鶴見線を走る205系電車(1100番台)。2023年度冬から新型車両のE131系が導入される予定だ(写真:村上暁彦/PIXTA)

東京圏のJR線では珍しい、短い編成の車両が短距離を行き来する路線が鶴見線だ。もともとは鶴見臨港鉄道という私鉄として開業したが、1943年7月に国有化されて国鉄(現JR)の路線となった。2023年はそれからちょうど80年にあたる。

その間、鶴見線は長編成・高頻度運転の目立つ東京圏の国鉄・JR線では珍しく、短編成で時間によっては運行本数も少ないものの、工業地帯の通勤輸送を担う重要路線として独自の存在感を示してきた。

ついに新型車両が登場

そんな同線が大きく変化することになった。これまでは現在の205系をはじめ、他路線で使われた中古車を使用してきたが、鶴見線用の新型車両E131系3両編成が8編成、合計24両投入されることになった。JR東日本横浜支社によると、導入開始時期は2023年度冬を予定している。

E131系は、2021年から房総半島の各線や相模線、日光線などに投入されている車種だ。だが、鶴見線に導入されるのは、ほかの線区で使用されている車両とは車体が異なる。JR東日本の通勤車両は地下鉄乗り入れ車両を除き、車体幅を広くして下部を絞り込んだ「拡幅車体」で側面がカーブしているが、鶴見線の新車は側面がストレートだ。車体幅は他線のE131系が車体幅2950mmなのに対し、鶴見線仕様は2778mmと狭くなっている。現行の205系は2800mmだ。


鶴見線に導入されるE131系のイメージ(画像:JR東日本横浜支社)

新車は車体側面にカメラを設置し、乗務員が運転台から利用者の乗降を確認する機能などを備え、ワンマン運転に対応する機器を搭載する。また、車内は1人当たりの座席幅を205系の約435mmから460mmへと拡大、車いすやベビーカーのためのフリースペースも設ける。また、運行情報や乗り換え案内を表示する大型ディスプレイを一部のドア上部に設置し、情報提供を充実させる。

これらの点は基本的に他線のE131系に準じているが、やはり大きな違いは車体幅だ。JR東日本横浜支社によると、これは鶴見線の設備などによって車体寸法に制限があるためだ。

実際に、鶴見線はその条件によって珍しい車両が長年使われた例がある。大川駅へと至る大川支線で1996年3月まで使われていた戦前生まれの電車、クモハ12形だ。現在、大川発着の電車は武蔵白石駅には停まらないが、1996年3月までは同駅に大川支線用のホームがあり、大川駅との間をこの車両が1両で折り返し運転していた。これは、大川支線用のホームが急カーブで、鶴見線の他区間を走る長さ20mの車両が入れなかったため、長さ17mと小型でこのホームに入れる古豪のクモハ12形が長く残った。


かつて大川支線を走っていたクモハ12形。武蔵白石駅にあったホームが急カーブだったため、長さ17mの同車両が長らく使われた(写真:yamagaku/PIXTA)

国鉄・JR線で戦前製の旧型電車が残ったのは首都圏ではここが最後で、鉄道ファンの注目を集めていたが、老朽化が進行。ほかの区間と共通の20m車両に置き換えるため、ネックだった武蔵白石駅の大川支線用ホームを撤去し、同支線は鶴見―大川間の直通運転に変わった。

工場通勤者向けの独特な路線

では、現在の鶴見線はどんな路線なのかを見てみよう。短い路線ながら、鶴見と扇町を結ぶ本線、途中から分岐して大川、海芝浦へ向かう2つの支線と、行先が多くやや複雑なのが鶴見線の特徴だ。本線も扇町まで行かず途中の弁天橋や武蔵白石、浜川崎までの電車も多い。


海芝浦への支線が分岐する浅野駅。写真の電車は扇町方面行き(編集部撮影)

一部を除けばほぼ工場地帯の中だけに、ダイヤも通勤利用にほぼ特化した形となっており、例えば平日朝7・8時台の鶴見駅発は1時間当たり11本あるが、日中は3本となる。大川駅発の電車は、朝8時台の次は夕方17時台までなく、土休日に至っては1日3本しかない。

改札も独自の運用となっており、1971年以降、鶴見駅以外はすべて無人化されている。以前は鶴見駅の京浜東北線との乗り換えの際に中間改札があったが、2022年に廃止された。同時に同駅以外は自動券売機も廃止され、乗車の際は交通系ICカードを使うか駅にある乗車駅証明書発行機で証明書を受け取り、降車駅で精算することになる。通勤利用がほとんどという路線の特徴が現れているといえる。


駅に設置されたSuicaの簡易改札機(編集部撮影)

9月の平日、12時台の鶴見発の列車に乗ってみた。平日昼間の列車であるにもかかわらず、座席はすべて埋まり、立っている人も多い。鶴見を出ると、次は昭和の雰囲気をとどめることで最近よく知られるようになった高架駅、国道に着く。戦前に造られたホームは狭くカーブしており、列車とホームの間が開いている。かつては長さ17m程度の車両が走っていたことを考えると、現在の20m車両ではホームとの間が開くのもやむをえないだろう。


国道駅は戦前からの高架駅。戦時中の機銃掃射の跡なども残る(筆者撮影)


クモハ12形が現役だった時代の国道駅。現在も駅の構造は変わっていない(写真:木村 優光/PIXTA)

国道を出ると鶴見小野、そして当駅折り返しの電車もある弁天橋に着く。同駅はホームから外に出るために構内踏切を渡るが、都市部のJR線では珍しい構造だ。このあたりまでは一般の市街地に近いためか、多くの人が降りる。

次いで、ホームが海に面していることで観光地ともなっている海芝浦駅への支線が分岐する浅野駅、大川への支線が事実上分岐する安善駅、そして前述の急カーブのホームがかつて存在した武蔵白石駅と停車し、浜川崎駅着。ここから終点の扇町までの間は、昼間は極端に列車の本数が少なく、線路も単線となる。途中駅の昭和も、終点の扇町も1面1線だ。


鶴見線の終点、扇町駅。日中の本数は極めて少ない(編集部撮影)

ワンマン対応新車でどう変わる?

半世紀以上前に駅が無人化され、自動券売機もなくなるなど路線の特徴に応じて合理化を進めてきた鶴見線。JRによる発表などはないが、ワンマン対応機器を備えたE131系の投入によって、今後はワンマン運転を行うことも予想される。実際、2022年に全車両をE131系に置き換えた相模線などはワンマン化された。鶴見線は構内踏切のある駅が多く、国道駅のように急カーブ上のホームもあるが、車両に設置される乗降確認用のカメラなどで安全性を確保しつつ実施することになるのではないだろうか。

「都市部のローカル線」として独自の存在感を示す鶴見線は、沿線の工場で働く人にとっては重要な路線である。浜川崎駅で接続する南武線の支線(浜川崎―尻手間)には9月13日から新たな車両として以前は新潟地区で走っていたE127系が投入され、「新車」ではないが久しぶりの新顔登場となった。鶴見線もE131系の投入でこれから姿を変えることになる。新車投入で注目が増しているいま、利便性の向上や安全性の確保にもさらに力を入れていただきたい。


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(小林 拓矢 : フリーライター)