試運転時のチレボン2号機。大気汚染や漁業などへの影響が懸念されている(FoEJapan提供)

丸紅とJERA(ジェラ)が出資し、日本の大手銀行が融資するインドネシアの石炭火力発電事業が、贈収賄問題に揺れている。

インドネシアのバンドン汚職裁判所は8月18日、西ジャワ州チレボン県の元県知事に対し、チレボン石炭火力発電所2号機建設事業などに関して収賄の事実があったとして有罪判決を言い渡した。

公判および判決を通じ、同2号機の設計や建設を請け負った韓国の現代建設の関係者だけでなく、丸紅などが出資する発電企業チレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR社)のインドネシア人元幹部が元県知事に資金供与を行っていたことも判明。

建設許可の手続きを滞りなく行うことに加え、チレボン2号機建設への抗議デモへの対処の見返りに資金提供されたことなどが判決で読み上げられた。

チレボン2号機建設事業については、国際協力銀行(JBIC)および三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクが融資を実施しており、今年5月に商業運転を開始している。

他方、計画の段階から、漁業など生業への影響や大気汚染による健康被害を危惧する地元住民や市民グループが数年にわたって反対運動を続けてきた。住民らを支援する国際環境NGOのFoE JapanやインドネシアのNGOであるWALHI(インドネシア環境フォーラム)などは、今回の判決を踏まえてJBICに対し2号機事業への支援をやめるように求めている。

なお、元県知事および事件を立件したインドネシアの汚職撲滅委員会はそれぞれ8月24日、25日に上級審に控訴した。

石炭火力事業を舞台にした汚職事件

チレボン県の元県知事を中心とした大規模な汚職事件が持ち上がったのは2018年10月。職位売買に関する贈収賄容疑に関するものだった。そして翌2019年4月、同公判で元県知事がチレボン2号機事業に関して現代建設の幹部から資金を受け取っていたことが新たに判明。汚職撲滅委員会は同幹部に海外渡航禁止措置を実施した。

さらに同年11月にはチレボン2号機の運営会社であるCEPR社の社長(当時)らに対しても海外渡航禁止措置が打ち出され、今年3月14日、汚職撲滅委員会は元県知事を収賄容疑で起訴した。

起訴状では次のような点が指摘された。

・元社長らCEPR社の上級幹部2名がチレボン県元知事に対し、2号機の建設許可の手続きを滞りなく行い、さらに2号機建設に対する抗議デモへの対処支援を求め、10億ルピア(1ルピア=約0.0096円)を渡した。

・元県知事は、発電所が立地するアスタナジャプラ郡の元郡長の妻に、元郡長の義理の息子の会社MIM社を現代建設との架空の契約に参加させるように求めた。


建設時のチレボン2号機(手前)と稼働中のチレボン1号機(撮影:WALHI西ジャワ)

・2017年6月14日、MIM社と現代建設との間で、2号機事業のコンサルタント業務にかかわる架空のプロジェクト契約(総額100億ルピア)が結ばれた。

・2017年6月から2018年10月までの間、4回に分けて70億2000万ルピアの資金が現代建設の複数の関係者からMIM社を通じて元県知事に支払われた。

融資したJBICの受け止めは

8月18日の判決では、元県知事に禁錮7年、10億ルピアの罰金が言い渡された。収賄・マネーロンダリングの総額として640億ルピアが判決で認定され、そのうち現代建設の関係者がMIM社を通じて元県知事に支払った約70億ルピアがチレボン2号機に関する賄賂の額とされた。

こうした事態を、日本の関係各社はどう受け止めているのか。

JBICは元県知事が有罪となり、融資先であるCEPR社の元役員および現代建設の関係者から資金供与を受けたことが判決で言及されていることについて 、「かかる状況を深く受け止めている」と東洋経済の質問に回答。そのうえで「控訴がなされたと認識し、今後はより一層正確な事実関係の把握に努めつつ、今後の裁判の動向を注視していく」と述べている。

他方、3メガバンクはいずれも「個別の事案については回答を差し控える」(三菱UFJ銀行)などと言葉をそろえる。そのうえで、投融資先で贈収賄など不法行為が行われていた場合には「一般的な対応」として「まず事実関係を確認し、外部アドバイザーの意見も参考に、銀行団として議論を重ね、融資契約に則り、対応方針を検討することになる」(みずほ銀行)という。三井住友銀行も一般的には「事実関係を確認、状況把握に努め、総合的に判断のうえ、対応方針について検討する」と述べている。

発電企業CEPR社に出資する丸紅およびJERAは、同社の元幹部が元県知事に賄賂を渡していたとの証言が公判でなされたことについて、「そのような証言がなされた事実については把握している」(両社)と回答。そのうえで「事業体(=CEPR社)において外部弁護士を起用して調査を実施したものの、そうした(贈収賄に関する)事実関係は確認されていないと認識している 」(両社)と口をそろえる。

日本各社が求められる説明責任

現在、CEPR社の社長はインドネシア人幹部に代わって丸紅の出向者が務めており、「十分なガバナンス体制が取られていると考えている」(丸紅)ともいう。

とはいえ、今後、上級審で贈収賄の事実が認定された場合、今後の事業への影響は避けられないだろう。

JBICは「公的輸出信用と贈賄に関する経済協力開発機構(OECD)理事会勧告」(OECD贈賄勧告)に基づき、融資先企業が融資後に贈賄に関与したことが判明した場合、捜査当局への情報提供、強制期限前弁済などの適切な措置を取ることを組織として取り決めている。

JBICは「融資契約の具体的な内容については答えかねる」とし、NGOなどが求めている融資の見直しについては「事実関係を調査したうえで、その結果に応じて、OECD贈賄勧告なども踏まえ、 融資契約に基づき、適切に対応することになる」という回答にとどめている。

JBICや3メガバンク、丸紅、JERAは、融資や事業のモニタリングが適切だったのか、説明責任が問われている。

(岡田 広行 : 東洋経済 解説部コラムニスト)