夏休みや放課後になると、今の子どもたちはどこで何を楽しんでいるのでしょうか(写真:放課後NPOアフタースクール)

夏休みや放課後、友人と汗まみれになって鬼ごっこやかくれんぼをした公園。しかし酷暑だった今夏、公園で子どもを見かけることはほとんどなかった。だが、思い返せば過ごしやすい時期でも、公園ではしゃぐ子どもたちを見かけることはあまりない。子どもたちは、どこで何をしているのだろうか。

子どもたちの放課後の過ごし方や価値観は、時代とともに変化しているようだ。どんな変化が起き、また子どもたちにどのような影響を与えているのだろうか。行政や企業と連携して放課後の子どもたちの居場所作りや、体験活動の提供を行う、放課後NPOアフタースクールを取材した。

時代とともに変化する子どもの価値観

放課後NPOアフタースクールが2015年に行った「小学生が夏休みや放課後にやりたいこと」に関する調査では、サッカーやドッジボール、鬼ごっこなどに続いて、5位に「なし(「わからない」や「なんでもいい」)」がランクインした。

「子どもたちの頭の中はやりたいことだらけだと思っていたので、この結果には驚きました」と振り返るのは、放課後NPOアフタースクールの平岩国泰代表だ。

令和の小学生はどうだろうか? 「最近でも、放課後はもちろん、休日さえも学童や習い事で予定が埋まっている子どもが多い。やりたいことがない子どもがいる背景のひとつに、『今日は何をしよう』と、子どもが自由に考える機会が減っていることも挙げられるのでは」と平岩氏は言う。

なぜこれほどまでに子どもたちは自由な時間がないのだろうか。昭和の放課後は、「小学生になったら、子どもだけで遊んでもよい」という家庭が多く、子どもたちは公園や広場で自由にのびのびと遊ぶことができた。

「しかし平成に入ると、放課後の小学生を狙った事件や事故が目立つようになった。その結果、令和になると子どもの安全な居場所を確保するため、親が子どもの放課後の予定を埋めるようになった」(平岩氏)

昔から小学生を狙った事件はあったが、かつては専業主婦家庭が多く、今より近所付き合いも密だったため、子どもたちを見守る大人の目がたくさんあった。

しかし今は、共働き家庭が増え、さらには地域の集会やお祭りといった地域の大人と子どもの接点が少なくなった。平岩氏は、「地域のつながりが減った結果、『地域で子どもを見守る意識』が薄くなったのでは」と考える。

大勢の友だちと協調するのが苦手な子が増えている

同団体のアフタースクールマネジャー渡部岳氏は、「地域の大人と子どもの接点が減ったことで、『子どもを社会に受け入れよう』とする地域の寛容性も低くなったのでは」と指摘する。

多くの公園で『ボール禁止』などのルールが敷かれ、子育て中の筆者も、子どもがのびのびと遊べる空間が減っていることを実感している。また、子どものはしゃぐ声が苦情に発展したケースもよく耳にする。

「子どもたちは日々たくさんのルールで縛られており、何をして過ごしたいか尋ねられても、『何をしても問題ないのか』が分からないのでは。

ただ、われわれが運営するアフタースクールの子どもたちを見ていると、のびのびと遊べる時間や空間があれば、やりたいことが思いつくようになっている。子どもたち自身の問題ではなく、環境の問題だと感じている」(渡部氏)


室内での遊びを楽しむ子どもたち(写真:放課後NPOアフタースクール)

小学生の遊び方を眺めていると、友達とゲーム機を持ち寄っても対戦などせず、個々でゲームを楽しんでいるのが目に付く。

平岩氏は、「かつては家にいてもつまらないし、外でみんなと遊ぶのが放課後を楽しく過ごす方法だったが、今は一人遊びのツールが豊富になり、友達と協力したり気遣ったりしてまで遊ばずとも、1人で十分楽しく過ごせるようになった」と話す。確かに子どもたちのゲーム同様、最近は同じ空間にいながらそれぞれ自分のスマホを眺めている大人も多い。

「また、安全面から先生や保護者が見守るなかでしか友達と遊んだことのない子も多く、もめ事が起きたときに子どもだけで解決する経験が乏しい。嫌なことがあると、すぐに遊びの輪から抜ける子も目立つ」(平岩氏)

一方、渡部氏は「子どもたちが大勢でのびのびと遊ぶ経験を積めば、みんなと遊ぶ楽しさを知り、子ども同士で『どうしたらみんなで楽しく過ごせるか』を考えられるようになる」と話した。

時代に合わせた豊かな放課後を届けるアフタースクール

共働き家庭の増加や地域コミュニティの衰退など、子どもたちを取り巻く環境が変化するなか、令和の子どもたちのコミュニケーション能力や協調性を育むには、どうしたらよいのだろうか。時代の変化に合わせて、子どもたちに安全で豊かな放課後と、さまざまな体験活動を届けているのが、平岩氏が代表を務める放課後NPOアフタースクールだ。

一般的に、学童保育は親の就労が必須とされるなか、放課後の小学校に開校するアフタースクールは親の就労状況に関係なく、1〜6年生の誰もが参加できるため、いつでも仲の良い友達同士で放課後を楽しめる。

多彩なプログラムも特徴で、段ボールを使った巨大迷路制作や、近隣の園での保育士体験など500種類以上のプログラムがある。

また、地域の大人を「市民先生」として迎え、料理や書道を教えてもらうプログラムをはじめ、子どもが身の危険を感じたときに駆け込める「子ども110番の家」への挨拶回りなどの活動を通じて、積極的に子どもと地域住民との接点を作っている。


子どもたちが触っているのは3Dプリンター。作りたいものをパソコン内でモデリングしてデータを送り作成する。子どもたちの「○○を作ってみたい」を形にできる。ラボ室にはほかにもレーザーカッターなどもある(写真:放課後NPOアフタースクール)

「地域の大人と子どもが触れ合う機会を持てば、地域社会が子どもたちを迎え入れてくれるようになると考えている」(平岩氏)

一方、子どもを見守りたくても、「声をかけただけで不審者扱いになるのでは」という懸念を持つ人もいる。渡部氏は、「市民先生としてプログラムに一緒に参加していただくことで大人と子どもを結びつけ、互いに声かけしやすい環境作りの手助けをしている。また、地域の方々の生きがいや楽しみの創出にもつながっている」と話した。


ドッジボールや鬼ごっこ、大縄飛びなど複数人での遊びを楽しむ(写真:放課後NPOアフタースクール)

また、アフタースクールでは、子どもたちの協調性や自主性を育むために、大勢で遊ぶ練習をするそうだ。最初は1年生を対象に、ドッジボールや鬼ごっこ、大縄飛びなど複数人での遊びを楽しみ、慣れてきたら上級生も入って一緒に遊ぶ。

「なかには大勢で過ごすことに面食らってしまう子どもや、大勢と遊ぶ楽しさを知らずにひとりで過ごしたがる子どももいますが、自主性を重んじて無理強いはしません」と話すのは、同団体アフタースクールマネジャーの松盛雅香氏だ。

しかし、遊びに参加しなければ練習にならない。参加を渋る子どもには、「最初だけ見てみない?」「一緒に審判しない?」などと誘い、少しでも同じ空間にいるように促す。「みんなが楽しそうに遊んでいる様子を見たり、仲の良い友達に誘われたりすると、そのうち参加する子がほとんど。みんなで遊びたい気持ちはあるけど、何かきっかけが欲しい子が多い」(松盛氏)

大勢で遊んでいるとトラブルも起こるが、松盛氏は「アフタースクールでは、トラブルが起きたときこそ子どもの成長機会と捉えている」と話す。

「トラブルに大人が割って入ってルールを作ってしまえば簡単だが、どうすればみんなが気持ちよく過ごせるか、あえて子どもたちに対話させることで、経験につなげている。ただ、それぞれの心情や発達段階をくみ取り、対話を促す適切な声かけをするのは簡単なことではない」(松盛氏)

適切な声かけだけでなく、大人が介入すべきトラブルと子どもに任せて見守るべきトラブルの見極めにもスキルが必要だ。同団体では、全国の子どもの放課後の居場所における職員の教育や、安定した雇用環境の改善も課題だと考え、自治体や学童職員向けの勉強会も積極的に行っている。

過ごし方を自己決定し経験の輪を広げる

アフタースクールでは、自分が何をして過ごすのか自由に決めることができる。思い立ったら自由に工作ができる場所や、ICTを使ってプログラミングを楽しむ場所、漫画を読みながらゆっくりと過ごせる場所も整えている。

「日々、たくさんの選択肢のなかから自由に過ごし方を選んでいると、自然と『これが好き』『もっとやってみたい』と、経験の輪が広がる。子どもたちが『おもしろそう』と思ったらすぐに取り組めるよう、環境を整えてアシストしています」(渡部氏)

松盛氏は、「遊びの提案が上手な子や、誰とでも楽しく遊べる子、人を巻き込むのがうまい子など、学校のテストの点数にはつながらないが、放課後の時間に輝く子どもは多い。アフタースクールが、たくさんの子どもたちが輝ける居場所になれば」と話した。

失われた小学生の「三間(遊ぶ時間、外で遊ぶ空間、一緒に遊ぶ仲間)」――しかし、「『昔の放課後は楽しかった』と嘆いていても、何も変わらない」と、平岩氏は話す。

「今は学校を活用した放課後の居場所作りに注力しているが、今後は公園で子どもたちが安全にのびのびと遊べるようにするにはどうしたらいいのかなど、学童だけでなく他の施設も含めてトータルで放課後をデザインできたらと考えている」(平岩氏)

子どもたちを取り巻く環境は時代に合わせて変化し続けている。私たち大人がすべきことは、よりよい社会を作り、次の世代の子どもたちに託すことだ。

最後に平岩氏は、「いつか社会全体で子どもたちを育てられるようになって、『日本の子どもたちが世界で一番幸せだ』と言われるようになるのが夢です」と話した。

(笠井 ゆかり : フリーライター)