「凡人」と「天才」の差とは(写真:Fast&Slow/PIXTA)

シャ乱Qとして「シングルベッド」「ズルい女」などのミリオンセラーを連発、「モーニング娘。」のプロデューサーとしても「LOVEマシーン」が176万枚以上のセールスを記録し、「歴代作曲家シングル総売上ランキング」(オリコン調べ)でも歴代5位にランクインしているつんく♂氏。

「ハロー!プロジェクト」をはじめ数々のヒットやプロデュースの成功から「天才」と評されることもあるつんく♂氏だが、「僕は『天才』ではなく『凡人』。でも、『凡人』だからこそ『天才』を凌駕できる、そこに『人生の突破口』がある」という。

つんく♂氏が3年かけて「自分の中に眠れる才能を見つけ、劇的に伸ばす方法」をまとめた新刊『凡人が天才に勝つ方法』が遂に発売された。

「国民的エンターテインメントプロデューサー」として今でも第一線で活躍するつんく♂氏が「『自分は凡人!』と思える人こそ"天才に勝てる"訳」について解説する。

僕も、多くのみなさんと同じ「凡人」のひとり

こんにちは。つんく♂です。作詞・作曲を中心に、音楽やエンタメ全般のプロデューサーをやっています。

僕はこれまで、モーニング娘。をはじめとするヴォーカルユニットや数々のアーティストのプロデュースを務め、たくさんの作品を生み出してきました


JASRAC(日本音楽著作権協会)に登録された僕の楽曲数は、2000曲を超えています。

これまでの数々のヒットや、プロデュースの成功などから 「つんく♂は天才」 などと言われることもあります。

人間誰しも「君は天才だ!」なんて言われるとうれしいものです。

しかし、僕は「天才」ではありません。多くのみなさんと同じ「凡人」です。

それでも数多くのヒットを飛ばし、プロデューサーとしても結果を残すことができました。

ただ、以前の僕も「凡人」が陥りがちな「大きな勘違い」をしていました。

そもそも「凡人」と「天才」の違いはどこにあるのか。まずはそこから紐解いていきましょう。

まず、多くの人は自分に対して「期待過剰」 なんだと思います。

悲しいかな、僕を含め多くの人たちは、「天才」ではありません。天才は「ひと握り」しかいないからです。

しかし、「自分ならもっとやれるのに」「自分にはもっと才能があるのに」などと考えがちです。

僕もそうだったから、すごくよくわかるのです。

僕も「自分の能力を過信」していた

僕が調子に乗って「自分の能力を過信していたころ」のことを紹介します。

大阪でバンドを始めたアマチュア時代。学業にアルバイトにライブにライブの稽古と、忙しさにかまけて、思えば年間3〜4曲しかつくっていませんでした。

そのくせ、雑誌に出ている新人バンドやテレビで見かける新人アイドルの曲を聴いては、「俺もこれくらいの曲、真剣にやったら、いつでも書けるわ!」と愚痴ってみたり、世間を批判したりしていました。

大阪で人気バンドになり、なんとかプロデビューできましたが、売れない時期が続きました。

アマチュア時代と違い、自分の時間を100%使って「売れる曲をつくればいい」という恵まれた状況にもかかわらず、ボツを含めて、たかだか年間20〜30曲。採用されるのは4〜5曲程度だったように思います。

ディレクターやプロデューサーに「これじゃあ、シングルにできないね」「やっぱり才能ないんじゃないか」なんて言われて、「あの程度のスタッフに俺の才能をあやつる能力はないね」 などと愚痴ったり、塞ぎ込んだりするだけ

そして「楽器や機材が揃わない〜」「ちゃんとしたスタジオで曲つくらせてくれ〜」「宣伝が下手だから売れない!」などと、人や環境のせいにしていました

思えば、アマチュア時代の年間作曲数3〜4曲とか、デビュー後の売れない時代の年間作曲数20〜30曲なんて、単純に甘かった! 頑張っているうちに入りません。

「他人や環境のせいにするのは、できない人の言い訳だった」と、いまだからわかります。

でも、そういうことに気がつくのに、ずいぶん時間がかかりました。

当時は「自分はものすごい才能のある、選ばれた人間」だと思いたかったからです。

「俺には、神様から与えられた才能があるはず」「曲は降ってくる。整った環境の中で曲をつくっていたら、神様がチャンスを与えてくれる」などと、ふざけたことを考えていました。

これが、自分に対して「期待過剰」だった、売れない時代の「凡人」の僕の話です。

「夢を見る」のと「自分が天才だと思い込む」のは別

ほとんどが「凡人」なのですが、多くの凡人の中にも、プロアマ問わず「才能がある人」はたくさんいます

「1回聴いたらメロディを覚えてしまう人」「頭にある記憶だけで複雑な絵を描ける人」「お店で食べた料理を自分で再現してサッとつくれてしまう人」など。このような人たちはみな、「特殊な才能」がある人たちです。

こういう人たちが少し努力したら、ただの凡人は敵いません。いわゆる 「秀才」 と言われるような人でしょうか。音楽業界にもゴロゴロいて、そういう才能に遭遇するたびに、僕はいつも悔しい気持ちになります。

ただ、才能のある彼らも、「天才」とは違います。あくまでも「凡人の中の優れた人たち」 なのです。

「凡人」の私たちが夢を見るのも、大きな目標をもつのも素晴らしいことです。その夢を誰かに笑われてもいいんです。

でも、「夢を見ること」と「自分が天才だと思い込むこと」とは、まったく違うと思うのです。

僕がお伝えしたいことは、「自分は天才でも何でもなく、平均的な能力しかないんだということを、まず知る(認める) こと。そして、それをわかったうえで、自分の能力を高めていくことが大事」 ということです。

本物の「天才」とは、金儲けや名誉を度外視して、「やりたいこと」をひたすらやれる人だと思います。

借金しようが、どんな格好だろうが、なりふり構わず、とにかく 「これがやりたい」を貫ける人。もしくは、頭の中に突然、何かが降って湧いてくるような人。それが「天才」なんだと思います。

そんな天才たちは、仕事の進行状況や日々の生活環境、家族のことより先に、自分のやりたいことや創作活動に没頭して生きていける人だと思うんです。

もちろん、「自分が天才だ!」などと思い込むことはありません。ここが「天才」と「凡人」との決定的な差です。

「凡人」だからこそ「天才」を凌駕する可能性がある

でも、「凡人」だからこそ、「凡人」の中にある「才能」の「芽」を見出し、伸ばしていくことができます。その才能には、ひと握りの「天才」を凌駕する可能性が潜んでいるとも言えるのです。

その可能性の「芽」は、誰の中にもあります。しかし、これは「自分は天才だ」と思い込んでいる間は、見出すことができません

僕自身も、自分が「天才」じゃないことに気づき、「自分を凡人だということを認めた」ことで自分の「才能」の「芽」を見出し、多くのヒット曲やプロデューサー業で結果を出すことにつながっていきました。

みなさんも、まずは「自分は天才でも何でもなく、凡人だということを認める」ことから始めましょう

そうすることで、みなさんの中に眠っている「天才」を凌駕する可能性の「芽」を見出すことにつながっていくはずです。

(つんく♂ : 総合エンターテインメントプロデューサー)