新幹線の「座席トラブル」は、ときに「炎上」にもつながる注目テーマだ(写真:白熊/PIXTA)

東海道・山陽新幹線の「のぞみ」号が、繁忙期に限って全車指定席になると発表された。次の年末年始(2023年12月28日〜2024年1月4日)から、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始の「3大ピーク」において、東海道・山陽新幹線「のぞみ」号を自由席の設定がない「全車指定席」とする。

ネットメディア編集者として、これまでSNSを見てきた筆者の経験からいうと、新幹線の自由席や指定席をめぐる「座席トラブル」は話題となり、ときに「炎上」にもつながる注目テーマだ。それだけ身近な存在と言え、だれしも経験してきたのだろう。

そこで今回は、トラブルの典型例を紹介しつつ、鉄道利用が「単なる移動手段」にとどまらない、「旅行の一部」として捉えられている現状を考えていこう。

指定席化によりスムーズな乗降、定時運行にもつながる

JR東海とJR西日本の発表によると、3大ピーク時には、指定席が早い段階から満席となり、始発駅以外から乗車した場合、着席・乗車できないケースもあるという。また自由席客でも、乗車待ち行列や、乗降時での遅れが起きることもあるとしている。


(写真:JR東海)

のぞみ号では通常、1〜3号車に自由席が設定されている。全車指定席化により、のぞみ号の指定席が1列車あたり2割増加し、待ち時間の短縮とスムーズな乗降、そして定時運行にもつながるという。

なお全車指定席の期間も、普通車のデッキなどを立席利用する場合に限っては、自由席特急券で乗車できる。そのため、繁忙期であってもデッキが混雑する可能性はあるが、「座れなかったから立っている」という乗客は減ることが予想される。

そもそも、のぞみ号は全車指定席だったが、2003年から自由席が設定されている。期間限定ながら「復活」とも言える発表を受けて、インターネット上では、好意的な反応が多い。自由席車両へ乗客が殺到することにより、車内や駅構内での混乱につながり、トラブルの原因になりかねないからだ。

「自由席と指定席」は、旅行トラブルの常連だ。SNS上では、頻繁に体験談が投稿され、議論の的になる。もちろん、なかには創作や誇張もあるだろうが、旅先での「席トラブル」そのものは、多くの人が経験してきたと言えるだろう。

なかには逆ギレする客も

事実かどうかはさておき、いくつかのパターンを紹介してみよう。途中駅から乗り込んで、きっぷに書かれた指定席へ行くと、すでに先客の姿が。「もしかしてダブルブッキングか」と思っていたら、自由席客が「空いていたから座った」だけだった。

指定席券を持っていたとしても、隣席同士で予約を取れなかった家族連れや友人たちが、勝手に座っているケースも。そこで移動してくれればいいが、声をかけると、先客が「周りの席が空いているのだから、あなたがそちらへ行けばいい」と主張し始める。なかには「逆ギレ」されることもある。

自由席券を持った高齢者から「席を譲れ」と、高圧的に言われたというエピソードもあれば、ちょっと信じがたいが、「自由席券は『どこに座っても自由』」だと勘違いして、悪意なく指定席に座っていた客と遭遇した--なんて話もある。

これらのトラブルに遭遇し、交渉がこじれたときには、基本的に車掌などの乗務員に、仲裁を頼むこととなる。ただ、長い編成の列車では、自席にやってくるまで、それなりの時間を要する。また、デッキや通路が混雑していたら、さらに到着まで待つ必要が出てくる。

全車指定席化となれば、少なくともそうした負担は軽減される。乗務員や駅係員の本来の仕事は、ワガママな乗客に対応することではない。一見すると、「旅客の利便性がダウンする」と思えるが、定時運行や安全確保など「快適な移動」のために、体力や精神力を注げるとなれば、ひいてはサービス向上にもつながるのではないか。

10月末をもって、東海道新幹線の車内販売が終了

指定席のみならず、このところ新幹線をめぐっては、変化が相次いでいる。先日は2023年10月末をもって、東海道新幹線での車内販売が終了されると発表され、こちらも大きな話題となった。グリーン車では、スマートフォンなどからの注文販売が提供されるが、ワゴン販売は姿を消すこととなる。

代替手段として、ホーム上などの自動販売機のラインアップが拡充される。「シンカンセンスゴイカタイアイス」の愛称で親しまれる、スジャータのカップアイスクリームなどは、乗車前の入手が中心となりそうだ。

サービス変更の理由としては、飲食物や車内環境の変化に加えて、「将来にわたる労働力不足への対応」も挙げられていた。以前からの「働き方改革」に、コロナ禍によるライフスタイルの変化が重なり、乗務員も出張客も、新幹線利用の位置づけが変わりつつあるのだろう。

加えて、東海道・山陽・九州新幹線では10月から、最大1年先の指定席予約が可能になる。これまでは乗車日の1カ月前に指定席券が発売されていた(発売1週間前から事前申し込みも受け付ける)が、「人気の舞台やコンサート等に合わせ、ご旅行の行程を早く決めたいというお客様のニーズ」に応えるために、発売を前倒しすることにしたという。

サービスのみならず、「乗車体験」にも動きが。この夏には、東海道新幹線の車内チャイムが、20年使われたTOKIOの「AMBITIOUS JAPAN!」から、UAの「会いにいこう」に切り替えられた。

こうした変化は、JR東海が皮切りとなっているが、系統の異なるJR東日本の東北新幹線などは、いまのところ追随していない。JR東海は昨年5月、国鉄分割民営化からの「実質的創業者」と言える葛西敬之氏を亡くしている。もしかすると、一連の変化には「第二の創業期」のような意味合いも持たされているのかもしれない。

読者の多くがそうだろうが、筆者もまた、国内旅行が好きだ。コラムニスト・ネットメディア研究家が本職ではあるが、地域情報サイトで観光分野などを担当していたことから、国家資格の「国内旅行業務取扱管理者」も持っている。

だからこそ、新幹線が「旅の一部」ではなく、「移動手段」としての色彩を強めていくのだとすれば、少しさびしく感じる。

新幹線の「新たな活用法」

とはいえ、新たな可能性にも期待している。9月18日には「新幹線プロレス」が、プロレス団体によるツアーとして、のぞみ号の1両を貸し切って行われた。車内で試合を繰り広げるもので、75席のチケットが30分ほどで完売した、と報じられている。

JR東海は昨年、旅行会社JTBとの連携により、東海道新幹線の「貸切車両パッケージ」を発売した。コロナ禍によってビジネス需要が伸び悩むなか、新幹線の「新たな活用法」を提供し、「移動を『手段』から『コミュニケーション空間』として目的化し、記憶に残るコミュニケーションの創出を目指す」との思いが込められたサービスだ。報道によると、「新幹線プロレス」も同パッケージを活用して行われたという。

今回、一部シーズンでの全車指定席化が決まった。もし繁忙期で好評ならば、通年での適用に移る可能性もある。どの列車も「のぞみ=全車指定席」「ひかり・こだま=自由席あり」となれば、乗客にも伝わりやすい。運用を統一させたほうが、混乱も生じにくくなるはずだ。

でも、ふらっと旅に出たいときもある。なるべくなら避けたいが、突然の訃報を聞いて、きっぷを慌てて買うこともあるだろう。そんなとき、「自由席」が選択肢にあると、安心できる。たとえ乗り遅れそうでも、ゆっくり次の列車を待てばいい。

このところの観光産業では、あらゆる公共交通機関を、デジタル技術を用いて、ひとつのサービスとして扱う「MaaS(マース、Mobility as a Service)」の考え方が普及しつつある。スマホアプリなどで、複数の列車やバスが、ワンストップで予約・支払いできる恩恵は計り知れない。

その利便性はわかっているのだが、筆者のように「旅行は非日常を楽しむものだ」と考える向きには、せめて旅先では分単位のスケジュールから距離を置きたい、と感じる場面がある。非効率に見えるかもしれないが、「遠回り」もまた、旅行では一興。そこに加わるスパイスとして、これからも「自由席」には、お世話になりそうだ。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)