ラーメン官僚が大絶賛! 白河ラーメンの名店『やたべ』の味を継承した『アサガキタ』(阿佐ヶ谷)の一杯がウマすぎるワケ
食楽web
今回は、『白河手打ち中華 アサガキタ』を紹介します。2023年7月12日、都内では久しぶりとなる「白河ラーメン」専門店が、東京・阿佐ヶ谷で産声を上げました。それがこのお店です。記憶が確かならば、2020年4月にオープンした『麺創庵砂田』(巣鴨)以来の白河ラーメン専門店(※)ではないでしょうか。
(※) 2021年11月11日にオープンした『大村庵』(日野)の「醤油ラーメン」が白河ラーメン風であると言われており、同店をカウントすれば、2021年11月以来の白河ラーメン専門店の誕生となる
福島県白河市をルーツとする白河ラーメンは、鶏素材を巧みに活用した滋味深い清湯スープ、すすり心地が良い手打ち麺、香り豊かな窯焼きチャーシューの3点をキラーコンテンツとする、全国のご当地ラーメンの中でも指折りのハイレベルなご当地麺。
ラーメンの3大要素であるスープ、麺、トッピングのいずれもが極めて高い完成度を誇るため、最も好きなご当地ラーメンに白河ラーメンの名を挙げるマニアも少なくありません。かく言う私も、白河ラーメンは、超が付くほどの大好物。暇さえあれば、本場の白河ラーメンを食べに現地にまで足を延ばし、50軒を優に超える店舗を訪問してきた経験があります。
修業先である『手打中華やたべ』から寄贈された、鮮やかな紫色に染め抜かれた大きな暖簾が目印。余談ですが、人気すぎて何度もスープ切れ終了の憂き目に遭い、いまだ未食の個人的宿題店『手打中華かしま』の修業先も『やたべ』
そんな「白河ラーメン」の専門店が、満を持して都内(阿佐ヶ谷)にて開業。しかも、店主・小山泰幸氏が修業先として選んだお店が、白河市内でも1、2を争う名店として絶大な支持を獲得するレジェンド店『手打中華やたべ』と聞いた日には、もう居ても立ってもいられません。
私も、本場・白河市で総本山である『やたべ』をはじめ、同店の系譜に連なる『マルコーラーメン』、『じゃずめんこんどう』、『手打ち中華せきた』、『手打ち中華よしだ』、『手打中華おおくま』など、多くの「やたべ系」で舌鼓を打ってきました。
『白河ラーメン』の店で、全国的に最も認知度が高いのは、『とら食堂』とその系列店(「とら系」)ですが、いま最も勢いがあり系列店を増やしているのは「やたべ系」ではないでしょうか。
『アサガキタ』は、そんな『やたべ』を師と仰ぐ、「やたべ系」としては史上初の都内進出店舗です。ラーメンマニアであれば、到底そんな話題店をスルーできるはずもなく、オープンから3週間ほど経過した8月6日に訪問させていただいた次第です。
『アサガキタ』は、JR阿佐ヶ谷駅北口からゆっくり歩を進めても3分足らずという、至便な立地。細長い路地に150軒もの飲食店などが軒を連ねる「スターロード商店街」の一角に佇んでいます。
いざ「手打ち中華」を実食!
店内は、厨房を囲む形で設置された7席の「L字」カウンターと、3名掛けのテーブル席が1卓。2023年8月20日現在、注文可能なのは「手打ち中華」とそのバリエーション(味玉入り、ワンタン入り、チャーシュー入り)のみ
店内に券売機はなく、口頭注文制です。メニューリストの筆頭を飾るのは、基本メニューである「手打ち中華」。チャーシュー、メンマ、ナルト、海苔などの定番トッピングをひと通り盛り付けた1杯で、価格は850円。千円を超えるラーメンが珍しくない都内ラーメンシーンにおいて、財布に優しくありがたい限りです。
プリっとした食感のワンタンは必食
なお、私見も多分に混ざりますが、「白河ラーメン」を出す店で、多くの方々が好んで注文するのが、ワンタンメンです。なので、特にワンタンが嫌いでない限り、「ワンタン入り」(1050円)を注文することを強くオススメします。
ラーメンの完成を待つ間、希望すれば、無料サービスとして「肉付きの鶏ガラ」が小皿にうず高く盛られた形で提供されます。
「肉付き鶏ガラ」
この「肉付き鶏ガラ」が、ラーメンが提供される前にお通し的な形で出される点が、『やたべ』及び「やたべ系」の最大にして最強の特徴。私も2015年に総本山である『やたべ』でこの鶏ガラをいただいて以来、毎年数回は鶏ガラにかぶり付かなければ禁断症状が生じる体になってしまっています。
甘辛いカエシがじんわり沁み込んだ鶏ガラの肉を少しずつ箸でほぐしながら、この「肉付き鶏ガラ」が都内で食べられる喜びを静かに噛み締めます。『アサガキタ』の肉付き鶏ガラは、骨に付着する肉の分量も十分。
肉を跡形もなく平らげた頃合いを見計らったかのようなタイミングで、待望のラーメンが卓上に供されました。
「手打ち中華(ワンタン入り)」1050円
美しい琥珀色のスープから雅やかに立ち上がる、圧倒的なボリュームの鶏の香気。鼻腔へと到達した瞬間、その香りのあまりの艶やかさに全身から鳥肌が立ちます。香りだけではありません。ビジュアルもまた、本場の『白河ラーメン』を彷彿とさせるもの。スープ表層に浮かぶ「鶏油」の不規則な紋様も相まって、絶大な存在感を放ちます。
美しいその見た目からは想像できないほど素材のうま味が凝縮した奥深さを感じるスープ
「スープは、特注で仕入れた肉付き鶏ガラを主軸に、鶏の小骨・ネック(首)、親鶏の丸鶏などを加え、その大半の時間を95℃の湯温にキープしながら、数時間かけて炊き上げたものです。豊潤なコクを演出するため、寸胴には鶏だけでなく豚の各種部位も織り交ぜています」(店主・小山さん)。
こうした緻密な調理工程を経ることにより、一切の臭みと雑味が取り除かれた、鶏のうま味の「粋」のみを完璧に切り出した絶品スープが出来上がります。
ラーメンの軸となるカエシ
また、出汁と合わせるカエシも、こだわりの塊です。
「『やたべ』の師匠から譲り受けたカエシを、毎日継ぎ足して使っています。カエシは、『やたべ』が創業以来ずっと継ぎ足してきたもので、『アサガキタ』のラーメンの要(かなめ)となるものです」(店主・小山さん)。
カエシには、豚モモ肉のチャーシューから沁み出す肉々しいエキスと、若干の魚介成分を加え、重層的なうま味を演出しています。「醤油の強さは、『やたべ』よりも少しマイルドになっていると思いますよ」と店主の小山さん。
分厚い豚のコクの上に、鶏由来の圧倒的な滋味がドッシリと横たわる骨太なスープは、すすり上げるたび、奥深く複雑玄妙なカエシと舌上で融合し、味覚中枢を心地良く刺激。まさにレンゲを持つ手が止められない、「白河ラーメン」の鑑のような絶品です。
麺は、特製の手打ち麺。この縮れ具合がスープをガッチリとキャッチして口へ運んでくれる
このスープに合わせるのが、本場・白河で使用される2種類の小麦粉を、絶妙なバランスでブレンドして作る、モッチリ感とコシの強さを兼ね備えた自家製麺です。
「コシが強靭で伸びにくい麺を意識的に作っています。本場の『白河ラーメン』の麺は、なめらかで柔らかなタイプが多いのですが、しっかりとした麺が相対的に好まれる東京の土地柄に合わせました」(店主・小山さん)。
スープを過不足なく絡め取り、ベルトコンベアのように着実に口元へと運び込み続ける『アサガキタ』の自家製麺。舌触りも秀逸で、どれだけすすってもすすり飽きることがない会心の出来映えです。
チャーシュー。左がモモ肉、右が肩ロース
チャーシューは、基本の『手打ち中華』にはモモ肉、『チャーシュー入り』にはモモ肉と肩ロースの2種類を採用。食べ進めるにつれて、チャーシューに含まれる動物性のうま味がじわりじわりとスープへと溶け出し、スープのコク深さが右肩上がりに増幅。無我夢中になってラーメンと向き合っていると、いつの間にか、丼が空っぽになっていました。
「子どものころは、白河市のラーメン店『茶釜本店』の近所に住んでいて、店主と顔馴染みだったこともあり、おやつ代わりに白河ラーメンを食べていたんです。『アサガキタ』も、そんな、手打ちラーメンが気軽に食べられるお店を目指したい」と、抱負を語る小山店主。
都内にある手打ちラーメンの店は、行列待ちが当たり前の人気店ばかりで、気軽に足を運ぶことが困難になってきています。そんな状況において、肩ひじを張らずに老若男女が等しく舌鼓を打つことができる店ができれば、どれだけ重宝することでしょう! 店主の目標を、心から応援したいと思います。
小山泰幸店主のプロフィール
・福島県白河市の出身。
・幼少時より『白河ラーメン』に親しみ、長じた後も、企業において広報職を務めながら、故郷の誉である『白河ラーメン』、とりわけ『手打中華やたべ』の味を東京へと伝えたいという夢を抱いていた。
・その夢を実現するため、2022年、店主が理想のラーメン店として憧れていた『手打中華やたべ』へと入門。同店にて修業を重ね、2023年7月12日、満を持して、東京・阿佐ヶ谷の地に『アサガキタ』を開業。
●SHOP INFO
白河手打ち中華アサガキタ
住:東京都杉並区阿佐谷北2-11-1
TEL:非掲載
営:11:00~スープが無くなり次第閉店
休:火曜、水曜(※季節により変更あり)
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。