社会現象を起こした「たまごっち」…赤外線、アプリ連動、Wi-Fi搭載と時代とともに歩みながらも一貫して変わらない“らしさ”とは〈初代発売から27年〉

1996年に発売されたバンダイの「たまごっち」。初代の発売当初は社会現象を起こすほどの大ヒットとなった、平成カルチャーを象徴する玩具は今、「ボールチェーン型」から「腕時計型」へと形を変え、子供から大人まで楽しめるおもちゃへと発展を遂げている。

「買いたいのに、買えない」空前の大ブーム

発売から27年が経つたまごっちは、メイン機種である全37種類ものシリーズをリリースし、そのときどきで時代を反映させたコンテンツや機能が付き、常に新たな遊び方を提案してきた。そんな、たまごっちの進化の歴史や現在地について「株式会社バンダイ」トイディビジョン グローバルトイ企画部の岡本有莉さんに話を聞いた。

初代発売当初の「たまごっち」 写真:ロイター/アフロ

流行の先端を行く女子高生たちから火がつき、爆発的な人気を誇った初代たまごっち。発売当初はおもちゃ売り場に2000人以上が並び、どこの店でも売り切れが続出した。だが、そんなブームがやがてはひと段落し、しばらくは鳴りをひそめていたという。

1996年に発売された初代たまごっち

「初代たまごっちの『携帯型デジタルペット』というコンセプトは、当時は画期的なアイデアで、多くのお客さまを魅了しました。その後、1999年に生産中止してからは、新たな商品開発の目処は立っていませんでしたが、2000年代初頭に社内で『親が持っていた初代のたまごっちに子供が夢中になって遊んでいる』というのが話題になったんです。

バンダイとしても、自社の貴重なIPとして成長させていきたい思いもあり、たまごっち人気の再燃を期待し、2004年に『かえってきた!たまごっちプラス』を発売しました」(岡本さん、以下同)

かえってきた!たまごっちプラス(2004)

2000年代に主流だった「ガラケー」のように、「かえってきた!たまごっちプラス」以降に発売された機種には、赤外線通信機能が搭載されるようになった。

トイレ、お風呂、食事など、ペットのようにお世話をする体験はそのままに、ユーザー同士でアイテムを交換したり、ミニゲームを楽しんだり、仲良くなってパートナーになったり、といったコミュニケーション機能を強化したのだ。

「2000年代はペットとしての側面を持ちつつ、友人と一緒に赤外線通信でやりとりして育てていく体験を設計し、新しいたまごっちの遊び方を提案していた時期でした。2008年には『たまごっちプラスカラー』を発売し、歴代で初めて液晶画面がモノクロからカラーに変わり、キャラクターの表情をより豊かに表現できるようになったほか、時間や季節の移り変わりなどの描写も可能になったんです」

たまごっちプラスカラー(2008)

テレビアニメの放映で子どもたちにさらに親しまれる存在に

さらに2009年からはテレビアニメ「たまごっち!」(テレビ東京系)の放送が開始され、たまごっちの愛らしいキャラクターが地上波に登場すると、子どもたちから絶大な支持を受けた。

同年に発売した「Tamagotchi iD」は、お気に入りのアイテムやゲームをダウンロードし、カスタマイズできる機能が搭載されたもので、“自分だけのたまごっち”を育てられる体験が、小学生の女児を中心に大ヒットしたという。

「たまごっちのテレビアニメは2009年から2015年まで放送され、たまごっち星で暮らすキャラクターの日常を描く世界観が話題でした。たまごっちの機種でも、アクセサリーや服の着せ替え、見た目のキラキラ感やおしゃれさを意識し、2014年に発売した『TAMAGOTCHI 4U』では通信対象にかざすだけでデータをダウンロードできる『NFC通信機能』を搭載し、スマホとの連動も可能になりました」

TAMAGOTCHI 4U(2014)

時代とともに機種が進化していく一方、テレビアニメの世界観を壊さないような配慮も行っていたと岡本氏は続ける。

「アニメの中でたまごっちのキャラクターが、たまごっち星で暮らしたり旅行したりする描写があるのに、たまごっち内でキャラクターが死んでしまう設定にすると、子どもたちが驚いてしまうのではという懸念がありました。なので、2009年から『死ぬ設定』から『置手紙を置いて家出』という仕様に一時的に変更していたんです。

Tamagotchi m!x(たまごっち みくす)(2016)

ですが、2016年にアニメの放送が終了し、同年に発売した『Tamagotchi m!x(たまごっち みくす)』からは子どもから育て、何世代にも渡って家系を繁栄させていくのが、遊び方で大切になったので『死ぬ設定』を復活させました」

海外セレブが「たまごっち」を身につけた“珍事”が話題に

こうしたなか、2016年にはたまごっちのブランド認知向上に大きく貢献する思いがけない出来事が起きた。

毎年5月に催されるファッションの祭典「Met Gala(メットガラ)」は、世界中から多くのセレブリティが集い、その一挙手一投足が注目を集めるイベントである。

2016年は「テクノロジー時代のファッション」をテーマに開催され、参列したゲストたちもエレガントな着こなしを披露するなか、俳優のオーランド・ブルームと歌手のケイティ・ペリーが、こぞって衣装のアクセサリーに初代のたまごっちをぶら下げていたのだ。

俳優のオーランド・ブルーム 写真:Charles Sykes/Invision/AP/アフロ

歌手のケイティ・ペリー 写真:bfa.com/アフロ

これが世界中で話題となり、北米や欧州でも知名度が上がっていくきっかけになった。

「バンダイ側からは全く依頼していないことだったので、おふたりがたまごっちを衣装に取り入れていたのを知ったときは、非常に驚いたのを覚えています。まさに、思わぬ形でたまごっちが世界で認知されたことで、その後の販売活動にも大きくプラスになったと感じています」

そして、たまごっち誕生25周年を迎えた2021年には「Tamagotchi Smart(たまごっちスマート)」が発売され、シリーズ初のウェアラブル型の形状が特徴の“スマートなたまごっち”が登場。

Tamagotchi Smart(2021)

Y2K(2000年代に流行ったスタイルを取り入れること)ファションやレトロブームの後押しもあり、「たまごっちをファッションのひとつとして身につける」という新たな需要喚起につながっている。

「たまごっちスマートでは、サンリオキャラクターやONE PIECEなどのIPとコラボし、各IPの持つ世界観をたまごっちのキャラクターとして表現することで、たまごっちのコアファン以外にも訴求できるように意識しています」

たまごっち最新機種のキーワードは「ウェアラブル」と「スマート」

2023年に発売した最新機種の「Tamagotchi Uni(たまごっちユニ)」では、新たにWi-Fiを搭載したほか、独自のメタバース空間「Tamaverse」(たまバース)」上で、世界中のユーザーが育てたたまごっちと交流できるようになった。

Tamagotchi Uni(2023)

「以前から、Wi-Fiの搭載についての意見も出ていましたが、その当時の海外では一般家庭にWi-Fiが広まっておらず、まだ時期尚早だったんです。それがコロナ禍でWi-Fiが一気に普及したことで、世界同時発売の目処がつき、満を持してたまごっちユニを発売しました。おもちゃでWi-Fiを搭載している商品は珍しく、お客さまから好評をいただいております」

最先端の技術を追求するだけではなく、たまごっち“らしさ”を大切にしながら時代に寄り添い、世相を反映させ、常にたまごっちの新たな遊び方や魅力を追求してきたバンダイ。

企画チームにはペットを飼っている社員が多く、ペットを愛で、育てる原体験やその時々のトレンドにアンテナを立て、コミカルで遊び心のあるコンテンツを考えているという。

「ユーザーのライフスタイルが変われば、たまごっちの遊び方も変わっていきます。それゆえ、『携帯育成デジタルペット』という根幹の部分は、これからどんなに進化していくなかでも、ぶれない部分だと考えています。

現在のTamagotchi UniではWi-Fiを搭載していますが、最先端の技術にこだわっているわけではなく、今後発売していく商品に関しては、あえて昔のスペックや技術を取り入れる可能性もあるかもしれない。これからも固定観念の枠にとらわれず、長い間楽しんでいただけるたまごっちを開発していきたいと思います」

たまごっち年表

取材・文/古田島大介