトラック制度ではないことを説明している。だから、そこに誤解はないはずだ。

労働条件通知書に明記なし

――私が話を聞いた過去の在籍者の方は、面接時に「そんな説明は聞いていません」とはっきり証言しています。本当にきちんと全員に説明していて、皆が納得していると言えますか。

東北大学としてはしっかりと説明はしているが、採用に至るまでに(東北大学テニュアトラック制度を)十分に理解することは、一度の説明ではなかなか難しいのかもしれない。ただ、こちらは労働条件通知書も取っている。採用前にこういう条件でいいですか、ということをお聞きしてからサインしていただいている。

――では、労働条件通知書には「東北大学テニュアトラック制度は一般のテニュアトラックとは違います。あなたのポストにはテニュアの空きが確保されていない可能性があるので、テニュア審査を受けられないかもしれません」ときちんと書かれているのですか。

先ほど申しあげたように、任期付きの職であると書いているということだ。われわれは一度もテニュアトラックで採用するとは言っていないので、これは通常のテニュアトラックとは違うというような説明はしていない。

――そこが一番の問題だと思います。任期付きだと説明しているかどうかを議論しているわけではありません。一般のテニュアトラックも任期付きですから。東北大学の制度が一般のテニュアトラックではないということを、外部からも容易に明確にわかるようにすべきでは。

繰り返しになるが、東北大学テニュアトラック制度は一般のテニュアトラック制度ではない。採用される方に対して、「あなたはテニュアトラックポジションですよ」と言って雇用しているのであれば、おっしゃるような「普通のテニュアトラックとは違う」という説明をする必要があると思う。

ただ、そういうふうに伝えているということはないので、そこはクリアにしておきたい。テニュアトラックだといって雇用したことは一度もないし、テニュアトラック審査をやるとも申し上げていない。

テニュアトラックを名乗る不可思議

――しかし、東北大学テニュアトラック制度だと名乗っています。

何度も同じ話で恐縮だが、東北大学テニュアトラック制度というのは学内にテニュアトラックポジションを少しでも増やしたいという思い、取り組みとして導入した。

そういうもの(テニュアになれる可能性)も東北大学の中でありますよ、という中で(テニュアトラックとしてではなく)学際研の助教を募集している制度だと東北大学では考えている。

――東北大学が一般のテニュアトラックをやっているかのように偽装する意図がないのであれば、なぜ、プレスリリースにも公募要領にも「東北大学テニュアトラック制度は一般のテニュアトラック制度とは違います」とはっきり書かないのですか。

私はその当時の担当ではないので、なぜというところはよくわからない。本学がどうしてそういう制度を導入したのかというところは、先ほどから説明している通りだ。

(奥田 貫 : 東洋経済 記者)